「ん…?」
それは俺が田んぼの世話をしていた時のこと。
水路にぼろぼろになったゆっくりが挟まっていた。
これでは田んぼに水がやれないと頭を掴んで畦道の方にぽんと置いた。
ゆっくりはボソボソと小声で何か喋るだけで動こうともしない。
良く見ると体中が傷だらけで、頬には焼印のようなものが押されている。
恐らく人間に虐待されて、心と体を患ったのであろうことがわかった。
その痛々しい姿を見て俺は思った。
「邪魔だし喰っちまうかなぁ、でも虐待の時に変な薬とか使われててそれが体に残ってたらやだなぁ…」
そんなことを考えながら俺は仕事を一段落させて道に座り込むと弁当を開いた。
「……」
光の無い瞳でこちらをじっとそのボロボロゆっくりが見ていた。
「……」
なんとも食べずらい、俺は観念しておかずのたまごやきを一つ放ってやった。
「……!」
近くに放ると全身を使って思い切りたまごやきにかぶりついた。
そのへんてこりんな動きから体中の傷をかばいながら動いていることがわかった。
小さくむーしゃむーしゃ♪しあわせー等と聞こえたように思えた。

それから数日、俺は毎日のように弁当時にこちらをうらやましそうに見つめるゆっくりに辟易していた。
そんな目で見られるとどうしてもたまごやきとかあげてしまう。
なのでさいしょっからゆっくり用のえさを持って田んぼに出るようになった。
ネズミ捕りに引っかかったねずみとか虫をかをだ。
これなら俺の食事は減らないし、ケンコウなまでに回復してくれれば非常食として重宝するだろうとの打算からだった。
「ゅ…くり…ぃ…ね」
最近だと少しこちらに話しかけるようになってきた。
完全に回復する前に田んぼに入らないように言っておかないとなと俺は思った。

「ゆっくりしていってね!きょうもがんばってね!」
「はいはい、わかってるわかってる」
ゆっくり、ボロボロだったからわからなかったが最近ゆっくりれいむだとわかった。
ゆっくりれいむは一月もするとかなり回復したようだった。
焼印は残っているし傷跡はあるがそれなりに歩ける程度にはなっていた。
野生に戻ってはどうかと薦めると狩をするほど動き回れずに飢え死にしてしまうからここにおいて欲しいと泣きつかれた。
もう鬱陶しいので食べてしまおうかと考えたがこの炎天下では食欲がわかず断念した。
その時せめてお茶を持ってきていれば違った結末になっただろう。
その後もねずみや虫で育て続けてすっかりゆっくりれいむは俺に懐いていた。
俺の言うことはとてもよく聞いて、田んぼを荒らすこともなかった。
なので冬までは非常食としてキープしておこうと俺は思った。

それから数週間ほど経ったある日のこと。
「うわ…やられちまったなぁ…」
朝田んぼに出るとそこらかしこが荒らされていた。
荒らされた規模は比較的小さく、致命的なほどではないが手間なのは確かだった。
低い部分が特に荒らされており、規模も小さいことから恐らくゆっくりによって荒らされたことがわかった。
俺はじっとゆっくりれいむの方を見る。
するとゆっくりれいむはガタガタと震えだしたと思うとぼろぼろと涙をこぼして俺の脚にすがり付いて言った。
「れ゛いむじゃ!れ゛いむじゃないんでず!お゛に゛いざんしんぢでぐだじゃいいいい!!!
ずでな゛いで!ずでな゛いでえええ!!!」
この様子やこれまでの服従具合、そして怪我の後遺症で余り動けないことからこのゆっくりれいむは犯人では無い様に思えた。
「わかってるってそんなこと、お前はこんなことはしない、だって…」
「あ、あ、ありがどう゛うう゛!おにいざんだいずぎ!!ずっどいっぢょにゆっぐりぢようねええええ!!!」
俺が自分の考えを述べようとする前にさらに激しくゆっくりれいむにすがりつかれて俺は眉をひそめた。
ズボンに餡子汁が付くと虫が寄ってきて困るのだ。
それに推理小説の探偵の謎解きみたいなのやりたかったのだが。
適当に振り払うと犯人探しは諦めて俺は荒らされた田んぼをもとに戻しにかかった。


それからはたまに畑が荒らされることはあったものの
前よりずっと小規模で気にするほどのものではないので放っておいて畑仕事に精を出す。
そんな日が2週間は続いた。
俺は午前中精を出して畑仕事に明け暮れ、畦道の方でゆっくりれいむに番をさせたお弁当の方へと向かった。

「あれ…ゆっくり…?」
ゆっくりれいむの居たはずの場所には何故かゆっくりれいむは居らず
お弁当箱だけが転がっていた。
「まあどうでもいいや、飯め…なん…だと…?」
お弁当箱はひっくり返って、中身は殆ど喰い散らかされていた。
水筒のお茶は飲まれることも無くふたを開けられあたりにこぼれていた。
「……」
俺は畦道に前のめりに倒れこんだ。
どたん、という音が軽く響く。
「お、おにいさん…おにいさあああん!!」
水路に挟まっていて見えなかったらしいゆっくりれいむが俺のほうに近寄ってきた。
どうりで見えなかったわけだ。
「しっかりしてね!しっかりしてね!」
「うぅ…もう腹が…」
「ごべんね!れいむしっかりおべんとうみてなくてごべんね!」
ゆっくりれいむは泣きながら謝罪した。
そしてはっとしたように言った。
「お、おべんとうたべたのはれいむじゃないよ!おにいさんしんじてね!」
「ああ…わかってるさ…」
だって今日朝ねずみ三匹も食べたしなお前、もう喰えんだろ。
「うぅ…ありがどう…しんぢでぐででありがどうね…!」
「ゆっくり…俺は…もう駄目だ…」
俺は呻く様に言った。
今から昼ごはん作るのきついし外食は金かかるし大体こっから一番近い食事どころでさえ四半刻かかるしもうお昼ご飯は諦めるしかないだろう。
俺は絶望した。


「お゛に゛いざん!ぢな゛ないで!ぢな゛ないでよぉおぉおお!!
い゛や゛ああああ!お゛に゛いざんがぢんだらゆ゛っぐりでぎだいいいいいい!!」
いや流石に死にませんが。
でも起き上がる気力は無いです。
「…………」
ゆっくりれいむは黙り込んで熟考し始めた。
ああ、そんなことより暑いなぁ
日陰に移動してからぐでっとするかな、と思って立とうかとしたときゆっくりれいむは何かを決意した目で言った。

「おにいさん…れいむをたべてね…!」
「お前…何を言っているんだ…!?」
俺は戦慄した。
この炎天下でお茶もなしに饅頭を喰うのは辛いんだが。
喉に詰って死んだらどうする。
ゆっくりれいむはガタガタと震えながらもはっきりとした力強い口調で言った。
「わるいにんげんにいじめられてゆっくりできなくなったれいむをたすけてくれてありがとうおにいさん
おにいさんのおかげでれいむはとってもゆっくりできたよ
れいむはおにいさんとであえてゆっくりしてしあわせになったの
もうれいむはおにいさんなしじゃゆっくりできないの
だから…お゛に゛い゛ざん゛、れ゛いむ゛のごどだべでいいがらぢなないで…!」
最後の方は涙をぼろぼろこぼしながら言っていた。
「そうか…」
俺は思った。
腹も減ったし炎天下でも饅頭くらい食べられるかな、と。

「ゆっくりたべていってね!!!」
れいむは力強く叫んだ。
俺は正直お腹すいてるので一気に食べたかったのに、しかしそういうなら仕方ない
と思い、ゆっくりれいむを手に取ると少しずつ齧り始めた。
「いぎぃぃぃぃいいいい!?」
味は正直微妙だった。
後本当にお茶が欲しい。
喉に甘い餡子が絡まって死にそうだ。
「ゆっぎゅゥゥううええええええあああああああ!!!!」
あとこの絶叫がうるさすぎる。
その上目から餡子流しながら白目剥いてる顔みながら食べるのは食欲が失せる。
俺はあのお弁当、自信作だったのになぁと心の中で涙した。
「いだいよおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
お茶沸かしに家に戻ろうかな。


その次の日のこと。
「ゆっくりしてないでまりさのしつもんにこたえてね!」
田んぼで仕事に精を出しているとゆっくりが声をかけてきた。
が、鬱陶しかったので無視したらこの言い草だ。
仕事をがんばる俺のどこがゆっくりしていると言うのだろうか。
「ここにれいむがいたはずなのにいないよ!どこにいったかおしえてね!」
「んー…それはここに住んでた傷だらけのゆっくりのことか?」
「そうだよ!まりさのいちばんのおともだちだよ!ゆっくりどこにいったかおしえてね!」
なるほど、俺が居ない間はちょくちょくこのゆっくりと遊んでいたようだ。
知り合いのよしみで俺は質問に答えてあげることにした。
「ここ」
俺はお腹を指差した。

「ゆ?」
ゆっくりまりさは首を傾げた。
具体的に言うと体全体を傾けた。
頭から疑問符をぽんぽん出してるのが見える。
「いみがわからないよ!はやくれいむを出してね!」
考えてもわからなかったのか今度はぷんすかと怒り出した。
俺は困り果てて言った。
「食べたの昨日の昼だからまだ大腸辺りで消化中じゃないかと…
どうしてもというなら明日家の厠に来てくれ」
ゆっくりまりさはぽかーんと口を軽く開いて固まった。
「…………どおいうごどおおおおおおおおおおおおおお!?」
数秒後、田んぼに悲痛な悲鳴が響き渡った。

「どおぢでえええええええ!!!どおぢでれ゛いむ゛をだべぢゃっだのおおおおお!?」
「うむ、それには深い訳が
だがちょっと待って欲しい
第三者のお前にそんなこと言う筋合いがあるのだろうか?」
顔色一つ変えずに俺は錯乱するゆっくりまりさに手のひらを向けて制した。
「ま゛りざはれ゛いむ゛のおどもだぢだよ!ぢゃんどおぢえでね!!」
「なるほど、それなら第三者とは言いがたいな」
俺は腕を組んでうんうんと頷いた。
「食べてね、って言われたし断るのもなんなのでおいしく」
「!?」
ゆっくりまりさは驚愕して白目を剥きガタガタと震え出した。
頭の上にガーンって写植が飛び出すのが見えた気がした。
「…ほんとに、れいむがたべてねっておにいさんにいったの…?」
「確かに言ったぞ」
それを聞いてゆっくりまりさはがっくりと項垂れると
きびすを返して森の方へと歩き出した。
その後姿は哀愁が漂っていた。

「さー仕事しなきゃ…」
俺は饅頭のことなどどうでもよかったので仕事をクワをとって再開した。


「「ゆっくちちていっちぇね!」」
あくる日の夜中、俺はゆっくりの鳴き声で目を覚ました。
窓を見ると見事な満月の明かりだけがぼんやりと辺りを照らしている。
草木も眠る丑三つ時といったところだろうか、眠い。

「…ゆっくりしていってね」
玄関から声がしたので戸を開けると子連れのゆっくりまりさが
かなりこちらを睨め付けながら陰鬱な声を出した。
一体なんなんだろうと頭を悩ませてるうちに
そういえば昨日ゆっくりまりさが田んぼに来たことを思い出した。

「厠はあちらです」

俺はさっと手を出してエスコートしようとした。
「ちがうよ、まりさのかわいくてとってもゆっくりしてるあかちゃんをみせにきたんだよ」
かわいくてゆっくりしてるあかちゃんというのは脇に控えるちっさいゆっくりのことだろうか。
どうやられいむ種とまりさ種が一匹ずつ居るようだった。
「いえ、興味ないので結構です
もう夜分遅いのでお引取りください」
正直ゆっくりの赤ん坊など興味ないしもう本気で眠たいのでそのまま戸を閉めようとした。
「ちゃんとひとのはなしをきいてね!!」
ゆっくりまりさがすごい剣幕で叫んだ。
脇の赤ん坊達がびくっとして震える。
本当にどうでもよかったがこのまま閉めると朝までこの声で安眠妨害されそうだったので仕方なく話を聞くことにした。


「あれはおつきさまがまんまるだったころのおはなしだよ…」
さっき窓をみた時満月が空に浮かんでいたから恐らく先月の話だろう。
ここからこのゆっくりの回想を基にまとめたVTRをどうぞ。


「あついよあついよあつくてゆっくりできないよ」
まりさは炎天下の中だらだらと餡汗を流しながら畦道を歩いていた。
「ゆー、あついからゆっくりみずあびするよ!!」
まりさは暑さに耐えかねて水をはった田んぼの中に飛び込んだ。
「ぴーちゃ♪ぴーちゃ♪しあわせー♪」
まりさは水の冷たさを堪能しながらごろごろと転がり、全身を水で洗った。
その際倒れていく稲は気にしない。
「ゆーちべたくてゆっくりできるよー」
まりさはさらにごろごろところがった。

「そこはおにいさんのゆっくりプレイスだよ!
あらすわるいゆっくりはゆっくりしてないででていってね!」
その時、畦道の方からまりさにむかって注意する声が聞こえてきた。
ゆっくりれいむである。
「ゆ!ここはまりさがみつけたゆっくりプレイスだよ!
そっちこそゆっくりでていってね!」
せっかく見つけた避暑地から追い出されてはたまらないとまりさはたまらず反論した。
「ちがうよ!そこはおにいさんがいっしょうけんめいそだてたゆっくりしたごはんがそだつゆっくりぷれいすだよ!
ゆっくりできないであらしちゃうまりさはゆっくりでていってね!」
「ゆー!ちがう!ここはまりさの!」
まりさはこれでは埒があかないと想いれいむに詰め寄った。
「…ゆ?」
その時だ、まりさの視界にれいむの生々しい傷跡が入ったのは。
「ゆうううう!?なんでこんななの!?そのおにいさんにいじめられたの!?」
まりさは激怒した。
その痛々しい傷跡を見るだけでれいむがどれほど酷い行為に曝されていたのかがわかったからだ。
「ゆ!わかったよ!そのおにいさんにむりやりここのみはりをやらされてたんだね!
そんなゆっくりできないわるいやつのところにいるひつようないよ!
まりさのなかまをよべばそんなおにいさんかんたんにやっつけられるよ!
いっしょににげてゆっくりしようね!」
このまりさ、普段はやんちゃでいたずらばかりしているが
まりさ種には珍しく仲間想いで熱血漢だった。
まりさは憤りながられいむを森へと連れて行こうとした。
「ゆ!ちがう!ちがうよ!」
しかしれいむはまりさを振り払ってぶんぶんと首を横に振る。
「ゆ?なにがちがうの?」
「おにいさんはやさしくてとってもゆっくりできるひとだよ!」
「どういうこと?」
れいむはまりさに事情を話した。
小さい頃、森の中でお母さんと一緒にゆっくりとすごしていたこと。
ある日、人間に見つかって巣から引っ張り出され、自分を残して一家を皆殺しにされたこと。
れいむだけその人間の家に連れて行かれたこと。
そこで酷い虐待を受け続けたこと。
他のゆっくりも居て一緒に生きてここを出ようと誓ったこと。
そしてゴミクズのようにそのゆっくりたちが死んでいくのを目の当たりにしたこと。
やがてれいむも飽きられて、ボロボロのゴミクズのようにされて外に捨てられたこと。

途中かられいむは死んでいった仲間を想ってボロボロと涙を流し
自分が受けた恐ろしい体験にガタガタと体を震わせた。

その姿を見てまりさの心はズキズキと痛んだ。
れいむの話を聞いて、その心に触れるのはまるでガラス片の上を歩くかのようで
まりさの心を痛めつけた。
その内にまりさもれいむと一緒に涙を流し始めた。
れいむの口惜しさ、苦しみがまりさにもひしひしと伝わった。
「ゆうううう…!やっぱりにんげんはゆるせないよ…!」
「でもね!おにいさんはちがったの!おにいさんはぼろぼろだったれいむにごはんをくれたの
それにれいむがぼろぼろでひとりじゃゆっくりできないからこのゆっくりぷれいすにれいむがいてもいいっていってくれたの
れいむね、ずっとつらいめにあったけどおにいさんにあえておかあさんがいたころとおんなじくらいゆっくりできたの
だからおにいさんはほかのにんげんとはちがうんだよ!」
「ゆ…」
まりさは思った、それでも人間は信用できないと。
いつそのお兄さんの心境が変わるかわからない。
まりさの理性はれいむを無理やりにでも自分の群れにつれて帰るべきだと言っていた。
「…れいむがそこまでいうならまりさもおにいさんをしんようするよ」
しかし、まりさの心が無理に連れ帰ってもれいむはきっとゆっくりできないことを悟っていた。
「…ありがとうまりさ!」
れいむに素敵な笑顔で御礼を言われ、何もしてないのになと心中で思い苦笑しながら
まりさはその場をゆっくり立ち去った。




次の日のこと。
その日も日差しの強い日だった。
「ゆーここはまりさのゆっくりプレイスにするんだぜー!」
「そこはおにいさんのゆっくりプレイスだよ!
あらすわるいゆっくりはゆっくりしてないででていってね!」
田んぼをゆっくりが荒らしているとれいむがすぐにやってきて後ろから止めようとした。
「ゆっゆっゆ!なんなんだぜそのきたないりぼん!」
しかしまりさはあっさりれいむを振り払うとその傷跡の残る痛々しい姿を見て爆笑した。
「ゆぐううう!このりぼんはれいむのおかあさんもほめてくれたりぼんだからきたなくないよ!」
れいむはりぼんを貶されて悔し涙を流しながらまりさに体当たりをした。
しかし体の弱いれいむはあっさりはじき返されてぼよんと大地を跳ねた。
「ゆっゆっゆ!ざこはざこらしくおねんねするんだぜげええええ!?」
「ゆっくりでていってね!」
「ま、まりさー!」
その時、昨日のまりさが草むらから飛び出してきて体当たりで田んぼを荒らそうとするまりさを吹き飛ばした。
「ゆぐっ!ふいうちとはひきょうもっぎぁやあああああああああ!?」
間髪居れずにまりさは悪いまりさの上に乗っかってドンドンと飛び跳ねる。
悪いまりさの体がへこみ、潰れ饅頭のような形になった。
「ゆぎゅううううううう!やべでええええ!ひどいことぢないでほぢいんだぜええええええ!!!」
余りの痛みに悪いまりさは泣きながら懇願した。
「ゆ!じゃあもうここにきてれいむをいじめないってやくそくしてね!」
「やぐぞぐずるんだぜえええええええ!!!」
それを聞いてまりさはさっと降りると、悪いまりさは一目散に森の方へと逃げ帰っていった。
「ありがとうまりさ!ゆっくりしていってね!」
れいむは御礼を言うとまりさにほお擦りをしてこの上ない親愛の情を示した。
まだ瘡蓋の残る傷跡がこすれてまりさはくすぐったかった。


そんな風にまりさが用心棒になって田んぼをれいむと一緒に守る日々が続いた。
完全には防げなかったが被害は大きく減らすことが出来た。
ゆっくりが荒らしに来る日はそれほど多くなく、まりさはそんな日はお兄さんが居ない時間を見計らって
れいむの所へ遊びに来た。
群れから離れて里にまで下りてくるのは本来なら掟に反しているのだがまりさは構わなかった。
それよりもれいむと一緒にゆっくりする時間がとても大事だったのだ。
やがて、まりさにとってれいむは群れの誰よりも大事なゆっくりになっていた。
まりさはそのうちこんな一日に少しの時間ずつではなくれいむとずっと一緒にゆっくりしていたいと願うようになった。
そんなある日のこと。

「れいむ…」
「ゆ…?なーにまりさ?」
畦道で二匹は寄り添ってゆっくりと風に揺られる稲穂を眺めていた。
そんなゆっくりした時の中でまりさはゆっくりと覚悟を決めていた。
「れいむ…あのね」
「?」
れいむは不思議そうにまりさの顔を見つめていた。
まりさはドキドキと自分の胸が高鳴るのを感じた。
「まりさとけっこんして、ふたりでずっといっしょにゆっくりしていってね!!」
まりさはれいむに思いの丈を打ち明けた。
れいむと結婚すればきっと幸せでゆっくりできるしれいむもゆっくりさせてあげられると思っていた。
「…ごめんね、まりさとはけっこんできないよ」
だがれいむの答えは否だった。
悲しそうな瞳がまりさから目をそらした。
「!?どうして!?どうしてなのれいむ!?」
まりさはきっとれいむも喜んでもらえると思っていたのに予想外の返事が返ってきて何がなんだかわからなかった。
結婚すればきっと二人ともゆっくりできるのにどうしてれいむがそんなことを言うのかまりさにはわからなかった。
「れいむはおにいさんといっしょにいたいから…」
「ゆぐうううううううう!?」
まりさは信じたくなかった。
人間に、れいむのこと心を奪われたことに。
人間相手に力で負けたのならまりさも納得がいったがこれだけはどうしても納得出来なかった。
ゆっくりには絶対にゆっくりの方があっているというのは自然の摂理のはずなのにだ。
「どうぢで!どうぢでま゛り゛ざじゃだべなのおおおおおおお!?」
「れいむがね、とってもゆっくりできなかったときにゆっくりさせてくれたのがおにいさんだからだよ」
「……!」
まりさはハッとした。
そう、れいむをどん底から救ったのはそのお兄さんなのだ。
まりさにはれいむの気持ちが、なんとなくだが理解できた。
「れいむはおにいさんなしじゃもうゆっくりできないの」
しかしまりさは自分の気持ちは割り切ることが出来なかった。
「う゛わ゛ああああああああ!!!」
「!?まりさ!?やめてね!それはおにいさんの」
まりさはれいむが番をしていたお弁当に突っ込むとひっくり返して中身をむさぼった。
「やべでえええええええ!そ゛れ゛がないどお゛に゛いざんがああああああああああ!!!」
「おにいざんなんが…おにいざんなんがあああああああああ!!!」
まりさはたまごやきをむさぼりごはんを口に押し込み水筒のふたをあけて辺りにぶちまけた。
「ま゛り゛ざのばがあああああああ!!!も゛う゛ぢら゛な゛いいいいいいいい!!!」
「ま゛り゛ざだっででい゛ぶのごどなんがぢら゛な゛いいいいいい!!!」
二匹の泣き声がエコーする。
まりさは泣きながら森へと帰っていった。


「ゆぅぅぅぅぅ…」
まりさは自分の巣でさめざめと泣いていた。
どうしてあんなことをしてしまったのか自分でも理解できなかった。
あれではれいむをいじめた人間となんら変わりないと自己嫌悪に死にそうなほど苛まれていた。
「もうれいむにあわすかおがないよぉ…」
れいむに謝りたかった。
だがどんな顔をしてれいむの所に戻ればいいのかわからなかった。

その時、お腹の中で何かが動いた。
「ゆ…!?これって…」
再び何かが動く。
それは確かな胎動だった。
「ゆー♪あかちゃんだよ!まりさとれいむのかわいくてゆっくりしたあかちゃんだよ!!」
嬉しかった。
もうれいむとの繋がりは断ち切られてしまったと思ったのに自分の中にれいむとの命が宿っていることが嬉しかった。
「…そうだ!」
まりさはぱっと思いついた。
二人の可愛いゆっくりした赤ちゃんを見せればれいむだって許してくれるはずだ。
赤ちゃんを見ればれいむも考えを変えてまりさと結婚してくれるかもしれない。
「ゆふふふふ…♪」
まりさは赤ちゃんが産まれるのが待ち遠しくて待ち遠しくて仕方が無かった。




「それでれいむにあいにきたら…れいむ…れ゛い゛む゛うううううううう!!!」
VTR終了。
ここまで話してゆっくりまりさはボロボロと泣き始めた。
正直このまま横になって眠りたかったが居座られても困るので最後まで聞くために先を促した。
「で、そのゆっくりれいむはいないのに何しにきたんだ?」
ゆっくりまりさはきゅっと瞳を閉じて涙を振り払った。
「せめておなじゆっくりをあいしたものとしてれいむとまりさのあいのけっしょうをみせにきたんだよ!
きっとれいむもよろこぶよ!!」
「あー、そうか」
せめて朝に来て欲しかったなと俺は天井を仰いだ。
本当に眠い。
「さあゆっくりあいさつしてねまりさとれいむのかわいい…ゆ?」
改めて挨拶をしようとしてゆっくりまりさはぐるりと回りを見回した。
「どおぢでい゛な゛い゛どおおおおおお!?」
「ふぁぁ…ああお前の子どもなら話長いから勝手に外に出て行ったぞ」
俺はあくびをしながら答えた。

「ま゛り゛ざのがわいいあがぢゃんんんんん!!!」
それを聞き終わるや否やゆっくりまりさは外に飛び出して子どもの名を呼んだ。
「ゅー♪」
「おかあしゃんだー♪」
「ゆー…」
ゆっくりまりさは子どもが無事なことを確認してほっと息をなでおろした。
「あ、そっちはお隣の敷地…」
ゆっくりの子ども達がお隣の庭に入り込んでいるのをみて俺は思わず咎めた。
「ゆぎぃゃあああああああああああ!?」
「いだいいいいいいいいいいいいいいいい!?」
「コッケー」
「あああああああ!ま゛り゛ざのあがぢゃああああああああん!!」
お隣の庭では鶏を放し飼いにしてるのだ。
自然の中で虫とか食いながら育てるので毛並みもいいらしい。
たまに家も卵をおすそ分けしてもらう。
この前勝手にゆっくりを投げ与えてた寺小屋に通ってる子が雷落とされてたから俺も怒られるんじゃないかと不安だ。
「お゛に゛い゛ざん!はやぐま゛り゛ざのあがぢゃんだずげえでねええええ!」
「いや、勝手に人の敷地に入るのはちょっと」
「どおじでえええええええええええ!?でい゛ぶの!お゛に゛い゛ざんのあいぢだでい゛ぶのあがぢゃんな゛の゛に゛いいいい!!」
「別に愛してはなかったしなぁ、餌付けはしたけど」
腕を組んで俺は困ったなと溜息をついた。
「おがあじゃぎゃべっ」
「れいむのいもうとがああああ!!!」
「コケッコー」
一匹飲み込まれたようだった。
「あああああああああああああああああああ!!!!」
遂にゆっくりまりさは垣根に突っ込んで枝に切り裂かれ傷だらけになりながらも鶏に突っ込んだ。
「あ゛がぢゃんをがえぜええええ!!!ゆ゛っぐり゛ぢねええええええええええ!!!!!」
「コケーコッコッコッコ」
「ゆぎゃあああああああああああ!?」
「おがあじゃあああああああああん!!!!」
鶏の爪で引っ掛かれて右目を潰されてしまったようだ。
アレで意外と難敵なのだ、鶏という奴は。
俺も初めて鶏をシメようとしたときは苦戦してボロボロになったものだ。
流石に首から血をだくだく流しながら数分走り回るのは反則だと思う。
「コケッケッケッコー」
「もっどゆっぐりぢだがっだあああああ!」
「やべでえええええええ!!!」
鶏は適当にゆっくりまりさを突っついていたが食べ辛かったのか
生き残った赤ん坊の方を食べることにしたようだ。
三口ほどでぺろりと飲み込まれてしまった。
「れ゛い゛む゛とま゛り゛ざのあ゛い゛のげっじょうがああああああああ!!!!!?」
ゆっくりまりさの悲鳴が響き渡る。
俺はもう眠いしこのまま居たらお隣さんが出てきて物凄く怒られそうなのですごすごと退散した。








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最終更新:2022年05月19日 15:22