こんな台詞を聞くと、つい虐めたくなっちゃうんだ♪
(ゆっくりしていってね!!!)
ある日の事。町を散歩していたゆっくりれいむは、美味しそうな匂いにつられ一軒の食堂に入る。
そこで見たものは、美味しそうな料理と忙しく働く店員。僅かな時間に昼食を済まそうとするサラリーマン。
折角美味しいご飯が食べられるのに「これじゃゆっくりできない」とプンプン怒るれいむ。
皆をゆっくりさせて早く自分も美味しいご飯にありつこうと、れいむは大声でいつもの挨拶をした。
「ゆっくりしていってね!!!」
店内にいるのは顔を真っ赤にして料理を作るコック、料理を運び注文を取るのに忙しいウェイター、
午後も仕事が詰まっているのになかなかこない料理に苛立ち始める客。
当然、だれもれいむの事など気にもしない。ゆっくりとは違い、人間は何時だって忙しい。
「どうしてみんなむしするの!ゆっくりしていってね!!!」
「いらっしゃいま「オーダー入ります!ラーメ「おタバコはお吸いになられますか?」
「みんなゆっくりしてね!そしてはやくれいむにごはんもってき・・・」
「すいませーん!こっちにお冷ひとつくだ「お勘定おね「ご注文を繰り返します。和風ハンバーグですね?」
「いいかげんにしてよね!れいむはおこってい・・・」
「カウンター1名様はいり「すいませーん。トイレはどこ「おしぼりをどうぞ。」
「ゆっくりしていってね!!!ゆっくりしていってね!!!ゆっくり・・・」
「店長!電話が入っ「ガッシャーン!「和風ハンバーグマダァ-? (・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン」
「ゆっくりしていっ・・・」
「てめー!この忙しいとこに電話してきて、しかも休みた「餃子一皿つい「ハンバーグ遅いよなにやってんの!」
「ゆっくりし・・・」
「すいません!お皿割って「いらっしゃ「たいへんお待たせいたしました。ネギラーメンでございます。」
「ゆっく・・・」
「4名様ご案内いた「オーダーはいりま「オゥオゥオゥ、イテまうぞコラー!」
遂に怒りが有頂天になったれいむは、カウンターの上に飛び乗り顔をプクーと膨らませる。
そしてあらん限りの大声で叫ぶ。
「ゆ っ く り し て い っ て ね ! ! ! 」
「「「「「「「「「「うるせーーーーー!!!!!」」」」」」」」」」
「ゆぐっ、ゆぐっ、ゆうぅぅぅ・・・ゆっくりしたかっただけなのにいぃぃぃ・・・」
客に店の外まで蹴り飛ばされたれいむは泣きながら森に帰って行った。
(まりさのぼうしをかえしてね!)
「ん?ゆっくりじゃないか。どうした?そんなに慌てて。」
「まりさのぼうしをかえしてね!まりさのぼうしをかえしてね!」
「帽子を無くしたのか。しかし私はお前の帽子なんてしらないよ。」
「うそをつかないでね!それはまりさのぼうしだよ!はやくかえしてね!」
「これ?これは私のだぞ。サイズが違うから解るだろ?」
「まりざのぼうじがえじでええええ!!!!」
「ああ五月蝿い五月蝿い!分かったよ。探してきてやるからそこで待ってろ!」
「ぼうじーーー!!!がえぜーーーーー!!!」
「しょうがないなぁ。貸してやるよ。ちょっとの間だけだぞ。」
そういうと少女は自分の帽子をまりさに被せてやるが、サイズが大きすぎるのですっぽりと中に隠れてしまう。
「まえがみえないー!やめて!ここからだして!」
「お前が『帽子よこせ』って言ったんだろうが・・・」
モゾモゾと動く帽子のつばに石を乗せ、動けない事を確認してから少女はまりさの帽子を探しに行った。
しばらくすると男が二人話しながらやって来る。
「やっぱりゆっくりかぐやなんていないんだって。あいつの言う事信用しちゃだめだよ。」
「うーん。やっぱ嘘だったのかなぁ。あいつの話じゃこの辺にいるらしいんだけど・・・」
「そんなもん探すくらいならツチノコ探した方がまだましだって・・・ん?なんだあの帽子?」
「くらいよおおおお!だして!ここからだしてええええ!」
「うわっ!帽子が喋った!」
「だれかいるの?はやくまりさをここからだしてね!」
「?」
男が帽子を取り上げてみると、中から目を真っ赤にして泣いているまりさが出てきた。
「お前なんだってこんなサイズ違いの帽子被ってんだ?って言うかこの帽子ってあの娘のじゃ・・・」
「まりさのぼうしをかえしてね!まりさのぼうしをかえしてね!」
「いやいや、『ここからだして』って言ったのお前だろ。」
「そうだよ。それにこの帽子お前のじゃねーだろ。」
「なにいってるの!それはまりさのだよ!はやくかえしてね!」
「はぁ・・・饅頭に何言っても無駄か。それより、この帽子どうする?また閉じ込めてもいいけど・・・」
「ばーか。あの娘のとこに持ってくに決まってんだろ。話が出来るチャンスだぜ。」
「ですよねー。」
「ぼうじがえじでええええ!!!!!」
「善は急げって言うしな。早く行こうぜ。」
「そうだな。おい饅頭!どこから拾って来たか知らねーがありがとな。これ貰っていくよ。」
「あああああああ!!!!!まりさのぼうしーーーーーーーー!!!!!」
数分後・・・
「おーいゆっくり!帽子を見つけてきたぞー。」
「まりさのぼうし!はやく!はやくかえしてね!」
「あれ?貸してやった私の帽子は?」
「まりさのぼうしをかえしてね!まりさのぼうしをかえしてね!」
「いや・・・だから、私の帽子は?」
「そんなのしらないよ!それよりはやくぼうしかえしてね!」
「私の帽・・・」
「まりさのぼうしをかえしてね!まりさのぼうしをかえしてね!」
「・・・・・・(怒)」
ビリビリビリビリ・・・
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!ま゛り゛さ゛の゛ほ゛う゛し゛か゛あ゛あ゛あ゛!!!」
(むーしゃむーしゃ、しあわせー♪)
公園のベンチ。鳩に餌をやっていたおじいさんからパンの耳を貰ったれいむが、遅い昼飯を食べていた。
「むーしゃむーしゃ、しあわせー♪」
「お、れいむじゃないか。美味しそうだね。」
「とってもおいしいよ!おにいさんもいっしょにゆっくりたべる?」
「俺は自分のがあるからいいよ。それより、隣に座って食べてもいいかい?」
「ゆっくりしていってね!!!」
お兄さんは袋からシュークリームを取り出し食べ始める。それを見つめるれいむ。
「うーんやっぱりこの店のシュークリームがいちばんだなぁ・・・ん?お前も食べたいの?」
「ゆ?いいの?」
「ああ、いいよ。たくさん買ってきたし。ほれ。」
「むーしゃむーしゃ、しあ・・・あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」
「どした?」
「からいっ!からいっ!みじゅ!おみじゅうううう!!!!」
「何いってんの。この辛さがいいんじゃないか。カラシ入りシュークリームなんてあんまり売ってないんだぞ。」
「ひどいよおにいさん!れいむをだましたね!」
「いや・・・騙してはいないだろ。じゃあこっちを食べるかい?お寿司だよ。知ってる?」
「ゆ!れいむはおすしだいすきだよ!はやくちょうだいね!」
「食った事あんのかよ・・・元は飼いゆっくりだったのか?まあいいや。ほれ。」
「むーしゃむー・・・う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!!!!」
「こんどはなんだ。」
「あああああ!!!したがひりひりするよおおおおお!!!」
「ワサビも駄目なのか・・・美味しいのになぁ。こんなにワサビ大盛りにしてくれる店他には無いんだぞ。」
「れいむはからいのだめだよ!こんなのたべれないよ!」
「ああっ!吐き出しやがった!なんてことするんだ!」
「こんなのたべるおにいさんとはゆっくりできないよ!」
「(この野郎・・・)そーかそーか。それは残念。家に行ったらとっておきのがあるんだけどなー。」
「とっておき?おいしいの?」
「ああ、勿論。」
「じゃあそれをたべさせてね。そしたらいっしょにゆっくりしてあげるよ!」
「(・・・・・・)じゃ、家まで行こうか。」
お兄さんの家の庭。
「ゆ?おうちにはいらないの?」
「んー。なんて言うか。これを食べるのは家の中じゃ駄目なんだよね。
ま、食事の作法みたいなもんだよ。気にすんな。それよりこの箱に入って。」
お兄さんは物置から持って来た透明な箱にれいむを入れる。
そしてガスマスクを付けると丸く膨らんだ缶詰を開けた。
「ゆー。ゆー。おにいさんのおとっときー。はやくしてねー♪」
「はいはい。ほら、こんどのは辛くないよ。ゆっくりたのしんでね!」
缶詰ごと箱の中に入れると素早く箱の蓋を閉める。
「む゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!!!!!」
「ほら、唸ってばっかいないで食べないと。シュールストレミングなんてめったに食えるもんじゃないぞ。」
「くしゃあああああい!!!!くしゃいよおおおおお!!!!」
「まあ臭いだろうな。それが売りの一つだし。」
「だしてえええええ!!!!じぬうううううううう!!!!」
「だーめ。お兄さんは食べ物を粗末にする子は嫌いだよ。残さず食べてね。」
「いやああああああああああああ!!!!」
(おうちにかえる!)
森の近くにあるお姉さんの家。一匹のまりさが家に入り込んで来た。
「あら?ゆっくりね。勝手に人の家に入ってはだめよ。」
「ゆ?ここはおねえさんのおうちなの?。だれもいなかったらまりさのおうちにしようとおもってたの。」
「(・・・・・・)ここは私の家よ。遊びに来るのは構わないけど、勝手に自分の家にされたら困るわ。」
「ゆ?まりさはこまらないよ?」
「・・・・・・」
「それよりここにはおもしろそうなものがたくさんあるね!」
「私は魔法や呪術を研究しているの。その為の道具よ。壊さないでね。」
「うん。ゆっくりあそんでいくよ。おねえさんもゆっくりしていってね!!!」
「(『とっとと帰る』という選択肢は無いのかしら・・・)」
数十分後・・・
「ゆ~~~~!たのしかったよ!まりさはもうかえるね!」
「そう。(やっと帰ってくれるのね・・・)」
「こんどはあかちゃんたちもつれてくるよ!」
「・・・・・・」
「どうしたの?まりさがまたあそびにきてあげるっていってるんだよ!」
「・・・・・・(怒)」
「そうだ!あかちゃんたちのためになにかおみやげちょうだいね!」
「あ、ああそうね。お土産ね。このクッキーをあげるわ。」
「ゆ!おいしそうだね!こんどはもっとたくさんつくっておいてね!」
「(・・・・・・)ああ、そうそう。帰る時はこっちのドアから帰ってね。こっちが出口専用なの。
この赤いボタンを押せばドアが開くわ。ドアをいくつか抜けたら外に出られるから。」
「ゆ!わかったよ!まりさはおうちにかえるね!」
「(帰れるものなら帰ってごらんなさい・・・)」
お姉さんから教わった通りにボタンを押すとドアが開いた。真っ直ぐに続く白い廊下。
壁にはなにやら不思議な紋様が描かれているが、家に帰る事で頭がいっぱいのゆっくりは気が付かない。
「ゆっゆっゆっ!あかちゃんまっててね!いまかえるからね!」
ぴょんぴょんぴょん、と跳ねながら次のドアの前まで着く。そこには赤いボタン。
「ゆ!これをおすんだね!」
すっと音もたてずにドアが開く。
「ゆっ!!!!!!」
開いたドアの前には小さなテーブルがあった。その上には物凄い形相でまりさを睨みつけるサルの剥製。
今にも襲いかかって来そうなその姿に、まりさは思わず固まってしまう。
が、当然サルの剥製は動かない。しばらくしてそれが生きたサルでない事に気づいたまりさ。
悪態を吐きながらサルに体当たりをする。
「おにんぎょうさん!びっくりさせないでよね!」
床に落ちたサルを尻目に「ゆっゆっゆっ」と先を急ぐまりさ。
白い廊下の先には次のドア。そして赤いボタン。ドアを開けると・・・
「またなの!おにんぎょうさん!まりさをにらむのはやめてね!」
やはり小さなテーブル。その上にはサルの剥製。
生きてはいないと解っていてもやはり怖いのか、まりさはサルと目を合わせない様に横を通り抜ける。
「ゆっゆっゆっ」 「白い廊下」 「ドア」 「赤いボタン」 「サルの剥製」
「ゆっゆっゆっ」 「白い廊下」 「ドア」 「赤いボタン」 「サルの剥製」
「ゆっゆっゆっ」 「白い廊下」 「ドア」 「赤いボタン」 「サルの剥製」
「まだおそとにつかないの!はやくしないと!あかちゃんたちがまってるよ!」
「はやくおうちにかえるよ!まっててねあかちゃん!」
「ゆっゆっゆっ」 「白い廊下」 「ドア」 「赤いボタン」 「サルの剥製」
「ゆっゆっゆっ」 「白い廊下」 「ドア」 「赤いボタン」 「床に落ちたサルの剥製」
「ゆっゆっゆっ」 「白い廊下」 「ドア」 「赤いボタン」 「サルの剥製」
「どうじでおそどにでれないのおおお!!!おうちにがえりだいのにいいいい!!!!」
「ゆっゆっゆっ」 「白い廊下」 「ドア」 「赤いボタン」 「サルの剥製」
「ゆっゆっゆっ」 「白い廊下」 「ドア」 「赤いボタン」 「サルの剥製」
「ゆっゆっゆっ」 「白い廊下」 「ドア」 「赤いボタン」 「サルの剥製」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」
「ゆっゆっゆっ」 「白い廊下」 「ドア」 「赤いボタン」 「サルの剥製」
「ゆっゆっゆっ」 「白い廊下」 「ドア」 「赤いボタン」 「床に落ちたサルの剥製」
「ゆっゆっゆっ」 「白い廊下」 「ドア」 「赤いボタン」 「サルの剥製」
数時間後・・・
「おうちに・・・おうちにかえりたい・・・あかちゃん・・・」
「まっててね・・・おかあさんすぐにかえるからね・・・」
白い廊下を抜け、目の前にはドア、そして赤いボタン・・・
「こんどこそ・・・こんどこそ・・・きっとこんどこそおそとにでられるよ・・・」
残った力を振り絞り、ぴょんと跳ねボタンを押す。
すっと音もたてずにドアが開く。
目の前には・・・
「ゆううううううううううう!!!!!!!!」
「もういやだああああ!!!お゛う゛ち゛か゛え゛る゛う゛う゛う゛う゛」
end
作者名 ツェ
今まで書いたもの 「ゆっくりTVショッピング」 「消えたゆっくり」 「飛蝗」 「街」
「童謡」 「ある研究者の日記」 「短編集」 「嘘」
最終更新:2022年05月03日 15:24