(男とれいむ)
村の外れのあばら家。そこに住む一人の男とゆっくり。
男に身寄りは無く、唯一家族と呼べそうなものは一緒に住むゆっくりれいむのみ。
暮らしは貧しくとも、一人と一匹仲良く暮らしていた。

男は田畑を持たぬ水呑み百姓。この村一番の豪農の下で働いている。
両親が死んで借金だけが残り、自暴自棄な生活をしていたところを拾ってもらった。
それからしばらくして、偶然家の前で動けなくなっていたゆっくりを助け、それ以来一緒に住んでいる。

「ただいま。今帰ったぞれいむ。ひとりで寂しかっただろう。」

「ゆ!おかえりなさい!ゆっくりいいこにしてたよ!」

「今日は疲れた。だが仕事がひと段落ついた。明日は休みだ。朝から一緒に遊んでやるぞ。」

「ゆ!ほんと?」

「ああ、もちろん!」

「ありがとうおにいさん!じゃあきょうはゆっくりやすんでね!」

男はれいむを実の子の様に可愛がり、れいむも男によくなついた。
人づきあいが苦手な男であったが、れいむにだけは気を許し、家には常に笑いが絶えなかった。
ただれいむだけは、昼間男がいない間、森の方を眺めては溜息を吐いていた。
もちろんその理由に男が気づく訳がない。これが偽りの幸せである事を知っているのはれいむだけ。


(突然の来訪者)
翌日。男はれいむと一緒に村の外へ遊びに出かける事にした。
れいむを腕に抱き家の外に出る。するとそこに待っていたのはれいむより一回り大きいゆっくりまりさ。
まりさに気がつくと急にれいむの顔色が変わる。しかし腕に抱いている為男は気付かない。
すっかり青ざめているれいむを無視して、まりさは男に話しかけた。

「ゆっくりしていってね!!!」

「やあ。ゆっくりしていってね。どうしたんだこんな朝早くに?」

「まりさたちはれいむのおともだちなの!ゆっくりあそびにきたよ!」

「おお、そうだったのか。俺のいない間に友達を作ってたんだな。
 じゃあ邪魔しちゃ悪いな。俺は家でゆっくりしてるから、れいむは友達と遊びにいったらいい。」

「ゆ・・・おにいさん・・・」

「ゆ!ありがとう!さあれいむ!いっしょにゆっくりしにいくよ!」

一瞬、男に助けを求めるかの様な表情を見せたれいむ。そんなれいむをまりさ達は強引に連れていく。
その様子を特に不審に思わず見送った男は、「計画が狂ってしまったな。さてこれからどうしようか。」
などと考えながら家に入った。一方まりさ達は人気の無い森にれいむを引っ張っていく。

「ゆ。ここらへんでいいか。ここならだれにもきかれないぜ!」

「ひさしぶりだぜれいむ。あのにんげんとはうまくやってるのか?」

「・・・・・・」

「だまってちゃわかんないんだぜ!こどもがどうなってもいいのか?」

「ゆ・・・おにいさんは・・・れいむにとってもやさしくしてくれるよ・・・」

「それはよかったぜ!じゃあいつでもさくせんかいしできるな!」

「『おやぶん』からのでんごんだ!『ひつようなものはそろった。かぎがてにはいりしだい、さくせんかいし!』
 これだけじかんをやったんだ。かぎのありかはしらべてあるんだろうな!」

「ゆ・・・でも・・・」

「でも?なにいってるんだぜ。おまえじぶんのこどもがどうなってもいいのか?」

「ゆ・・・わかったよ・・・だいじょうぶ・・・かぎがしまってあるところはわかってるよ・・・」

「わかればいいんだぜ!おまえがしっかりやれば『おやぶん』もこどもをかえしてくれるぜ!」

「・・・・・・」

親分とは村の近くの森をシマとする巨大まりさだ。二年ほど前にこの地にやって来た。
体がでかくて喧嘩慣れした手下共を連れ、あっという間に元々この森のリーダーであったゆっくりを追い出した。
今ではこのあたりのゆっくりは、親分にみかじめ料を払わなければゆっくりする事もできない。

逆らったら人間に売られてしまう。まりさ達は人間に飼われたゆっくりを通じて人間と交渉する事までしていた。
自分達に逆らうものやシマの外に遠征に出かけて捕らえたもの、それを人間に売るのだ。
もちろんゆっくりを高値で買う者などほとんどいない。
まりさ達は村の周囲のゆっくりをしっかりと押さえて、ゆっくりが村の田を襲わぬ様目を光らせていた。
人間はその事への対価としてゆっくりを買い取っていた。

その親分が次のシノギとして選んだのが、村の豪農の蔵に盗みに入る事だった。
自分の商売相手の物、しかも人間の物を盗むなど正気の沙汰では無いが、実は理由があった。
人間の側からオファーがあったのだ。盗みの手順。揃えるべきもの。蔵の鍵を持つ人物。
すべてを教え、その上報酬まで払うと言う。親分はその話に乗った。

今年出産したばかりのれいむの赤ゆっくりを人質にとり、計画を手伝わせる。
れいむが蔵の鍵を持つ男に取り入り、鍵をしまっておく場所を調べる。
その間、食い物で懐柔した身体つきのれみりゃに鍵の開け方を覚えさせる。
そして蔵の中の米を運ぶのに適した、帽子を持つまりさ種を大勢あつめる。

れいむの元に来たのは準備が整った事を知らせる親分の手下。鍵の在り処の確認の為やって来た。
鍵の位置も分かった。いよいよ今夜から作戦決行だ。
まりさ達とれいむは何も知らぬ男の元へ帰る。

「おお、おかえり。早かったね。もっとゆっくりしてきたら良かったのに。」

「ゆ・・・」

「ゆ!もうじゅうぶんゆっくりしたよ!またこんどゆっくりあそびにくるよ!」

「ゆ!またねれいむ!おにいさんも!またあそびにくるよ!」

「じゃあな。昼間は俺がいなくてれいむも寂しいだろうから、時々遊びに来てやってくれ。」

「うん!さようなら!」


(その日の夜)
男の夜は早い。明日も朝早くから仕事があるし、なにより貧乏暮らしには明りに費やす余裕が無い。
その日も日が落ちて暗くなった頃には床につき、しばらくすると鼾をかき始めた。
男が完全に寝入ったのを確認したれいむは鍵を持って家を出る。待っていたのは昼間来たまりさ達。

「ちゃんともってきたか?」

「ゆぅ・・・もってきたよ・・・」

「そうそう。それでいいんだぜ。こどものことがかわいけりゃ、まりさたちのいうことをちゃんときくんだぜ!」

「ゆぅ・・・」

「さあ!かぎはてにはいった!それじゃやろうども!いくぜ!!!」

「「「「ゆーーーーーーーーーーー!!!」」」」

まりさ達は早速仕事にかかった。れみりゃが鍵を開け、駆り集めたまりさ達が米を運ぶ。
親分の手下達は見張り役。荷物が重いと泣き言を言うゆっくりに制裁を加えて働かせる。
ある程度運びだしたら再び鍵を閉め、鍵をれいむに返して元の場所に戻し、森へ帰っていった。

こんな事がしばらく続いたある日、事件は起こった。


(発覚)
「ぐはっ!」

「てめえもしぶとい野郎だな。いいかげん白状したらどうだ?」

「だから!俺じゃありませんって!何で俺が蔵の米を盗まなくちゃならないんですか!」

「惚けるのもいいかげんにしろ!お前以外にこんな事する奴はいねーんだよ!
 俺たちゃ大旦那の下で働きだしてもう十年以上経つ。お前以外全員だ。
 今までこんな事は無かったんだ。一年前、お前がここで働き始める前まではな!」

「大体俺は元からお前の事が気に入らなかったんだよ。
 お前の親父は真面目ないい奴だった。それが原因で騙されて借金背負ったがな。
 そんな奴だから俺達は金を出し合って高利貸しからの借金を肩代わりしてやった。」

「あいつは感謝してた。必ず返すって言ってたぜ。嘘は吐かない奴だったしな。だから利子もあまり付けなかった。
 それなのに息子のお前ときたら。親父とお袋が死んで、その後なにやってた!
 碌に働きもしねえで、ゆっくりを捕まえては殺して遊んでるだけだったじゃねえか!」

「別に金の事を言ってるんじゃねえ。俺たちゃお前のその態度が気に入らなかったんだよ!
 確かに大変な額の借金だが、すぐに返せとは言わねえ。真面目に働いて少しづつ返してくれ。
 葬式の日にそう言ったはずだ。それなのに・・・お前は!」

「そんなお前を可哀そうに思ったお嬢さんが、大旦那を説得してくれて、
 それでここで働くようになったんじゃないか。それなのに・・・
 お嬢さんや大旦那の信頼を裏切るなんて、お前にゃ人の心がねえのか!」

「待ってください!だから、蔵の米を盗んだのは俺じゃな・・・ぐえ!」

「いいかげんにしろ!じゃあお前以外にいったい誰が米を盗めるって言うんだ!鍵が壊された跡はねえ。
 蔵の鍵を持ってるのは大旦那と若旦那、それに倉庫番のお前しかいないんだよ!てめえがやったんだ!」

「ぐはっ・・・」

「さあ吐け!盗んだ米をどこへやった!もう売ったのか?じゃあ売った代金はどこにある!」

「信じて・・・信じて下さい・・・俺じゃ・・・俺じゃない・・・」

「まだ言うか!!!」

「もうその辺にしないか。」

「あ!若旦那・・・しかし・・・」

「こいつを倉庫番に指名したのは私だ。私にも責任はある。ここは私に預けてくれないか?」

「若旦那がそうおっしゃるのなら・・・」

若旦那に諭され男達は仕事に戻る。

「大丈夫かい?」

「すみません若旦那。信じて下さい・・・俺じゃない・・・俺じゃないんです。
 世話になっている若旦那や大旦那、それにお嬢さんを裏切るなんて・・・
 そんな事できるはずありません。誓って・・・誓って俺じゃない・・・俺じゃないんです・・・」

「わかっているよ。私はこの一年お前がどれだけ真面目に働いてきたか、ちゃんと知っている。
 お前は心を入れ替えた。こんな事できる人間じゃない。皆よく調べもせず勝手な事を・・・」

「じゃあ・・・」

「だがそれでは皆が納得しないんだ。親父は小作の中の誰かがやったと思ってる。
 皆はお前が犯人だと思ってる。私一人が信じていても無理だ。いずれお前は犯人にされてしまうだろう。」

「・・・・・・」

「村を出るんだ。心配ない。当分の生活に必要な金は渡す。今夜の内に村から逃げるんだ。
 皆には『あいつにはきっちりおとしまえをつけて、村から追い出した』と言っておく。
 親父も説得してお前に追手がかからないようにしてやる。
 すまないな・・・私にできる事はこれくらいだ・・・無力な私を許しておくれ。」

「とんでもありません。ありがとうございます若旦那。本当に・・・」

「さあ、この金を持って行くんだ。なるべく遠くへ逃げるんだぞ。」

この若旦那がこんなに優しいのには裏がある。若旦那は蔵の米を横流ししていたのだ。
女遊びと博打に金をつぎ込み、借金で首が回らなくなった若旦那は家の米に手をつけた。
元から倉庫番の男にすべてを押し付け村から逃がし、米が無くなった事をうやむやにする計画だった。

この男を倉庫番に指名したのも若旦那。家族も無く、他に頼る身寄りも無い。
犯人に仕立て上げ村から追い出すのに何の障害も無い。

さらに保険も掛けていた。まりさを唆し米を盗ませたのも若旦那の仕業。
万が一、皆が男の無実を信じ真犯人を探し始めたら、すべての罪をまりさに被せるつもりだった。
饅頭共は私の名前を出すかもしれないが、どこの世界に人間より饅頭の言う事を信じる奴がいるだろうか。
もしいたとしても問題ない。簡単に言いくるめられる。若旦那は自分の計画に絶対の自信を持っていた。

結局保険を使う必要もなく、すべては計画通りにいった。
若旦那はこみ上げる笑いを必死で堪えながら男を見送った。


(狂気)
男は家に戻った。そのあまりに早い帰宅にれいむは驚き、困った様な表情を見せる。

「ゆ!おにいさんどうしたの!こんなにはやくかえってくるなんて!」

「ああ。ちょっとな。それよりれいむ。これから引っ越しの準備をするぞ。
 この村を出て行かなくてはいけなくなったんだ。」

「ゆ・・・」

「おーい!れいむ!むかえにきたぜ!よかったな!これでこどもとくらせるぜ!」

「迎えにきた?どういう事だ?まりさ。」

「ゆ!おにいさん!どうしてこんなじかんにいえにいるの!」

「どうしてって・・・仕事でちょっと問題があってな・・・
 それより迎えにきた、子供と暮らせるってのはなんだ?」

「ゆ・・・それは・・・」

「ゆ!じつはこのまえれいむとあそんだときにあかちゃんができたんだよ!
 それであかちゃんがぶじうまれたから、いっしょにもりでくらすためにむかえにきたんだよ!ほんとだよ!」

「ふーん。そうだったのか。そりゃ丁度よかったかもしれんな。」

「ゆ?」

「俺は今夜この村を出るんだ。仕事場で問題が起きてな。そのせい出て行かなくてはならなくなった。
 れいむも連れていこうと思っていたが、やはり住み慣れた土地で暮らした方がいいだろうな。
 れいむの事頼んだぞ。幸せにしてやってくれ。」

「ゆ!まかせてよ!それよりおにいさんのほうこそたいへんだね!
 どろぼうがはいったせいでむらをでないといけないなんて。」

「ちょっとまて・・・」

「ゆ?」

「なぜ蔵に泥棒が入った事を知っている?俺は『仕事場で問題が起きた』としか言ってないぞ。」

「!!!!!」

「まさか・・・お前達が・・・」

「ゆ!しらないよ!まりさたちはおこめなんてぬすんでないよ!」

「なぜ盗まれた物が米だと知っている!!!!!」

「!!!!!」

「貴様ら・・・」

まりさ達は一斉に逃げだす。しかし所詮はゆっくり。すぐに男に捕まってしまう。
捕まったまりさは観念したのか、それとも自分だけ助かろうとしたのか、すべてを話し始めた。
親分の命令で蔵の米を盗んだ事。
れいむに演技をさせ、男と一緒に暮らすように仕向け、鍵を盗ませた事。
男はすべてを聞くと呆然として固まってしまった。その隙にまりさは逃げ出す。
れいむも一旦は逃げようとしたが、男が心配になったのかその場に留まった。やがて・・・

「あはっ!あははっ!あははははははははははははははははははは!」

「ゆ!おにいさんどうしたの!だいじょうぶ?」

「あはははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははは」

「ゆーーーーー!しっかりして!」

「ははっ!お前、俺を騙してたんだな!ずっと!そして何も知らない俺の事を笑っていたわけだ!」

「ち、ちがうよ!わらってないよ!しかたなかった・・・しかたなかったんだよ・・・」

「あはは!まさか、まさか身内に騙されるとは!家族同然に思っていたお前に!」

「お嬢さんに救われ、彼女の言う通りにした結果がこれだよ!あははははははは!」

「両親が死んで、借金だけが残った。その借金だって騙されて負わされたものだ。しかも仲間に!
 あいつは皆の手前、本当の事を言う訳にもいかず、自分が音頭を取って皆で親父を助けたかの様に言ってたが。
 そんなのウソっぱちだ!あの野郎、俺が何も知らないと思ってやがる。
 高利貸しとグルになって騙したのはあの野郎なのに!」

「おにいさん・・・」

「まあ聞けよ。両親が死んで、俺は生きる気を無くしてた。やり場のない怒りをお前らゆっくりにぶつけてた。
 ゆっくりの悲鳴を聞いている間だけすべてを忘れる事ができた。ゆっくりを殺している間だけ・・・
 だがな・・・満たされないんだよ、そんな事しても。常に渇いていた。常に餓えていた。
 まるで底無しの胃袋を持ち、無限の食欲を持つ怪物の様に。永遠に満たされない。永久に続く地獄。」

「いつしか皆も俺のことを、狂人でも見るかの様な目で見るようになった。
 そんな化け物に対して唯一、人間として接してくれたのが彼女だった。
 彼女だけが俺を救ってくれた。彼女だけが俺の渇きを満たしてくれた。
 彼女の傍にいたい。人間らしく生きたい。そう言った俺に向かって彼女はこう言った。」

「『恨みは何もうみださない。過去を引きずり、いつまでも恨みを持つのではなく、もっと未来を見るの。』
 『情けは人のためならず。皆を助けられる人になるの。そしたら皆もあなたを助けてくれるはず。』
 彼女に言われ俺は心を入れ替えた。誰かを恨んだり、人生を悲観したりせず、真面目に働いた。
 お前を助けたのも彼女の言葉があったからだ。ははっ!しかし、まさか演技だったとはなぁ!」

「はははっ!駄目だ!もう駄目だ!もう何も信じられない!何も信じない!
 だってそうだろ?彼女の言葉を信じた結果がこの仕打ちだ!
 家族と思っていたゆっくりに裏切られ、泥棒のゆっくりにハメられて罪を被り、もうこの村にはいられない。」

「あははは!もう人間には戻れない!人間らしくは暮らせない!
 じゃあ何になる?鬼か?妖怪か?もののけか?なんでもかまわん!
 どうせ俺は地獄行きだ。だがな、ただじゃ死なん。お前ら全員道連れだ!」

「お前らを殺す。全員殺す。生まれ変わってもまた殺す。転生してもまた殺す。
 二度とゆっくりなどさせるものか!もしこの体が滅んでも、必ず蘇って殺しに戻って来る。
 永久に殺し続けてやる!永遠に死に続けろ!」

「まず最初はお前からだ!だがその前に仲間の居場所を吐いてもらう。
 ああ、別に素直に話してくれなくてもいいぞ。お前の事だ。どうせ嘘を吐くんだろ?
 かまわないよ?体に直接聞く。正直に話させる方法はいくらでも知ってる。」


(死)
「おやぶん!どうするんだぜ?あのにんげんはふくしゅうするために、ここにやってくるかもしれないぜ!」

「ゆ・・・にんげんあいてじゃかちめはねぇ。ここは『さんじゅうろっけいにげるにしかず』だ!にげるぜ!」

「にげるためにはじかんをかせぐひつようがある。ここいらのへいたいどもをのこらずあつめろ!
 やつらをぶつけてまりさたちがにげるじかんをかせぐ。」

「ゆゆこもよんでこい!せっかくえさをやってかいならしたのに、もったいないきもするが・・・
 せにはらはかえられん。あいつのきょたいならじかんをたくさんかせげるはずだ。」

「わかったぜ!おやぶん!」

「あはははははは!みーーーーーつけたっ!」

「ゆっ!」

「ははっ!探したよぉ。随分探したよぉ。れいむがこの場所を教えてくれなくってさあ!」
 お前達に何か恩義でもあるのかねぇ。」

「ゆ・・・れいむのこどもをあずかってる。きっとこどもをたすけるためだぜ。」

「へえ、子供がいるんだぁ。じゃあお母さんに逢わせてあげないとねぇ。
 ほらっ!お母さんだよーーーー♪」

「ゆーーーーーーーーー!!!!!!」

男はれいむから剥ぎ取った皮を被り「あははははははは」と壊れた玩具の様に笑う。

「お、おにいさん・・・おちついて、おちついてはなしをきいてほしいんだぜ。」

「ん~~~~?なあに?」

「まりさたちも、まりさたちもだまされていたんだぜ。こんなことになるなんてしらなかった。」

「あははっ!それで?」

「にんげんがこのけいかくをもちかけてきたんだぜ。きしょうしゅのゆっくりをさがすのを、てつだうかわりに
 こめをすこしわけてやるって。じぶんがもっていくわけにはいかないから、おまえたちでぬすみだせって。
 ばれないようにこちらでうまくやってやるから、なにもしんぱいいらないって。」

「そうか・・・お前達も騙されて・・・本当なら蔵の米が減ってるのに誰も気が付かず、
 お前達は米を手に入れ、この計画の立案者とやらは希少種のゆっくりを手に入れ、
 俺は泥棒扱いされる事もなかったはず・・・こう言いたいんだな?」

「ゆ!そうだぜ!わかってくれた?」

「あはははは!!!んなわけねーだろーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!
 お前らのことだ、どうせ嘘吐いてるんだろ。」

「ほ、ほんとなんだぜ!しんじてほしいんだぜ!」

「つーか、嘘とか本当とか、そんな事もうかんけーねーし!お前ら全員殺すって決めたし!
 判決!死刑!即時執行だよっ♪」

「まってほしいんだぜ!さいごに・・・さいごにみせたいものがあるんだぜ!」

「見せたいもの?なんだ?」

「みせたいものは・・・」

「見せたいものは?」

「おやぶーん!みんなつれてきたぜ!」

「みせたいものってのはこれさあ!おまえら!よくやったぜ!」

男の周りをゆっくり達が囲む。100匹以上もいるだろうか。遠くからも声がする。まだ集まって来る様だ。
中には身体つきの捕食種や、男の背丈ほどの大きさのゆっくりもいる。

「さあみんな!だいじょうぶ!これだけいたらにんげんにもかてるぜ!
 にんげんをたおしたやつは『じきさん』のこぶんにしてやるぜ!
 しっかりはたらけ!てがらをたてろ!にんげんをたおしたやつは、だれよりもゆっくりさせてやるぜ!」

「「「「「「「「「「ゆーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」」」」」」」」」」

ゆっくり達が一斉に男に襲いかかる。それを見た男は手に持っていた鉈を鞘から抜く。
急にゆっくり達の足が止まる。手に持った鉈から発する狂気を感じ取ったのか。

この鉈は以前、男がゆっくりを殺す為に使っていたものだ。殺した数は千を下らない。
この鉈にこびり付いた餡子は、ゆっくりだけが感じ取ることのできる死臭を放つ。
「ゆっくりの死」そのものを体現したかの様なその鉈に、ゆっくり達は恐怖し動くことができない。

「お前達にも解るか。数え切れぬほどのゆっくりの餡子を吸ってきたこの鉈だ。
 何か怨念の様なものが映っているのかもな。まさかまた使う事になるとは思ってもいなかったが・・・」

「さあ、死の螺旋の始まりだ。これからお前達を殺す。殺し続ける。
 駆除しても駆除しても増え続けるお前達の事だ。絶滅する事は無い。どこかでまた生まれ変わるだろう。
 だが、生まれ変わってもまた殺す。運良く逃げ延びても、探し出して必ず殺す。」

一閃。男が振った鉈が一番近くにいたゆっくりの頭を切り落とす。

「ゆーーーーーーーーー!!!!!」
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
「たすけてよ!まだしにたくないよ!」
「どうじでこんなごどずるのおおおお!ゆっくりしたいだけなのにいいいいいい!」

「ゆっくりしたい?すればいいさ。俺に殺された後に。いくらでも。
 生まれ変わってゆっくりしていろ。すぐに殺しに行く。俺に殺されるのをゆっくり待ってろ!」

ゆっくりの群れは大混乱に陥った。泣き声。叫び声。ゆっくりの悲鳴が辺りを包む。
家族を見捨てて逃げ出すもの、親を殺され仇を討つため男に向っていくもの。
恐怖のあまり気が狂って仲間を攻撃し始めるものまでいた。まさに阿鼻叫喚の地獄絵図。

「ゆーーー!!!よくもおかあさんを!!!」 「いやーーー!まりさーーー!たすけてーーーー!!!」
「ゆふふ、ゆふふ・・・」 「このこだけは!このこだけは!」 「ああ・・・まだしにたくないよ・・・」
「ゆーー!まりさはころさないでね!ころすならほかのだれかにしてね!」 「こぼねーーーー!」
「ゆっくりしていってね!!!ゆっくりしていってね!!!ゆっくりゆっくりゆっくゆっくゆっゆっゆ・・・」
「おかあさーん!どこにいるのおおおお!!」 「ゆふふ・・・みんな・・・みんなしんじゃうんだ・・・」
「ゆうう・・・れいむ・・・いまいくよ・・・まっててね・・・いっしょにゆっくりしようね・・・」
「もっとゆっくりしたかったーーーーーーーー!!!!」

一方、親分まりさは森の小道を村へ向かって逃げていた。自分の手下だけを連れて。

「ゆっゆっゆっ!にげるぜ!にげるぜ!だいじょうぶ!にげきれるぜ!」

「ゆっゆっゆっ!しかしおやぶん、うまくにげだせましたね。まったくおやぶんのうそはおそろしい。」

「このかずならかてるだの、『じきさん』にしてやるだの。あいつらすっかりそのきになってたぜ!」

「ゆっふっふ!おかげでじかんかせぎはせいこうだ!」

「で、このあとどうするんだぜ?」

「まず、むらのちかくまでにげる。そしたらおまえたちは『おおだんな』のところへいけ。たすけをもとめるんだ。
 まりさはからだがおおきくてめだつから、むらのちかくにかくれてる。」

「『おおだんな』とは、『わかだんなのあくじをしらべてほうこくする』というけいやくをしてるんだ。
 そのみかえりとして、なんでもべんぎをはかってくれることになってる。」

「『わかだんな』のあくじをしらべることはできなかったが・・・だいじょうぶ、しんぱいいらない。
 まりさたちがやったぬすみを、『わかだんな』がやったことにすればいいぜ。」

「これでけいやくはたっせいしたことになる。『おおだんな』はまりさのたのみをきいてくれるはずだぜ。
 まりさたちをとおくににがすことくらいはしてくれるはずだ。」

「おまえたちわかってるな!うまくだますんだぜ!ぬかるんじゃないぜ!」

「おいっ!へんじくらいしたらどうなん・・・だ・・・」

「返事?返事が欲しいのか?じゃあ急がないとな。今から追いかければ、まだ間に合うんじゃないか?」

「ゆ・・・」

「心配すんな。すぐに追いつくさ。あの世で手下共に宜しく言っといてくれ。」

「じゃあな。また会う日まで。また殺す日まで。さようなら。」

「ゆーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」

end

作者名 ツェ

今まで書いたもの 「ゆっくりTVショッピング」 「消えたゆっくり」 「飛蝗」 「街」 「童謡」
         「ある研究者の日記」 「短編集」 「嘘」 「こんな台詞を聞くと・・・」
         「七匹のゆっくり」 「はじめてのひとりぐらし」

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最終更新:2022年05月03日 16:14