山菜を採りに山に入ったはいいものの、結局ほとんど見つけられずにただの軽い登山に終わってしまった。
気がつくと結構深いところまで来ている。方角のわかるうちに帰ろうかな…とか思っているといきなりゆっくりに声をかけられた。
「おにいさん!!ゆっくりれいむたちをたすけてね!!ゆっくりおねがいするよ!!」
とりあえず、ここで出会ったのも何かの縁か…よほど変なお願いでない限りは聞いてやろう。

ゆっくりしないでいそいでねとか言われたので俺は霊夢を脇に抱えてれいむの支持する方向に向かっていった。
すると切り立った崖が見えた、俺の腰ほどもある岩の周りで結構な数のゆっくり達が何か喚いているがきっとあれを助けてほしいのだろう。
「どうしよう!!どうすればいいの!?」
「わがらないよー!!」
「もうぱちゅリーとかほっといてあたらしいすをさがせばいいんだぜ」
「なにいってるのおかあさん!?」
「おきつきましょう!こういうときはまずすっきりするのよ!?」
なんか危ないことを言っている二匹をはじめ10匹ほどの成体ゆっくりと20匹以上の子ゆっくりに声をかける。
「みんな!!れーむがおにいさんをつれてかえってきたよ!!」
「おい、お前ら、何があったんだ?」
「おにーさん!!ゆっくりたすけてね!!」
「ぱちゅりーとあかちゃんがとじこめられちゃったんだよー」

とりあえずゆっくり達の話をまとめるとこうだ。
崖というか、岩肌というか、そこに開いたほら穴を巣としていたれいむとまりさ夫婦がいた。
だが一つの家族が暮らすにはあまりにも広すぎたので家族ぐるみの付き合いがあった複数の家族が同居するようになった。
今日もいつもどうりぱちゅりー種や小さい赤ちゃん、子ゆっくりの一部を留守番に残して狩りに行ったのだが、その間に何者かのいたずらか偶然による地震か、
上から岩が落ちてきて巣の入り口をふさいでしまったらしい。それでゆっくり達はパニクって、一部は閉じ込められた家族を見捨てようとし、一部はどさくさにまぎれて交尾しようとしている。
というかふつうのありすも居るが危ないありすが同居しててよくこの一家は生きてるな、ありすが興奮し出したのはつい最近からだったのか、冗談ですっきり言っているのか。

とりあえず、状況は理解した。確かに耳を澄ませると岩の向こう側から「むきゅー」という弱弱しい鳴き声が聞こえた。
「わかった、俺にも助けれるかどうかは分からないけどやるだけやってみるよ」
「ゆ、わかったよ!!ゆっくりおねがいね!!」
まずは岩の周りを見てみたり、なでてみたりして押しやすそうなポジションを探す。よし、ここかな?
「みんな、これから岩を動かすから、危ないから離れているんだぞ」
「みんな、きこえたわね!!とかいはらしくしっかりはなれてね!!」
「わかったよー!!」
「よし…いっせーのっせいっ!!」
掛け声とともに俺は全力で岩を押し転がす。かなりでかい岩だったが転がすぐらいはできるだろう。岩は少しずつではあるが転がり始めた。
「ゆゆっ!すごいよおにーさん!!力持ちだね!!」
「たかが石ころ一つ、俺の力で押し出してやる!人間をなめるなよお!!」
岩が少し動き、ゆっくり達が歓声を上げる、だが途中で岩の動きはストップしてしまった。
岩が落ちてきた際、地面がへこんでいたらしい。今は上り坂を登るような状態になってしまったため、動かすに動かせなくなってしまった。
「しまった…どうしよう…」
ここから一気に反対側に転がしてその勢いを使って…とか方法を考えてるときに一匹のれいむが周りのゆっくりに言った。
「みんな!!おにいさんがつかれているよ!!みんなでゆっくりたすけるよ!!」
「ゆー!!」
そして成体ゆっくり達が岩の周りに集まってきた。
「ゆーえす、ゆーえす!」
「な、何をやってるんだ!?危ないぞ!!離れろよ!!」
「ゆっ、おにいさん、にんげんをなめたらいけないけどゆっくりもなめたらいけないんだよ!!」
「みんなでおにいさんをてつだうよ!!がんばるよー!!」
いや、今から反対に転がそうと思ったんですけど…
それに俺はいざとなったら逃げれるが、ゆっくり達は頬を岩にこすりつけたり体を岩と地面の隙間にもぐりこませて踏んばったりしているため、いざとなっても逃げれない。
だが、ゆっくり達のおかげで少しだけ、子供一人が手伝ってくれたぐらい楽になり、少しずつだが岩はまた転がり始めた。
「ゆゆっ!おいわさんがうごきはじめたよ!!」
「ゆーえす、ゆーえす!!」
「みんなしっかりがんばるんだぜ!!ゆーえす、ゆーえす!!」
お前は参加しないで何高みの見物しているんだまりさ?ああ、そうか、指揮をしているつもりでいるのか…
もしかしたらこのままいけるかも?と思った時、予想外のことが起きた。
「ゆゆ!おかーさんたちががんばってるよ!!」
「れーむたちもさんかするよ!!」
「げっ!?まて、それはさすがに危険すぎる!!」
なんと親に言われて離れて様子を見ていたはずの子ゆっくり達まで参加してきた。みんなが岩や、親の背中にくっつき押し始めた。
「ゆーえす、ゆーえす!!」
だが、子ゆっくりは数が多い、岩にも、親の背中にもくっつけなかった連中がいた。
仕事に付けなかった子ゆっくり達はしばらく残念そうにしていたあと、何を思ったのか俺の脚に群がってきた。
「おにーさんをたすけるよ!!」
「わかるよー!!えんごするよー!!」
「ゆーえす!!ゆーえす!!あ、そーれゆーえす!!」
この子ゆっくりどもはこれが救助活動じゃなくて遊びか何かと勘違いしてるんじゃないだろうか?頼むから直接的な援護じゃなくてせめて応援するくらいの支援にしてくれよ…
というか足に群がってる連中が無駄にうざい、くすぐったい、まて、頼むから、アキレス腱に体当たりするな!めっちゃいてぇ!!
ずるっ
「しまっ…!?」
そう口にした時にはもう遅かった、一瞬力の抜けた足が滑り、岩がこっちに少し転がった。
「うおおおおおお!?!?」
自分でもよくわからない奇声をあげながらも何とか踏ん張り、岩を止める。
「だ、大丈夫か!?」
「れいむはだいじょうぶだよ!!」
「れいむもぶじだよ!!」
「まりささまはぶじなんだぜ!!」
「ありすもげんきよ!!」
「まりさもゆっくりげんき…あ゛あ゛あ゛ぁぁぁち゛ぇん゛ー!!」
「わ゛がら゛な゛い゛!?わがらな゛い゛よぉー!!」
見ると一匹のちぇんが尻尾と後頭部の一部を岩に押しつぶされていた、きっと尻尾のせいで逃げ遅れたのだろう。だが、まだ致命傷は負っていない、今なら…
「まりさ!!ありす!!ゆっくりてつだってね!!ちぇんをたすけるよ!!」
「駄目だ!!今持ち場を離れたら…」
「ゆゆっ!?」
そう、何とか持ちこたえられていた岩が、三匹のゆっくりがちぇんを助けようと岩から離れたためまたこっちに転がってきた。
「ぬああああ!?!?」
「に゛ゃげえ゛え゛え゛!!」
ちぇんはさらに潰され口から餡子を吐き出す。
「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
「ゆ゛っぐり゛でぎな゛い゛い゛い゛い゛!!」
ちぇんの吐餡を見て恐怖に駆られたゆっくり達が蜘蛛の子を散らすように逃げだした。
「ゆ!?みんな、だめだよ!!にげないでね!!ちゃんとおいわさんをおしてね!!」
「も、もう無理だぁ!!」
このままでは俺も潰されてしまう、そう直感した俺は最後まで岩を押そうとしていた、最初に俺に助けを求めてきたれいむを救いあげると急いでそこから逃げた。
「ま、まりさはにげるんだぜ!!」
「おかあさゆべし!!」
「お、おいてかないでね!!たすけぶっ!!」
そして、支えるものがなくなった岩はたくさんのゆっくり達を引きつぶしながら元の位置に戻っていった。

「ちぇん…まりさのあかちゃんたち…どうぢでごんなごとにいぃ…」
「ごべんね、ごべんねえぇ…」
餡子の染みがついた岩の前にゆっくり達が集まり、仲間や家族の死を惜しんでいた。俺はこいつらを助けようとしてここに来たのに、この結果は何なんだ?
その時、一匹のまりさが近づいてきて俺に言った。
「おにーさんがわるいんだぜ!!おにーさんがばかでよわいからみんながしんじゃったんだぜ!!」
何もやってないお前が何を言っているんだ?でもあながち間違っちゃいなかった、俺がもう少し工夫をしててこでも使えばよかったのだ、でもまりさにここまで言われる筋合いはないぞ?
「ゆっ!!おにーさんはわるくないよ、わるいのはおにーさんのいうことをきかなかったれいむたちだよ…」
そして俺に助けを求めてきたあのれいむが俺を擁護した。この言葉は周りのゆっくり達にとっては衝撃だったようだ。
「ゆゆっ!!」
「そういえばおにいさんはまりさたちにちかづくなっていったよ!!」
「それでもおにいさんのおてつだいをしようとおもったらちぇんがつぶれちゃって…」
「そしておにいさんがとめるのもきかずにたすけようとしたら…あああ、わたしたちはとってもいなかてきなことを!!」
「れいむ…すまん、助けてやるって言ったのに、結局助けてやれなかったな…」
「ゆ、おにいさんはわるくないよ、れいむたちはゆっくりほかのほうほうをさがすよ…」
良い奴だな、こいつ、まりさは俺を責めたのに、こいつだけは俺のせいじゃないと言ってくれた。里に帰ったら力自慢の知り合いにでもこいつらを助けてくれるように頼みに行くか…
そんな事を考えていた時だった。
「たしかにおにいさんはわるくないんだぜ!!わるいのはちぇんがつぶれているときにつぶれたゆっくりはほっとけというようなばかなおにいさんをつれてきたれいむなんだぜ!!」
そうきたか、何という考え方だ。それに俺は持ち場を離れるな、とは言ったがそんな奴ほっとけと言った覚えはないぞ?
「ゆ!?そうだよ!!れいむがいけないんだよ!!こんなばかなおにいさんをつれてきたりするから!!」
「なかまをたすけようとするみんなをとめるなんてとかいはじゃないわ!!こんないなかものをまちがってつれてくるようなれいむはゆっくりおしになさい!!」
「どおぢでぞんなごどい゛う゛のおおお!?」
「じね!!おのれのむのうでなかまをしにおいやったことをこうかいしながらじね!!」
酷い、正直、このとき俺はこう思った。
なんでこいつらはこうも一方的に、無茶苦茶な理由で悪を決め付け、こうも一方的に攻撃するんだろう。
耳を澄ませば石で塞がれたほら穴の中からも「むきゅ~おばかなれいむはしね~」とか「ゆっじゅりじねぇー」とか聞こえてくる。
れいむはお前らを助けるために頑張ったんだぞ?わざわざ怖いであろう人間に声をかけて、ここまで連れてきたんだぞ!?俺が逃げようとしたときだって、最期まで岩を抑えようと頑張ってたんだぞ?
まりさたちに攻撃され、頬が破れかけた時、俺は無意識のうちに饅頭どもを踏みつぶしていた。

「ゆっぐ、ゆっぐ…みんなどうぢで…れいむはがんばったのにどうぢでひどいごど…」
泣きわめくれいむと俺以外ここにはいなかった、周りには数十個の元ゆっくりだったものが散らばっている。
「れいむ、よかったら、うちに来ないか?うちには頑張った仲間にあんなひどいことをする奴は居ない、きっとゆっくりできる、どうだ?」
「おにいさん…ありがとう、でもれいむはひとりでがんばっていきるよ」
そうだよな、いくら自分にひどいことを言った奴らでもあいつらはれいむの仲間だった、その仲間を皆殺しにするような人間とは一緒にいたくはないのだろう。
「でもおにいさん」
「ん、なんだ?」
「もしれいむがつかれたとき、かなしくなったとき、またおにいさんにあいにいくよ、れいむのこと、わすれないでね」
「ああ、わかった…俺は毎週この山で山菜を取ってるから…」
「じゃあね、ゆっくりしていってね…」
そう言ってれいむは俺に背を向けて歩き始めた。
俺はただそれを見送っていた、野生のゆっくりなのに妙に礼儀正しく思えたこのゆっくりにまた再開できることを願って。
そして岩の向こう側からは「むぎゅぅ~おいでぐなぁ~」「うらぎりぼのー」とかいう声が聞こえたが、れいむには聞こえなかった。

さて、人里に帰ったら加工所にここのことを連絡しておこうか。





9月29日 1931 セイン

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最終更新:2022年05月03日 16:49