「ゆっくりしずかにはいろうね!!!」
「うん、しずかにはいろうね!!!」
近くにゆっくり達が住む森がある農村。
対策はしているが、やはりゆっくりは進入してくる。
この日も、五・六匹のゆっくり魔理沙が人間の家に侵入しようとしていた。
「ホワッツ! お前達ナニシテルンデスカー!!!」
直ぐに人間に見つかった。
ここで、大抵のゆっくりなら直ぐに人間の癇に障ることを言うのだが、今回のゆっくり達は違った。
「ゆゆ!! おかーーさんがあかちゃんをうんだから、たべものをさがしにきだんですーー!!」
「あがじゃんにえいようづけないとしんじゃうからーー!!」
なるほど。
よくよく見ると、確かにその集団には、小さい赤ん坊はもとより、お母さん魔理沙らしき存在もいない。
このゆっくり達の言うとおり、巣の中ではお母さん霊夢と赤ちゃん達がお腹をすかせて待っているのだろう。
「なるほど。なら、今回だけだぞ。ほら、これ位ならくれてやる」
それならば、と男は幾つかの野菜とお菓子を渡してやった。
「ゆゆ!! おじさんありがとうね!!」
「おじさんはやさしいから、きっとゆっくりできるね!!!」
思い思いの感想を残し、ゆっくり達は男の家を去っていった。
――
「ゆゆ!! おかーさん!! きょうはこんなにあつまったよ!!」
「ゆゆ!!! すごいね!! さすがだね!!!」
「すご~い!!」
「いっぱいたべれりゅね!!」
戻った巣の中には、お母さん魔理沙と赤ちゃん達。
それに沢山の食べ物。
野菜や果物から、果てにはお菓子まで。
およそゆっくりには準備できないような代物まで、沢山の食べ物が山積みされていた。
「むっしゃ!! おいし~~ね!!」
「うまくいってるね!!」
「あたりまえだよ!! まりさたちゆっくりは、みんなとってもかわいいんだもの!!」
手当たり次第に食べ物を口に運んでいる一家は、昨日の事を思い出していた。
この森のゆっくり達がドンドン人間に殺されている。
理由は人間の家に入ったり、畑の食べ物を勝手に食べたりしているからだ。
しかし、森の中にゆっくり全員を賄える程の食料はない。
そこで、一家の母親達が集まり、相談していた時に、この森には珍しいゆっくりアリスとパチュリーの夫婦がこう進言したのだ。
「むきゅ!! おかあさんとあかちゃんをいえにおいて、こどもたちだけでにんげんのいえにはいればいいの!!」
沸き起こる反論を抑えながら、パチュリーは大まかに次の事を説明した。
曰く、もし掴まったらお母さんが赤ちゃんを産んだといえば良い。
曰く、そういえば美味しい食べ物をもらえる可能性が高い。
曰く、誰かが巣に残っていればよそ者に巣を取られないで済む。
そして、最後にアリスが言った言葉が引き金となり、森のゆっくり達はこの作戦を行う事に決めたのだ。
「だいじょうぶ!! ありすたちはみんなとってもかわいくてうつくしいから、にんげんたちにはどれもかわいくうつるの!!!」
最後の問題、人間達が同じ顔のゆっくりを見て怪しまないのか、それをこの言葉で封じたアリス。
会議は直ぐに終わり、パチュリーと寄り添って巣に帰っていった。
それが数日前の事だ。
そして、次の日から実践をし、今ではどの巣もこのように大量の食べ物を蓄える事ができた。
「ゆっゆ~~~♪ よかったね!!」
「あしたはみんなでゆっくりしようね!!!」
「「「「ゆっくりしようねーーーー!!!!!」」」」
これだけの食料を何時でも手に入れることが出切る様になった以上、毎日せっせと集める必要はなくなった。
必要な時に集め、必要な時に食べる。
ゆうに一ヶ月程度の蓄えは出来た、当分は大丈夫。
森のゆっくりは、全員そのような考えだった。
一度上手くいったら大丈夫。
もう相談の必要はない。
それがゆっくり達の心情だった。
――
「むきゅ? そういえばありす?」
「なぁ~に?」
「ぱちゅりーがこどもをうんだときも、にんげんにもらったの?」
「!! そうだよ!! ありすがはくしんのえんぎでもうじまぜんがらーー!! っていったらたべものをたくさんくれたの!! ありすのえんぎはとってもさいこうだったの!!
えんぎは!!」
「むきゅ」
――
そして、先の霊夢が男の元を過ぎ去った後、人間たちもそのからくりに気付いた。
時間にして数日。
この数日間で、なんか匹ものゆっくりが同じ台詞を話せば、奇妙に感じるのは当然。
あっという間にそのからくりがバレタのだ。
そして、人間はゆっくり達にある方法で復讐する事にした。
――
「ゆゆ!! おがーざんがあがじゃんをうんだがらたべものをあづめでだのーー!!!」
数日後、再びあの魔理沙一団が男の下へやってきた。
そうやら、単純で涙もろいオジサンにカテゴライズされたらしい。
口調こそはしっかりしてるが、表情は泣き顔と笑顔の混ざった奇妙な顔を作っていた。
「そうだったのかい。それじゃあこれをもっていきな」
前回同様、大量の食べ物を渡してやる。
しかし、今回は殆どがくず野菜だが。
「そうだ。未だ食べ物がいっぱい有るから、それを置いたらまたおいで」
賑やかに去っていく魔理沙達に、男は大声で伝える。
「ゆゆ!! わかったよ!! ゆっくりいくよ!!!」
それに笑顔で答え、森へ続く道へと消えていった。
「やったね!! こんかいもせいこうだね!!」
「おじさんは、きづいてなかったね!!!」
「まりさたちがかわいいからだね!!」
「「「ゆっくり~~~~♪」」」
沢山の戦利品を運びながらの道中、その魔理沙達は最後の帰路に着いた。
――
「またいっぱいもらってくるからね!!!」
「おかあさんもあかちゃんもゆっくりまっててね!!」
「ゆっくりがんばってきてね!!!」
「ゆっきゅりまってるりょ!!!」
一家は最後の挨拶を交わして、交わる事のない岐路に進んでいった。
――
「ゆっくり~していってね~~~♪」
「こんどはぁ~なにを~もらえるのかな~~♪」
「「「「おっじさぁ~ん!! まりさたちがきたよ~~~♪」」」」
「やぁ、良く来てくれたね」
「「「「やだなぁ~おじさんは。まりさたちにたべものをくれるんでしょ!!!」」」」
「そうだったね」
そこで待っててね、と言い残して一旦中に消えた。
歌を歌いながら待つこと数分、大きな袋を携えて男が戻ってきた。
「この袋の中に入ってるよ。遠慮しないで沢山持っていってね」
「えんりょなんかしないよ!! ぜんぶまりさたちのだよ!! みんなもっていくよ!!!」
男に適当な返事をしながら、我先に袋の中に入り込んでいく。
全員が入った事を確認し、男は何食わぬ動作で袋を閉じる。
そして歩き出す。
「ゆゆ!! おじさん!! からっぽだよ!!」
「ここからだしてね!! はやくたべものもってきてね!!!」
「ゆっくりさせてあげないよ!!!」
「ダメだよ。お母さん達はもう居ないんだから。それに昨日の分の食事代も貰ってないしね」
淡々と袋越しに話しかけていく。
「だから、加工場に持って行ってお金に換えてもらうんだ」
その言葉を話し終えると、中のゆっくりも理解したようで、大声で騒ぎ始める。
「いやだーーー!! ゆっぐりさぜでーーー!!!」
「ゆぐりじだいよーーー!!」
「どうじでーーー!!!」
帽子が取れようが、髪がボサボサになろうが関係なく暴れまわる。
「だまれ!!」
「ゆびゃ!!」
「あああ!!!!」
必要なのは中身なので外見は関係ないのだ。
中が黙った事を確認すると、そのまま加工場へと足を進めた。
――
子供達が出て行って直ぐに、お母さん魔理沙の所に男がやって来た。
「こんにちは」
「ゆ? おにーさんはゆっくりできるひと?」
お母さんと赤ちゃん魔理沙が、大きなクリクリした目で男を見つめてくる。
「ううん。できないひとだよ」
「ゆ?」
「子供達は皆処分したから、最後に君達を処分しに来たんだよ」
言うが早いか、むんずとあかちゃん達を取り出し、物凄い勢いで入り口を塞いでいく男。
「それじゃあ、君はそこでゆっくりしんでね!!」
あっという間に打ち付けた男は、中に居るお母さん魔理沙に呟くと、赤ちゃん達を残してそのままもと来た道を戻っていった。
「あああーーーー!! まりざのこどもたちがーーー!!! どうじでーーー!!!」
「ゆ?」
「ゆ?」
中では、自分の子供達の末路を知った母親の声。
外では、自分達に何が起こったのか理解できていない赤ちゃん達の声。
「あああーーー!! !! ぞうだ!! あがじゃん!! あがじゃんはぞごにいるの!!!」
「ゆ? いりゅよ!!」
「ゆっくりいりゅよ!!」
「おがあさんはここからでられないの!!! ぱちゅりーーをよんできてね!!」
「ゆ!! わかっちゃ~♪」
「ゆっきゅりまってちぇね!!」
これで助かった。
お母さん魔理沙はそう思った。
パチュリーがきてくれればここから出られる。
そうすれば残った赤ちゃん達で子供達の敵が討てる。
そう思うと、気が楽になってきたお母さん魔理沙は、乱雑に積み上げられていた食べ物に駆け寄って咀嚼し始めた。
「う~むっしゃむっしゃ♪」
赤ちゃん霊夢がパチュリーの所から帰ってくるまで数日かかるかもしれない。
でも、こんなに食べ物があるなら大丈夫。
「むっしゃ。これうめぇ!! しあわせ~~~♪」
食べ物の中に埋もれて、お母さん魔理沙は至福の時間を味わっていた。
――
「ゆっくりいこーにぇ!!」
「ゆ~~~♪」
「あちゅいね~~」
「ゆ~~!! あそこのきのしたはしゅずしようだよ!!」
「ゆ!! ほんとうだ!!」
「ここをまりしゃたちのお~ちにしようね!!」
「まりしゃたいなにしてちゃんだっけ?」
「しりゃない♪」
「「「「「ゆっくりしていってね!!!」」」」」
――
「むきゅ!! こどもたちおそいねー」
「ゆ!! きっとかわいいありすとぱちゅりーのこどもたちだから、あちこちからひっぱりだこなのよ!!!」
ここはパチュリーとアリスの家。
同じように、子供達に狩りをさせていたのだが帰ってこない。
「こんにちは、ゆっくりしているかい?」
「「!!!」」
代わりに入ってきたのは人間の男。
先ほどの言葉とは裏腹に、当然のように二匹は男を警戒し始める。
「むきゅ!! おじさんなにかよう?」
「ここはぱちゅりーとまりさのおーちだよ!! なにかようなの?」
「そんなに警戒するなよ。おじさんはお菓子を持ってきただけだよ」
「うそだよ!! にんげんはうそをつくんだよ!!」
「むっきゅーーー!!! むぎゅ? ぎゅーーーー!!!」
「そうかい。残念だよ」
パチュリーを勢い良く踏み潰す。
「ああああ!! ぱじゅりーー!! おじざん!! なんでごんなごとするのーー!!!」
「だって、人間を疑るような悪いゆっくりは駆除しないとね」
そう言って、残っている足でアリスも踏みつける。
「ぶじゃ!! あああ!!!」
「ああそうだ、子供達も皆加工場に持って行ったよ。数が多かったから、潰して押し込めて運んでいったけど、さすが饅頭だね!!」
「む……ぎゅーー!!」
「どうじでーー!! ありずのごどもだじ……が!!」
「ああそうだ、最近ゆっくりの子供達に食べ物を物乞いさせる行為が流行ってたけど、それって君たちが考えたの? 正直に答えてね」
喋りやすいように一旦足の力を弱める。
「むじゅ!! ぞうです!! ぱちゅりーたちがかんがえましたーー!!」
「しょうじきにいいましたーー!! だからゆるじでーー!!」
「ご苦労さん。じゃあ死んでね♪」
「なんでーーー!!」
「むっじゅーーーー!!!」
それが、この森に住むお母さん達の最初の断末魔だった。
それから数日後、例の魔理沙の巣の中でも同様の叫び声が被疑機わたっていた。
「ゆーー!! ぐざいーー!!」
最後に男が持たせた中に、生きの悪い魚が入っていた。
沢山の野菜くずで見えなかったのだが、今になって漸くお目見えしたのだ。
奇しくも夏真っ盛りのこの時期、全ての食べ物を巻き込み、オドロオドロしい匂いを撒き散らせながら、魔理沙を餓死へと追いやっていく。
「うぐーーどうじでーー!! なんでーーー!! だべものはどごにいっじゃっだのーー!!!」
これから数日間、この中で空腹に耐えながら、やがて自分もこの中に仲間入りする事だろう。
「あがじゃんーー!! はやぐもどっでぎでーーー!!!!!!」
――
人々が、共同で仕返しをした後の事。
その後の生活は今まで通りだった。
既に森には、赤ちゃんゆっくりしかいない。
「ゆっゆ~~♪」
「ゆ!! おやさいがいっぱいあるりょ!!」
「ゆ? はいりゃにゃいよ!!」
「「「「ゆっぐりじだがっだーーーー!!!!!」」」」
先代が残したシステムを覚えているゆっくりなど居るはずもなく、そうで出掛かり駆除され、巣を知られて駆除させ、他のゆっくりに巣を乗っ取られる。
そこの森にでもある光景がそこにも有った。
やがて、赤ちゃん達が育てば、今まで通りのゆっくり一家が沢山できることだろう。
最終更新:2022年05月03日 17:28