*警告*

  • 現代ものです。
  • ゆっくりは何も悪いことをしていませんが、ゆっくりできません。

↓以下本文


 環境問題用語に、"3R"という言葉がある。"Recycle"、"Reuse"、そして"Reimu"である。
 "Recycle"は、不要品を捨てるのではなく、分別し、回収し、素材にしたり、あるいは
燃料にしたりと、再資源化するというもの。
 "Reuse"は、不要品を捨てるのではなく、再利用する、というもの。要はおニューの古
着、中古ゲーム、古本、OA用紙の両面出力のたぐいである。
 "Reimu"は、不要品でもリサイクルもリユースも困難なものを減容し、無害化し、安定
化させる画期的な処分法である。焼却しないので熱も出なければ大気中に有害物質を発生
させることもなく、埋め立てでもないので土壌や水質を汚染することもない。

「むーしゃ! むーしゃ! しあわせー! ゆっくりしていってね!」

 "Reimu"には文字通りゆっくりれいむが使用される。加工場で処理用に加工された大型
れいむのお口は裂ける限界まで金枠で拡げられ、アタッチメントで接続された筒から廃棄
物が詰め込まれていく。

「むーしゃ! むーしゃ! しあわせー! ゆっくりしていってね!」

 ゆっくりは口にしたものを、むーしゃむーしゃしあわせー! することで中身に変換す
る。しかし、廃棄物を押し込むたびに口を閉じさせ、むーしゃむーしゃを待っていては、
非効率的にも程がある。

「ゆ゙っ! ゆ゙ぐっ! ま゙ず、い゙よ゙! も゙っ、だべ……ら゙べな゙っ!」
「むーしゃ! むーしゃ! しあわせー! ゆっくりしていってね!」

 それならば、ゆっくりと同じ周波数の言葉をスピーカーで聞かせることで、むーしゃ
むーしゃしあわせー、したと思いこませればよい。実際には発声していなくとも、中身の
あんこはむーしゃむーしゃしあわせー、したと思って、お口から詰め込まれた廃棄物をあ
んこに変換することができる。これにより、時間/れいむあたりの廃棄物処理量は飛躍的
に向上した。
 食品ですらない異物の味がどれほどゆっくりできなくとも、れいむは涙もよだれも流さ
ない。処理施設を汚さないよう、余計な砂糖水を流さないように加工されているから。

「ゆ゙げえ゙ぇ゙! ゆ゙っぐぢ、じでね゙! ぐるぢ、ゆぐっ!」
「むーしゃ! むーしゃ! しあわせー! ゆっくりしていってね!」

 はち切れそうなほどのあんこで丸々と肥えたれいむは、圧迫感に寒天の目玉を飛びださ
んばかりにひん剥いて痙攣する。お口には筒がはまり込み、床は冷たくて硬くてゆっくり
できない。
 ゆっくりは食事が足りていても、ゆっくりできなくては干からびて永遠にゆっくりして
しまう。しかし、少量の廃棄物をあんこに変換しただけですぐ次のれいむと交換していて
は、非効率的にも程がある。

「ゆ゙っぐぢ! じでい゙っでね゙! ゆ゙っぐぢ! ぢだい! よ゙!」
「むーしゃ! むーしゃ! しあわせー! ゆっくりしていってね!」

 それならば、ゆっくりと同じ周波数の言葉をスピーカーで聞かせることで、ゆっくりし
たと思いこませればよい。たとえどれほどゆっくりできない状態におかれようとも、ゆっ
くりはこの言葉さえあればゆっくりできる。加えてオレンジジュースの注入と併用するこ
とにより、処理用れいむの寿命は飛躍的に伸びた。

「も゙……ど……ゆ゙……ぐり゙……ぢだが……」
「むーしゃ! むーしゃ! しあわせー! ゆっくりしていってね!」

 ふしぎなおまんじゅうとはいえ、ゆっくりにも限度はある。永遠にゆっくりし、廃棄物
をあんこに変換できなくなったれいむは処理ラインから外され、次の処理用れいむが筒に
接続され、詰め込まれる廃棄物を無害なあんこに変換する。処理用れいむのお口は、規格
統一された口金で、開いたままに固定されており、カートリッヂ方式にすることでゆっく
り交換にかかる手間が削減されている。ゆっくりが筒を吐き出さないように接続するのに、
かつては熟練の作業員の手が必要であったが、今や筒と口金をあわせるだけ。
 永遠にゆっくりしたれいむは不要物などではない。よく言われるが、ゆっくりはゴミな
どでは決してない。ゆっくりは貴重な資源である。廃棄物を処理し続けたれいむはバイオ
エタノールの原料としてリサイクルされる。
 二十四時間三百六十五日、人類の営みのある限り、処分場に休みはない。そして、処分
場かられいむたちの歓喜の声が途切れることもない。



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最終更新:2022年05月03日 19:00