※途中までほのぼのちっく、エセ愛で展開です。エセね。
 ぶっちゃけ虐め要素そんななし、且つ超展開です。
 それでもいいよ!って方はお進みください。


青い空



「あー・・・・・」

手足を投げ出して草の上に転がる。頬をなでる涼やかな風が心地いい。
視線の先では小さな雲達が群れを為すように寄り添って流れていく。何とも絵に書いたような秋空である。

「ゆっくりしていってね!」
「ん? おお、ゆっくりしていってね。」

男が首から上を向けると1匹のゆっくりれいむがいた。手の平サイズという大きさからして子ゆっくりだろう。

「おにいさん、なにしてるの?」
「んー、空を見てんだ。」
「それってゆっくりできるの?」
「おー、ゆっくりできるぞー。」

どれと一声かけると、男はれいむを掴んで自分の腹の上に置いてやった。

「ゆゆー!!ぽふぽふしててきもちいーよ!」
「そりゃ良かった。」

そう言いながら指先で頭をコリコリと描いてやる。れいむは目を細めて何とも心地よさそうだ。
そうして男は話し始める。

「別に意味は無いんだけどな、なんとなーく空を見たくなったんだよ。だらーっと転がって、ただぼーっと。
 小さい頃はよくやってたんだけどデカくなるにつれて段々しなくなってなぁ。だが今日の空を見てるとふっとな。」

れいむは男の言葉にゆー?と疑問交じりの相槌を返す。男は苦笑しながら続ける。

「まぁなんだ。土や草の匂い、秋めいた風、流れる雲、何となくこういうの見ながら昼寝でもしようかってな。
 お前らのいうゆっくりってのに昼寝は入ってないのか?」
「ゆゆ!おひるねは とっても ゆっくりできるよ!!」
「だろ?つまりそういうことだ。わかったか?」

れいむはゆっへん!と顎を張ってふんぞり返り、その拍子に男の腹の上から転げ落ちそうになり慌てて服の端に食いつく。
男は笑いながらすくってやると、もにもにと揉みながられいむを戻してやった。

「そういやさ、ちっこい頃って空を見上げてると空に落ちそうって恐くなったことがあったんだよな。」
「ゆぅ?おそらにはおちないよ?」
「いやまぁそうなんだけどさ。空の真ん中っていうの? 一番青い所をジッと見てるとさ、ふわ!っと体が浮いて延々と落ちていく様な
 感覚になるわけよ。大人になってからは無くっちゃったどさ。お前ならわかるんじゃないか?」

そうしてホレと言ってれいむの顔を空に向けてやる。

「ゆゆ? なんともないよ! おにいさんはこわがりなんだね!!」
「もっと良く見てみろって。じーっと見つめ続けるんだ。」

ゆーゆーと笑うれいむに更に空を仰がせる。

「ゆー・・・? なんだかふわふわしてきたよ?」
「お、お前も大分わかってきたな。」

段々とれいむの笑顔に影が差し始める。変わりにその表情からは焦りと恐怖が伺える。

「ゆ・・・? ゆ・・・!! おにいさん!! おそらにすいこまれるよ!! はやくにげようよ!!」
「ははは、お兄さんは大きいから平気なんだ。それよりこの手を離すとれいむはどうなるのかな?」
「ゆっくりはなさないでね!? おねがいだからはなさないでね!?」

あっという間に洗脳されたれいむは、身を包む男の手が緩む度にひぃひぃ言いながら体をこすり付けている。
その顔は必死そのもので、男が彼女と大地を結ぶ命綱とでも言わんばかりだ。
そうしてとっぷりと日が暮れるまで、男はれいむをからかって過ごした。

「ゆぅ・・・おにいさん、ひどいよ・・・」
「ははは、いやスマン。ちと脅かしすぎたか。」

そう言いながら男は木の根元でれいむを放してやる。プクーと膨れてはいるが心底怒っているのではなくおどけ半分といった所だ。
そうして男はれいむと別れた。その後れいむは遅くまで遊んでいたことを両親にこってりと絞られたのだった。


その夜、彼女は今日人間に聞いた話を語って聞かせた。
その内容は件の空に落ちていくというもので、これには両親も姉妹も笑って応えた。
だが当のれいむだけは心底恐怖したと言わんばかりに、家族をじぃっと睨みつけるとそそくさと床に着いたのであった。

翌日、この日もカラリとした心地よい秋晴れの日だった。

「それじゃあみんな、ゆっくりじゅんびしてね! ごはんをあつめにいくよ!」
「「「ゆっくりじゅんびするよ!!」」」

今日は一家総出の食料調達である。来たる冬に備えるべく、秋の恵みをたんまりと御馳走になろうと言うのだ。
子ゆっくりは元より、親ゆっくりもニコニコとまるで遠足気分である。ただそんな中、あのれいむだけは浮かない顔をしていた。

「ゆ? れいむ どうしたの? おそとにでかける じゅんびをしてね!」
「ゆぅ・・・いきたくない」
「だめだよ! ごはんあつめないと ゆっくりできなくなっちゃうよ!」
「やだ!! おそとにでると おそらにおちちゃう!!」
「なにいってるの? いいこだからいうこときいてね!」

そういうと母れいむは泣き叫ぶ子れいむを咥えて無理矢理巣の外に顔を出す。咥えられたれいむはゆぎゃぁ!!と大げさな悲鳴をあげる。
この子れいむの慌てぶりに他の姉妹達にも動揺が走る。だがそこで空かさず母れいむが語りかける。

「ゆっくりきいてね! れいむたちは おそらになんかおちないよ! ほら、ぜんぜんへいきでしょ?」
「ゆぎゃああああ!! おうちかえるううう!! ゆっぐじでぎないいいいいい!!!」
「ゆう・・・ばかなこといわないでね!! ほかのこたちもこまってるでしょ!? いいかげんにしてね!!」
「ばかじゃないもん!! ぞんなごどいわないで おぞらみでよおおぉぉぉ!!!」

振り子のようにブンブンと体を揺らす子れいむに促され、渋々空を仰ぐ母れいむと父まりさ、更にそれに釣られる姉妹達。
そこに広がるのは澄んだ綺麗な空である。今日も美しいそれは、見るものの心に一陣の風を吹かせんばかりの清清しさである。

「なんともないよ? これでいいでしょ? まんぞくしたらはやく」
「もっどぢゃんどみでよ!! ゆっぐりみでよおおおぉぉぉぉぉ!!!」

母れいむの言葉を遮り更に叫ぶ子れいむ。
いい加減我慢の限界も近づいていたが、まぁまぁと諭す父まりさと怯えた姉妹の顔を見て、もうしばし空を仰ぐこととなった。

1分・・・2分・・・
こうして5分もする頃には顎もすっかり疲れはて、父まりさや姉妹達にもうんざりとした空気が流れ始めた。
そうしたころ、姉妹の1匹が叫び声を上げた。

「・・・ゆゆゆゆ!? あぶないよ!! ふわふわして おそらにおちちゃうよ!!」

どよどよと一気に広がる動揺、これを幕切りに姉妹達に一気にパニックが感染していく。

「いぎゃああああ!! ふわふわじだぐないいいいぃぃぃ!!!」
「おぢる!! おぢるううううぅぅぅ!!!」
「いやだあああぁぁぁ!! すいこまれるううううぅぅ!!!」
「おちびちゃんたち しっかりしてね!! なんとともないからね!!」

急に火の点いたように泣き叫ぶ子供達を必死になだめすかす母れいむ、だが健闘虚しく悲鳴は大きくなるばかりである。
そんなおり、母れいむの耳に父れいむ声が飛び込んだ。

「れいむ・・・」
「なに!? まりさもゆっくりしてないで こどもたちになにかいってね!!」
「だめだよ・・・はやくおうちかえろう・・・」
「ゆぅ? なにいってるの? いってるいみが」
「はやくおうちにはいるの!! はいらないとすいこまれちゃううううぅぅぅ!!!」
「まりさまで なにいってるのおおおおぉぉぉぉ!!!??」
「よくおそらをみてよ!! こんなところでゆっくりしてると たかいたかいところまでおちちゃうよ!!」
「ゆゆゆゆゆゆゆゆゆ!!!??」

そうしてグイと空に顔を向けられる母れいむ、その耳元では父れいむが呪詛のように言葉を流し続ける。

そら・・・おちる・・・すいこまれる・・・たかい・・・こわい・・・・・・・・ゆっくりできない!!

「ゆっくりできないよ!!」

遂には母れいむまで洗脳され、一家全員大慌ててで巣の中へと踵返しをはじめた。
こうしてこの日より一家は青空を、ひいては日の光さえ恐れるようになり、巣の奥底の薄暗い部屋で過ごす日々が始まった。
そうして3日も過ぎた頃、心配した近所のぱちゅりーが一家の巣へと様子を伺いに訪れた。

「むきゅー、さいきんおそとにでてないようだけどどうしたの?」
「ゆぅぅぅ・・・ぱちゅりー・・・?」
「むきゅ!? そんなにやせてどうしたの!? いったいなにがあったのよ!?」
「ゆぅん・・・じつはね・・・」

そうして事の経緯を話し始める母れいむ、その話の内容にぱちゅりーは心底呆れた。
そうして一家に激を飛ばすことにした。

「ばかなこといってないでおそとにでなさい!! いつまでもゆっくりしていたらふゆがきてしまうわよ!!」
「いーやーだー!!」
「ふゆになるとたべものがなくなるのよ!? いまでさえこんなさまなのに、いったいどうするのよ!!」
「うるさい!! おばかなぱちゅりーには おそらのこわさがわからないんだよ!!」
「おばかとはなによ!! このままだとほんとうにしんでしまうのよ!!」

そうして睨みあう2匹、互いに譲る気はないらしい。
そうしてこの緊張を打ち砕くように父まりさが言葉を挟む。

「だったらぱちゅりーも おそらをよくみるといいよ・・・そうすればわかるだろうから・・・」
「「・・・・・・・・・ふん!!」」

そうして3匹は巣の前へと出てきた、夫婦はどことなく落ち着かないというかオドオドしている。
大しておぱちゅりーは威風堂々と顎を張り、なんともないじゃないと声高に叫びを上げている。
そんなぱちゅりーを両脇から押さえ込み天を仰がせると、2匹揃ってお馴染みの呪詛を詠み上げ始める。

そら・・・たかい・・・ふわふわ・・・あぶない・・・
「むきゅん!! なにふざけてるのよ!! そんなことよりごはんをあつめるのよ!!」
そら・・・おちる・・・すいこまれる・・・ゆれる・・・
「ば、ばかなこといわないではなしなさい!! いいかげんつかれてきたわよ!!」
そら・・・おちる・・・すいこまれる・・・・・・・・ゆっくりできない
「む、むきゃああああああああああ!!!??」

そうして遂にぱちゅりーが悲鳴を上げ始める、どうやら生クリームが限界に達したらしい。

「ぱちゅりーにもわかったでしょ? おそらはあぶないんだよ・・・」
「まりさたちはもうおうちにかえるね、これいじょうここにいると すいこまれちゃうから・・・」

それだけ言うと夫婦は巣の奥底へと静かに消えていった。
それからしばらくして、我に帰ったぱちゅりーは大慌てで元来た道を一目散で駆け始めた。

そしてこの日より、森のゆっくり達に晴れの日中は危ないという噂が流れ始める。
晴れの日は空に吸い込まれる、きっと太陽が連れて行って食べてしまうのだ。だから曇りの日や夜間以外の外出は控えないといけない。
噂は広がるうちに背びれ尾ひれがどんどんと付きまとい、いつの間にやらこのようなルールが出来上がっていった。

それから数週間後、1人の男が森の中を歩いていた。その背には籠が負われており、その中には木の実や茸が鎮座していた。
男は思っていた、何やら森が馬鹿に静かであると。別段変わった様子はないのだが、自分の気付かぬ所で何かが起こっているような、
そんな何とも言えないむず痒さを感じていた。そんなおり、男は痒みの原因を知ることになる。

「ゆー・・・・・・ゆー・・・・・・」

どこからともなく聞こえてくる声、それは実に弱弱しいものだった。
耳を澄まし、辺りに注意を張らせる。そうしてやると、どうやら声の主は木の根元に居るらしいことがわかった。

「はて・・・この木は・・・?」

何やら見覚えのある木の根元、そこにぽっかりと開いた穴から声はかすれがすれ漏れ出している。
ぐんっと顔を覗き込ませると、そこにはシワシワにくたびれた饅頭が1個転がっていた。

「おい、お前大丈夫か?」
「ゆー・・・?おそらのおにいさん・・・」
「お空?・・・そうか、お前あの時のれいむか!!一体何があったんだ?」

男はくたびれたれいむ優しく支えながら、事の顛末を聞きだそうと試みる。

「みんな・・・ゆっくりできなくなっちゃった・・・ごはん・・・ないから・・・」
「ご飯?木の実や茸が沢山あるだろうに、それを食べればいいだろう?」
「はれてたから・・・よるはれみりゃが・・・たいように・・・たべられる・・・」
「晴れ?太陽?食われる?」

男にはれいむの話の内容が理解出来なかった。変わりに、ただとにかく目の前のれいむを救うことだけを考えることにした。

「よし、取敢えず俺のうちに行こう。そこなら薬もご飯も用意出来る。」
「ゆー・・・おにいさん・・・あり・・・が・・・とう・・・」
「なに、これも何かの縁だ。」

そうしてれいむを乗せた手をゆっくりゆっくりと引き抜いていく。
生という希望に今一度辿り着いたれいむは、痛々しいその顔に満面の笑みを浮かべている。
そうして巣から出て口を開く。心からの感謝を力一杯叫ばんとしている。
その時れいむの瞳には男の肩越しに太陽が映った。

そうしてれいむの口から放たれたのは言葉でなく餡子であった。



終わり

作者・ムクドリ(・ω・)の人



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2022年05月03日 21:41