日がな一日畑を耕し、汗まみれ泥まみれになりながらやっとの思いでその日の仕事を終え、家に帰ってきた俺を迎えたのはどこまでも能天気なクソむかつく声だった。
「うっめこれめっさうっめ!」
「むーしゃ! むーしゃ!」
「しあわせ~♪」
「ゆっくりしていってね!」
「ゆっくりできるよ!」
ゆっくりだ。最近になって幻想郷に現れた謎の物体。
妖怪なのか動物なのか、そもそも生き物なのかさえ不明な奴らである。
下膨れの生首、或いは人の顔がついた土饅頭といった風体のゆっくり共にはいくつかの種が確認されているが、そのどれもに共通するのが、

  • 田畑や蔵を食い荒らす
  • 他人の家を乗っ取り自分の家にしようとする
  • 人語を解し、果てしなく傲慢且つ自己中

といった点。むかっ腹が立つ事この上ない。
ちょっと前にゆっくりに台所を襲われた友人曰く、
「ありゃあ本気でブチ殺したくなる。いや殺したし。あれを手懐けてる輩がいるらしいが……正気の沙汰とは思えんね」
らしい。
俺はそん時ゃ話半分に同情してやってたが、まさかその不幸が自分の身にかかってくるたぁ思いもよらなんだ。
実際、鍵がかかってたってのにどうやってうちに侵入したんだこいつら?……と思ったら居間の硝子戸が割られてやがる!
飛び散った硝子の破片と、その中央にでんと鎮座する握り拳大の石。
なるほど、こいつを咥えるか投げるかして硝子に叩きつけ割った、と。小賢しい知恵回すじゃねぇかコラ。
台所で好き放題かましてやがるゆっくりは全部で8匹。
黒い帽子と赤いリボンの、えーと何て言ったか、『まりさ』と『れいむ』種だったか? そいつらがぶよぶよと跳ねたり転がったりしてる。
でけぇ赤と黒がそれぞれ一匹ずついるが、おそらくこいつらが親だろう。
子供達を見守りながらにこにこと野菜を貪り……
「って俺の野菜ぃいいいぃぃぃいいぃいぃ!?」
今更ながらに俺は事の重さを把握した。
ちょっと待てその野菜は俺が丹精込めて作った獲れたての……!
俺の絶叫でゆっくり共はようやく俺に気付いたらしい。
「ゆっ? おじさんだれ?」
「ここはれいむとまりさのおうちだよ!」
「おじさんはゆっくりでていってね!」
「でていってね!」
ぽいんぽいんと跳ねながらクソ饅頭がのたまう。
挑発的な目線と、微妙にひん曲がった口元が俺の神経をさらに逆撫でする。
「っざけた事抜かしてんじゃねぇぞ! ここは俺の家だ!」
「ちがうよ! まりさがみつけたおうちだよ!」
「うそつきはどろぼうのはじまりだよ!」
「いいからおじさんはゆっくりさっさとでていってね!」
「でていかないならごはんをよこしてね!」
「てめぇらが食ってる野菜が俺の飯だぁぁぁぁぁぁっ!!」
おお、友よ。
あん時は適当に相槌打ってて本当にすまなかった。
なんなんだこの図々しいを通り越して無謀なまでの傍若無人っぷりは!?
人が汗水たらして収穫した野菜や果物をあっという間に食い尽くした挙句、家主の俺に出て行けと?
「鍵かかってた家の戸をぶち破って侵入してきやがって勝手な事言うんじゃねぇこのクソ饅頭がっ!」
「あかなかったかられいむががんばってあけたよ!」
「おかあさんはえらいね!」
「えらいからゆっくりしていいよ!」
「おじさんはうるさいからゆっくりしないでね!」
「だぁぁかぁぁらぁぁ話を聞けてめぇらぁっ!」
この時点で俺の堪忍袋はかなりヤバい音を立てていた。
だってそうだろう? ここまで酷い言い草なんて聞いたことあるか?
もしかしたら、こいつらが人語を話せなかったらまだもう少しは冷静でいられたかもしれない。
例えばこれが鼠の害だったら、俺もぶちぶち文句を言いながら鼠をたたっ殺す程度だっただろう。
だがしかし、愚鈍な生き物に言葉で罵倒されるってのは本気で殺意を覚えるもんだ。
畜生と人間の境界ってのは、やっぱり言語なんだなあと変なところで冷静な俺が分析していたりする。
一番手近な場所にいた小さい黒を片手でつかみ上げる。
俺の手には少々余るサイズだったが、ゆっくりの身体は見た目どおり柔らかく弾力があるので指が食い込み落ちる事は無かった。
「ゆ゛う゛っ!」
「おいクソ饅頭。てめぇらがこの家を見つけたのはいつだ?」
「なにするのおじさん!」
「まりさをはなしてね!」
「らんぼうものはゆっくりできないよ!」
「うっせぇ! ココを見つけたのはいつだって聞いてんだよ、答えろ!!」
俺の剣幕に気圧されたのか、今まで余裕が見えたクソ饅頭共に僅かな怯えの色が走った。
俺がつかみ上げた一匹を残し、じりじりと俺から離れる小饅頭を庇うように、親まりさとやらが俺と子の間に入る。
「このおうちはまりさがさっきみつけたんだよ!」
「ああそうか。俺はもう何日も何ヶ月も何年も前からここに住んでるんだ。分かったら出てけ」
「おじさんはいなかったよ! だからここはまりさとれいむのおうちだよ!」
「畑に仕事しに行ってたんだ。てめぇは俺のいない間に俺の家を盗もうとしてんだよ。分かったら出てけ」
「でていかないよ! いまはもうまりさとれいむのおうちだからでていかないよ!」
「…………」
「まりさがみつけたものはまりさのものだよ!」
「むしろおじさんがでていってね!」
「ゆっくりでていってね!」
「はや゛くはな゛しでね゛っ!」
「ゆっくりおいだすよ!」
「ゆっゆっゆっ!」
「ゆーーーーーーっ!」
「つかんでるまりさはおいていってね!」
親まりさの毅然とした態度に触発されたのか、親れいむはもとより一時は怯んだかに見えた子まりさ、子れいむまでもが、次第に色めきだち俺を追い出そうとし始めた。
俺の服の裾に噛み付いたり、体当たりで押しのけようとしたり。
俺が沈黙しているのをいい事に、再びやかましく跳ね回りだすクソ饅頭。
手の中の子まりさも、なんとか逃れようとぷるんぷるん身体を震わせている。


うん、もういいよね。
俺、こんなゴミクズ相手に頑張って我慢したよね。


堪忍袋の緒が切れる音っていうのを、俺は初めて耳にした。
あれって本当に音が鳴るのな。てっきり諺だけの話かと思っていたぜ。
下を見ると、俺の足元にぺちぺちとぶつかりながら、子れいむがなにやらわめいている。
「いいかげんにしないとゆっくりしなせるよ!」
「ゆっくりしね!」
「ゆっくりしね!」
「ゆっーくり! ゆっーくり!」
ほう、死なすときたか。
殺す気で襲い掛かって来られたんなら、死ぬ気で抵抗しないといかんよナァ?
俺の腕にみしり、と力が篭る。
自慢じゃないが腕っ節には多少の自信がある。こちとら重い農具を毎日抱えて振り回してんだ。
算盤振るだけの商人や筆と紙しか持ったことのない書生とかの細腕じゃこうはいかねぇ。
俺の変化をダイレクトに感じた、掴まれている子まりさがびくり、と反応した。
「ゆ゛!? あ゛、あ゛、お゛かあ゛さん゛だす」
やっぱり自分の身に起きる不幸ってのは分かるもんなのかね。残念ながら分かったところでどうやっても回避不可能な不幸だとしても。
俺は水平に突き出していた腕を大きく上段に振りかぶり――――力一杯土間の床へと子まりさを叩き付けた。
勿論足元に群れているゴミクズにはぶつからないようにだ。ヘタにぶち当てたりしちまったら、この先の楽しみが減っちまう。
べちゃーん! と見たまんまな汚ぇ音を立てて、子まりさは床に中身をぶちまけた。
叩き付けてから俺は自分の失策に舌打ちする。
まずい、顔から地面に当てちまった。これじゃあ断末魔の表情が見れねぇじゃねぇか。俺のバカ。
俺の一投は、完全に場を支配した。
叩きつけられた子まりさは丁度体積の半分程を撒き散らし、うつ伏せの形のままびくん、びくんと痙攣している。
何が起きたのか理解できていないのか、ゆっくりの顔にはどんな感情も浮かんでいない。
この場の全ての視線が、無残にひしゃげた子まりさに注がれている。
堰を切ったのは、やはり親ゆっくりだった。
数瞬の後、やっと理解が現実に追いついたようで、
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛!!!」
目を剥き顎が外れん程の勢いで絶叫してくれました。
ああいいね。コレだよコレ。ちょっと溜飲が下がった。
「まりさー!」
「おじさんひどい!」
「なんてことするの!」
「こんなひどいことするおじさんはやっぱりしね!」
「まりさをかえしてね!」
「おまえはしんでね!」
対して子供の方は事ここに来てまだ自分の立場ってもんを理解してないらしい。再び俺への攻撃にもなってない攻撃を開始する。
こういう所もまたゆっくりが疎まれ、憎まれる理由なんだろうなあ。
こいつら言葉が喋れるくせに脳の方は恐ろしいくらいに足りてねぇ。オツムの足りないクソ饅頭が、一端に人間様の言葉喋ってんじゃねぇぞコラ。
人間様の真似事すんならもうちっと知恵つけてからきやがれボケが。
鳴り止まぬブーイングを浴びながら、俺は潰れた饅頭にトドメの踏みつけをくれてやる。
ぶぎゅる、と空気が抜けたような奇妙な音を残し、今度こそ完全にフラット、真っ平らにまでプレスされた子まりさが出来上がった。
そのままねじりこむ様に死骸を床に擦り付ける。念の入った俺の行動に、親れいむが耐え切れなくなったのか叫びながら飛び掛ってきた。
あ、ちょうどいい高さ。えーい回し蹴りっ。
「な゛ん゛でぞんな゛ひどいごどする゛のおお゛おおお゛お゛む゛ぶる゛ゅ゛っ!?」
ただぶん回しただけの俺の蹴りは、見事に親れいむの真芯、つまり顔面を捕らえ壁まで吹っ飛ばした。
しかし蹴り飛ばしたとはいえ加減はしてある。蹴る、というよりクソ饅頭の弾性を利用して足で投げる感覚だ。
この程度ならばダメージはあっても即死まではいかないだろう。
「おかあさん!」
「おかあさんゆっくりだいじょうぶ?」
「おまえのせいでおかあさんがゆっくりできないよ!」
「なんでこんな事するのか、って言ったな」
ぎゃあぎゃあ喚く子ゆっくりと気絶した親れいむを無視し、俺は親まりさを睨みつけて言う。
「それはな、俺がこいつを『見つけた』からだよ」
「ゆ? ゆっくりわからないよ!」
「てめぇはこの家を『見つけた』。だからこの家はてめぇのモンなんだろう?」
「そうだよ! まりさがみつけたからまりさのおうちだよ! おまえのおうちじゃないよ!」
「それと同じさ。俺はここで足元の泥饅頭を『見つけた』。だからこの泥饅頭は俺のモンだ」
「ちがうよ! おまえが『みつけた』からおまえのまりさ……ゆっ? みつけたからおまえはまりさの……ゆっ?」
「要するに『見つけた』モンは好きにしていいんだろーが」
「そうだよ!」
「だから俺が。今この場で。てめぇらクソ饅頭共を。『見つけた』。俺はてめぇらを好きにしていい。ゆーしー?」
「…………ゆ、ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛!」
状況を把握した親まりさは見ていて滑稽な程に青くなった。
ほうほう、青くなるような知恵は持ってんのか。この先何が起きるか推測できると。
やっぱりお父さん(赤いのが母だからこっちは父か?どうでもいいが)は子供達に比べて頭の出来が良いねぇ。所詮は餡子脳だがな!
じゃあとりあえず適当に二、三匹見繕ってブチ殺すとしようか。
一匹目は衝撃的になるよう即死コースでいったが、次のはじっくりと、生きてるのを後悔したくなるように嬲り殺してやる。
「それこそ、『ゆっくりしていってね』ってやつだな」
「ゆゆゆ、ゆっくりしていかないよ! まりさはゆっくりしないよ!」
「おとうさんどうしてゆっくりしていかないの!」
「ゆっくりできないおとうさんはゆっくりじゃないよ!」
「うるさいよ! おまえらはゆっくりしね! まりさはそのあいだにゆっくりにげるよ!」
「ぴぎゅう゛! おどう゛ざんなに゛ずる゛の゛お゛お゛!」
「おまえなんかまりさのあかちゃんじゃないよ! ゆっくりつぶれるよ!」
「おとうさんれいむをつぶしてるよ! ぜんぜんゆっくりしてないよ!」
「おとうさんはばかだよ! ばかはおとうさんじゃないよ!」
「ばがわ゛はや゛ぐれ゛い゛む゛のうえがら゛どいでね゛ぇえ゛!」
何だ、いきなり家族喧嘩始めやがった。
自分が逃げる為に息子達はここで俺の手にかかって死ね、か。
まりさ種のてのはゆっくりの中でも一際自己中且つ狡猾で、てめぇの身可愛さに家族の絆もあっさりと手放すって聞いてたがこれほどとはな。
犬猫でさえ自分の子供を守るのに身を張るってぇのに、こいつときたらまぁ。
他人が大事にしている本を『借りる、ただし私が死ぬまで』というふざけた言い訳で強奪していくという、どこぞの白黒魔法使いにも劣らぬ自分勝手っぷりだ。
このまま醜い家庭崩壊劇を見てるのも一興だが、やはり直接手を下さん事には俺の怒りが納まらん。
俺の存在なんぞすっかり忘れて(ゆっくりってのは一度に複数の物事を覚えておけないらしい)喧々囂々と押し合いしている親子の内、赤い子供と黒い子供を一匹ずつ、先ほどのように掴み上げた。
親の方は放置だ。こいつは後までとっておいた方が面白そうだからな。多少の知恵がある分、いい感じにビビッてくれるだろう。
「こらお前ら、自分を生んでくれたお父さんに何て言い草だ」
「ゆぅっ! おじさんはまりさをはなすといいよ!」
「そういえばおまえははやくしんでね! ゆっくりできないからしんでね!」
「うーん、悪口しか言えない口にはおしおきが必要だなぁ」
相変わらず自分がどんだけ瀬戸際に立たされているかまるで自覚のないチビ饅頭の口の中に、俺は無理矢理親指を突っ込む。
ついでにそのままぐりぐりと中身をかき回してみた。うお、本当に餡子しか詰まってねぇのな。内臓とか無いのにどうやって生きてんだこいつら。
「ぐぎぎぎぎがががぎあいがぎああがいいぐげ」
「ぼがぼばおろあががぎがうがおああっが」
人間で言うなら喉の奥まで拳骨ブチ込まれた感じだろうか?
よくわからん声を上げて子まりさと子れいむがぶるぶると震えだした。
適当なところで指を引き抜き、今度は鞠つきの要領でべしべしと床に弾ませてみる。あまり強くやりすぎると一匹目と同じ末路だから、ここは加減が大事だ。
「ゆ゛っ! ぶっ! べっ! ま゛っ! ろ゛っ!」
「ほーら今度は地面が近いぞ。高速だ頑張れー」
「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
「れ゛い゛む゛の゛お゛ね゛え゛さ゛ん゛はな゛し゛て゛え゛え゛え゛!」
「ま゛り゛さ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
ようやっと周りの子ゆっくりにも俺の意図が読めてきたのだろうか。恐怖に慄いた顔で叫び始めた。
だがここで止める筈が無い。むしろこっからがスタートだ。
このクソ饅頭には、身の程知らずにも人間様の領域に土足でずかずかと踏み込んできた報いってのを思い知らせてやる。
その身にたっぷりと後悔と苦痛と絶望を染み込ませて、な。







「おら起きろクソ饅頭」
俺が手にした蝿叩きで親れいむの横っツラを引っ叩いてやると、親れいむは間の抜けた声を上げて目を覚ました。
「ぶびゃあぶ!?」
「よう、やっと起きたか寝惚すけ。いやいや酷いお母さんもいたもんだな。子供があんなに一生懸命呼んでたってのに」
「……! おまえはれいむのあかちゃんをつぶしたよ! ゆるさないからゆっくりしないでしんでね!」
「は。誰がてめぇ如きの許しなんざいるか。いい加減自分の立場ってのを覚えろこのゴミクズが。てめぇは俺の気まぐれで生かしてもらってんだよ。そこの汚ぇ屑餡と同じにしてやろうか?」
「ゆ゛ぐう゛っ゛!」
そう言って俺はこちらを睨みつける親れいむを蹴り転がし、丁度俺の背中の位置になるようにして親れいむの死角に置かれていた『それ』を見せてやった。
全身あますところなくこんがりと焼き目をつけられた奴。
中身の餡が漏れる限界のところまで表皮を剥いた奴。
オーソドックスに死ぬ寸前まで餡を捻り出してやった奴。
どいつも虫の息だがかろうじて生かしてある。生きてるのは俺がどのくらいまでは死なないのかコツをつかんでから『遊んで』やった後半の三匹だからだ。
残りの奴らは物言わぬただの餡と皮に成り果てたんで、食えそうな部分を残して土に汚れた外側は屑篭に捨てた。
「……ゆ………ゆ゛……」
「だず…………げ…………で……お゛が……」
「…………な゛ん゛で………ご……ん……」
「よし、お母さんが目ぇ覚ますまでよく頑張ったなお前ら。ご褒美にどいつか一匹、お母さんの目の前でぶっ殺してやろう!」
「や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! どうじでごんなごどずるのお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!?」
再び親れいむの絶叫が台所に響く。無論俺はそんな叫びはスルーして、トドメをくれてやるゆっくりを選ぶ。
「お゛ね゛がいや゛めでええ゛え! れ゛い゛む゛のあがぢゃん゛にひどいごどじないでえええ!!」
「ど・れ・に・し・よ・う・か……なっ。んじゃ随分とスリムになっちゃったお前、決定。よかったじゃん、これで楽になれるぞー♪」
「や゛っ゛……ら゛っ゛……あ゛あ゛………ぐ、ぶっ……げぅ゛……」
「やめてやめでやめでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!!」
蝿叩きで瀕死の子れいむを叩き回す俺に、必死でしがみつく親れいむ。
子れいむの方はというと、もう痛みに跳ねる力も無く、でろりでろりとまるで海鼠かなにかのようにだらしなく地面を這いずるのみだ。
親れいむを起こした勢いで引っ叩いたら多分その弾みで逝っちまうなコレは。
じゃあそろそろ息をするのも辛いだろうし、引導を渡してやろう。俺ってば優しいね。
「……ゆ゛、ゆ゛る゛…………」
「す訳ねーだろバーカ」
「あぎゃあ゛あ゛ぁ゛ああああ゛あぁああ゛あ………!」
ぐちゃりゅりゅりゅ。
餡子を絞りつくされて子れいむは絶命した。なるほど、この方法だと最後の最後まで断末魔が聞けるのか。これはいい殺し方かもしれん。
俺がゆっくりだった汚物を屑篭に投げ捨てると、親れいむは涙と涎と汗のようなよく分からん液体を撒き散らしながら屑篭に跳ねていった。
「れいむ゛のあ゛がぢゃん! れ゛いむのあが……ぎいいいいい!?」
まあビビるだろうな。都合ゆっくり五匹分の餡子と皮が、つまりゆっくりから見たら五人分の死骸が詰まってんだから。
それがついさっきまで一緒に広い寝床と美味い飯に喜んでいた家族のモンときたら尚更だ。
「びどいいい゛い゛い!! れ゛い゛むのあがぢゃんがえじでええ! ま゛りざをがえじでええ!! がえじでよお゛お゛おおお゛!!!」
返せ返せとひたすらに繰り返す親れいむ。ふん、こっちはまりさ種と違って家族の情があるのか。
だからと言って情状酌量の余地がある訳じゃない。
まぁ、てめぇのやらかした事の罪と罰を叩き込むにゃ、家族の情が理解できた方が都合がいい。
「じゃあお前も俺の子供返せよ」
「れいむ゛はお゛まえのあがぢゃんなんてじら」
「てめぇの食った野菜が俺の子供だ。俺が長い時間をかけて、それこそ我が子の様に可愛がって育てた俺の息子や娘をてめぇは笑いながら食い殺したんだよ」
俺の言葉に赤饅頭はぐ、と一瞬口を結んだ。やはり『子供を食い殺した』という単語が響いたのだろう。
「……だ、だっで、だっでやざいはれ゛いむ゛のごはん゛、だがら……ゆ゛っぐりだべるよ!」
「ほう。なら『ゆっくりは俺のご飯だからゆっくり食べるよ』」
「だめ゛ええええええ!!」
「じゃぁてめぇは他人の子供を食うが、自分の子供は食わないでくれって言うのか?」
「う゛……あ゛……」
「戯けた事ぬかしてんじゃねぇぞクソ饅頭! 殺される覚悟も無しでよたよたと己の領域を踏み外してんじゃねぇ!!」
己の主張は筋が通らない、と理解したらしい。親れいむは悲壮な顔をしてよろよろと後ずさる。
俺は縄を持ち出して生き残った三匹のゆっくりを縛り上げる。ゆっくりの抵抗なんてあって無きが如しだ。
妖怪の領域に踏み込んだ人間は狂って死ぬか、殺されて食われる。
人間の領域に踏み込んだ獣は牙を折られ飼い慣らされるか、殺されて食われる。
弱者が強者の領域を侵すというのは、そういう事なのだ。
だから人は妖怪を怖れる。獣は人を怖れる。
ゆっくりという物体の最大の汚点。それは畏怖を知らない事だろう。
身の丈に合わぬ欲を持ち、分不相応な態度を改めようともしない。
我等こそ幻想郷の王者だと言わんばかり傲慢さ。
ゆっくりの生態は、何もかもが歪みきっている。
「てめぇら三匹は生かす。だが勘違いするなよ。人間の領域に踏み込んだゆっくりがどうなるのかを知って後悔しろ」
俺は家の中庭に杭を打ちつけ、そこにゆっくりを縛った縄の端をくくりつけた。
生命力と繁殖力だけは高いゆっくりだ。二、三日もすれば元通りになるだろう。それと同時にやつらの餡子でできた脳は俺の言葉もすっきりと忘れるに違いない。
その度に教えてやる。己がいかに愚鈍で惰弱な存在であるかを。
まずは無理矢理繁殖させて、目の前で生まれた子供をぶち殺してやろう。
その後は猟犬に襲わせてみるのもいいかもしれない。
あるいは、今日は手を付けなかった水責めというのも捨て難い。
止め処なく浮かんでくるゆっくりの『教育法』に、俺は暗い笑みを漏らした。


(終)





あれ何この調教フラグ

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最終更新:2022年05月04日 22:17