図書館では、アリスの机に高く積み上げられた本が右から左へ移動していた。
「それじゃあ。私はこれで帰るわ」
そういうと、身なりを正して席を立つ。
「そう。泊まっていても良いのよ?」
「折角だけど、遠慮するわ。また今度誘ってもらえるかしら」
「分かったわ。それじゃあ小悪魔、玄関まで送ってあげて」
「は~い♪」
「むじゅーー……むじゅーーーおえ!! おえーーー!!! ぱじゅり~~のごほんがーーー!!!」
大量の鶯餡を吐きながら、目の前の光景に泣き崩れるぱちゅりぃ。
ここに連れてこられて、毎日同じ光景を味わっているのだ。
ぱちゅりぃの持っていたフリーペパーを紙吹雪にした小悪魔が、凛とした態度でアリスを玄関まで送りとどける。
「むぎゅーーーー!!! おぇ!! うげーーーー……」
ぱちゅりぃの部屋には、まだまだ沢山のフリーペーパーが残っている。
全てなくなった時、ぱちゅりぃはどうなるのか誰も知らない。
知っているのは、目の前を去っていく小悪魔だけだ。
「貴方のあれ、とっても参考になったわ」
「いえ、私なんかまだまだですよ」
玄関までの道すがら、アリスは先ほど見たあれの事感想を小悪魔に話し出した。
小悪魔も、先ほどの嬉々とした表情は何処かしこで、相槌を打っている。
「また、見させて貰っても良いかしら?」
「ええ。どうぞお好きなときに」
「ふふ。その時は事前に人形で連絡させて貰うわ」
他愛のない話をしている内に、目的地である玄関までやってきた。
「それじゃあ、パチュリーに宜しくね」
「はい。……あ、そうだアリスさん」
「ん? 何?」
「あのですね…………」
玄関前で数分、アリスは小悪魔の話に耳を傾ける。
「……そうなの。ふーん。面白いことを聞いたわ。有難うね小悪魔……」
「いえ」
「それじゃあね。……そう、ふふふ、そうなの……へぇ……」
ブツクサと何かを呟きながら、アリスは自分の家がある森へと飛んで行った。
「さてと、戻って紅茶でも……」
「今日は! 薬を持って着ました」
一度屋内へ向けた足を戻す。
そこに居たのは、永遠亭の月兎。
鈴仙・U・因幡。
街に薬を売りにくる時に、度々ここにも訪れる。
「あ。わざわざすみません、受け取りますよ」
「いえいえ。えーと、まずこれが湿布薬にボルタレンテープ。そして風邪薬に栄養剤。それでこれが咲夜さんから頼まれていた薬です」
「中身はなんですか?」
「利尿剤と睡眠薬です」
「そうですか♪」
中身の事になんら反応を示さずに、テキパキと大量の薬の受け渡しをする二人。
鈴仙は小悪魔が目を盗んで咲夜の薬を少しくすねた事には気付いていない様だが。
「と、これで全部です。御代は後ほど持ってきてください」
「分かりました。ご苦労様です」
「いいえ。仕事ですから」
「ですが、大変ですよね? 毎日街まで行くというは」
「最初の頃は大変でしたけど、今は全然。それにストレスの発散法も見つけましたから」
「はぁ。……どんな方法ですか?」
「口うるさい害虫駆除です」
「それなら、こんな話があるんですけど」
「!?」
それまで、テキパキと片付けていた鈴仙の手がぴたりと止まった。
「どんな話なんですか?」
見るものを狂気へ誘うその瞳をカッと見開き、小悪魔に尋ねる。
「あのですね…………」
その目をしっかりと見つめて、小悪魔は話をし始めた。
それを聞いた鈴仙は、嬉々とした表情で永遠亭へ戻っていった。
翌日は快晴。
雲ひとつない青空の下、ある屋敷の庭でゆっくりが叫んでいた。
「ゆーーー!!! おねーーさんはゆっくりできないひとだったんだね!!」
「こんなにかわいいまりさとれいむのあかちゃんなのに!!!!」
目の前で一匹の赤ちゃん霊夢の亡骸を見つめながら、魔理沙と霊夢の夫婦の暴言をじっと聞き続ける少女がいた。
「ゆ!! だまってないでなんとかいってね!!」
「ないてあやまったって、あかちゃんはもどってこないんだよ!!」
「「「「おねーーしゃんをかえちてね!!!」」」」
「…………」
少女は笑っていた。
それも、とてもとても楽しそうに。
「あれ? どうしてそんなこというの?」
「「ゆ!!?」」
少女が顔を上げた事で、二匹の親は始めて以上に気が付いた。
「始めたらゆっくりを潰そうと思って誘ったの♪ だから、何でそんな事いうの?」
「ゆゆゆ!!」
「あわわ!!」
二匹は気付いた。
このままここにいたら殺される。
早く逃げなくちゃ……。
「ゆーー!! おねーーしゃんがなにをいってりゅのか、わかりゃないよ!!!」
「ゆっきゅりまりしゃたちにあやまっちぇね!!!」
「「「「ゆっきゅりあやまっちぇね!!!!」」」」
しかし、生まれて間もない赤ちゃん達にそんな事が分かるはずもなく、現に数匹の赤ちゃん達が少女の所へ向かっていった。
「「ゆゆ!! だめだよ!! にげt」」
「ぶじゃ!!」
「ゆじゅ!!!」
「ぎゃ!!」
全て良い終える前に、玄翁で叩き潰される赤ちゃん。
先ほど同様、奇怪なオブジェに成り果てた。
「あああ!!! れいむのかわいいあがじゃんがーーー!!!」
「どーーじでーーー!!! なんでーーー!!」
「ゆーーー!!!」
漸く本格的に騒がしくなってきた事を確認すると、両親に近づき玄翁を振り下ろす少女。
「ゆぶ!!」
「あが!!!」
傷は体を貫通させていたが、打ちどころが良かったので死亡へは至らない。
「「ゆが!!!」」
その傷に、杭を差し込んで地面に固定した。
後に、両親の目の前で子供達を一匹ずつ潰していく。
「ゆーー!! おかーーしゃんーーたすげてーーー!!」
「お母さん達は助けたくないんだって、だからあそこから動かないの」
「じょんなーーーー!! ゆぶ!!!」
「あーあー。せっかく赤ちゃんが助けてって言っていたのに……」
これ見よがしに両親に語りかける少女、既に片手には新しい赤ちゃん魔理沙を掴んでいる。
「ゆ!! だっで!! うごけないんだよ!!!」
「これがなければすぐにたすけるよ!!!」
両親の苦痛の訴え、しかし少女は手に持っていた魔理沙、そして残された赤ちゃん達にゆっくりとした口調で説明して言った。
「だって皆。おかーさん達は、自分達が痛くなるのが嫌だから、適当な理由を言って助けないんだって」
「ゆ!! ぞんなごといっでn「ひどいよおかーーしゃん!!!」」
「まりしゃたちをたすけてくれないの!!」
「しょんなにょおかーーしゃんじゃないよ!!!」
「ふたりともゆっくりしんでにぇ!!!!」
二匹の訴えは赤ちゃん達の罵声にかき消された。
涙目で訴える二匹の両親に浴びせられ続ける罵声。
「ぶじゅ!!!」
一匹の赤ちゃん魔理沙が潰された事で、漸くその罵声が止んだ。
「心配しなくても大丈夫」
少女が、
「貴方達が死ぬのは、散々罵倒されながら目の前で死んでいく赤ちゃん達の後だから」
まばゆい笑顔で言葉を紡いだ。
全てをオブジェに変えた後、少女は座敷の中へと入っていった。
「すいません。お待たせして」
「いえいえ、急にお邪魔したのは此方ですから」
立派な佇まいの稗田家、その一室に向かい合うのは野暮用の小悪魔と先ほどゆっくりを苛めていた少女、稗田家現当主の稗田阿求その人。
「それで、今回も
ゆっくりについての本の閲覧ですか?」
「いえ、今回はとても面白いお話を持ってきたんです」
「面白い話?」
「ええ。先ほどのことよりもっと面白い事です」
静かなその一室で、阿求の鼓動だけが早くなる。
アレよりももっと楽しい事ができる、それだけで心臓が高鳴るのだ。
「どうすれば良いんですか?!!」
「それはですね。数日後の事なんですが……」
テーブルに手を着いた衝撃で、少しお茶が零れたが、優雅に一口、口に含み小悪魔は説明を始めた。