~注意~
  • 世界観が幻想郷でも現代でもなく、キノの旅的なものになっています。
  • 名無しの癖にキャラが濃ゆい人が出てきます。
  • 虐め描写が少ないのはいつものこと。反省はしています。

以上のことをよく読んで、それでもいいという方のみ以下のSSをお楽しみ下さい。


『発電する国』


とある国でのことだった。
旅人はこの大地を照らす太陽の光よりもはるかに強い光に包まれていた。
それは国内のどこを探しても備え付けられている街灯や、サーチライトなどの光で、真昼だというのにそれらはむやみやたらと張り切っていた。

「究極の無駄遣いとはこのことだね。最近どこの国でもエコが流行っているのに。珍しい国だね」

旅人はその強烈な光に眼をやられないように、門番に貰った国内専用のゴーグルで目を保護していた。
そのゴーグルは旅人だけでなく、国民全員が装着している。
屋外でのゴーグルの着用は法律により定められているらしく、破れば罰金らしい。
もっとも、その法律は破られたことがない。
なぜなら、無謀にもゴーグルなしでこの光を直視しようものなら、眼球を通りこして脳まで焼かれ、死に至るからだ。
旅人はいくら強かろうがたかが光、見ただけで死ぬわけがないと思ったが、実際に死人が出ているらしい。
最早これはただの光ではなく、光を超越したなにかにになっていると門番は言った。
はずしてよいのは風呂に入っている時だけ。寝ぼけて光に無防備のまま外に出てしまうことがあるため、寝る時でさえゴーグルは装着しなければならない。
入国審査の時に会った門番が、それこそ子供に刃物の扱いを教えるように、国内で光を直視することの危険性を説いていたのを旅人は思い出す。

「ならそんなに明るくしなければいいのに」

旅人はやたらと光を反射する素材で作られたベンチに座って、愚痴を漏らした。
旅人が座ったことによりベンチからの反射光が一部さえぎられ、旅人の影を伴った光がベンチから放たれる。
しかしその光の先にあるものは、ベンチと同じで、まるで鏡と見紛うかというくらいに光を反射するもので作られた建物だった。
結局その光は再び跳ね返され、旅人の影はどこにもその存在を残すことなく遥か彼方へ消えていった。

「やれやれ。この国では屋外だと自分の影も見えない。どこにいってもあるのは自己主張の激しい光源か、ノーとしか言えない建物ばかりだ。
これじゃあ売店めぐりもままならない」

旅人は目を瞑り、安らぎを得るために闇を見る。
旅人がそのまま視界という部分のみ世界をシャットアウトして休んでいると、今度は聴覚の部分から世界が浸入してきた。
それも高音で耳に響く、旅人があまり好むものではないものである。旅人は目をつぶったまま眉をしかめた。

「ゆぎぃぃぃぃぃぃぃ!! まぶしいよぉぉぉぉぉぉぉ!! おめめとじてるのにぃぃぃぃぃ!!」

それは恐らく、いや確実に、ゆっくりの悲鳴だった。
それもかなり近くから聞こえる。旅人のいるベンチから4,5メートルくらいだろうか。人が集まっている様子も聞いて取れる。

「私は静かなほうが好きなんだけど。まったく、今日は厄日かもしれない」

旅人は仕方なく再び分断していた世界を元に戻す。
見えるのは、地面に転げまわりながら悲鳴を上げるゆっくりまりさと、それを見ながら意地汚く笑っている白衣の男。それを取り巻く野次馬がちらほら。
旅人もその輪の中に入ってしまっているようだった。
その男は私を気にする様子もなく、暴れている拍子に取れてしまった三角帽子を拾って、まりさの方に投げつけた。
帽子は見事魔理沙に当たって、ゆっくり特有の弾力にはじかれて旅人の足元まで飛んでくる。

「ゆべっ!」
「おい、大事な帽子がとれちゃってるぜ。拾わなくていいのかい。拾わなかったらあんたぁ、いつかきっと後悔するぜ。
なぜなら俺ってばがいま後悔してるからだ。昨日あの一円拾ってたら限定DVD買えたのになぁ……。今日までしか発売しねぇのによぉ……」
「で、でもまぶしくておめめあけらんないんだぜぇぇぇ! おめめとじててたらさがせないんだぜぇぇぇ!
おにいさん、おねがいだからまりさのぐれーとなぼうしとってほしいんだぜぇぇぇ! ゆぐぐ、ま、まぶしいぃぃぃぃぃ!!」

ゆっくりのまぶたが薄っぺらで透光性でもあるのか、それともこの光がゆっくりのまぶたを突き抜けるほどの強さを持っているのかはわからないが、
まりさは完全にまぶたを閉じているにもかかわらず、それでもまぶしいまぶしいとを苦悶の声を吐きながらのた打ち回っている。
旅人は恐らくというか確実に後者だな、と思い、改めて自分にしっかりと忠告をくれた門番に感謝した。

「いやいや、お前は何を言っているんだ。ここはそんなにまぶしくなんてないだろ。ゴーグルのせいかもしれんが。
帽子くらい自分で探してくれ。俺ってば暇をもてあそんでるから、暇じゃないんだよ」
「おにいさんこそなにいってるんだぜ! おめめとじててもこんなにまぶしいのに、とじなかったらもっとまぶしくなるにきまってるんだぜ!
おにいさんはばかだぜ!! そんなことくらいいわれなくてもじぶんでりかいして、さっさとまりさのぼうしをひろうんだぜ!!」
「これだからゆっくりはいかんなぁ。食わず嫌いというか、今回はやらず嫌いか。なんかエロく聞こえるな。思春期だな。
つーわけで一度目をあけてみろって。そんなにまぶしくないから。希望に満ちた光が見えるぞ、きっと。何なら手伝ってやろう」
「な、なにいってるんだぜ!!ゆ、やめっ!ほひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

男が力でまりさの目を強制的に開けさせる。
自然のものとはかけ離れた、極めて人工的な光がまりさの目の中に強引になだれ込んでくる。

「はぁぁぁぁぁっはぁぁぁっぁぁぁ!!」

男の悪意によって入れられた光は、まりさの目を通り越して中身のあんこさえも蹂躙する。
まりさは男の腕の中でしばし暴れていたが、やがてその動きも緩慢になってゆく。しまいには陸に打ち揚げられた魚のように痙攣するだけで、光にも男の言葉にも何の関心も示さなくなった。
男はそれが演技だと思っているのか、何度も殴る、蹴るの暴行を加えていたが、やがて痙攣すらしなくなったので、ようやくその暴行をやめた
野次馬も見世物は終わった、とばかりにまりさから目を離し、一気にその波が引いていった。

「あーあ、壊れちゃったよ。何周りもしたジェンガなみに脆いなぁ。つまんね。
あ、そこの人、わるいけどそこの帽子とってくれね?」

男は旅人に向かってそう呼びかけた。
旅人はまりさのものだった帽子を広い、男に向かって投げた。
帽子はそれに付けられた白のリボンを周囲に見せ付けるようにくるくると回りながら、緩やかに男の元まで飛んでゆく。
男はそれをキャッチし、足元にあるまりさの屍骸に屈みこむ。
なにをするつもりかと旅人が男の行動を見ていると、男はおもむろに、その屍骸を逆さにした三角ぼうの中に詰め込み始めた。
呆気に取られている旅人を見て、男は少し照れたように笑いながら、

「いやねぇ、俺ってば今、袋もしくはそれの代わりとなるものを持っていないのよ。腹も減ってないし。備えないから憂いてるわけよ。
だから仕方なくここにさぁ。わかるっしょ?」
「いや……というより、なんでこんなところにゆっくりがいるかも疑問です。
この国を巡っていても加工場とか、ペットショップとか、そういうゆっくりの類のものは見ませんでした。
まさか野生ってことはないでしょうし」

男は旅人の言葉に一瞬だらしなくぽかんと口を開いていたが、やがてああ、と納得したように手をたたくと、

「お兄さん旅人さんか! それなら知らなくっても当たり前だなぁ、うん。人間は皆無知を知ることから始まるものだからな。
ほいじゃ、俺ってばその疑問を解決させてあげようかな!」
「いや、私は別にそこまで……」
「いーやいや、遠慮は無用よ? 俺ってば闇金の取立て業者並みに心が広いからね!」
「……その例えは明らかに間違っている気がしますが」
「うんうん、素直が一番だな! 俺ってば発電所の職員なもんだから、そこに連れてって説明してあげることにしよう!
百聞は一見に如かずって言う言葉もあるしな! どっちにしろ百聞も俺は説明できないけどな!」
「……もういいです。降参です。ついて行きますよ。やれやれ、最近いいことが全然ない」

男の謎の勢いに押され、旅人は半強制的に男のいう場所へと連れて行かれてしまった。
男は意気揚々と旅人を案内し、途中にあったゴミ箱にあんこの入った帽子をそのまま入れた。
旅人はもったいないなぁ、と思ったが口には出さなかった。
この男には、極力干渉しないほうがいい。旅人の直感がそう告げていた。

「で、流れのままについてきちゃったんですけど、どうして発電所なんですか?」

旅人達がやってきた発電所は、見るものを威圧するほどの大きさと光を放っている。
旅人にとって光はもう慣れっこではあったが、この大きさについてはそうではない。
そこは巨人の家のように大きいくせに、入り口は通常サイズ。そしてその入り口周辺には、怪盗でも発見したかのようにサーチライトで照らされている。

「百聞は一見に如かずだからな! ということは、俺がたかだか旅人さんに二、三聞させたところで一見には遥かに届かず、徒労になること確実!
というわけで俺からの説明はカット。俺ってば大小便は限界を超えて120%まで溜めてから行くくらいの合理主義者だからね! いちいち行っていたら時間の無駄だもんな」
「そうですか。では、中に入らせてもらいますね」
「そうだな! 中に入ったらそのゴーグルは要らんからはずしていいぞ。あそこだけは大丈夫だ。でもゆっくり歩いてくれ。おれ今118%くらいなんだ。小数点以下は切捨てだ」

顔中に脂汗を垂らしながら、男は右手で自分の腹を抑えて左手で旅人の肩を抑える。
旅人はやさしくその手を肩から除けると、

「……勝手に見学していますので、お先にトイレの方へどうぞ」
「すまんな! 119%になったな! では迅速かつ慎重に行ってくる」

男はかなり内股になりながら、もじもじと恥じらいのある乙女のような歩き方でどこかへ行ってしまった。
旅人はようやく変なやつから解放されたと安堵して、発電所内の探索に乗り出した。
外から見たときは異様なまでに巨大な外見を誇っている発電所だったが、受付であるここは看板とかそういう類のものが何もない。
旅人がゴーグルをはずして眺め回してみても、あるのはパソコンに夢中な受付嬢が座っているカウンターと、現在上昇中のエレベーター、それと天井にある外に比べれば随分と内気な照明のみ。
これだけでかい建物だと案内図なしでは迷う人だって出てきそうなものなのだが。
旅人は受付に座りパソコンをいじっている女性に話しかける。

「すみません。発電所の見学に来たものなのですが」
「はい、どうしましたか?どうもしないことを望みますが」

女はパソコンから目を離し,旅人のほうを向いた。
しかしその指はいまだ忙しくカタカタ動きーボードを叩いている。
画面見なくても出来る仕事なのだろうか。仕事中のくせになんて物言いだこの人。
旅人の頭に先ほどの男との時に感じたものと似た不安を女から受け取る。

「実はここにゆっくりに関連するものがあると聞いたのですが、それはどこにあるのでしょうか?」
「旅人様、ここはゆっくり発電所です。ここにゆっくりに関連しないものはありません。ええ、ありませんとも。
そこの通路を真っ直ぐ行けば,ゆっくりが発電するところを御覧になれますよ。それはもうたっぷりジューシーに」
「……はぁ、わかりました。ありがとうございました」
「いえいえ、仕事ですから。残念なことに。仕事ですもの。
どうぞ楽しんでいってくださいね。それこそ流行に踊らされる民衆のように」

女は再びパソコンの画面に目を戻す。旅人が横に回って、女にばれないようにこそリと画面を覗くと、そこには串刺しになって苦しんでいるゆっくりが映っていた。
女が何かボタンを押すたび,そのゆっくりから生える串は増えてゆく。その度に「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」などと中のゆっくりの悲鳴が書いてある吹き出しが出てきて、女がくすりと笑う。
きっと、暇なのだろう。旅人はそう結論付けて、女が言っていた通路の先へ向かった。

「まあ、予想はしてたけどね」

旅人が防音性らしい扉を開けると,そこは地獄だった。もちろんゆっくりにとっての。
鞭を持った人の監視の下で、地面に刺さったハンドルを口でくわえ数匹がかりで回すゆっくり達。
ハムスターが中に入って走るような遊具の、しかし側面はガラスを貼り付けられており出ることは出来なくされたいランニングケージの中に閉じ込められ、必死に飛び跳ねるゆっくり達。
ゆっくりたちが疲れ果てて休めば、

「サボってると飯抜きだぞこらぁ! さっさと働かんかいぃ!」
「もう、うごげ、……ごぶっ」
「言う事きかん子には確実に鞭が飛んでくるぞ! 言うこと聞く子にも気分次第で鞭が飛んでくるぞ!」
「ごべっ、いだいどやべでねぇぇぇぇ!!でいぶはしるからやべでぇぇぇぇ!! ぶべっ」
「ケージの中だからって安心してんじゃねぇぞワレぇ! ケージの中にすでに獲物は仕込んでるんだよぉ! 汚物は消毒だー! ヒャッハー!」
「びやぁぁぁぁぁぁぁ!! あづいぃぃぃぃぃ!」
「動けなくなった役立たずは即効でゴミ箱行きだぞ! わかったらきりきりはたらけぇぇぇい! それこそ動けなくなるまでな! ィヤーハー!」
「もうおうじがえじだいよぉぉぉぉぉぉ!! どぼじでごんなごどじぃぃぃぃぃ!!」

このような、容赦ない罵声が暴力とセットで飛んでくる。そして、それに答えてゆっくりの悲鳴が追加で入ってくる。
これが見渡す限り一面に広がっているのだ。向こうの端のほうはもうかすんで見えない。
旅人は入り口をそっと閉めた。地獄の門は閉ざされ、旅人の周りに静寂が舞い戻る。
ホテルに帰ってゆっくり休もう、そう思って振り返ると、先ほどより随分と晴れやかな顔をした男がいた。

「おう、旅人さん。もういいのか? 俺ってばいまだかつてないほどのすっきりに浸ってるから,いらん事までべらべら説明しちゃうよ?
なんてったって俺の友人の友人はテロ組織の一員だからな!」
「いえ、もう十分です」
「そうかぁ? あ、そういえばあのゆっくりまりさはここから脱走したんよ。結構ここの管理体制甘いからな! そりゃあもう、官僚の身内に対する処罰並にな!
それを俺が目ざとく見つけて、死ぬ程度に虐めてみたわけよ。ここじゃあ死ぬまで虐めるのはご法度だからな。もったいない精神だそうだ。 
ゆっくりを殺す快感を得ないなんて、もったいないことするよなぁあいつら」
「そうですか。じゃあ、私はホテルに戻りますので。今日はありがとうございました」
「感謝されるほどのこともしてないけどな! 謙遜だけどな! それじゃあな、旅人さん!」

力いっぱい手を振り、壁に小指をぶつけて悶絶する男に目もくれず,旅人はさっさと自分の泊まるホテルに帰っていった。



それから三日後。次の旅のために国内ですることはすべてし終えた旅人は、国内の光の届かない城壁の中で出国手続きをしていた。
滞在期間中ほぼずっと付けていたゴーグルをはずし、開放感に浸る旅人に門番が声をかける。

「どうでしたか、そのゴーグルは。付け心地が悪かった、とか暗くて景色が見づらかった,とかありませんでしたか?」
「いえ。旅でゴーグル等は付け慣れているせいかもしれませんけど、特に不快な点はありませんでしたよ。明るさもちょうどよかったと思います」
「そうですか、それはよかった。実は近頃発電所を増設する動きが出てきてるんですよ。ゴーグルの基準が変わるかもしれないので、そのときのために意見を集めているんです。
でもその様子だったら,明度調整くらいで済みますかね」

門番は持っている書類に何かを書き込む。
外と違い、城壁の中は薄暗かったため、旅人には門番がなにを書いたかは見えなかった。

「まだ発電所を増設するんですか? 私にはいまのままでも十分どころか過分だと思うんですけど」
「ははっ、自分もそう思います。恐らく国内の人もそう思っていますよ」

旅人は怪訝な顔をして,門番に問いかける。

「じゃあなんでまだ増やすんですか? しかもあんなゆっくり発電なんて非効率的ですよ。もっといい発電方法なんていくらでもあるでしょうに。
あんなの土地の無駄ですよ」

門番は苦笑いしながら、書き終えた書類を近くに立てかけているポストの中に入れた。
そのポストには大きく『書類入れ』と書いてある。薄暗い部屋だったが字が大きかったため旅人にもはっきりとその文字を見て取ることが出来た。

「言い訳が、ほしいんですよ」
「言い訳、ですか。それはまたなんの」
「そりゃあもちろん、ゆっくりを虐める為のですよ。一応この国の人にも良心はあるんです」
「……私から見れば、虐待派の人と全く同じに見えますが」
「違いますよ。少なくとも国民の心の中では。なぜなら彼らはゆっくりを虐めているのではなく、あれらで発電をしているわけですから。
この国の皆さんは、そういう大義名分がほしいんです。免罪符といってもいいかもしれません。
ゆっくりを虐めて愉しんでいる自分の残虐性を、認めたくはないんでしょうね」
「じゃあ、その発電所増設って言うのも……」
「ええ、言い訳作りの一環ですよ。彼らはゆっくり発電を開発して以降、何かに付けて電力が必要だ必要だと声高に叫びあげました。実際はゆっくりを虐めたいだけなのに。
結果が、ゴーグルがなければ表を歩けないほどの異常な国家ですよ。その光だって実際はゆっくりを呼び寄せるためです。あれは何故か強い光のところに集まってくる。
若い人の中には自分の中にある残虐性を認めて、外聞も気にせず好き勝手やる人も出始めましたがね」

門番は部屋の中央に備え付けられた机に近寄り、その上にある急須を手に取る。
そして二人分お茶を酌んで、その片方を旅人に勧めた。
旅人はありがとうございます、と言って座り、それを受け取る。

「今、いいお茶請けがあるんですよ。旅人さんは甘いもの大丈夫ですか?」
「もちろんです。むしろ好物ですよ」
「それはよかった。今もって来ますから,そこで待っていてください」

そうして門番が持ってきたのは、泣き叫ぶゆっくりれいむだった。
動けないように加工されているらしく、足には痛々しい火傷の跡がみられた。

「発電所のほうから余ったのを貰ったんです。今切りますから、ちょっと待ってくださいね」

門番は喚き散らすれいむのこえなど聞こえていないかのように、ナイフで一口サイズになるようにれいむを切り取っていった。
れいむは門番に切り取られるたびに悲鳴を上げていたが、顔の面積が半分以下になったくらいから何の声もあげなくなった。
やがて作業を終えた門番は、皿の上に切り取られたあんこを添えて、机に置く。

「新鮮な方がおいしいですからね。残ったら保存も効くので、好きなだけ食べてください。
自分も好きなだけ食べますから」
「では遠慮なく。いただきます」

旅人が食べたそのあんこは、よく熟成されていたせいか、とてもお茶とよくあった。

「これ、おいしいですね。今まで食べたゆっくりの中でもトップクラスですよ」
「そうですか?じゃあ残ったら旅人さんにあげますよ。ラップもこちらにあるんで、包んで渡しましょう。保存食代わりにでもしてください」
「ほんとですか? ありがとうございます」
「いえいえ。自分はゆっくりは虐めるものでなく、おいしく食べるものだと思っていますので、旅人さんみたいな人にあげられるのならば嬉しいものです。
この国は,食べ物を無駄に使う人が多すぎます」

食べ終わった旅人は、門番から残ったあんこをラップに包んでもらった。
そして最後にもう一度門番に礼をいい、国から出て行った。
旅人は外から国の中からあふれ出る光を見て,これがさらに強力になると思うと、少しうんざりした。
また旅人は、門番に心底同情しながら、こう言った。

「あんな欺瞞に満ちた光じゃあ、腹も心も膨らまないのにね」


おしまい

by味覚障害の人

光が強いからって人は死ぬんだろうか、とふと書いてて思った。
この世界だと光は光ではなくなっているので人は死にますが。設定っていいね。



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最終更新:2022年05月04日 22:58