人里の近くで男はしゃがみこんで何かを弄っていた。
「おう、こんな所に居たか
探したんだ」
そんな男を見て中年の男は後ろから声をかけた。
「んあ?ああどうも、何か御用ですか?」
男は少しだけ振り返って挨拶するとまた足元の何かを弄るのに戻った。

この男は、まりさに拷問した男だった。
ゆっくりを虐待するなどというどうしようもない趣味は持っているものの
一応、今の様に目上の相手には敬語らしきものは使うし知り合いに会えば挨拶する程度の分別は持っている。
が、彼の残虐で凄惨な悪趣味さは里ではそれなりに知れ渡っているのでその品性も力いっぱい疑われている。
そんな男だったが周囲にはそれなりに受け入れられていた。
といっても限りなく消極的に、だが。

「この前うちの畑に仕掛けてもらったゆっくり用の罠を息子が引っかかって壊しちまってな
修理しようと思ったんだが俺じゃ手に負えんからお前に直してもらおうと思ったんだ
代金はいつも通りで頼めるかい?」
中年の男ははははと笑いながら両手を軽く挙げてお手上げなことを示した。
「子どもが引っかかったくらいなら別にそれほど酷く壊れちゃ居ないと思うし金はいいですよ
その分今後ともご贔屓によろしく
これ仕込んだらそっちに行きますんで少し待っていてください」
男は中年の男の方を振り向きもせずにぶっきら棒に答えるながら罠の仕込みを続けていた。
「ああ、頼んだよ」

これが、この悪趣味な男がそれなりに周囲に受け入れられている理由である。
男はゆっくりを捕らえる為に偏執的なまでの執念を込めて罠を作る。
その出来は込められた執念に見合った素晴らしい出来の物ばかりであった。
また、男は生きが良くないと虐め甲斐が無いと言う理由から特に生け捕りを好むので
人間が引っかかっても怪我のしない安全な罠を作れるという点も具合がよかった。


そういった訳で、男はその方面において重宝され里の役に立っていた。
里での評判はプラスマイナスでマイナス寄り、中の下といったところだが、以外にも子どもの評判はいい。
簡単な罠の作り方を教えてもらおうとする子どもが多かったのだ。
男も特にそれを拒むことは無いので、彼が寺子屋近くに行くとよく子どもが群がっていた。
世の母親達はそれを見て余りいい顔はしなかったが
多くの父親にとって息子が野うさぎを罠にかけて捕まえた時の武勇伝を聞きながら
ウサギ鍋をつまみに晩酌するのは中々にに愉快なことだった。

「ところで、そいつはやっぱりゆっくり用の罠かい?」
中年男は男が黙々と罠作りを続けているのでその沈黙に耐えかねて尋ねた。
「もちろん」
当然の様に答える男を見て中年男は溜息を吐いた。
まあわかりきっていたことではあった。
中年男はわかりきっていたついでにもう一つ聞いてみることにした。
「どうだい、最近の成果の方は」
「それが今ひとつ」
頭をかきながら男は意外な答えを返してきた。
「へぇ、どうしたい
腕が鈍ったか?」
今度のことは少し興味深かったのか中年男はもう少し突っ込んで尋ねた。
「罠の方の出来は我ながら悪くないんだけどね
なんだか畑のほうにやってくるゆっくりが減ってるぽいっていうか」
自分の趣味の話題になったせいかだんだんと敬語らしきものはどこかに行って
砕けた口調になっていたが、中年男は特に気にはしなかった。
正直この男の場合丁寧に話している時の方が気味が悪いと中年男は感じていた。
「ほほう、森の方は畑に手を出さなくてもいいくらい豊作ってことかな?」

「違う」
男は中年男の意見をキッパリと否定した。
「今年の森はろくに食い物が無いですよ
だからほんとは食い物を求めてもっと畑にやってきていいはずなんだよ」
男は顎に手を当てた。
男はゆっくりに関しての話を続けるつもりだったが
中年男は男の意図したところとは別のところに興味を持った。
「森の実り具合には詳しいのかい?
てっきり罠の作り方とゆっくり以外は何も知らないと思っていたよ」
中年男はこの男がゆっくりからそちらに興味を持つようになってくれないかと
そちらの方に話題を移そうとした。
「きのこやら木の実やら山菜やら採って暮らしてる普段会わない叔父が
今年は俺のとこに来て愚痴りながら金貸してくれって言いに来たんで」
「……なるほどね」
中年男はつまらなそうにその叔父のことを話したのを見てこの話題は駄目だなと思って黙り込んだ。
「多分……何か、ゆっくりの天敵の何かがゆっくり達が畑に来る前に喰っちまってるんだ
だから飢えて畑にまでやってくるゆっくりが減ってるんだよ
全く迷惑な話だよ、おかげでこっちは商売も趣味もあがったりで……
まあ何年か前にもこんなことがあったからきっとその内元通りになるだろとは思ってはいるんだけど……」
男の愚痴を適当に聞き流しながらも、中年男はこれだけは言わずには居られなかった。
「お前、その趣味なんとかせんと嫁さんなんて一生できないぞ」
「俺の生きがい奪う伴侶なんてお断りだ……です」
後で思い出したかのように男は語尾を言いなおした。
訂正するのはそこじゃないだろ、と思いながら
予想通り即答する男を見て中年男は嘆息した。






ありすが意気揚々と帰っていくのを見届けた後
ゆかりんはケラケラと笑い出した。
「ゆー、やっとあの汚くて臭いゆっくりを厄介払いできたよ!」
ゆかりんは部屋の中を換気するために葉っぱを口に咥えるとパタパタと仰ぎだした。
「ゆっゆっゆ、ほんとなんでこんな胡散臭い話に簡単に食いつくのかしらあの餡子脳どもは
ゆ!そういえばありすの中身はくりーむだったかしら
きっと頭の中どろどろなのね」
まるで誰かに話しかけるみたいにそう言うと、またケラケラと笑い出して葉っぱを口から落とした。
あのありすが切羽詰ればこんなこともするだろうということはゆかりんにはお見通しだった。
安全のためにゆかりんの足元には体の柔らかいゆかりんだけが抜けられる抜け道がしっかりと掘られている。
その気になればいつでもありすだけを残してこの部屋から出ることも出来た。
「それとも紫饅頭に教えさせたゆっくりアロマの効果かしら?」
そう言って、ありすが部屋に入る前から焚いていた部屋の隅のお香のようなものを覗き込んだ。
中からはどこか甘い香りがぷぅんと匂ってきて
ゆかりんも思わずトロンとしそうになって慌ててそのお香を消した。
「おっと危ない危ないゆっくりしすぎちゃうとこだったわ」
中には、特殊な香りを出す薬草の調合物が置いてあり
その香りはゆっくりを一種のリラックス状態にすることが出来た。
ゆかりんが知り合いの、群の長のぱちゅりーに教えてもらった物で
本来ストレスの緩和などのために作られたものだが
ゆかりんは勝手に調合を変えて一種の催眠等にかかりやすい状態になるようにしてしまっていた。
こいつを嗅がせてから適当に与太話の一つも話してやれば大抵のゆっくりはその話になすがままに頷いてしまうだろう。
不思議なことに、ゆかりんにはその効果は及ばなかった。
要はゆかりんの体臭によるもので実は不思議でもなんでもないのだがゆかりんは気付いていない。

余りにも自分の思い通りにことが進むのでゆかりんは面白くて仕方が無かった。
寝床にしている絨毯(人間で言う雑巾)の上にごろんと転がると、ゆかりんはこれまで永夜緩居に送り込んだゆっくり達のことを思い出し
いつまでもケラケラと彼等を嘲笑った。

永夜緩居にまつわる噂は、このやっくもん・ゆっくり・ゆかりん13世を自称するゆっくりゆかりんが自ら広めたものだった。

ゆっくりの失踪事件に気が付いたのがことの始まりだった。
それはゆかりんがまだ群の長に就任して間もない頃のこと。
ゆかりんは群のゆっくりの増加による食糧問題と
それによる畑を荒らすゆっくりによる里との関係の悪化に中身のやわらかい頭を悩ましていた。
ある日突然どこへとも無く消えてしまうのだ。
あるゆっくりれいむは、狩の最中に忽然と姿を消した。
あるゆっくりまりさの一家は、一家丸ごと居なくなった。
あるゆっくりみょんは、花畑に遊びに行ったきり帰ってこなかった。

野生の中で生きる以上ゆっくりが失踪するのは珍しくない。
大抵何かに襲われて丸ごと捕食されたのだ。
だがこの件に関しては少し様子が違った。
本当にぱったりと、どこかで完全に痕跡が途絶えるのだ。
普通失踪したゆっくりは最後まで何らかの痕跡を残す。
例えば、皮とか餡子とか髪飾りとか。
そういう物が見つかった場合大抵は死んでいると考えていい。
今回はそれがなかった。

まるでそのまま空でも飛んでいったみたいに消えてなくなっていた。

なので最初ゆかりんは人間により連れ去られたのだと考えて情報を集めた。
しかし森の中に、とりわけゆっくり達が失踪した辺りには全くといっていいほど人間が近づいた様子は無かった。

捜査は振り出しに戻り、そうこうしている内に群の、一部の年老いたゆっくりの間である噂が広まった。

昔々遥か昔、あるゆっくりの群がゆっくりプレイスを見つけたと言い、そのまま忽然と姿を消したという。
当時のゆっくり達はそのゆっくり達が目指したゆっくりプレイスを禁忌の地として誰も入らないように避け
また誰かが間違って入らないように数々の自然のトラップを仕掛けたという。
今、その封印が解けてそのゆっくりの群を消してしまった何かが、今度はゆっくりを一匹ずつ消しているのだ。

その噂を聞いてゆかりんは最初は、賞味期限切れの餡子脳たちはなんてくだらないことを信じているんだろうと鼻で笑った。
他の若いゆっくり達もおおむねゆかりんと同じコトを思った。

だが事件を調べていくうちに、ゆかりんはこの噂が一端の真実を捉えているといわざるを得なくなった。
失踪事件の起きた場所を地図に記していくと、ある一点を中心に大きな円を描いた。
明らかに、その点に何かがあるのだということをゆかりんは認めざるを得なかった。
恐らくゆっくりにとってとても危険な何かが。

ゆかりんはそのコトを周りには明かさず、一人でどうするべきかを考えていた。
群のゆっくり達はこの件について段々と怯えはじめ、このまま行けば遠く無い未来には恐慌状態になるのではと思われた。
食糧問題も解決せず、問題は山積みでゆかりんが頭を悩まし続けていたある日
ゆかりんはある画期的な解決方法を思いついて会心の笑みを浮かべた。


ある時から、ゆっくりの間でこんな噂が広まった。
『魔法の森の奥深くに
 おいしい花が美しく咲き乱れ
 太陽は燦燦と降り注ぎ
 小川はその光を照り返してやさしくせせらぐ
 緑に溢れ夜もやさしい空気が安らかな眠りに誘う
 そこには争う者はおらず誰であろうともゆっくりできる
 そんなゆっくりプレイスがあるという
 その場所の名は
 何度夜が来てもずっとゆっくりしていられる
 という意味を込めて
 永夜緩居(えいやゆるい)
 と呼ばれていた』
そんなほら話を作ってゆっくりの間にこっそりと広めた。
情報を操る策略策謀はゆかりんの得意とするところだった。
ゲスと呼ばれるようなアウトローなゆっくりどものコミュニティに対して十数という代理人を通しつつ報酬を払って広めさせた。
そしてその内何人かは途中で始末した。
それだけの手間をかけただけあってすぐにゆっくり達の間でその噂は広まった。

そして失踪していったゆっくり達はいち早くそのゆっくりプレイスのことを知ってそこを目指し旅立ったのだ
という風に話を締めた。

さらに信憑性を持たせるために流れのゆっくりに報酬を与え、話を仕込んだ上で群の中で噂を広めさせた後
詳しく例の場所を教えてその調査に向かわせた。
そうやって段々と新しいこの噂を広めていく。
最初は半信半疑だったゆっくり達も
希望に満ちた表情でそのゆっくりプレイスに向かう彼等の姿を見て
段々とその存在を信じるようになっていった。

そんなゆっくり達を見て、老いたゆっくり達は伝承を基に警告を発したが
その伝承の中のゆっくり達はきっと本当にゆっくりプレイスを見つけたのだと他のゆっくり達は解釈した。


しかしゆっくり達はそのゆっくりプレイスを探そうとしたが、一向に見つかることは無かった。
詳しい場所の情報に関してゆかりんは秘匿した。

詳しい場所もわからずに永夜緩居を目指したゆっくり達は、見つからなかったと言って帰ってくるか
旅先で事故に遭って死んでいくかした。
中には本当に永夜緩居へとたどり着いて死んでいったゆっくりも多かったのだろう。
そこで何が起こったのか、ゆかりんには知る由もなかったが。
失踪事件はそうして消えていったゆっくりにまぎれて、忘れ去られていった。

不思議なことにある程度失踪と永夜緩居を目指したゆっくりの違いを把握しているゆかりんには
何故かその失踪事件が減っていったことが分かり首を傾げた。

やがて永夜緩居の噂はゆっくりと沈静化していく。



その頃にはあれだけ増えていたゆかりんの群のゆっくりも適度に減り
丁度いい、ゆかりんでも扱いやすい程度の規模の群になっていた。
ゆっくりの数が適正化すると、食料で悩むことも減り
血気盛んな夢見がちなゆっくり達が
言い換えると無鉄砲で周りに迷惑を与えるタイプのゆっくり達が居なくなり群の中での争いごとも減った。
そして住み良くなった群からわざわざ永夜緩居を目指そうとするゆっくりは急激に居なくなり
そしてその噂話自体も廃れて行った。

永夜緩居の噂話が過ぎ去った後、ゆかりんの群の問題はあらかた片付いてしまっていた。

ゆかりんは余りにも事がうまく行き過ぎたことに満足してほくそえんだ。
そして若年ながらも群の危機を乗り越えた自分の手腕に惚れ惚れとした。

だが数年後にはまたゆっくり達は増えに増えて群はパンク寸前になった。
毎年減ることには減っているのだ。
それなりに年老いたゆっくりは事故や捕食者に襲われて軒並み死んだし
世代交代は順調に進んでいる。
もうゆかりんが群の長に就任した頃のゆっくりは残っては居ないのではないだろうか。

ゆかりんにとってはそういった死因は群の奥深くで
群の長としてデスクワークにいそしんでいるので無縁だった。
群の長は尊敬されて周りから食べ物を貰って仕事をするので危険な狩りにいく必要は無いし
外敵に対しては部下を使って対処するので大抵他のゆっくりより長く生きた。
特に周りのゆっくりを手足の様に使い自分は動かない傾向が強いゆかりんは
群が磐石な限りは死からは遠いと言っていい。

伝説では二十の冬を超えたゆっくりが居たという話もあるが
流石にそれは嘘だろうとゆかりんは思う。
恐らく、その伝説のゆっくりの権威を利用したいゆっくり達により尾ひれがついたのだろう。
そのゆっくりはゆかりんのゆっくりの家系にも縁の深いのでなんとなく察しがつく。
歴史の中ではよくあることだ。

それでも安定した群の長ならば十年くらい生きることはザラにあった。
まあ大抵はそこまで行く前に群が崩壊してそのついでに死んだりする。
ゆっくりの群はまるで泡の様に生まれては消え生まれてはまた消えていく。
だがそれでも長く続く群はあった。


とにかく、死ぬべきゆっくりは充分に死んでいるのだ。
だがそれ以上に増える量が多すぎた。
ゆかりんの群が快適に過ごせるようになった時期に群に流れてくるゆっくりが多かったのも原因だろう。
若いゆっくりが多くなり後先考えずに好き勝手に繁殖して子どもを増やしていった。
そうして産まれたゆっくりには数が多くなればなるほど親の教育が行き届かずに
それがモラルの低下につながりどんどん群の治安は悪くなるし数も増える。

頭を悩ませたゆかりんは、遂にまた以前と同じように永夜緩居の噂を流した。
前に流れた噂は、世代の入れ替わりの激しい上に基本的に文字文化を持たず伝達手段の乏しいゆっくりの中ではもうすっかり忘れ去られていた。
ぱちゅりー種などによって残った書物のようなものも、とっくの昔にゆかりんが処分させてある。
それでも僅かに残った以前流した噂の残り香が逆に噂の信憑性を高めた。


そしてそれは、再び魔法のようにゆかりんの群の問題を解決してくれた。

またゆかりんの群には平和が訪れた。

しかし二年後、またゆかりんの群の人口は爆発した。
数を減らしたまでは良かったが、モラルの低いゆっくりの母数が多すぎて
無軌道な繁殖行為による過度な人口増加を止めることが出来なかった。

このままでは駄目だと思ってゆかりんは一計を案じた。

ゆかりんは群の役に立たない、あるいは群の邪魔になると思ったゆっくりに対して
そのゆっくりプレイスを目指したくなるよう仕向け
こっそりと詳しい場所の情報を流すように画策した。
情報は使い捨ての代理人を通して報酬を渡したゆっくりを使って何気なく対象に教えたり
出来る限り情報を分割してそれ単体ではわからないようにしておいたり
そして今回の様に直接ゆかりんが情報を与えたりした。

そう、これは一種の間引き、群の構成員の選別であった。
毎回思い通りに邪魔なゆっくりを永夜緩居に導けるわけではない。
それでも永夜緩居の噂で死んで行くゆっくりに、群にマイナスになるゆっくり達が多く含まれるようになり
群の治安やモラルは大分高まった。

ゆかりんの計画は、ゆっくりと美しく機能した。


永夜緩居の名前はゆかりんが自ら考え出した。
何度夜が来てもずっとゆっくりしていられるという意味を込めてそう名づけた。
それは偶然にもゆかりんの群にとっての夜を何度も救いゆっくりさせてくれて
まさに名は体を現すのだとゆかりんは思った。

それにしても我ながらとてもゆっくりして美しい優雅な名前だとゆかりんはうっとりした。

「ゆー、ここまでうまく行き過ぎると怖いくらいだよ」
ゆかりんはニヤニヤ笑いながら以前永夜緩居に送り込んだゆっくりまりさとぱちゅりーのことを思い出していった。
その顔が脳裏を過ぎるたびにゆかりんは餡子脳達の愚かさを嘲笑わずにはいられなかった。

好奇心ばかり旺盛でいらぬ騒ぎを起こして群に迷惑をかけていた若いゆっくりまりさは
まりさが聞き込みをしそうな場所にそれとなく分割した情報を噂話の中に混ぜてばら撒いておいてやると
嬉々として死地への道順を示すパズルを完成させて、親友のぱちゅりーと共に永夜緩居へと旅立った。

ばら撒いた情報の一つ一つそれ単体では意味を成さない。
その内で特に重要な情報は老い先の短い個体につかませて置いたのですぐにその情報郡は役に立たなくなることだろう。


そういえばただでさえ群のゆっくりの数が増えて頭を悩ませているというのに
馬鹿みたいに子どもを産んで大家族を作っているゆっくりれいむは
同じ時期に自主的に永夜緩居を目指してくれて助かったなと思ったことをゆかりんは思い出した。

どこぞでヒモをやっていてこの群に流れ着いたまりさも居た。
その内この手で排除してやろうと思って色々と準備していると
例の若いゆっくりが大体の情報を与えてしまい夫婦で勝手に旅立っていった。
その上、刺客を送って処分しようと思っていたぱちゅりー種の持っていた地図もついでに持って行ってくれたらしく本当に助かった。
この場合は非常に助かったが、その対象が特に問題の無い所か群に有益なゆっくりの場合もそれなりにあった。



その場合も止む無くとはいえ群に有益なゆっくりにも死んでもらうことはあった。
まあこんな与太話を信じる頭の中が春餡子なゆっくりなんて
群にいらないとゆかりんは思っていたので別に気にはならない。

それだけではなく永夜緩居の位置が群のゆっくり達に周知となるのを防ぐために
情報を与えておいたゆっくりを永夜夜緩居に向かうよう誘導して始末することもある。
もっと直球に、刺客を送り込んで殺してしまうこともあったがそれは稀だ。
最低限の情報規制さえしておけば後は時間が解決してくれる。
事故・殺害を含めたゆっくりの平均寿命は精々長くて3、4年。
天寿はもっともっと長いはずなのだが、大体その程度で大抵のゆっくりは自然災害や捕食者にやられて死んでいった。



今回ありす達に送り込んだゆっくりはそんな刺客の内の一匹の有能なゆっくり殺しだったが
ゆかりんに対して色々と詮索しすぎた。
なのでありすと永夜緩居へと同伴させることで殺すことにした。

恐らくあのゆっくりようむは罠と知ってか知らずかどちらにせよ永夜緩居へ赴きその全貌を探ろうとするだろう。
だがあれはそこらのゆっくりが手を出してどうにかなるものではないのだ。
きっと永夜緩居に喰われて消えることだろう。

永夜緩居による犠牲。
それはゆかりんの群がそれによって得るものを考えれば仕方の無い小さな犠牲だ。
この謀略が機能し始めてから、群のゆっくりの数がいくら増えてもやがて適度に保たれ食糧難に困ることも減り
群に不易な行動をもたらすゆっくりも減って治安も向上している。
それに伴って畑を襲うゆっくりも減り人里との関係も回復しつつある。

これだけ見事な治世を行ったゆっくりはゆかりんの他には遥か昔
伝承の時代に今のゆかりんの群の原型となる大きな群を作り上げたゆっくりれいむくらいのものだろう。
いや、あの伝説のれいむでさえも自分には及ばないかもしれない。
そうゆかりんは思った。
このゆっくりれいむの群はれいむの死後、後継者を名乗るもの達により何個もの群に分裂した。
ゆかりんはその後継者の一人であるゆかりん種の末裔だ。

その後継者達はれいむからそれぞれ一つづつその類稀な力の一つを受け継いだと言う。
そしてゆかりん種がれいむから受け継いだ物は知性、知恵だといわれている。

他にも力や知識、文化など様々なものが受け継がれたといわれているが
ゆかりんにとって自分の受け継いだ能力意外はゴミのようなものだと思っていた。


自称やっくもん・ゆっくり・ゆかりん13世は起き上がると
上機嫌に跳ねながら巣の外へとゆっくりと顔を出した。
自分の素晴らしい頭脳により美しくゆっくり治められた群を見て満面の笑みをこぼし、大きな声で言った。

「ゆっかりしていってね!」

突然巣から出てきて挨拶をした群の長を見て、ゆっくり達はきょとんとしたものの
すぐに自分達の尊敬する群の長であるゆっくりゆかりんに対して笑顔で挨拶を返した。



永夜緩居― 第五話[三匹のゲス]

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最終更新:2022年05月18日 22:50