~注意書き~

  • 虐待描写が少ないです!純粋に虐待を愉しみたい人には向いてないかもしれません!
  • オリ固有の名前が出てきます!名無しだと不便な場面が出てきたので便宜上付けただけですが!
  • オリ設定らしきものが含まれます!オリだらけで泣きそうです!

以上のことをしっかりと踏まえたうえで、それでも読んでくれるという心の広い方は、以下に続く作品をお楽しみ下さい。


男と女がゆっくりと


広い広い平原を、二人の男女が一緒に歩いていました。
彼らは夫婦というわけでも、恋人であるわけでもありませんでしたが、しかしとても仲のよい友人でした。
二人は今日も仲良く、楽しい会話を始めます。

「ねぇ、ジョン?なんでそんなキモイ格好してるの?さっさと死んだほうが私のためね」

ジョンと呼ばれた白人の男は、彼女の言葉に意外そうな顔をしながら、自分の服を見つめなおします。
ワックスを使ってかっこよく整えたちょんまげに、ケンドー部員から貰った篭手と垂(たれ)を取り付け勇ましさをアピール。面と胴はもらえなかったようです。
そして体にはぴちぴちのスク水と、自分の太ももまで届くフリルつきの黒のハイ・ソックスを装着したその姿は、男の中でも自慢の服装でした。

「オゥ!コレのドコがオカシーのデスカ?ワタシのフレンドも『オタクとサムライの、超融合や~!』ってゼッサンしてましタ!
ソレにヨーコたんの服装こそ、ベリーストレンジネー!この子もソ-言ってマース!」

男は背負っていた両肩にかけるタイプのバッグからかわいらしい女の子のお人形を取り出し,腕と指の関節を動かしてお人形さんの指を女性のほうに向けます。

「いや、ソレはあんたの友人が変なだけでしょ……。つーか、私の服装のどこがおかしいのよ」

ヨーコと呼ばれた黄色人の女は,男がしたように自分の服を眺め回します。
彼女が着ているものはGパンにTシャツにスニーカーという、男に比べれば一般的と呼べるものでしたが,その全てには星条旗が描かれています。
そして肩、ひじ、ひざには星型のサポーターをしており、頭と腰にも同じ星型がいっぱいついたベルトを巻いていました。
男は、彼女の腰にまいてある星型のついたベルトに、ぐりぐりと人形の指を押し付けます。

「コレに決まってマース!その服装もそうですが,あなた悪趣味すぎデース」
「このアメリカのすばらしさを体全体で表した,荘厳かつ大胆なファッションはあなたのような日本かぶれの変態ヤローなんかには到底わからないでしょうね!
あんたはさっさと自分のお母さんのところに帰って木の根っこでも食ってろ!」

女は一気にそうまくし立てると,男の靴に向かってつばをペッ、と吐きました。
その唾は目標より少し情報を通過し,男のハイ・ソックスに当たって、唾特有のネチョリとした感覚が布越しに男の皮膚を刺激します。
男はさすがに怒ったのか、自分の顔を真っ赤にして女に突っ掛かりました。

「シット!女だからってあまく見るとオモッたらオゥ間違いデス!コレでもくらいなサーイ!」

男は、「カミカゼ!カミカゼ!」といいながら女の頬を人形の指でぷにぷにとつつき始めました。
女は最初のうちは鬱陶しそうに男の突きを払っているだけでしたが,男があまりにもしつこいので,女もしまいには反撃をするようになってしまいました。

「だーもう鬱陶しいのよこのだぼがぁ!撃ち殺してやるから覚悟しなさい!」

女は背負っていた星型のリュックから同じく星型の飾りのついた銃を取り出し、それを男に向けて引き金をひきました。
その瞬間、気の抜けた音とともに紐のついたコルクが飛び出し、男の額に当たります。どうやら、その銃はおもちゃのようです。
女は紐がたれている銃口を口元まで持っていき,ふっと息をかけて熱くもないのに冷ましました。

「ふん、銃社会なめないでよね……って、こら、やめなさい!あんた撃たれたでしょやられなさいよ!ちょ、やめ、つつくな!」

男は女の言葉を無視して、「タケヤリ!タケヤリ!」といいながら女の頬をつつき続けます。
男がこのように、空気を読まず女にちょっかいを出し続けるのは、彼らにとってはよく見る光景でした。
そして、いつもならこれから女が本気で怒り出し、ガチで喧嘩になって殴りあったあと意気投合して夕日に向かって走り出すのですが、今日は意外な介入者が現れました。

「「「「「ゆっくりしていってね!」」」」」

家族連れでしょうか。五匹の、人の顔を模した饅頭が喧嘩をしている二人に向かってそう叫びました。
饅頭たちは、赤いリボンを付けていたり、またはリボンのついた、大きな黒い三角帽を付けています。
その家族の親と思われる、それぞれにリボンと帽子をつけた大きな饅頭が一匹づつと、あとはリボンと帽子を付けた小さい饅頭がそれぞれ一匹と二匹いました。
いきなりの介入者に、彼らはひとまず喧嘩をやめてその饅頭に向き直ります。

「オォウ!ジャパニーズ・スロゥレイームアーンドスロゥマリーサ!」
「違うわよ。アメリカン・ゆっくりれいむとゆっくりまりさでしょう。で、何の用かしら?」

饅頭は、自分の名前の前にあるよくわからない接頭語に戸惑いながらも,しっかりと二人を見据えました。
そして人が好みそうな愛想のよい笑いを浮かべて,彼女達に話しかけます。

「よくわからないけどれいむはれいむだよ!わかったらかわいいれいむとまりさとこどもたちにおかしとじゅーすをちょうだいね!みんなのどがかわいておなかへったよ!」
「まりさにへんななまえつけないでほしいんだぜ!おかしななまえつけたばいしょーとしておいしいものをよこしてね!」
「ちょーだい!ちょーだい!」
「おかしくれるの!?さっさとちょうだいね!」
「のろまはきらいだぜ!」

そのかわいい?笑みとは裏腹に、言っている内容はポツダム宣言のようなきつい内容です。
普通はここで蹴り飛ばして人間の怖さを教えてあげるところですが,彼女達はそれを選択しませんでした。
それどころか、一緒になって笑いあいながら、リュックからゆっくりれいむに上げるための飲み物と食べ物を取り出し始める始末です。

「いいわよ。まずは飲み物がいいわね。はい、みんな。いっぱい飲んでね」

女は取り出した水筒をゆっくりれいむに差し出しましたが,同じくリュックから水筒を取り出した男が、それを押しのけて自分のものを差し出します。

「そんな似非アメリカンの飲み物より、こっちの方がとってもデェリシャスネー!こっちを飲むといいデース!」
「な、何いってるのよこの変態やろうが!あんたは黙ってそこで米磨いでりゃいいのよ!」

二人はゆっくりの前で、自分がゆっくりに飲み物をあげるんだと主張しあって再び喧嘩を始めます。
それをみたゆっくりたちは困った表情を作りながら、喧嘩をやめるように二人に呼びかけます。

「ゆっくりやめてね!れいむのためにあらそわないでね!れいむはふたりのものがほしいよ!」
「そうだぜ!まりさがいくらかわいいからってけんかはよくないぜ!さっさとちょうだいだぜ!」
「ちょーだい!ちょーだい!」
「けんかするならまりさにおいしいものくれてからにしてほしいんだぜ!」
「のろまはきらいだってさっきもいったでしょ?ばかなの?」

いっせいに口々から不満をたれ始めるゆっくりたち。
言っていることは、喧嘩してないで両方さっさとよこせということなのですが。
しかし彼らはゆっくりの言葉に従って、おとなしく喧嘩をやめました。

「……そうね、みんなのいうとおりだわ。喧嘩は後にしましょう。そしてみんなにどっちがおいしいか味比べをしてもらおうじゃない」
「ナイスアイディア!そうと決まればゼンはイソゲネー!」

彼らはカップに水筒に入っている液体を入れて饅頭に差し出します。
みんながそのカップを覗き込んだところ、両方ともおどろおどろしい真っ黒な液体がたっぷりと入っています。
ゆっくりたちは驚いて二人にその飲み物を改めましたが,二人とも「「おいしいから,飲んでみて」」というばかりで取り合いません。
試しに彼女らに自分の水筒の中身を飲ませましたが、二人ともとてもおいしそうにそれを飲むので、
親のゆっくりれいむとゆっくりまりさは色はともかく中身は大丈夫だと判断しました。

そして二人の男女がこわばった作り笑いで見守る中、ゆっくりれいむによる味比べが始まります。

まず、男の飲み物からです。
毒見役のつもりか、ゆっくりれいむは一人でゆっくりとカップに口をつけ、そして一気に中身を自分の口の中に放り込みました。
二人とも、その様子をただじっと見つめます。

「しあわぜぼっ!?」

ゆっくりれいむをその液体を飲み込んだとたん、急に咳き込み始めました。
そのせいで口に含んだ液体の一部は吐き出されたようですが,大部分はもう体に吸収されて戻ってきませんでした。
ゆっくりれいむの様子に男が慌てて,女は呆れながらゆっくりれいむに駆け寄ります。

「なにごれぇぇぇぇ!!がらいよぉぉぉぉぉ!!」
「おがぁざん、どうじだの!?」
「じっかりしてぇぇぇぇ!!」
「オォウ!どうしたのですカー!?しっかりしてくだサーイ!」

周りのゆっくりたちもみんなだゆっくりれいむの元に駆け寄ります。
男はゆっくりれいむの後頭部をさすってやりますが,一向によくなりません。
ただただゆっくりれいむは「がらいよぉぉぉぉ!!いだいよぉぉぉぉ!!」と悲鳴を上げるだけです。
女は途方に暮れる男を、呆れを含んだ嘲笑で見下します。

「まったく、何を飲ませればこんなに苦しめることが出来るのかしら。ねぇ、ジョン?これはなんという名前の毒かしら?」
「……毒じゃないデス。ジャパニーズ・ショーユデース」

男はようやく少し落ち着いてきたゆっくりれいむをみながら、そう力なくつぶやきました。

「はぁ!?あんたあんな塩分の塊のようなやつあげたの!?つーかあんなの飲んでたら血圧がやばいことになるわよ!」
「ノー!ショーユはれっきとしたジャパニーズの伝統的な健康食品デース!私にショーユを紹介してくれたフレンドはなんにでもあれをかけて食べてマース!
私も毎朝飲んでマース!ショーユ健康法デース!」

女はその男の言葉に完全に呆れたようで、もう顔から嘲笑は完全に消え失せています。
ただかわいそうな目で、男を見るだけです。

「……ま、とりあえず私の番ね。客に毒薬を飲ます馬鹿はどいてなさい」

男は一度きつく女の方を睨みつけましたが、結局何も反論できずがっくりとうなだれます。
女は男と入れ替わるようにゆっくりれいむの前に立ち、今度は自分の水筒から入れたカップを差し出します。
しかしゆっくりれいむはさっきの男の飲み物にこりたのか、なかなか飲もうとしません

「ああ、ごめんね。あの馬鹿が変なの飲ませたせいで怖がってるのね。でも大丈夫。私のはあんなのと違って辛くなんてないから」

ゆっくりれいむはまだ警戒していたようでしたが、やはり口の中の塩辛さゆえに水を欲していたのでしょう。
恐る恐る下をカップの中につけ、それが塩辛くないとわかるとそのまま一気に飲み干しました。

「し、しあわせー!」

女はそのゆっくりれいむの様子ににっこりと微笑みながら、男に見せ付けるようにゆっくりれいむをさすります。
男は悔しそうに唇をかんでいましたが、何も言うことができませんでした。

「れいむ、おいしかった?」
「わからないけどからくなくてすっきりー!しあわせすっきりー!」
「ああ、かわいそうに。どっかの馬鹿が醤油なんてもの飲ませるから舌がおかしくなってるのね。
口の中まだ塩辛いでしょう?いっぱいあるからいくらでも飲んでちょうだいね」

女はゆっくりれいむの口の中に次々と水筒の中の液体を流し込んでいきます。
それを見た周りのゆっくりたちも、今度こそ安全だと思ったのか、女に近寄ってその液体を次々と飲ませてもらいます。
ゆっくりたちは口の中に飲み物を入れられるたび、「すっきりー!」だの、「しあわせー!」などといっていましたが、不思議とその瞳はひどく濁っていました。
男はその異変に気付き、女の手を掴んで行為をやめさせます。

「ウェイト!少し様子が変デース」

女は至福の時間を邪魔されて不機嫌そうにしていましたが、ゆっくりの様子を見て表情が一変します。
ゆっくりは確かに笑っていましたが、目は異常なまでに見開かれ、緩んだ口からはだらしなくよだれを垂れ流し続けていました。

「お、おねえさん、なんかへんだよぉぉぉ!おめめがぱっちりしすぎてとじないのぉぉぉぉぉ!
す、すすすすすすすすっきりぃぃぃぃぃ!!!」
「え、ちょっとどうしたのれいむ。もしかして飲みすぎておなかいたいの?」

れいむは答えず、ひたすら意味不明の言葉を叫ぶのみです。
周りのゆっくりたちも,それに呼応するかのようにおかしな行動をとり始めます。

「すすすっきりぃーー!ゆ゛、ゆ゛っくりしていってべべべべべべべべべべ」
「しあわせぼーーーーー!!!」
「あばばばばばばばばば」
「ちょ、ちょっと、みんなどうしたの!?大丈夫!?」

女が何が起こったのかわからず困惑する中,ついにゆっくりたちは泡を吹いて白目をむき、動かなくなってしまいました。
ゆっくりたちの口からぶくぶくと細かい泡が作られては割れ、異臭を周囲に撒き散らします。

「オォゥマイッガァァァァーッ!!ヨーコたんはいったい何を飲ませたんデスか!?」
「ア、アメリカンコーヒーよ。私流にちょっと改変したけど」
「ドコをドーユー風にしたら客が泡吹くコーヒーを作れるんデスかー!!」

男のその剣幕に、さっきまで余裕を保っていた女もたじたじです。

「な、なによう。ちょっとカフェインの含有量増やしただけよ。そんなに騒ぐことじゃないでしょう?」
「イッタイ、含有量をどのくらいにしたんデスか!?殺人コーヒーを作るノに!」

自分の作ったものを殺人コーヒーと言われ女は不満そうでしたが、目の前の惨状を否定することも出来ず、しぶしぶ答えます。

「99%」

女はさも当然のごとく答えますが、男はその言葉に固まってしまいました。
いや、男でなくてもそれを聞いたら固まっていたことでしょう。なんてったって99%、9割9分カフェインという恐ろしいコーヒーなのですから。
ちなみに、女の言っていたアメリカンコーヒーとは、紅茶の色に似るように生豆を浅く煎ってたてたコーヒーのことを指します。
紅茶が手に入れられなかったアメリカ人が、紅茶の代用品としてコーヒーを使ったというのは有名ですね。
よって、女の作ったようなカフェイン含有量99%という狂気のコーヒーはアメリカンとは言いません。コーヒーとも言いません。単なるカフェインです。

「……ヨーコたんは悪趣味だと自分でも言い続けていましたが,ここまでとは思いませんでしタ」
「これのどこが悪趣味なのよ!これは、カカオ99%チョコレートを参考に私が長い年月をかけて作り上げた究極の……」
「どぼでぼいいがら、さっさとでいぶとみんだをだすげべべべっべべ」

再び喧嘩を始めようとする二人を,泡を吹いているゆっくりれいむが必死になって止めます。
ゆっくりたちは馬鹿な人間に当たってしまったことを内心後悔していましたが、今の自分を助けられるのも目の前の人間だけです。必死の懇願を続けます。
二人はゆっくりの必死な様子にすぐに争いをやめ、その饅頭を助けるために動き始めます。

「このことは後にしましょう。まずはみんなを助けないと。近くに大きな湖があったわよね?そこに連れて行ってきれいな水を飲ませましょう。
認めたくないけど、私たちの飲み物じゃあゆっくりを苦しめるだけのようだわ」
「……そうデスね。レイクは、ウェル、ここからホクトウへ少しいったところにありマス」

すばやく女がゆっくりたちを抱え、男が地図を持ち先導します。
彼らはゆっくりを助けることに目的を切り替えると,今までのことが嘘のようにてきぱきと連携して動き始めました。
やはり、二人は相性がよいのです。よく喧嘩するのだって、もともと仲がよいからでしょう。
役割が逆な気がしないこともないですが、昨今は男女平等参画社会です。気にしてはいけません。

二人はゆっくりたちを介抱しながら十数分歩いたところ、きちんと目的地の湖まで辿り着くことができました。

「オォゥ、地図によるとここのはずデース。急いで水を飲ませまショウ!」
「そうね。もう瞳孔が開きかけてるわ。……ほら、口を開いて?ゆっくり飲んでね」

水を近付けても飲まなかったので、女がゆっくりたちの口を開いて固定し,男がそこに湖から汲んできた水を入れていきます。
ゆっくりたちはもはや抵抗する気力もないのでしょう。なすがままに水を飲み続けました。
そして、みんなに5杯くらいの水を与えたところでしょうか。
ゆっくりたちが急に飛び跳ね、そのままごろごろと地面を転がり始めました。

「ぎぃぃぃぃぃぃ!!がらいぃぃぃぃぃぃ!!」
「またなのぉぉぉぉぉぉ!?」
「もうがらいのいやぁぁぁあぁっぁ!!」
「どぼじでごんなごどずるどぉぉぉぉぉ!!」
「びぃぃぃぃぃぃ!!」

苦悶の表情をして泣き叫ぶゆっくりたちを見て、二人は戸惑いました。
なんできれいな水を与えたはずなのに、まるで醤油を与えた時のような反応をするのだろう。
男は、何かに気付いたようで、自分の持っているカップについた水を指でとって少しなめました。

「シッツ!何てことダ!」
「どうしたの?なにかわかった?」

男は自分の持っているカップを女に渡し、彼女にもなめるように言いました。
女は訝しがりながらも、男の言うように指につけてそれをなめとります。

「し、塩辛いわ!まさか……海水!?」
「ノー!これは、ジャパニーズ・シカイデース!」

女は驚愕の表情を浮かべます。男から地図を奪ってみてみると、そこには確かに『死海』と書いてありました。
どうやら、ゆっくりたちにとっては不運なことに、女も男もこの文字を見落としてしまっていたようです。

「なんてこと……!アメリカの奥地にあるという伝説の湖がこんなところにもあるなんて……!」
「そうデース!シカイの癖に,私たちのシカイから逃れていたのデース!」

男のギャグには、誰も反応しませんでした。
ちなみに、死海とは海水よりも塩分濃度が十倍も濃く、そのため生き物がまったく住むことが出来ない死の湖のことです。
所在地はアラビア半島北西地、大まかに言うと東アフリカに存在します。当然ながら日本にもアメリカにもありません。
そんな説明をしている間にも、ゆっくりたちは口の中のあまりの塩辛さに暴れまわります。

「からからからふとちしばぁぁぁぁぁぁ!!」
「だいじょーだいじょーぶるぅぅぅぅ!!」
「ゆっくりさっさとあるくようなはやさでゆ゛べべべべべべべ」
「オォウマイッガーッ!どうしまショー!?」

ついには意味不明な言語を垂れ流すようになってしまったゆっくりたちに、男は頭を抱えてしまいます。
しかし、女は平静を保っていました。何かゆっくりれいむを助ける方法があるのかもしれません。

「落ち着いて、ジョン。私に策があるわ」
「リアリィー!?それはマジですかヨーコたん!」

女は男が食いついてきたのを見て満足そうにしながら,自信ありげに自分の策について語り始めます。
そんな女の自信の結晶があのカフェイン99%コーヒーだったりするのですが、この際それは置いておきましょう。

「いい?今ゆっくりが苦しんでいるのは何故か……もちろん、塩分の取りすぎよね」
「そうデスね。人間でもあまりに塩分をとり過ぎたら死んでしまいマス。あんな小さかったらなおさらでショウ」

毎朝醤油がぶ飲みしている男がいますが、それは恐らく特殊体質なのでしょう。
普通の人間が塩分をとりすぎると血圧がやばいことになり、浸透圧の関係で細胞がパーンとなるのでよい子でなくとも決してまねしてはいけません。

「そう。ましてやあの子の中身はあんこ……つまり、砂糖の塊になっているわけ。
そんな中に塩を入れたらどうなると思う?」
「ムムム……じらしていないで早く教えてくだサーイ」
「ふふふ、焦らないの。ヒントは,酸性とアルカリ性よ」
「しおあるかりとゆ゛べべべべべ」
「ぷるさーまるうんたるまーる」
「まどからてがでてこっちこないでぇぇぇえ!!」

そんな悠長な会話を続けている間にも、後ろではゆっくりれいむが奇怪な叫び声を上げながら暴れまわっています。
しかし二人は無反応。熱中すると互いにのめりこんでしまうタイプなのでしょう。

「酸とアルカリ……?オォウ、ァイゴットイッツ!わかりましタ!中和デスね!」

女は大きくうなずいて,正解の意図を表します。

「そう。砂糖を入れすぎたコーヒーに塩を入れて中和するように、ゆっくりも自身のあんこの砂糖が大量に入ってきた塩で中和してしまったの。
まるで酸とアルカリを混ぜた時のようにね。
そしてゆっくりは今砂糖にも塩にも属さない、かなり中性に近い特性を持っているのでしょう。だから、あんなことになってしまったの」

決して砂糖に塩を混ぜたからといって中和なんか起きるわけないのですが、それを突っ込めるものはここにはいません。
砂糖入れすぎたからといってコーヒーに塩を入れるのも、おそらく世界中で彼女くらいでしょう。
しかし、男は合点がいったという様に納得してしまいます。
男も女の問いに中和だとか答えていたので、恐らく彼も本気で塩と砂糖で中和が起こると考えているのかもしれません。

「それで、どうしたらいいのデスか?私たち,砂糖はそんなにもっていないデスよ?」

二人のリュックの中には砂糖を含むものがほとんど入っていませんでした。
入っていたのは非常食とキャンプ道具、そして大量の水筒だけです。もちろん中身はすべて黒い液体です。

「ジョン、逆に考えるのよ。砂糖はほとんどないじゃなくて、塩なら大量にあるって考えるの」
「確かにそうデスが……ま、まさかヨーコたん!」
「そう。そのまさかよ。塩分を大量に与えて、ゆっくりを砂糖属性から塩属性に切り替えるの。方法はこれしかないでしょうね。
今のままだったら、いずれ自己を見失って確実に死んでしまうわ」

なぜそんな結論を持ってきたのかはわからないうえ証拠も皆無ですが、女はやたらと自信満々でした。
その女の見つけた謎の突破口に、男も大はしゃぎです。

「グッーーー!さすがヨーコたんデース!ジャパニーズ・ドクサラの考え方デスね!」
「アメリカ流で言うなら子羊を盗んでしばり首になるよりは親羊を盗んでそうなったほうがましだ、かしら。とりあえずその通りよ」

二人の言っていることとは、毒を食らわば皿まで、のことですね。
英語で書くとどうなるのか気になる人は、ググって見るとよいでしょう。英語版毒皿を直訳するとヨーコの言っている意味となります。

「じゃあ、ゆっくりを助けるために作業に取り掛かるわよ。暴れるといけないからゆっくりを押さえて口を広げてちょうだい」
「オッケィデース。でも全部は無理デスよ?」
「それは仕方ないわ。水をあげる時に1,2匹抑えててちょうだい」

それからは、ゆっくりたちにとっては地獄の時間となりました。

「がらいよぉぉぉぉ!いだいよぉぉぉぉぉ!」
「我慢してね。あなた達のためなの」

嫌がっているのに無理矢理死海の水を飲まされたり、

「ひぎぃぃぃぃぃ!めが、めがしみい゛ぃぃぃぃぃ!」
「暴れないでくだサーイ!危ないデース!」

口に入れるはずの塩水が目に入ってしまったり、

「ゆぎがいぁぁいぃぁぃぃぃぃ!!」
「おがーざん!ごっじごないでね!やべでべばっ」

あまりの塩の痛みに暴れまわる親ゆっくりが自分の子どもを潰してしまったり。

そして二時間ほど経ったでしょうか。ようやく二人の作業はようやく終了しました。
五匹いたゆっくりはもう、親の二匹を残すのみです。

「ああ、三匹も死なせてしまったわ……。なんてことなの」
「……私達は精一杯やりマシた。二匹生きていただけでも,よくやったというべきデス。さぁ、彼女らの冥福を祈りまショウ」
「ジョン……。そうね、もう死んでしまったものは取り返しがつかないものね」

誰のせいで死んだのかは棚に上げたまま,男は手を合わせ、女は十字を切ります。
その間、彼らの後ろで動くものがありました。そう、あのゆっくりたちです。
女の言っていた治療が功を奏したのか、先ほどよりは多少回復しているように見えます。

「ゆ!いまだよ、れいむ!さっさとにげないところされちゃうよ!」
「で、でももううごけないよ……」
「いまにげないとゆっくりできなくなるよ!がんばって、れいむ!」
「むむむ、わかったよ!れいむがんばるよ!」

そして二人はこそっとそこから立ち去っていきましたが、黙祷をささげていた二人には気付きませんでした。
ようやく二人が目を開けて助けたゆっくりを探しましたが,ゆっくりたちはすでに遠くへ離れてしまっていたので見つけることは出来ませんでした。

「どうしよう、ジョン!あの二匹が見当たらないの!」
「こっちにもいませんでしタ……。たぶん、私たちに礼を言うのが恥ずかしくテ、ひっそりと去っていってしまったのでショウ」
「そう、なのかしら……。彼女たち、元気でやっていけるといいのだけれど……」

落ち込む女に、男は元気付けようとわざと明るく話しかけます。

「大丈夫サ!なんてったって、死の淵から這い上がってきた、ホトケさまのご加護を受けたゆっくりだからネ!」

女も自分を励まそうとしている男の意図に気付いたのでしょう。無理やり不敵な笑みを作って、男に返します。

「ふふっ、それを言うならキリスト様の、ね」

そして二人は互いに肩を寄せ合い、ゆっくりたちの無事を祈りつつ、一緒に笑いあいました。
終わりよければすべてよし。たぶん彼らの中では今回のことは美談として記憶されるのでしょう。ポジティブなのはいいことですね。


――場面は移って。


そんな謎の加護がかかっているというゆっくりたちはというと,無事に自分達の集落まで辿り着くことができました。
二匹はぼろぼろになりながらも、なんとか生き延びることが出来たのです。

「ゆ!?だいじょうぶ!?みんなしんぱいしてたんだよ!」

二匹に気付いた集落のゆっくりたちが、彼らを心配そうに見ています。
二匹は、みんなに自分達が今までされたことを多少誇張を加えながら話しました。
人間に毒を騙されて飲まされたこと、その後に拷問があったこと、いつの間にか自分の子ども達がつぶされてしまっていたこと……
その内容は、集落に改めて人間への敵愾心と、警戒心を持たせることになりました。
どうせ明日には忘れているんでしょうが。

そして話が終わった後、集落のゆっくりたちは解散することになりました。
二匹は心配してくれたみんなに向かって、感謝の言葉を言います。

「「みんな、しんぱいしてくれてありがとう!ゆっくり――――ってね!」」

とたんに、動きが止まる集落のゆっくりたち。
そしていきなりみんなでその二匹のゆっくりを取り囲みます。
その目には、ぎらぎらと殺気のようなものが見て取れました。

「ど、どうしたの?こわいかおしないでね!」

その様子に二匹のゆっくりは怯え、二匹で寄り添うように体をあわせて震えます。
しかし周りのゆっくり達のさっきは収まりません。他のゆっくりより一回り大きな、集落のリーダー格と思われるゆっくりがずずいと前に出ます。

「さっきいったことを、もういっかいいってね!ゆっくり……なんていったの!?」

二匹のゆっくりは戸惑うように顔を合わせました。しかし、そんなことでみんなが怖い顔しなくなるなら安いもの。
ゆっくりたちは一緒に、感謝の言葉をみんなに言います。

「「ゆっくり――――ってね!」」
「こえがちっちゃいよ!もっとおおきなこえでいってね!」

どうやらまだ許してはもらえないようです。いまだ自分に浴びせかけられる殺気は減るどころか心なしか増えている気がします。
その殺気から逃れたい一心で、二匹はあらん限りの声で,こう叫びました。

「「ゆっくり塩くってね!!!って、え?」」

二匹は自分の出した声に戸惑います。何故こんな言葉を喋っているのか?二匹にはまったくわかりませんでした。
これはすべて塩分過多のせいだったりするのですが,他のゆっくりたちがそんなことをわかるはずもなく。

「ゆゆ!やっぱりこいつらにせものだよ!ゆっくりしんでね!」
「れいむにせものじゃないよ!みんなゆっくり塩くってね!……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!なんでいえないのぉぉぉぉ!!」
「ゆっくりしていってね!もいえないばかなゆっくりはさっさとしんでね!」
「ぶべっ!みんなやべでね!ゆっくりお塩くっておじづいてね!」

もう完全に二匹は塩属性のゆっくりとなっていました。意外にも、女の推測は正しかったようです。
集落のゆっくりたちはその二匹のゆっくりを異分子だと判断し、集団で襲い始めます。
そうなれば二匹はかなうはずもなく。数の暴力に押されて瞬く間に中のあんこ(塩味)をひねり出されてしまいます。

「ぺっ!なにこれ、しょっぱいよ!やっぱりこいつらはにせものだね!」
「ちがうよぉぉぉぉ!でいぶにせものじゃないよぉぉぉぉ!ながみだべないでぇぇぇぇ!」
「ほんとだ!しょっぱくてくえたもんじゃないよ!しょっぱいゆっくりはさっさとしね!」

ゆっくりは必死に説得しますが、塩の体ではそれも聞き届かず。
結局、みんなのリンチにあって死んでしまいました。

二匹は死ぬ間際、自分達がこんな目にあうきっかけとなった人間たちを恨みに恨みました。
ですが、そのころ二人はそんなことなど露知らず、一緒に自分の黒い液体を飲んで優雅なティータイムを送っていました。
自分達が助けたゆっくりのことで会話に花を咲かせながら。


おしまい



――――ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあとがきーーーーーーーーーーーーーーーーーーー――――

まーた変なのかいちまいましたね。しかも長い
短編作るつもりだったのになぁ…


~おわび~

以前ゆっくりハンターの生活とやらを書いたものですが,ゆっくりハンターってほかの人が使ってたんですね……
ゆっくりハンターの人、申し訳ありません。
自分は、ゆっくりハンターの人とは別人です。誤解を招くようなタイトルにしたことを深くお詫び申し上げます。
区別を付けるために、自分のことは味覚障害の人とでも呼んでください。
何故か自分の作るものには舌がイカレているやつが多いので。


これまでに書いた作品
ゆっくりハンターの生活1,2
ゆっくりハンターの昔話
男と女がゆっくりと

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2022年05月18日 23:11