※ゆっくりがかみさまになるなんてありえねえ。って人はお帰りください。
「ゆゆっ、いくよ、ぱちぇ」
「ええ、ドス……いえ、かみさま」
ゆっくりぱちゅりーは、ドスを見上げつつ、言った。
「ゆゆぅ……ドスでいいよ」
「むきゅ、もうあなたはかみさまなのよ、ケジメはつけないと」
「ゆぅ、ぱちぇがそう言うなら」
そう言って、元ドスまりさ……今は、誕生したばかりの「ゆっくりの神様」は頷いた。
生前、とても優秀な群れの長だったドスまりさは、死後、ゆっくりの神様となった。幼馴染で相談役だったぱちゅりーもまた、その眷属として一種の妖精に生まれ変わった。
ゆっくりが、ゆっくりを望みつつほとんどゆっくりできていないわけを、ドスは神様になったことで知った。
要するに、ゆっくりには神様はいなかったのだ。
でも、これからは違う。自分がゆっくり神様になった以上、もうゆっくりたちのゆっくりできない状態は終わりだ。
……と、意気込んだものの。
「ゆぅ、なにをすればいいのかな」
「むきゅう、なにをすればいいのかしら」
いったいなにをどうしたらいいのかわからない。他の神様はどんなことをしてるのだろうかと思って色々見学してみたら、みんなそれぞれの役割、実りを豊かにしたり、人の厄を取ってやったりに励んでいた。
「ゆっくりのかみさまのやくわりってなんだろう?」
「むきゅぅ」
つまりは、それがわからないから何をすればいいのかがわからないのである。
ゆっくりたちをゆっくりさせよう、とはまず真っ先に考えたのだが、その方法がわからないし、そもそもそれだけの力も無い。神様になったのだから、なにか凄いゆっくりできる能力が備わっているのかと思ったが、それも無い。優れたドスまりさであったゆっくり神様(以下、ゆ神)は、ゆっくりオーラ、ドススパークなどの能力を持っていたが、それも言ってしまえばドスまりさとしてのそれで神様ならではの、というものではない。
「むきゅ、わからないことは聞きましょう」
「ちぇんの口癖だったね、ゆっくり聞きに行こう」
ゆ神とその眷属は、妖怪の山の頂にある神社へ行った。
「そりゃ、信仰が無いからさ」
「ゆゆ? 信仰?」
先輩の神様が言うには、神というのは捧げられる信仰によって力も違ってくるところがあるそうだ。
神様に成り立てのゆ神は、誰にも信仰されていないから生前の能力とそう変わらないものしか持っていない。生命力がかなり上がってちょっとやそっとでは死なないぐらいだ。
「ゆゆぅ、どうすればいいのかな」
「まあ、信仰を得ることさ」
結局のところ、それしかないようだ。
色々と教えられたゆ神とその眷属ぱちゅりーは、早速それを試してみることにした。
まず信仰を得る対象であるが、これはゆっくりしか考えられないだろう。ゆっくり神を信仰すればゆっくりできる、という話をなんとかしてゆっくりたちの間に広める必要がある。
「むきゅ、それはまかせて」
そこで、ぱちゅりーが「神の使い」としてゆっくりたちの前に現れて、ゆっくり神というものがいること、それへ信仰を捧げるべきことを説くことにした。
ゆっくりの中から、特に賢い個体、その中でも群れの長などを勤めているものを選んで、ぱちゅりーから神の言葉を伝えた。
曰く――
ゆっくり神に信仰を捧げれば、ゆっくりできる。
ゆっくり神を信仰せず、冒涜するものはゆっくりできない。
ゆっくりたちは「信仰」というものを上手く理解できないようだったが、とにかく、自分たちがゆっくりできるのはゆっくり神様のおかげであり、ゆっくりできた時、それへ
「ゆっくりありがとう」
と、感謝するべきである、という程度には理解したようだ。
「ゆゆっ、なんだか力がわいてきたよ」
なんだか、内からわき上がる力にゆ神は嬉しそうに笑った。これが信仰を得た効果であろう。
「むきゅ、それじゃ、そろそろ」
「そうだね、ゆっくりきせきをおこすよ!」
「むきゅ! れいの群れに、れみりゃがたくさん向かってるわ」
やがて、待ちに待っていた時が来た。以前から、群れの長のぱちゅりーの指示の元、群れ全体を上げて毎日ゆ神様へのお供えを捧げていた特に敬虔な群れがれみりゃたちに襲われるというのだ。
「うー! あまあまたくさん!」
「ゆわあああ! れみりゃだああああ!」
「たちゅけてええええ!」
「おきゃーしゃーん!」
「おちびちゃん、おくちのなかに!」
阿鼻叫喚。
「うー!」
「ゆぴゃあ!」
とうとう、逃げ遅れた子れいむが最初の餌食になろうとしたその時、
「がみざま! おぢびちゃんがだずげでええええ!」
赤ちゃんたちを口の中に入れていたために、子れいむを助けに行けない母れいむが叫んだ。
「うー!」
子れいむに噛み付こうとしていたれみりゃが、見えない何かに弾かれたように、勝手に後ろに飛ばされていく。
「う? う? うー?」
他のれみりゃたちも続々と子れいむに襲い掛かるも、結果は同じ、子れいむは、まるで見えない壁にでも守られているかのようだった。
――ゆっくり帰れ。
厳かな声が、上の方から聞こえてきた。
しかし、れみりゃたちはその声の主がどこにいるのかわからぬことを怪訝に思いながらも、そんなにおつむがよろしくないので、とにかく視界に入っているゆっくりを捕食することにした。先ほどの子れいむにはどうしても近づけないので、別の子れいむへ。
――帰らないなら、こうだよ!
またもや、天からの声。
次の瞬間、太い光の棒が空から降ってきて、子れいむに襲い掛かろうとしていたれみりゃを直撃。れみりゃは塵一つ残さずに消え去り、その近くにいたれみりゃたちは体の一部を削り取られてしまい、痛みに泣き叫んだ。
――ゆっくり帰れ。
れみりゃたちは、その声が届くか届かぬかという時に、一目散に逃げ出していた。
「ゆゆ、助かったよ」
「ゆわーい、れいむー!」
「まりしゃー!」
喜び合うゆっくりたち。長のぱちゅりーは、空を見上げながら確信していた。ゆっくり神様がゆっくりしないで助けてくれたのだと。
「むきゅ、みんな、これはかみさまのおかげよ。まいにちおそなえものをしておいのりをしていたおかげよ」
そのぱちゅりーの言葉に、群れのゆっくりたちは空へ向かって、
「かみさま! ゆっくりありがとう!」
と、叫ぶのであった。
「ゆっゆっ、どんどん力がわいてくるよ」
ゆ神は、広がる信仰に比例して力を得て喜んでいた。これで、ますます多くのゆっくりをゆっくりさせることができる。
しかし、もちろん全てのゆっくりがかみさまを信仰しているわけではない。
「まりさがゆっくりできるのは、狩りが得意だからなのぜ。かみさまのおかげだなんてうそっぱちなのぜ」
「かみさま? なにそれ? おいしいの? べつにかみさまなんかいなくても、ゆっくりできてるよ」
どうしても、かみさまを信仰しないものもいたが、これはしょうがないことである。人間でも、全ての者が神を信仰しているわけではないのだ。
しかし、あまりにも不信心で、自らが信仰しないだけならともかく、神様を信仰している他のゆっくりを馬鹿にしたり暴力を振るったりするものは――
「ゆっへっへ、いらないのならまりささまがいただくのぜ!」
「ゆゆっ、それはかみさまへのおそなえものだよ、たべちゃだめだよ!」
「げらげらげら! かみさまなんていないのぜ。馬鹿なれいむはゆっくりしね!」
「ゆわわわっ、いたいよぉぉぉ」
「むーしゃむーしゃ、しあわ……ゆぎゃああああああ」
「ゆ! おそなえものをたべたまりさが潰れちゃったよ!」
「むきゅ、これはしんばつね」
「長! しんばつってなぁに?」
「かみさまを信仰しないゲスなゆっくりを、かみさまがこらしめることよ」
容赦なく、神罰を加えた。これにより、ゆ神への信仰はますます増していった。
だが、その一方で、その行為はそれまで保たれていたバランスを崩すことであることに、ゆ神も眷属ぱちゅりーも気付いてはいなかったのである。
「ようやく捕まえたぞ!」
「うー! うー!」
とある農夫が、ゆっくりれみりゃをその手に掴んでいた。捕食種に分類されるれみりゃも、大人の人間に捕まっては逃げられるものではない。
「おい、なんで畑の野菜を取ろうとしたんだ。お前らはゆっくりを食べていたはずだろう」
農夫は、れみりゃを潰したりせずに尋問を始めた。
最近、れみりゃやふらんなどの捕食種が畑にやってくるようになったのだ。人間たちは、そんなことは想像していなかったので、地面を跳ねる通常種への対策しかしていなかったために、飛行する捕食種たちには罠などが全く役に立たずに甚大な被害を受けてしまっていた。
夜通しで畑の番をすることで、れみりゃたちが畑を襲っていることはわかったものの、なぜそんなことになるのかはわからない。
れみりゃやふらんは、通常種にとっては恐ろしい存在であったが、ゆっくりの餡子を食べて満足し、畑の野菜などには手を出さないことから、人間たちからはゆっくりを自然に駆除してくれる存在と認識されていた。
「うー! れみりゃをはなすんだどぉー」
「質問に答えたら離してやる」
「うー! れみりゃはおやさいきらいだどぉ、にがいんだどぉ」
「だったらなんでわざわざ畑を襲ったんだ」
「うー……あまあまをたべようとすると、じゃまされるんだどぉ、そらからぴかーってくるんだどぉ、こわいんだどぉ」
「……なんだ、そりゃあ」
よくわからないが、とりあえずその農夫はれみりゃが言っていたことをまとめて里長に報告した。すると、他にもれみりゃやふらんから聞き出した報告が上がってきており、それと似通った話であることがわかった。
捕食種が通常種を食べようとすると、どこからともなくそれを制止する声がして、かまわずに捕食しようとすると、空から光が降ってきて殺されてしまう。それで仕方なく、畑を襲うようになったのだという。
「空からの光といったら、もうこれは人間業じゃあねえ、天狗の仕業に違いねえ」
「天狗なら、事情を話せば止めてくれるかもしんねえな。そもそもなんでゆっくりなんぞ助けてるのがわからんが」
そういうわけで、なんか天狗がやらかしたのだろうという結論に達した人間たちは、天狗の中でも新聞販売を通じて人間に対しては友好的な一派に相談してみることにした。
「その件なら、うちでも調査中です。少なくとも天狗の仕業じゃないですねえ」
「それなら他の妖怪か。わざわざゆっくりを助けて回る神様はおらんじゃろうしなあ」
「調査中ですんで、ちょっと待ってください。……で、三ヶ月だけ、三ヶ月だけとってみませんか?」
しょうがないので、里長をはじめとして何軒かの家で「文文。新聞」を購読することにして、続報を待った。
一週間ほどすると、天狗が情報を報せてきた。新聞の「号外」という形で、
「この号外は新聞をとってる方へのみお配りしています。いやぁーよかったですねえ、新聞とってて」
その号外には、例の通常種ゆっくりを捕食種から守る謎の光が特集されており、どうやら新しく神様になった元ドスまりさのゆっくり神様の仕業であるらしい、と書かれていた。
「まさか、神様だとは……」
「いくらゆっくりといっても、神様が相手じゃあどうにもなんねえ」
「れみりゃもふらんも飛べるからのう、今までの柵や罠じゃ意味が無い。畑全体に網をかけるなんぞ、とても無理じゃし、どうしたら……」
「のう……ここはわしらも神頼みしかないんじゃなかろうかの」
その、特集記事の隅っこに、広告が出ていた。
「守矢神社 信仰募集中」
と、書かれている。配置にあからさまに意図的なものを感じるが、溺れる者はなんとやら、本当にこの問題を解決してくれるのならば信仰してもよかろうと思った本来信心深い幻想郷の人間たちは、最近山頂にできた神社へと持ち込むことにした。
白狼天狗に案内されて守矢神社へ到着した人々は、事情を訴えた。その神社の巫女(正式には風祝という)が請け負ったために、喜んで帰っていった。
「くっくっくっ、来たねえ。よし、あれを実行に移すよ」
「あーうー、もともとバランスを回復するために準備は整ってたのに……ワルだねぇ」
「よう、忙しいとこ悪いね」
「ゆゆ、忙しいから、できるだけ早くしてね」
その日、ゆ神は、先輩の神様に呼び付けられて、山頂の神社へとやってきていた。
「随分、頑張ってるようだね」
「ゆゆん、信仰もだいぶ集まってきたよ」
以前、まだ信仰が一切得られていない状態のゆ神とは明らかに放つオーラが違っていた。
「しかし、そのおかげで、れみりゃとかふらんとかは困ってるみたいだぞ」
それに冷水を浴びせる神様の声。
「ゆゆゆ、でも、それはしょうがないよ」
「……お前は、ゆっくりの神様ではなかったようだな」
あっさりと言い切ったゆ神に、神様はどこか冷淡な表情で言った。
「ゆゆ! せんぱいの神様でも今の言葉は許さないよ!」
「言い直そう。お前は、れいむやまりさなどの通常種ゆっくりの神様だ」
「わ、わかってるならいいけど」
「しかし、そのおかげでバランスが崩れているんだよ」
神様は、ゆ神に、人間からの訴えを伝えた。
「ゆゆぅ……でも、それはしょうがないよ」
と、ゆ神が多少は躊躇いつつも言った。
「うん、やはりお前は、通常種ゆっくりの神様だ」
「ゆっ! 別に、それでいいよ。忙しいからそろそろ帰っていいかな?」
「別に非難してるわけじゃない。若い神ってのは、荒々しいもんさ。しかし、このままではバランスが崩れっぱなしになる。だから、新しい神様を用意した」
「ゆ? 新しいかみさま?」
「おい、出てこい」
その声に応じて、神社の境内に現れたのは――
「ふ、ふ、ふ、ふらんだぁぁぁぁぁ!」
思わず、ゆ神は叫んでしまった。
神になる以前、ドスまりさになった時に、ふらんへの恐怖はなくなっていた。ドスになってしまえば、もはやれみりゃやふらんは単体では敵ではないからだ。しかし、今、ゆ神は声を限りに叫んでいた。
なぜなら、そのふらんが、自分と同じぐらいに多きかったからである。
「うー! ふらんかみさまー」
「ゆ、ゆ、ゆ、なんなの、そのでっかいふらんは!」
「むきゅきゅきゅきゅ」
それでも、ゆ神はまだしも、眷属ぱちゅりーなどは卒倒しそうになっている。
「こいつは生前、ふらん種の中でも相当な強さでね、今度、捕食種ゆっくりの神様になったから、まあ、仲良くやっとくれ」
「うー、だんまくごっこ!」
と、言いつつ、体当たりするでっかいふらん(以下、ふらん神)
「ゆゆゆゆっ! 負けないよ!」
ゆ神も反撃する。必殺のドススパーク。神様になり信仰が集まってからはさらに威力を増したファイナルドススパークだ。
「うー!」
ふらんの動きが止まる。
「ゆふん、やったね」
「うー!」
しかし、光が収まると、ふらんは元気一杯に突っ込んできた。
「ゆぅ……なんでスパークがきがないのおおお」
「ボムで削り殺されるEXボスはいないねえ」
「ゆぅぅぅ、なに言っでるのがわがら゛ないよ゛ぉぉぉぉ」
しょうがないので、ゆ神も体当たりで受けて立った。二柱のゆっくり神様の戦いは、さすがに既に信仰を得ているゆ神が勝利した。
「うー、おぼえてろー」
ふらん神はよろよろ飛んで逃げていったが、ゆ神の方も大ダメージを受けていた。スパークが効かないために肉弾戦をせざるを得なかった結果である。
神様なので、怪我はすぐに治ったのだが、それからは、捕食種からゆっくりたちを助けようとすると、必ずふらん神が邪魔しに来るようになった。
追い払えても、それまでにゆっくりたちが捕食されてしまう。このままでは神様の権威に傷が付き、信仰が減ってしまうかもしれない。
そのうちに、ふらん神を追い払うのがどんどん困難になっていき、遂には負けてしまうようになった。
「うー! ふぉーおぶあかいんど」
「ふ、ふらんが増えたぁぁぁぁぁ!」
「うー、ゆっくりしね!」
「うー、ゆっくりしね!」
「うー、ゆっくりしね!」
「うー、ゆっくりしね!」
もう、ボッコボコである。このふぉーおぶあかいんどという四体に増える技をふらんが使うようになってから、ゆ神の勝率が激減、それに伴って捕食されるゆっくりたちは激増した。
「かみさまなんていないのぜ! そのしょーこに、れいむの家族はれみりゃに食べられちゃったのぜ」
「ゆゆぅ……そうなのかも。おとーさんもおかーさんも、まいにちかみさまにおそなえしてたのに……」
そうなると、それまでの信仰を捨てるものが現れるのも致し方ないことであった。
「ゆぅ、あのふらん、どんどん強くなるよ」
「どうしてかしら、れみりゃやふらんは、通常種に比べたら数は少ないはずよ」
それならば得られる信仰はどうしたってこっちのほうが多くなるはず。いかに、ふらん神が生前の力を反映した強い神様であったとしても、神様である以上は、信仰をたくさん得たゆ神には勝てないはずなのだ。
「どうもどうも、清く正しい新聞拡張員でございます」
悩んでいると、天狗が訪ねてきた。
「お悩みの件についてはこちらで調査がついてます。今日の一面に載っていますよ。とりあえず三ヶ月とってみませんか」
どうやら、話を聞かれていたらしく、足元見るにも程がある商談をふっかけてきた。仕方ないので購読することにし、早速その今日の一面とやらを見てみた。
「ゆゆっ、なにこれ!」
「むきゅ、な、なんで人間がふらんを……」
記事の内容は、最近、人里でゆっくりふらんの形をした神様なんだか妖怪なんだかよくわからないものを祭り上げるお祭りがあったとのことであった。
一体どこからそういう話が出てきたものか、ゆっくりによる畑の被害を抑える効果があるということになっているようだ。
すわ、何事ぞ、とやってきた博霊の巫女は、祭りの特別顧問におさまっていた守矢神社の風祝に説明を受け「あんたら、マメね」と言い残してさっさと帰宅。
「なぜ、妹様が祭られているのかしら。そもそも、限られた者しか存在を知らないはずなのに」
と、噂を聞きつけやってきた紅魔館のメイド長もまた、特別顧問というかそもそもそっち方面の担当な風祝に説明を受けて納得して帰っていった。
祭りの評判は悪くなく、継続的に行われる見通しが立っているとのこと。
このふらん神様に捧げる破壊の儀式は荒々しいもので、各家から持ち寄ったもういらないので壊そうとしていた家具やらなにやらを「うー! ゆっくりしね!」と叫びながら破壊する。その際、より狂的にするのが神様の心にかなうものとされ、酒を飲んだ里人たちがその周りでやはり「うー! ゆっくりしね!」と囃し立てるその光景はかなり凄まじいものだったらしい。
しかし、特別顧問によると、神様を祭るにはそういった荒々しさも必要で、近いうちに守矢神社で御柱祭をやるというのを散々宣伝していった。
「ゆゆゆゆ、人間がふらんを信仰するだなんて」
「むきゅきゅ、ありえないわ」
と、ゆ神と眷属は信じられぬ面持ちだが、人間の信仰というのは融通無碍なもので、鼠の被害を減らすために猫の神様を祭り上げたり、御利益があると思えばなんでも信仰するものなのである。他にも、祭り上げておかないと災厄をもたらすそもそも神様なんだかよくわからない存在をも神様に祭り上げてしまうこともある。
「あーうー、信仰しないと祟っちゃうぞ、あーうー」
とか言う祟り神などがその例であろう。
「ゆっくり狩りからかえったよ!」
「おかえり、まりさ、どうだった?」
「たーくさんとれたよ、みんなでむーしゃむーしゃしようね!」
「ゆわーい、おとーしゃん、しゅごーい」
「むーちゃむーちゃ、しよーにぇ」
「ゆっゆっ、おいしちょーなきのみしゃんだよー」
楽しそうなゆっくり一家の団欒風景。
「むーしゃむーしゃ、しあわせー」
「むーちゃむーちゃ、ちあわちぇー」
しあわせ一杯の笑顔また笑顔。
最近よく見られるようになった食事の前の「おそなえ」をこの一家は行っていない。かみさまを信仰していないのだ。かといって、信仰している他のゆっくりを馬鹿にしたりはしておらず、かみさまを信仰するゆっくりの友達もいる。
みんなでむーしゃむーしゃしているその時、その団欒をぶち壊す音がした。巣の入り口を塞いだ枝やら葉っぱやらが、外側からの力に押されておうちの中に飛び込んでくる。
人間の襲撃――
それに思い当たって、まりさたちは恐怖に震えた。おうちにいるところを人間に襲われて逃げられる例は極めて少ない。
「ゆっ」
だが、その予想は外れ、姿を見せたのはゆっくりであった。しかも、友達のれいむとまりさである。
「ゆゆっ、どうしたの。ゆっくりせつめいしてね」
友達と言っても、尋常ではない訪問に、まりさはゆっくり怒っていた。
「ゆ……そのゆっくりたちはだれ?」
ぞろぞろと、ゆっくりたちが入ってくる。れいむとまりさ以外に、知らないゆっくりがいるのを見て、まりさは不安げに聞いた。
「……おまえたちは、かみさまを信仰しない悪いゆっくりなんだぜ」
いきなり、見たことがないまりさが言った。
「ゆゆゆ、そ、そんなのまりさたちのかってだよ」
と、言いつつ友達のまりさを見る。このまりさや一緒にいる友達のれいむは熱心に神様を信仰しているが、信仰するかしないかはそれぞれの自由であると言って、まりさ一家とも普通に付き合っていた。当然、信仰しないから悪いゆっくりだ、などという言葉を聞いたこともない。
「……」
「ゆぅ……」
しかし、なんだか友達のまりさとれいむの態度が冷淡であった。
「長に、おつげがあったんだぜ。最近、れみりゃやふらんにやられるゆっくりが増えたのは、お前らみたいにふしんじんなゆっくりのせいで、かみさまの力が弱くなったからなんだぜ」
「ゆ? なにをいっているの? そんなのまりさたちは知らないよ」
「おい」
「みょん」
口に先を尖らせた棒をくわえたゆっくりみょんが前に出てきた。
「ゆっ! なにをするの! 変なことしたらゆるさないよ!」
「おちびちゃんたち、おかあさんのおくちにはいってね!」
父まりさが家族を守るように前に出、母れいむは子供たちを口中へと誘う。
「ゆっくりやれ!」
「みょん!」
どうやらリーダーらしいまりさが言うと、みょんは躊躇うことなく、棒を父まりさの眉間に突き立てた。
「ゆぎゃ!」
「ま、まりさぁ!」
「つれていくんだぜ」
眉間に刺さった棒を引っ張られ、父まりさが泣きながら跳ねていく。棒を真っ直ぐにではなく、少し斜めに引っ張られているので、そうしないと激痛が襲ってくるのだ。
「お前らもだぜ」
口の中に子供を三匹入れて頬を膨らました母れいむも、体当たりをされ、棒で叩かれて周りを囲まれ、後ろから尖った棒で追い立てられておうちから出されてしまった。
「ゆひぃ、ゆひぃ」
父まりさは、必死になって飛び跳ねるのに精一杯で話すことができない。
「まりさ、れいむ、どぼしてごんなごとずるの? どぼして?」
母れいむは、友達だと思っていたまりさとれいむに涙ながらに訴えるが、それが聞き入れられることはなかった。
やがて、近くの群れへと到着した。ここは友達――だったはずのまりさとれいむが所属している群れで、ゆっくり神様を信仰していたが、排他的ではなく、信仰をしないために群れには入っていなかった一家とも友好的に付き合っていた――はずの群れであった。
「ゆあああああ」
群れの集会場の広場。そこは地獄になっていた。
何匹ものゆっくりたちが、ゆっくりできなくなっていた。串刺しにされているもの、真っ二つに割られているもの、ぺしゃんこに潰されている子供たち。
「ひ、ひどずぎるぅ、どぼじでごんなごとずるのぉぉぉぉぉ」
「こいつらは、かみさまを信仰しないふしんじんゆっくりだからだぜ。お前たちも、こうなるんだぜ。かわいそうだけど、しょうがないんだぜ」
リーダーまりさが冷徹に告げる。
「ゆわぁ! あ、ありす! ありすぅぅぅぅ!」
棒で刺されてから、黙っていた父まりさが、振り絞るような声を出した。母れいむがその視線の先を追うと……
「あ、ありすがぁぁぁ! ど、どぼしてえええ」
そこには、友達のありすの無残な骸が転がっていた。目はえぐりぬかれていて空ろな穴になってしまっている。
「どぼじて、どぼじておなじむれのありずまで……」
「そいつは、お前らにしんばつするのにはんたいしたからそうなったんだぜ」
「そ、そんなぁぁぁ」
ありすは、両目を抉り取られても、信仰はそれぞれが自由にするもので、したくないものへ押し付けてはいけない、などとふしんじんなことを言っていたために、殺されたのだという。
「まったく、ゆっくりしてないありすだったんだぜ、ともだちだと思ってたのに」
「そうだね、ゆっくりはんせいしないありすだったから、しょうがないよ」
と、得意そうに言うのは、友達だと思っていたまりさとれいむ。彼女たちは、自ら曰く「間違った信仰の仕方をゆっくり反省した」らしい。
嘆き悲しんでいるのも、それが自分たちに降りかかるまでであった。とうとう、かみさまを信仰はしていないものの、真面目にゆっくり生きてきたゆっくり一家は、不信心の罪により処刑されてしまった。
「ゆぁぁぁ! でいぶと、でいぶとおちびだぢだげはぁぁぁぁ!」
父まりさは、目の前で家族が死ぬのを見せ付けられた後に串刺しにされた。
「んー、んー、んー」
母れいむは、子供たちを守るために固く口を閉じていたが、おかまいなしに頬を刺されまくり、頭を棒で叩かれて遂に死んでしまった。
「おきゃーしゃーん」
「おちょーしゃん、たちゅけちぇぇぇ」
「いぢゃいよ、れいみゅ、じにだくないぃぃぃ」
子供たちは、母の死後に口の中から取り出されて、一匹ずつ石で打たれ潰された。
それをやるゆっくりたちは、皆一様に真面目な顔をして、
「ゆっくりかみさま、ゆっくりおるゆしください」
「ふしんじんものをころします。ゆっくりさせてください」
と、口々にそんな言葉を唱えていた。
「ゆぅ……」
「かみさま、しょうがないことなのよ」
沈んだ表情のゆ神を慰める眷属ぱちゅりー。
先日、ぱちゅりーは、以前から特に信仰のあついことで目をかけていた群れの長の所へ再び神の使いとして舞い降り「ごしんたく」を授けて来たのである。
ゆっくりをゆっくりさせまいとする、あくまが現れた。ゆっくりたちがもっとゆっくり神様を信仰しないと、そのあくまを押さえることができない。もっともっと信仰せよ。信仰しないものは……永遠にゆっくりさせてあげなさい。それは、わるいことではなく、そのゆっくりたちのためなのだ。
それが招いた結果が、敬虔で真面目な信徒たちによる、ゲスもそうでないゆっくりも、まとめて「信仰しているか否か」でくくって永遠にゆっくりさせる行為である。
しかし、眷属ぱちゅりーは嘘をついた、とは思っていない。実際に、それにより信仰をするゆっくりが増えれば、ゆ神の力が増え、ふらん神を止めることができるようになる。
しょうがない。しょうがない。より多くのゆっくりをゆっくりさせるためだから、しょうがない。せめて、それからは目をそらすまい。
だから、ゆ神とその眷属は自分たちの行動が招いた結果を見続ける。
「たちゅけてぇぇぇ、たちゅけてぇぇぇ!」
「この子たちは、もうふしんじんが餡子にしみこんでいるので助けることは無理なんだぜ」
「おねえしゃんたちをいじめりゅにゃあああ!」
「この赤ちゃんたちは、まだ今から教えれば間に合うんだぜ。……ただし、かみさまへのわるくちを言ったら、ころすんだぜ」
「にゃ、にゃにがかみちゃまにゃの! まりしゃたちをゆっきゅちさせにゃいかみちゃまなんていらにゃいよ!」
「まりしゃのいうとおりだよ!」
「いらにゃいよ! いらにゃいよ!」
「かみちゃまなんて、いらにゃいよ!」
「……ざんねんなんだぜ、この赤ちゃんたちも……」
本当に残念そうに言ったそのまりさが促すと、周りにいたゆっくりたちが、その子ゆっくりと赤ゆっくりたちをぐいぐいと押しやった。その先には、大きな穴が空いていてそこには既に事切れた子ゆっくりたちの親ゆっくりがいた。
「おちょーしゃん、たしゅけて!」
「おきゃーしゃん、おくちにいれちぇぇぇ」
「みゃみゃあ、みゃみゃああああ!」
死んでいるのがわからないのか、一斉に助けを求める子供たち。
「よし、やるんだぜ」
「ゆっ!」
ゆっくりたちが、飛び上がって子供たちを上から潰す。潰された子ゆっくりたちは別のゆっくりがくわえて引っ張っていき、まだ死んでいないものは、そこでまた念入りに潰される。そして、完全に死んだことが確認されると、次々に穴に投げ込まれていった。
「ゆっくりかみさま、ふしんじんなゆっくりはころしました。ゆっくりおゆるしください」
「ゆっくりおまもりください」
「ゆっくりさせてください」
信仰が集まってくる。
力が沸いて来る。
これなら、ふらん神にも勝てる。
そう思いながら、ゆっくり神様は泣いていた。
ゆっくり神様は、ゆっくりをゆっくりさせないゆっくり悪魔と戦っている。みんなが信仰をしている時は、神様は悪魔に勝ち、ゆっくりを守ってくれる。しかし、信仰が廃れれば悪魔がはびこって、ゆっくりできなくなってしまう。
ゆっくり神様へ信仰を捧げなさい。
ゆっくり神様を信仰しないものは、永遠にゆっくりさせてあげなさい。
「むきゅぅ」
二度も神の使いからお告げを受けた群長ぱちゅりーは、近付く死を悟ってから書き記した文章を眺めて、満足そうにしていた。ゆっくりだけに実際は全てひらがなで書かれている。
短い文章だが、これだけのものを書くにもゆっくりはひどい苦労をする。頭のいいぱちゅりーだからできたことであろう。
これは、神の使いからのお告げをほぼそのまま文章にしたもので、これを群れに伝えていくために書き残そうと思い立ったのだ。
「ゆぴぃぃぃぃ、やめちぇぇぇ」
「たちゅけちぇぇぇ」
表から、悲鳴が聞こえてきたが、長ぱちゅりーは表情を動かさない。既に聞き慣れた声だからだ。
表では、群れのゆっくりたちが、捕らえてきたふしんじんなゆっくりの子供を永遠にゆっくりさせていた。親は発見した場所で殺されていて、持ち運び易い子ゆっくりを連れてきたのである。
「かみさまをしんじないふしんじんゆっくりめ、ゆっくりしね!」
「げらげらげら、かみさまはおまえらにおいかりなのぜ。ゆっくりしね!」
「おちびたちも、そのいちばんちいさいやつをゆっくりさせてあげるんだぜ」
「ゆゆ、よーち」
「ゆっくちちね! ふちんじんゆっくちめ!」
「ゆゆん、そのちょーしそのちょーし」
若い連中が小さい子供たちをけしかけている。
長ぱちゅりーは、率直に言って、例えふしんじんゆっくりとはいえ、同じゆっくりを殺すのを楽しむような若者たちには嫌悪感を覚えざるを得ない。自分たちの頃は、心を鬼にしつつも、その鬼と化した心のどこかに、罪悪感があったものだ。
しかし、それすらも、ふしんじんなのではないか、とも長ぱちゅりーは思うのだ。
あの、躊躇い無く信仰しないゆっくりを殺す若者たちの姿こそ、ゆっくり神様の御心にかなうものなのではないか、と。
「ゆあああああ、悲しみを背負っていないおまえには負けないよ!」
「うー、ゆっくりしね! ゆっくりしね!」
「信仰を得るために、どれだけ涙を飲んだか……教えてあげるよ!」
「うー、ふぉーおぶあかいんど」
「ゆゆゆっ!」
「うー、ゆっくりしね!」
「うー、ゆっくりしね!」
「うー、ゆっくりしね!」
「うー、ゆっくりしね!」
「ゆべ、ゆび、ゆぎ、やっぱりぞれ、ずるい゛よ゛ぉぉぉぉぉ!」
そして、今日もゆっくり神様たちの戦いは続いている。
終わり
リアルに仕事中に「ゆっゆっ」とか言ってしまって困っています。
この趣味がばれたら、わしの人生おしまいじゃ。ゆっゆっ。
作品がけっこうたまってきたんで、今まで書いたものリスト作りました。
2704~2708 死ぬことと見つけたり
2727 人間様の都合
2853・2854 捕食種まりさ
最終更新:2022年05月19日 13:55