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その日、都内のとある一軒家で、余りに哀しい闘いが勃発していた。

「これはれいむのおやつだよ!」
「うっせー! 半分くらいよこせ!」

そのゆっくりれいむと少年は、一つのケーキが乗った皿を必死に取り
あっていた。饅頭相手に必死になっている少年は、人としてのプライ
ドなど欠片も見て取れない、あまりに哀れな姿をしていた。

「前から思ってたんだがお前の顔むかつくんだよ!」
「ゆがー!」

そしてとうとうケーキの皿を巡っての諍いはとうとう殴り合いの喧嘩
にまでハッテンしてしまった。

「ふっ!」

少年は膝を落とし、片手を床につけて右足を軸に、床の上を薙ぎ払う
ような低空の回し蹴りを放つ。れいむはニヒルな笑みを浮かべながら
その場で軽く跳躍し、蹴りを避わす。少年は舌打ちをしながら蹴り脚
を引き――

「なっ?!」

その脚にもみ上げを絡みつかせ、足を引き戻す勢いを利用して一気に
距離を詰めてきたれいむの姿を見て驚愕の声を上げた。
少年は慌てて床につけていた手を戻し、その場に尻餅をつきながらも
れいむを押し戻すように顔面目掛けて掌低染みた平手打ちを入れる。

「ゆぶぅ!」

さすがに空中では避ける事ができず、れいむの顔面から小気味のいい
音がし――同時に、少年の全身に稲妻が走るような鋭い痛みが襲った。

「?! ッ、ァ……?!」

肺が引き攣り、呼吸すら満足に行えず、少年は床に投げ出される。
横たわる少年の目に入ったもの。それは、れいむのもみあげが少年の
掌の一箇所をほんの軽く押さえて、ニヤニヤと笑っているその姿だっ
た。
人体の経絡を用いた骨子術。非力なゆっくりであるれいむが人と対等
に戦うために得た技術である。

「ぐーりぐーり」
「アヒッアヒィィイ! 痛ァィィィィィィ!!」

赤子の手を捻るように少年の未熟な体を弄ぶれいむ。少年はただ不規
則に訪れる苦痛に喘ぐばかりであった。
もみあげで少年の体をつつくれいむ。
口から泡を噴きながら虚ろな目で叫ぶ少年。
それを見下ろしながらドン引きしている少年の友人。
……………………。
少年は痛む身体にムチ打って、首をぐりんと横に曲げた。

「助けろ!」

そして渾身の力を振り絞って叫ぶ。少年の友人は一瞬だけ凄まじく嫌
そうな表情を浮かべてから、勝ち誇った顔のれいむにそっと脚を添え
て優しく転がすように蹴りつけた。

「ゆぅー?!」

れいむは困惑し蹴られた勢いのまま横に転がり、そのまま隣の部屋ま
で転がっていった。
少年はびくんびくんと痙攣する体に鞭打って、友人に微笑みかける。

「フッ、助かったぜ」
「きめぇ」
「ゆぅー! どうしてじゃまするのー?!」

と、そこへ先程向こうまで転がっていった。れいむが怒りながら戻っ
て来る。少年はヒェエと上ずった悲鳴を上げ、友人の体を盾にする。

「待てれいむ! 暴力で物事を解決するなんていけない事だぞ!」
「ゆ?! だっておにいさんがさきにてをだしてきたんで……」
「暴力は何も解決しない! ただ新たな争いを生むだけだ!なのにど
うしてお前はそうやって戦う事ばかり考えるんだ」
「だっておにいさんがさきに……」
「馬鹿! 馬鹿! あんこ! 志半ばに死んでしまったまりさの最期
の言葉を思い出せ!」

少年がそう言うと、れいむがハッと目を覚ましたような顔をする。
同時に、少年の脳裏にもあの時の情景が想起されていた……








『おにいさん? れいむ? じょ、じょうだんなんだぜ? まりさは
たべられないんだぜ? だ、だが……だがら……ぞんなめでみるのは
やべるんだぜぇーーーーー?!』








「死んでいったまりさのためにも、暴力を振るうのはやめるんだ」
「ゆぅ、れいむがわるかったよ」
「れいむ……」
「おにいさん……」

そして熱く握手を交わす二人。人間とゆっくりという異種族間に生ま
れた奇妙な友情を、友人は冷めた目で見下していた。

「というわけで、ここは一つ平和的にじゃんけんで勝負して買った方
がケーキを手に入れる事にしよう」
「だからそもそもそれはれいむのけーき……」
「馬鹿! まだそんな事を言っているのか! 死んだまりさがその日
の朝に言っていた事を思い出せ!」

れいむの身勝手な主張を聞いた少年は瞳を涙で滲ませながらそう叫ん
だ。少年とれいむの胸中にあの日のまりさの記憶が蘇る。






『もう! どこをたべたらいちばんおいしいのかなんてそんなぶらっ
くなじょーくはやめるんだぜ! えっ、じょーくじゃない? だから
そんなぶらっくなじょーくはゆっくりできないんだぜ!』






「まりさのあの言葉に報いる為にも、そんな我侭を言っててはいけな
いんだ!」
「ゆぅ、しかたないからじゃんけんでしょうぶするよ」

こうして解りあった二人は固く握手を結び、友人は適当な所にタンを
吐き捨てた。
こうして二人のじゃんけん対決が始まった。手の無いれいむには代わ
りにグー、チョキ、パーの絵が描かれた三枚の札が渡されている。最
初は両面に絵がかかれたものを使わせようとしたが、れいむから「そ
れじゃおにいさんにだすのがばれちゃうよ!」との指摘があったため
片面だけに絵が書かれた物を、絵が描かれた面を下にして使う事にな
った。
にらみ合い、熱く火花を散らす二人。
そして、

「「じゃーんけーん」」

声をあげ、れいむが床に置かれた絵札を咥え、少年が高々と拳を振り
上げ――
一瞬の後、二人の勝負手が相対した。

「ちょき!」
「ジャッカルゥッ!」


…………



「ゆ、ゆ?」

れいむは、その見た事の無い異様な手の形(どことなく犬に似たよう
にも見えなくはないかもしれない形。じゃんけんにも関わらず何故か
両手を使っている)に戸惑い、思わず口から絵札を落とした。少年は
そんなれいむを見下ろして勝ち誇った表情を浮かべている。

「なにそれ? ゆっくりせつめいしてね?」

少年の顔色を見て不安になったれいむがそう問いかける。少年は一度
ふんっと鼻を鳴らすと、後方に控えていた友人に目配せをしてから口
を開く。

「ジャッカルはチョキの五倍の威力があるんだ!」
「あぁ。パーはもちろんチョキもひとたまりもないぞ!」
「どぼじでぞんなのがあるのーーー?!」

図解付きでノリノリで解説する二人を見上げながら、れいむは瞳に
涙を滲ませてそう叫んだ。そしてれいむのそんな姿を見下ろしながら
少年は底意地の悪い笑みを浮かべる。

「えーマジ? ジャッカル知らないの?」
「キモーイ」
「ジャッカル知らなくて許されるのは小学生までだよねー」
「ぞんなのじっでるわげないでじょーーー?!」

何故か女子校生チックな喋り口になる二人を見上げるれいむの慟哭が
響く。しかし時既に時間切れ、後のカーニバル。覆水は盆には帰ない。
少年はぶっぽるぎゃるぴるぎゃっぽっぱぁーっ! と歓喜の叫びを上
げながら、ケーキを掴み上げて言われなくてもスタコラサッサと走り
出す。

「ゆ゛ぁー! でいぶのげーぎざんもっでがないでねーーー?!」

慌ててそう請いながら走り出すが、二足歩行生物が全力で逃げるのを
追えるほどゆっくりの体は便利にはできてはいなかった。見る見るう
ちに距離を取られる。れいむは開けた差を必死に埋めようとあんよに
力を込めるが、無駄な力を入れすぎ、微妙なバランスを崩して盛大に
すっころんでしまう。
全身の痛みに鞭打ってすぐに起き上がるが、その時にはもう少年の姿
は見えなくなってしまっていた。

「ゆ゛ぅーーー!! ゆ゛ぁーーーーん!!!」

れいむはその場に蹲り、嗚咽を漏らしながら考える。
何故こんな事に。れいむはただゆっくりしたかっただけなのに。3ヶ
月前に貰って、ずっと取っておいたおとっときのけーきさんを食べて
ゆっくりしたかっただけなのに。
れいむはいくら考えてもどうしてこんな事になってしまったのか全然
わからないので……やがて考えるのをやめた。









その日の夜、少年は原因不明の食中毒に見舞われ病院送りになった。


おわり


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最終更新:2022年05月19日 14:57