3人の少年が、水の無くなった乾いた田んぼで遊んでいた。
年齢は3人とも8歳、まだあどけなさが残る顔立ちをしている。
彼らは里の寺子屋での学習を終え、家に帰る途中であった。

 「何かして遊ぼう」
 「何する?」

寺子屋での勉強の後は、気の合う友達同士で道草をして遊びながら帰るのが日課だった。
さきほどから田んぼの真ん中で鬼ごっこをしていたが、それも飽きた頃だ。

 「何か面白いことないかな?」

少年の1人が辺りを見渡す。
トンボでもいれば引きちぎって遊ぶというのに、あいにく何も空に飛んではいなかった。
では爆竹を詰め込むカエルはいないかな、少年が地面に目を移すと、田んぼの先にある森の入り口で動くものを発見した。

ゆっくりだ。

少年はすぐにその正体を見破った。

 「タケちゃん!シンちゃん!あそこあそこ!ゆっくりがいる!」

タケちゃんと呼ばれた少年と、シンちゃんと呼ばれた少年は、指差す先を見た。

 「おお!コウちゃんよく見つけたね!あれで遊ぼう!」

3人は遊ぶ対象を確認すると、暗黙の了解なのか、合図もせずにしのび足で森へと近づいていく。
森に近づいていくと、だんだんとゆっくりの姿が鮮明になっていく。

2匹のゆっくりがいる。
ゆっくり霊夢とゆっくり魔理沙、つがいのスタンダードな組み合わせだ。

3人は目でその事実を互いに確認すると、フォーメーションを展開した。
1人は大きく迂回しゆっくりの背後に回り、1人は正面からいつでも飛び込めるよう身を隠し、1人は逃げ道となりそうな場所をおさえた。

背後から近寄っていた、先ほどタケちゃんと呼ばれていた少年は、2匹の後頭部のすぐ手前までやってきた。

 (こんな近くにいるのに気が付かないなんてバカなやつらだなあ・・・)

思わず笑ってしまいそうになるのをぐっとこらえた。

ふと後頭部を見ると、ゆっくり霊夢の頭から茎が生えていた。
子供持ちのゆっくりは、まず逃げられない。
茎が折れて子供がダメになってしまうことを極端に恐れるためだ。

 (コウちゃん、こいつらは余裕だよ・・!)

タケは正面待機のコウに向かって手招きをした。
これは「いける」という合図だ。

それを見たコウは、ゆっくりと正面から2匹に近づいた。

 「2匹とも、ゆっくりしてる?」

ゆっくり2匹の注意が正面のコウに向く。

その一瞬を見逃さず、タケは勢いよく前方に飛び込み、ゆっくり魔理沙を押さえつけた。

 「ゆぐっ!?!?」
 「ゆっ!?ま、まりさっ!?」

ゆっくり霊夢がパートナーの異変に気が付くが、既にゆっくり魔理沙はタケの腕にがっちりと抱え込まれていた。

 「お前も捕まるんだよっ!」

コウがゆっくり霊夢を捕まえようと駆け寄るが、途中で速度を緩める。

 「なんだ、子持ちか。タケちゃんがそっち捕まえとけば逃げないね」

子持ちゆっくりは、パートナーがいないとエサを確保できない。
そのため、パートナーを確保されると母体を努めるゆっくりは逃げられないのである。
それに逃げるといっても茎を折らないようにゆっくり逃げるのだ、その速度はたかが知れている。

 「おーい、シンちゃーん!もう捕まえたよー!!」

2人が声を上げると、生い茂る草の中からシンが現れた。

 「なーんだ、子持ちだったのか。逃げ道封鎖は必要なかったね」

抱え込まれながらも暴れるゆっくり魔理沙と、困惑するゆっくり霊夢を見て落胆の声をシンは上げた。

 「必死で逃げるのをトッ捕まえるのが楽しいのに」

わきわきと指を動かすシン。

 「まあまあ、今日はコイツでカンシャクしようよ」
 「今日は負けねーぞ!コウ!」
 「俺だって、今日は負けないかんね」

頭の上で交わされる会話を理解できないのか、ゆっくり魔理沙とゆっくり霊夢は表情を曇らせた。



3人は2匹のゆっくりを森の入り口から連れ出し、農道の土の上に降ろした。

 「ゆっ!離してくれてありがとう!!まりさたちはゆっくりかえるね!」
 「れいむも帰るよ!ゆっくりさようなら!!」

2匹がそそくさと帰ろうとするので、タケはイタズラに使う道具袋から縄を取り出した。
その行動を見ていたシンがまりさを摘み上げる。

 「ゆっ?まりさ達はおウチに帰るんだからゆっくり離してね!」

そんな訴えも無視し、シンはまりさを逆さまにしてタケに突き出す。
タケはまりさの低部をつまみ、思い切り引っ張った。
まりさの表情を壊しながら皮が伸びる。

 「ゆっぎゅううう!!!いだいよおおおおお!!!」

気にすることなく、タケは伸びている底部を包むように縄を何重にも巻き、蝶結びをする。
まりさの底部だった部分は、全て縄に巻き込まれた。

これは少年達が近所のお兄さんに教えてもらった、ゆっくりの体を傷つけずに動きを封じる方法だ。
通常、ゆっくりの動きを封じるには箱に入れたり、底部をアルコールランプで炙るなどの方法が取られる。
しかし、箱はかさばって持ち運びに不便であり、火で炙る方法は確実であるが治すとなると時間がかかる。
その点、底部縄縛り法は縄一本でできる上に後遺症も少ない。

シンが縄縛りの完成を確認すると、まりさを乱雑に投げ落とした。

 「ゆぎゅっ!!」

まりさが顔から地面に落ち、妙な声を上げる。

 「ゆっ!まりさをイジめないでね!!!おにいさん達はゆっくりできない人だよ!!」

れいむが少し離れた位置から抗議する。
離れてはいるものの、逃げる気配はない。
パートナーを置いて逃げることはないのだ。

 「ゆっぐぅ!!もうおウチ帰る!!!」

そのパートナーが体を起こし、跳ねようとした。

 「ゆっ!?」

ころん、と転がるまりさ。
底部が縛られているため、飛び跳ねることはおろかバランスを保つことすら難しいのだ。

起き上がり、跳ねようとして倒れる。
そんなことを繰り返す姿は、まるで達磨のように見えた。

 「どうぢで飛べない゙の゙お゙ぉぉぉぉお゙お゙お゙!!!?!?」

縄は伸びた底部が戻ったときに巻き込まれ皮に食い込んでいるので、多少の動きではズレることすらない。

 「うるさい!」

タケが地面の砂を握ると、まりさの口にねじ込み無理矢理咀嚼させた。

 「ふん゙も゙っふぉお゙お゙おおおお!!!!」

吐き出そうとするのを押さえつけ、砂を次々に口内へと流し込む。
これで少しは静かになるだろう。
まりさの動きを封じたことを確認すると、コウがれいむを捕獲し、まりさの隣に置いた。

 「まりさを離してあげてね!!いまなら許してあげるよ!!!」

空気を含み、自身の体を大きくして威嚇するれいむ。
しかし、れいむの言うことなど気にもとめない3人は茎に実った赤ちゃんゆっくりを数え始めた。
いつ生れ落ちてもおかしくないプチトマトサイズが11匹。
れいむ種が5匹、まりさ種が6匹だ。

 「よし、カンシャク勝負だな!」

シンが茎に実った赤れいむを指でこすり始める。
目を閉じたまま、赤れいむはきゃっきゃと笑い始めた。

 「ゆ!れいむの赤ちゃんは可愛いでしょう!ゆっくり触らせてあげるからまりさを放してね!!」

指をさらにこする。
すると、赤れいむが地面に落ちた。

 「ゆっ!?れいむの赤ちゃんが生まれたよ!!まりさ!!見て!すごくゆっくりした赤ちゃんだよ!!」
 「ゆゅううう!!!足が痛いけど、すごく嬉しいよ!!!」

シンは、次の赤れいむを指でこする。
それもまたすぐに地面に落ち、シンはさらにもう1匹の赤れいむを落とした。

 「ほい、人数分」

生れ落ちた赤れいむは3匹。ちょうど1人1匹に割り当てられる。

 「ゆっくりしていってね!!!」
 「ゆっくりしていってね!!!」

2匹の親ゆっくりは、生れ落ちた赤れいむ達に必死に声を掛けている。
生れ落ちたものの、3匹はまだ第一声をあげていない。

その3匹を、3人の少年は1匹ずつ手に取った。

 「ゆ?いま赤ちゃんが起きるところだよ!ゆっくりやめてね!!はやく返してね!!!」

手のひらの上には、目を開きつつある新しい命があった。
それを軽く握り、少年達は固い地面の上に移動する。

 「じゃあいくぞ!カンシャク勝負!」

タカが声を上げ、3人は勢いよく腕を振り下ろした。

手から放たれたのは、まだ第一声もあげていない赤れいむ。
高速で投げ出された赤れいむは、踏み固められた土に叩きつけられ「パチっ!」と小気味の良い音を立てて破裂した。
放射状に飛び散った餡子が、甘い香りを漂わせる。

カンシャク玉とメンコからヒントを得て少年達が作った遊びだ。

 「ゆっ・・・・!!?どうしたの!!?何の音!?」

位置関係で少年たちの行動が見えなかった親まりさが心配そうな声を上げている。
逆に、全てを見せ付けられた親れいむは一瞬、声も出ずに口をぱくぱくさせていたが、すぐに大声を上げた。

 「ゆ゙あ゙あ゙あぁぁ゙ぁあ゙っ!!!!れ゙い゙む゙のあがぢゃんがあああああああ!!!!!!」

涙をこぼし、大声で泣く親れいむをよそに、少年達は筆箱から竹のモノサシを取り出し、飛び散った餡子の大きさを測っていた。

 「よっしゃ!!俺は直径15cmだぞ!そっちはどうだ!?」
 「ああっ!負けたあー!!俺は12cm!ちょっと勢いが足りなかった」
 「今日は俺の勝ちだな!!20㎝はあるぞ!!」

シンが勝ち誇り、放射状に飛び散った餡子を指差す。

 「でけー!!」
 「しかもすげー円に近いな!いい形してる!」

我が子の飛び散った跡を見て喜ぶ少年達に、親れいむは憤りを隠せない。

 「おにいさんはゆっくりできない人だよ!!ゆっくり死ね!!!!」

この状況で敵を煽るあたり、危機感の欠片もない生き物だ。

 「なあなあ、この茎に付いてるゆっくりって目が開いてないじゃん?これ無理矢理開いたらどうなるのかな」
 「おもしれー!ちょっとまぶたを切り落としてみよう」

コウが鉛筆削りに使うナイフを取り出し、茎に実る赤ゆっくりに接近する。
親れいむが逃げようとするが、タケに後頭部を踏まれて動けなくなった。

 「ピッチリと閉じてるなあ。小さいし、失敗するかも」
 「失敗したら違うのでやればいいよ。いっぱいいるし、ちょっとくらい失敗しても大丈夫」
 「聞いたか饅頭。動いたらその分、子供がグチャボロになるからな」

 「どぼじでぞんなごどずるのぉぉぉぉお!?!?!?」
 「れいぶのあがぢゃんをいぢめないでえええええ!!!やめでええええ!!!」

2匹の叫びもなんのその、少年たちの好奇心は止まらない。
コウの握るナイフの先端が、赤れいむの瞼に近づく。

 「切るよ!」

ナイフが瞼に触れた瞬間、赤れいむは痛みを感じたのか大きく揺れ動く。

 「ああっ!!」

反動で戻ってきた赤れいむに、深々とナイフが突き刺さった。

 「ぴっきぃぃぃぃぃっ!?!?!?」

甲高く、鼓膜を突き破るような赤れいむの鳴き声が辺りに響く。
あわててコウがナイフを抜くが、小さな赤れいむはそのまま動かなくなった。

 「れいむ゙のあがぢゃんがあ゙あああああ゙ああ゙ぁぁっ!!!!」
 「ばりざのあがぢゃんがああああっ!!!!」

茎でゆっくりと誕生を待っていた赤れいむは、そのまま永遠にゆっくりしてしまった。
額に大きな穴が開いた赤ゆっくりを、コウは思い切り握り潰す。

茎に餡子にまみれた紅白のリボンだけが残った。

 「失敗、失敗。ちゃんと手で押さえないと動いちゃうな」
 「次はちゃんと切れよ~」
 「コウちゃん、ヘッタクソだなあ~」

頭部の茎を見上げ、ぼろぼろと涙をこぼす親れいむ。
なんとか少年達に攻撃をしようと必死に体を起こそうとする親まりさ。

そんなことなどお構い無しに、コウの左手が赤れいむを掴んだ。
茎に実ったれいむ種はこれが最後の1匹になる。

 「ゆっ!!れいむと同じ姿の赤ちゃんはもうその子だけだから、ゆっくりやめてね!!」
 「お願いだからやめてね!赤ちゃんとゆっくりさせて!!!」

掴まれたことに違和感を覚えたのか、赤れいむが目を閉じたまま表情に疑問符をつけた。
コウは左指に赤れいむの動こうとする力を感じたため、掴む力を強くして動かないようにする。

 「上の部分を切り落とせばいいんだよねー」

右手に持ったナイフが、赤れいむの左目の瞼の上部を滑る。
抵抗の感じない切れ味、しかしそれは確実に皮を切断していた。

 「ん?切れたと思ったんだけど・・・?」

赤れいむの瞼に変化はない。
コウがナイフの先端を瞳の膨らみを感じる部分に引っ掛け、下に滑らす。

 「おっ!取れた!」

水分で密着していたようだ。
小さな瞼がコウの手に移る。

 「ほらこれこれ、上手いこと切れたろ!」

1辺が3mmほどの瞼がそこにあった。

 「すげー!」
 「上手いこと取れるもんだなあ」

しかし、むき出しになった赤れいむの左目に生気は感じられない。
まるで目を開けて眠っているようだ。

コウは同じ要領で、右目の瞼を切り落とした。

 「んー?全然動かないな」
 「やっぱ茎から取れないと喋らないのかな?」
 「ついでに茎から取っちゃえば?」

親れいむは、悪魔が頭上にいるような錯覚を起こした。
泣いても、叫んでも、懇願しても、この3体の悪魔は耳も貸してくれない。
待ち望んだ子供達、一緒にゆっくりするはずだった赤ちゃんは、すでに4匹も殺されてしまった。

泣いてもどうにもならない。
しかし親れいむは溢れる涙をこらえることができなかった。

 「指擦りして茎から外すか」

シンの人差し指が瞼の無い赤れいむに触れようとした瞬間、それは起こった。

 「・・・っくち!・・ゆっくちちていってねっ!!!」

さっきまで生気のなかった赤れいむの目に輝きが生まれ、声を上げたのだ。

 「「ゆっくりしていってね!!!」」

それと同時に2匹の親ゆっくりは茎の上の赤れいむに最初の声を掛ける。
待ち望んだ第一声をようやく聞くことができたのだ。

親まりさは憤怒の表情から一転し、笑顔になった。

 「おおっ!!生れ落ちる前に喋ったよ!」
 「すげー!!」
 「いつものお兄さんに後で教えたら喜ぶかなー」

茎に実りながら喋る赤れいむに感動を覚える少年達。

 「じゃあ、もうコイツは落とすからね」

シンは人差し指を赤れいむに押し当て、こすり始めた。
頬から始まり後頭部、そして頭頂部を刺激する。

 「ゆっ♪ ゆっ♪ くちゅぐったいよっ♪ ゆっくちぃ~♪」

赤れいむが嬉しそうにはしゃぎ、それを見た親ゆっくりも今までのことを忘れたかのように優しい顔になる。

 「ゆーん!すごくゆっくりした赤ちゃんだね!」
 「お母さん達と一緒にいつまでもゆっくりしようね!!」

 「ゆ!ゆっくち!おかあさんとゆっくち!」

シンが赤れいむをこする速度をあげる。
次の瞬間、成体ゆっくりの「すっきりー!!!」にも似た表情を見せて赤れいむは地面に落ちた。

 「ゆっ!もう少ちゆっくちしたかったのに!」

不満気に少年達を見上げる赤れいむではあったが、親れいむの頬擦りを受けるとすぐにご機嫌になった。

 「ゆふ~ん!すりすりだよ!お母さんとずっとゆっくりしようねっ!!」

れいむ種唯一の生き残りということもあるだろう、親れいむは心の底から誕生を祝っているようだ。

 「まっ、まりさも赤ちゃんとすりすりしたいよっ!!!かわいい赤ちゃん、すりすりしようね!!」

達磨状態の親まりさが赤れいむを呼んでいる。
それに答えるように赤れいむは跳ね寄り、頬擦りを始めた。

親れいむは少し残念そうな顔をしたが、最愛のパートナーと赤れいむの頬擦りを見るとすぐに笑顔を戻す。

 「ゆっ・・!?」

しかし幸せな時間は長く続かない。
何かに異変を感じたのか、赤れいむが震えだした。

 「ゆっ!?どうしたの!?ゆっくりしてね!!」
 「ゆっくりしようね!震えてたらゆっくりできないよ!!」

少年達はすぐに赤れいむが苦しむ原因が分かったが、親ゆっくりは気が付いていなかった。

 「ゆ!おめめがいちゃいの!!ゆっくちできないよっ!」

赤れいむの目には瞼がない。
瞬きもできない赤れいむの目は、ゆっくりと乾燥しつつあった。

 「いちゃいっ!!おめめがいちゃいよっ!!おかあさんゆっくちさせて!!!」

乾燥から守るため、赤れいむの目には涙が溢れた。

 「ゆっ!ゆっくり目を閉じてね!!そうすればゆっくりできるよ!!!」

餡子脳からは切り落とした瞼のことなど一時の幸福で吹き飛んでしまったようだ。

 「ゆうっ!とじてるのにっ!!!とじてるのにおかあさんがみえるよぉっ!!!」

なんとか瞼を閉じようとする赤れいむだが、無いもので蓋はできない。
眉間にシワを寄せて必死になる顔が、先ほどまで笑顔であったとは信じがたい。

 「おい、目が痛いなら舐めてあげろよ。親なんだろ」
 「そうだぞ。痛い所は舐めてあげな。痛みが引くぞ」

 「ゆっ・・・!」

憎たらしい人間の言うことをそのまま受け入れるのは癪であったが、ケガをしたときに傷口を舐めるのはゆっくり達の間では常識だ。
親まりさは舌で赤れいむの目を舐めた。

 「ゆっきゅぁあああっ!!!いちゃいよっ!!いちゃいいいいぃぃぃ!!!」
 「ゆっ!我慢してね!!すぐ痛くなくなるからね!」

親まりさは懸命に赤れいむの目を舌で舐める。
最愛の我が子の痛みを和らげてあげたい、そんな思いから舌に力が入る。

 「ゆぎぎぎいいい!!!!めが!めがあああああ!!!!」

一向によくならないことに親まりさは疑問を感じ、舌を止めた。
それに自分と赤れいむを見て笑っている少年達が不思議だったのだ。

親まりさは赤れいむの目を見た。

 「ゆっ!?」

赤れいむの目はところどころ餡子が漏れ始め、傷だらけになっていた。

 「どうじでえええ!?!?!?ぢゃんど舐めだどに゙ぃぃぃいいいいい!!!?!!?」

分からなかった。
どんなケガをしても大抵舐めれば応急処置になった。
舐めて傷口が悪化することなど、自分の生きてきた中で一度もなかった。
親まりさの頭が混乱する。

 「ゆっ!?なにもみえないよ!!まっくらだよ!おかあさん!ゆっくちできないよお!!」

目の前で泣き叫ぶ赤れいむの目は、光を失っていた。

 「どうじでえええ!?!どうじでれいぶのあがぢゃんがあああ!?!??」

赤れいむが失明したことだけは理解できたのだろう、親れいむが泣き叫んだ。
それを見て笑っていたシンが親れいむに話しかけた。

 「おい、れいむ。あのまりさにちょっと舐めてもらってみたらどうだ?あいつのベロが悪いのかもよ?」

何がなんだか分からないまま、親れいむは親まりさの所に運ばれた。

 「まりさ、ちょっとれいむを舐めてね!」
 「ゆ!?まりさは普通に舐めただけだよ!」

ぺろん、と優しく親まりさは親れいむの頬を舐めた。

 「ゆぎゅっ!痛いよ!まりさのベロが痛いよ!」
 「ゆ!?そんなことないよっ!」

親まりさが否定するが、舐め終わった親れいむの頬には擦り傷ができていた。

 「まりざ!ちょっとベロを見せてね!!」

垂れた親まりさの舌を凝視する親れいむ。
そして、なぜ親まりさの舌が痛かったのか、その原因を突き止めた。

 「まりさのベロに砂がいっぱい付いてるよ!!こんなベロで舐められたら痛くてゆっくりできないよ!!」

そう、さきほど底部を縛られた後に無理矢理食べさせられた砂。
あれが舌に残っており、それがヤスリのような役目をしてしまったのだ。

繊細な目をヤスリ舌で舐めまわして失明するのは、当然の結果だった。

 「ばり゙ざがぞんな汚いベロで舐めるがらあ゙かぢゃんの目が見えなぐなっだんだよ゙ぉぉ゙!!!!」

攻める親れいむの言葉から、状況を察したのだろう、赤れいむも声を荒げる。

 「おがあざんのせいでれいむはなにもみえないよっ!!!ゆっくちできない!!おかあさんはゆっくちちね!!」

2匹の容赦ない罵倒に、親まりさはごめんごめんとつぶやくだけで反論することはなかった。

 「よし、じゃあ残りのを全部落とすか」

抵抗しない親まりさに飽きたのか、タケが親れいむの茎に実った赤まりさに指擦りを始めた。
親まりさを攻めることに忙しい親れいむは気が付かない。

親の醜い争いを真下にしながら、赤まりさは擦られることにニコニコと笑みをこぼす。
次々に赤まりさが茎から外れるが、地面に落ちる前に回収していたため親れいむは気が付かなかった。


 「ほい、6匹誕生~」

茎に実った赤ゆっくりは、全て無くなった。
タケの掌には、目を開けようとしつつある赤まりさが6匹。

それを親ゆっくりに見えない位置に隠して2匹に話しかける。

 「おい、お前らの巣はどこにあるんだ?」

タケのほうを振り向く2匹は、まるでオネショがバレそうになった幼児のような表情を見せた。
その隙に盲目となった赤れいむをコウが回収したのだが、2匹はそんなことに気が付く余裕もない。

 「ゆゆっ!まままままっまままっままりさたちのおウチはなななななななな無いよっ!!?!?!?」
 「れ、れいむ達はたまたまたまたまたまたまあそこでゆっくりしてただけだよっ!!!」

 「あそこらへんに巣があるってよ」

頭に茎を生やしたゆっくりが、外に出ることなどあまりないことだ。
赤ちゃんに日光浴をさせることが稀にあるくらいで、ほとんどは外敵の危険の少ない巣で妊娠中は生活する。
その日光浴でさえ巣のすぐ近くで行い、遠出はしないものなのだ。

少年達がゆっくりを見つけた時、この2匹は野外でゆっくりしていた。

 「せっかくだからどんな巣か見てみたいな」

あの付近に巣があることは、明白であった。

 「じゃあ、僕がこの2匹を見張ってるから、ちょっと探してきてよ」

そう言ったのはシンだった。
夫婦喧嘩の果てに、愛想を着かして親れいむだけが逃げ出すことを心配しての判断だ。

 「んじゃちょっと探してくる」
 「シンちゃん頼んだよー」

コウとタケが、こっそり持ち出した1匹の盲目れいむと6匹の赤まりさをつれて、森の入り口へと歩いていった。

 「そっぢには何もないよっ!!!バカなお兄さん達はごっぢにもどってぎでね!!!」
 「バガだね!!!なにもないよっ!!!」

2匹が必死で気をそらそうとしているが、コウとタケは森の入り口へと向かってしまった。




 「これだね」

2匹を見つけた場所。
そのすぐ近くに草でカモフラージュした巣穴があった。

 「案外大きいね。僕でも入れたりして」

巣穴の直径はマンホールほど。
斜めに掘り進んでいるようで、中は暗くて見えなかった。

 「ちょっと奥に入ってみるから」

8歳の少年、コウはその小柄さを生かし、頭から巣穴に突っ込んだ。
巣穴の奥に入った手を無造作に動かす。

 「お、なんかある」

手の先に触れたのは、固いもの。
それを掴み引っ張り出そうとすると、何かが手にぶつかってきた。
柔らかい感触。

 「あ、ちっちゃいゆっくりに体当たりされたかも」
 「バカな奴らだな」

巣穴から出てきたのは壺だった。
どこからか盗んできたのだろう、コウの頭より一回り大きい壺だ。

中には虫の死骸や、草など、ゆっくりの保存食と思われるものが大量に入っていた。
壺を取り出す最中、ずっと体当たりをしていたゆっくりは見当たらない。
奥に隠れているのだろう。

 「まだ子供がいたんだな。当たった感触だとこれくらいかな」

コウがタケに見えるように手で丸を作った。
大きさはソフトボールくらい、子ゆっくりサイズだ。

 「ゆっくりしていってね!!!」

コウが巣穴に向かって大声で叫ぶ。

 『ゆっくりしていってね!!!』

巣穴からヤマビコのように声が返ってきた。
敵に声を返すとは、愚かな生き物だ。

 「美味しいお菓子があるよ!ゆっくり出てきてね!!」

タケの誘い文句も慣れたものだ。
お菓子と、ゆっくり、この言葉があれば警戒心の強い親はともかく、子ゆっくりはホイホイと出てくる。

この巣穴にいた子ゆっくりも同じで、すぐに巣穴から顔を出した。

 「ゆゆっ!?おいしいおかしをちょうだいね!!」
 「はやくおかしをだしてね!!」
 「ここはれいむたちのおうちだよ!!おきゃくさんはおかしをよういしてね!!!」

現れたのは予想通りソフトボールほどの大きさのゆっくり霊夢とゆっくり魔理沙。
数はゆっくり霊夢が4匹、ゆっくり魔理沙が3匹だ。

最後に出てきたゆっくり魔理沙は、少年達を警戒しているようだ。
しかし所詮は餡子脳。
甘いものを出せばイチコロである。

 「あっちでみんなのお母さんとお菓子を食べてるんだよ」
 「だからゆっくりついてきてね。お菓子はいっぱいあるからゆっくりできるよ!!」

 「ゆっ!おかあさんもゆっくりしてるんだね!!すぐにいくよ!!」

コウがバカ7匹を引きつれて親の元へと戻った。

一人残ったタケは、巣穴に壺の中身をぶちまけ、入り口に石をみっちりと詰め込んだ。




コウが7匹の子ゆっくりをつれて戻ると、2匹の親ゆっくりが絶望した顔でお出迎えしてくれた。

 「ゆゆっ!!どうして出てきちゃったの!!?」
 「外に出たらダメって言ったよね!?なんで約束を破るの!?」

親ゆっくりが子ゆっくりを叱るが、子ゆっくりは悪気も無い様子で反論した。

 「ゆ!おかあさんたちだけでおかしをたべるなんてずるいよ!!」
 「まりさもおかしたべてゆっくりするよ!!」
 「ひとりじめはやめてね!!」

その言葉で、どうやって子ゆっくりを誘拐してきたのか理解したようだ。

コウは隠し持っていた盲目れいむのリボンを外し、7匹の子ゆっくりの前に置いた。

 「ゆっ!れいむのあかちゃぶぴっ!!!???」

余計なことを言おうとする親れいむの口をコウが押さえつける。
それを見たシンは、親まりさの口を押さえつけた。

 「ゆゆっ?おにいさん、おかあさんをいじめないでね!!」

 「この親はみんなのお菓子を食べようとするから押さえつけてあげたんだよ!」
 「そうだよ、みんなはそのお菓子をゆっくり食べてね!」

コウとシンは片手で盲目れいむを示した。
その言葉に顔を青くする親ゆっくり。

子ゆっくりが、自分の妹を食べてしまう。
なんとかそれを阻止しようと暴れるが、人間の力には叶わなかった。
しかも、暴れる姿は子ゆっくり達にとってはお菓子を食べようとしている強欲親に映るだけだった。

 「ゆ!そんなにおかしをひとりじめしたいんだね!!」
 「ひどいよ!!」
 「おかあさんはなんでゆっくりさせてくれないの!?」

心無い言葉を親ゆっくりに浴びせかける子ゆっくり。
そして親の思いも露知らず、盲目れいむに噛み付き始めた。

 「ゆっぎいぃぃぃ!!!!いちゃいよっ!!!みえないよ!!こわいよっ!!たべられてるよっ!!!」

ソフトボールサイズの子ゆっくりにとって、プチトマトサイズの盲目れいむなどたいした量ではない。
あっという間に体は減っていく。

 「ゆぎぃ・・・もっどゆっくちしたかったよ・・・」

子まりさが最後の一口を食べ、盲目れいむは見事に食された。
残ったのはコウの手に握られたリボンと、少しの皮と髪の毛だけ。

コウは親れいむを開放した。

 「ゆ!!どうじでみんな赤ちゃんを食べちゃうのおおお!!?!?!?みんなの妹なんだよおおおお!!!!??」

子ゆっくり達は、妹達の誕生を楽しみにしていたのだ。
日々大きくなる赤ゆっくりを見上げ、ゆっくりしようと声を掛け続けていた。
親れいむの頭に上り、より近くで赤ゆっくりに声を掛けたこともあった。
最近では、赤ゆっくりがその声にも反応するようになり、子ゆっくりはとても嬉しそうであった。

 『もうすぐいっしょにゆっくりできるね』
 『おねえちゃんがあかちゃんに いーっぱいゆっくりをおしえてげるね!』

昨晩はそんなことを言っていた。

その待ち望んだ赤ちゃんが、今は腹の中へと納まっている。


 「ゆゆっ?なにをいってるの?いまのはただのおまんじゅうだよ!」
 「そうだよ!くやしいからってうそをいわないでね!」
 「あれはおまんじゅうだよ!ゆっくりりかいしてね!!」

ゲラゲラとゆっくりうどんげのような笑い声を上げる子ゆっくり達に、親れいむは悲しくなる。

 「ゆ゙っゔううゔぅぅうゔ・・・」

しかし、これはこれでいいのかもしれない。
食べられてしまった赤れいむには申し訳ないが、いまさら生き返ることはないのだ。
わざわざ妹を食べたことを教える必要はないのではないか。

そんな餡内を見透かしたのか、コウがわずかに残った盲目れいむの残骸の上にリボンを落とした。

 「ゆっく・・・!?」
 「ゆっ・・・!」

パズルのピースが綺麗にはまったかのような感覚を、子ゆっくり達は感じた。

このリボンは、毎日自分達が見上げていたあのリボン。
このリボンは、毎日自分達が話しかけていた子のリボン。
このリボンは、毎日自分達が待ち望んでいた妹の・・・

あのお饅頭は、毎日自分達が・・・・

 「ゆきっぃぃぃ゙ぃぃ゙ぃっ!!!!!」
 「ゆきゃああ゙あ゙ああ゙あっ!!!」
 「れいぶのいぼーどがぁあ゙あぁぁぁぁっ!!!!」

全てを理解した子ゆっくり達が必死にお饅頭を吐き出そうとするが、出てくるのは少しの胃液(?)とヨダレだけだった。


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最終更新:2019年10月08日 01:31