前編


絵に描いたような幸せな家庭。
そのとてもゆっくりした光景はゆっくりならば見ているだけで幸せな気分になれるのかもしれない。
が、本来その家庭を築くはずだった別のゆっくりにとってはゆっくり出来ないものだろう。

「おにぇーちゃん、ゆっきゅちー」
「まりしゃ、ゆっくちー」
「しゅーりしゅーり」
「ゆ~♪ゆん♪ゆ~ん♪」
「みゃみゃ、ときゃいはってにゃあに?」

家の中を自由に跳ね回って姉妹と戯れ、母に甘える赤ゆっくり達。
ありすとまりさはその様子を満面の笑みを浮かべて見守り、彼女達の世話をしていた。
その幸せそうな姿を見ていると、ゆっくりでなくても自然と笑みがこぼれる。

「ゆぅ・・・」

そんな絵に描いたような幸福をありすに掠め取られたれいむは死んだ魚のように濁った目でその光景を見守っていた。
すると、赤ゆっくりの中の1匹がれいむの存在に気付いて、ゆっくりとした足取りで彼女のほうに跳ねてくる。
ぴょこんぴょこんと少しずつ距離を詰めて、れいむの目の前で立ち止まったのはありすに良く似た赤ちゃん。
その赤ありすは無邪気に微笑むとれいむに挨拶をした。

「ゆっくちちていっちぇね!」
「・・・ゆっくりしていってね」
「おにぇーしゃんはどうちてしょこにいりゅの?」
「ここがゆっくりできるからだよ」
「どうちてありしゅやおかーしゃんたちとちがうの?」
「れいむはれいむだからだよ」
「どうちちぇ、おにぇーしゃんはきちゃにゃいの?」
「ゆゆっ!?」

それは無知と非常識ゆえの暴言だった。
流石のれいむも、相手が赤ゆっくりとは言えこれには腹を立てた。
しかし、怒鳴りつけることも喚き散らすことも一切せず・・・

「ありすにはかんけいないよ」

とだけ応えてそっぽを向いた。
その後、先ほどの赤ありすは同じ質問をまりさやありすにもしたが2匹とも困ったような表情を浮かべるばかり。
結局、彼女は俺が「れいむがゆっくり出来ない奴だからだよ」と教えてやるまで納得の行く回答を得られなかった。



「ゆっきゅちできにゃいれいみゅはこっちみにゃいでね」
「ゆっきゅちできにゃいれいみゅはでていっちぇね」

翌日から、赤ゆっくり達によるゆっくり出来ないれいむへの迫害が始まった。
当然、俺の言葉を鵜呑みにした結果生じたもので、別にこの子ども達がゲスであると言うわけではない。
ゆっくりにとってゆっくり出来ることは何よりも重要であり、ゆっくり出来ないものを排除しようとするのは当然のこと。

「ゆゆっ!あかちゃんたち、そんなこといっちゃだめだよ!」
「そうよ、わるぐちなんてとかいはじゃないわ!」

ありすとまりさは赤ゆっくり達をなんとか諌めようと注意するが、あまり効果はない。

「だっちぇ、れいみゅはゆっきゅちできにゃいんだよ」
「しょーだよ!おにーしゃんがいっちぇたもん」

赤ゆっくり達が両親の言うことを聞かない理由は2つ。
ひとつはなまじありすのしつけが行き届いていたために、この家で一番偉いのは俺だと認識してしまっている。
その結果、赤ゆっくり達は「俺の言っていることはありすよりも正しい」と認識して、彼女の注意を突っぱねる。

「しょれに、おきゃおがじぇんじぇんゆっきゅちちてにゃいよ」
「はにゃちかけちぇもちゃんとおへんじちにゃいよ」

もうひとつはれいむの見た目があまりにもゆっくりしておらず、言動や性格もひねてしまっていることだ。
見た目に関しては俺に原因があるのだが、赤ゆっくりがそんな事を知る由もない。
見た目にゆっくりしていないからそこにいるだけでゆっくり出来ず、それは俺の言葉の正しさを後押しするものとして機能する。
それと同時に、ありす達の言葉への反応が好ましくないものであるために、やはりゆっくりしていないと認識されてしまう。
迫害しているのに好意的な反応を求めること自体どうかしていると言えなくもないが、人間でも起こりうることである。

「ゆっきゅちできにゃいれいみゅはでていっちぇね!」
「しょうよ!いなきゃもにょのれいみゅはでていっちぇね!」
「しょーだよ!まりしゃたちのおうちきゃらでていっちぇね!」
「れーみゅがいるとゆっきゅちできにゃいよ!」
「しょーだよ!まりしゃゆっきゅちちたいよ!」

れいむが動けないのを良いことに言いたい放題の赤ゆっくり達。
流石のれいむもこれには我慢しきれなくなったのか、目を見開いてあらん限りの力を振り絞って叫んだ!

「いわれなくてもあかちゃんがうまれたらゆっくりでていくよ!」

その大声に驚いた赤ちゃんゆっくり達は恐怖のあまりに泣き叫び、ありすとまりさに泣きついた。
小さな体をガタガタと震わせ、彼女達の肌に顔をうずめて嗚咽を漏らしている。
なき疲れて眠るまで、「きょわいー」とか「ゆっきゅちできにゃいよー」などと不満を口にしていた。

「ゆぅ・・・ありす、なんだかゆっくりできないよぉ・・・」
「そうね、とかいはじゃないわ・・・」

そして、そんな状況がまりさ達までゆっくり出来ない気分にさせていた。



翌朝。
押入れかられいむを引っ張り出そうとした際に、れいむが苦しそうな表情をしているのが目に留まった。
昨日の件でここがゆっくり出来ない場所であると確信し、それがもたらした影響だろうか。
予定よりも恐らく2日ほど早い出産を迎えていた。
早産だが母胎で育つタイプの赤ゆっくりならば、この程度の予定の前倒しは何の問題もない。

「よし、水槽から出して・・・と」
「ゆぐぅ・・・うばでりゅうううう!」

出産の際に赤ゆっくりが潰れないようにれいむを水槽から取り出し、床に置く。
すると、ようやく子どもを無事に産める状況になったことに安堵したれいむは「ゆぐぐぅ・・・」と呻いた。
みるみるうちに口にしたにある産道が広がり、そこから幼いゆっくりが顔を覗かせる。
産道の出口に一旦引っかかり、不安そうな表情できょろきょろと辺りを見回す。
そして、産道の動きに押し出されるかのように勢い良く飛び出し、床の上をころころと転がる・・・筈だった。

「ゆぐっ!?で、でいむのあがぢゃん!?」
「ゆぐ・・・いぢゃい・・・いぢゃいよぉ」

元気良く飛び出した赤れいむは顔の右半分がゲル状になって、中身が透けて見えていた。
恐らく、俺がれいむに与えていたものの影響で皮がきちんと形成されなかったのだろう。
着地するや否やべちゃ、っとゲル部分の一部が飛び散り、同時に中身の餡子が露出する。
幸いにもそれが漏れ出ることはなく、命に別状はないが、その拍子で片目と髪の毛の大半を失ってしまった。

「ゆぐぐ・・・まだうばでりゅよ・・・!ゆうぅ・・・ま、まりざぁ・・・ゆっぐぢぃ?!」

しかし、れいむには顔の約半分が剥がれ落ちた、自分に似ていたかもしれない我が子の悲惨な生まれを嘆く暇さえも与えられない。
2匹目の赤ちゃんが産道を押し広げて、今にも生まれようとしている。
れいむはその苦痛に冷たい床の上でただ一匹、孤独に耐えることしか出来ない。
まりさの名を呼んだところで、彼女は未だにありすや子ども達と頬を寄せ合って安らかに眠っている。

「ゆうぅぅう!ゆぐぅぅう・・・!」
「いぢゃい、いぢゃいよぉ・・・おき゛ゃーぢゃあああああん!?」

先に産まれた赤れいむの悲鳴を聞きいた赤ちゃんまりさは不安そうな表情を浮かべて辺りの様子を伺う。
それから外に出たくないといった様子で一旦引っ込もうとするが、産道の圧力に負けて歩とへと放り出された。
見たところ皮には何の問題もない赤まりさはころんころんと転がって、ぷるぷると小さな体を震わせて立ち上がる。
そして、母れいむの方を見ると若干怖がりながらも笑みを浮かべて・・・

「ひゅっひゅひひひぇっへへ!」

と、元気良く挨拶をした。
どうやら黒い山高帽と金髪が目を引くこの赤ちゃんゆっくりは歯が生えなかったらしい。
今後、彼女の口に歯が生え揃うかどうかは分からない。

「れ、れいぶのあがぢゃ、ぁん・・・ゆっぐ・・・」
「ゆぐっ・・・いぢゃいよぉ・・・」
「ほひゃーひゃん、ふっひゅひー」

あまりにも残酷な現実を前にむせび泣くれいむの産道から3匹目になったかもしれない液体がどろりと漏れ出した。



その後、れいむは我が子と頬擦りはおろか挨拶をする暇もなく水槽に戻され、子ども達は初日にまりさを放り込んだ水槽に入れられた。
2つになった水槽はいつものようにありす・まりさ達がいつでも話しかけられる場所に置き、朝食を放り込んでから俺は仕事に向かった。

「れいむのおぢびぢゃん・・・ゆっくりしていっでね!」
「おきゃーしゃん・・・ゆっくちちていってね!」
「ひゅっひゅひひひぇひっひぇへ!」

ようやく落ち着きを取り戻したれいむは、幸か不幸か餡子の方は健康だった我が子に声をかけた。
何よりもまずさっき出来なかった挨拶を、それから色んなことを教えてあげよう。
頬擦りも食べ物を与えることも出来なくても少しでも一緒にゆっくりしたい。

「ゆゆっ!ゆっきゅちできにゃいこがいりゅよ!」
「ほんちょだね!じぇんじぇんゆっきゅちできにゃいよ!」
「ゆゆっ!?」

しかし、そんなささやかな願いさえも叶わない。
いつものようにれいむを罵倒しに来たありすとまりさの子ども達がれいむの子どもを見つけてしまった。
そして口々に「ゆっくり出来ない」だの「気持ち悪い」だとの言って子ども達の心を傷つける。

「やめてね!れいむのあかちゃんゆっくりさせてあげてね!」
「ゆゆっ!れいみゅのあきゃちゃんにゃの?」
「だきゃらゆっきゅちちてないんだにぇ!」
「あきゃちゃんがうまれちゃんにゃらでていっちぇね!」

2匹がれいむの子であることを知った赤ゆっくり達はれいむも含めた3匹を馬鹿にし始めた。
多少ゲス因子があったのかもしれないが、ゆっくりにとってゆっくり出来ないものとは断固排除すべきものである。
ゆえに、このような対応をすることも、配慮という能力を有さない赤ちゃんゆっくりならば致し方ないこと。

「れいみゅはあきゃちゃんもゆっきゅちちてにゃいよ!」
「ゆっきゅちできにゃいれいみゅたちはゆっきゅちでていっちぇね!」
「やめてね!れいむのあかちゃんにひどいこといわないでね!れいむおこるよ!?」
「ゆえーん、きょわいよー」
「おきゃーしゃぁん、れいみゅがまりしゃをいじめりゅよー」

言いたい放題言った挙句、れいむの一言で怯えた赤ゆっくり達は泣きながら母親のありすとまりさを呼ぶ。
彼女達の声を聞いて飛んできたありすとまりさもまた、れいむの子どもを見つけて呆然とした。

「れ、れいむ・・・これなあに?」
「これなんていわないでね!れいむのかわいいあかちゃんだよ!まりさのあかちゃんだよ!」
「ゆっ・・・ゆゆっ!?」

その言葉を聞いたまりさは驚いて目を見開くと、まじまじとれいむ曰く我が子の様子を観察する。
皮を3割ほど失ってしまったれいむ種に、歯が一本も残っていないまりさ種。
残念ながら、どう贔屓目に見てもその姿はとてもゆっくりしていないものだった。

「れいむ、そのこたちはゆっくりできないよ!ゆっくりあきらめてね!」
「いやだよ!れいむのあかちゃんだよ!あかちゃんをゆっくりさせてあげるよ!」

まりさの言葉のほうが野生で生きてきたゆっくりとしては間違いなく正しい。
しかし、孤独に耐えながらお腹を痛めて産んだ我が子を見捨てることなど、れいむには出来るはずもなかった。



「むーちゃむーちゃ・・・ふちあわちぇー・・・」
「ふぃひはふぇー・・・」

俺が家に帰ったとき、れいむの子ども達はようやく母親と同じご飯を食べ終えたところだった。
全然ゆっくり出来ないことに悲しみ、羨ましそうにありすの子ども達がおやつを食べているのを見つめている。
れいむはそんな子ども達を心配してか俺に「あかちゃんだけでもゆっくりさせてあげてね」と懇願してきた。

「いや、赤ゆっくりが生まれたんだから、家から出て行けよ」

そうして最初の約束どおり、れいむとその子ども2匹を家の外に放り出し、次いでまりさとありすの間に出来た赤まりさも放り出した。
まりさは「なにするの!?」と俺に抗議をしたが「俺はありすの赤ちゃんが欲しいって言ったんだよ」と言うとその意味を理解し、呆然となった。
口をあけて呆けているまりさも最初の約束どおり家から放り出し、俺は家中の扉と窓の鍵をかけた。

「どうして!まりさはありすのはにーなんだよ!おうちでゆっくりさせてね!」
「最初に約束しただろう?れいむの子どもが生まれるまでだって」
「でも・・・」
「ごちゃごちゃ五月蝿いぞ!さっさと巣を見つけて、れいむと子ども達の面倒を見ろ!?」
「ゆぐっ・・・ゆっくり、りかいしたよ・・・」

俺に怒鳴られたまりさは素直に諦めて、いずこかへと消えていった。
れいむとありすとの間に出来た赤まりさがその後を追い、れいむの子ども達がれいむの後を追った。

「おにーさん、まりさはありすのはにーなのよ?どうしておいだしちゃうの?!」
「そういう約束だからだよ」
「そ、それに・・・ありすのあかちゃんもおいだすなんてとかいはじゃないわ!」
「それも約束だからだよ」

遠のいてゆくまりさ達の背中を見守る俺にありすは抗議の声を上げた。
が、俺はありすの言葉に殆ど取り合わずに適当な返事をよこし、台所へと向かう。
そして、頬を膨らましながらついてきたありすと2匹の赤ありすを逃げ出さないように適当な鍋の中に放り込んだ。



「ゆっきゅちできにゃいれいみゅはどこきゃいっちぇね!」
「しょうだよ!ここはまりしゃたちのおうちだよ!」
「ゆぅ・・・おきゃーしゃん、まりしゃまえにょおうちがいいよぉ・・・」

まりさは久し振りに戻ってきた故郷の森を必死に跳ね回って、なんとか小さな洞穴を発見した。
中の様子を見てみると幸い誰かがそこを使っていた形跡はなく、全くの無人。
ひとまずれいむと話し合ってここで体を休めることにしたまりさ達は何とか全員洞穴の中に身を隠した。
それから、道すがらに集めておいた葉っぱや虫の死骸を帽子から取り出すとみんなに分け与える。

「むーちゃむーちゃ・・・ち、ちあわちぇー!」
「ふーはふーは・・・ひゅうぅ!はひぇはへひゃひひょおおおお!?」

まともなものにありつけて喜ぶ赤れいむはともかく、歯の無い赤まりさは葉っぱを食べるのにさえも一苦労。

「むーしゃむーしゃ・・・ゆぅ?あじがしないよぉ・・・」

れいむに至ってはあまりに刺激の強いものを食べ過ぎたせいで味が分からなくなってしまっていた。

「ゆぺぇ・・・こんにゃのたべりゃれにゃいよ!」
「おきゃーしゃん、もっちょおいちいものもっちぇきちぇね!」
「こんにゃゆっきゅちできにゃいものたべられりぇにゃいよ!?」

一方、ありすとの間に生まれた赤まりさ3匹はすっかり舌が肥えてしまっているらしく、口々に不満を漏らす。

「がまんしてね!たべないとゆっくりできないよ!むーしゃむーしゃ・・・ふしあわせー」

しかし、舌が肥えてしまっているのはまりさも同じことだった。
俺の家に来るまではそこらに生えている草花でも十分ゆっくり出来たのに、全然ゆっくり出来ない。

「しょんにゃのむりだよ!」
「まりしゃ、あみゃあみゃしゃんがたべちゃいよ!」
「おきゃーしゃん・・・まりしゃ、おにゃかしゅいたよぉ・・・」

赤ちゃんまりさ達は母親のまりさに向かってそんな要求をするが、人間の食べ物などゆっくりに用意できるはずもない。
が、そんなことは知っているはずもない人家生まれの赤まりさ達はしばらく文句を言い続けていた。

「まりしゃきいちゃよ!れいみゅのあきゃちゃんがうまれちゃきゃらおうちきゃらぽいっ!されちゃんだよ!」
「ゆゆっ!れいみゅのあきゃちゃんのしぇいにゃの?どうちちぇこんなこちょしゅるのーー!?」
「しょうだよ!まりしゃはもっちょゆっきゅちちちゃいよ!」

やがて、まりさに何を言っても無駄なことを悟った赤まりさ3匹はれいむとその子ども達に責任転嫁を始めた。
自分達がゆっくり出来ないのはゆっくり出来ないれいむとその子ども達のせいだ。
そう言って口々に俺の家での食生活によって弱りきったれいむと、重い障害を抱える子ども達を罵る。
その感情が高まり、「れいむをやっつければおうちに帰れる」というゆっくりらしい都合の良い結論に至るのにさほど時間はかからなかった。

「ゆっきゅちやっちゅけりゅよ!」
「しょうだよ!まりしゃはゆっきゅちしゅるよ!」
「ゆっきゅちできにゃいれいみゅはゆっきゅちちんでね!」

明るい未来を信じて意気揚々と飛び掛る3匹の赤まりさ。
しかし、その攻撃は母れいむはおろか、にんっしんっによる生殖で産まれた彼女の子ども達にさえも通じなかった。
そう、散々辱めを受けてきた彼女達のほうが赤まりさより、二回りほども大きかったのだ。

「ゆゆっ!ゆっくちやめちぇね!?」
「ひゅっひゅひへひひゃいひょー!」

その体格差は圧倒的で幸いにも底部には障害のないれいむの子ども達が少し身をよじっただけで、赤まりさを弾き飛ばしてしまった。

「ゆきゅ!?ゆっ・・・ゆぐっ、いぢゃい・・・いぢゃいよぉおおおおおお!」
「おきゃああしゃああああん!れいびゅがまりぢゃをいぢめりゅよおおおお!?」
「ゆっきゅちできにゃいれいみゅたちをゆっきゅちやっちゅけちぇね!」

温室育ちゆえ、普通のゆっくり以上に痛みに弱い赤まりさ達は弾き飛ばされた痛みで大泣きしながらまりさに助けを求める。
が・・・

「ゆっくりやめてね!あのこたちはまりさのあかちゃんだよ!」
「ゆゆっ!なにいっちぇりゅの!?おきゃーしゃんのあきゃちゃんはまりしゃだよ!?」
「しょーだよ!あんにゃっゆっきゅちできにゃいこ、おきゃーしゃんのあきゃちゃんじゃないよ!?」
「ゆっくりだまってね!あのこたちはまりさのとってきたごはんさんをゆっくりできるっていってくれたよ!」

わがままばかり口にし、あまつさえ自分のはにーをゆっくり出来ないと言う赤まりさよりも奇形の子どもに愛着を持ってしまった。
当然だろう。赤まりさのワガママだってもはや自然で生きてゆけるレベルのものではない。
生存率の点で条件が同じならば、自分の矜持を満たしてくれる奇形のほうが可愛く見えるのは至極当然のこと。

「わがままとかわるぐちをいうゆっくりできないこはまりさのこどもじゃないよ!ゆっくりりかいしてね!」

そもそも、俺の家に居る時に子ども達にそのことを注意しなかったのは万が一ありすが機嫌を損ねたら潰されかねないからに過ぎない。
家を追い出された今、俺と言う抑止力もない以上、まりさは何の躊躇いもなく赤まりさたちを叱り付けることが出来た。
大声で、今まで言いたかったことを叫んだまりさはぷくぅぅぅう!と頬を膨らませて本当に怒っていることをアピールした。

「ゆああああああああああああん!おきゃーぢゃんがきょわいいいいいいいいい!?」
「ゆええええええええええええん!こんにゃにおきゃーしゃんじゃないよおおお!?」
「みょうやだ!おうちかえりゅ!?」

生まれて初めて、それも彼女達にとっては全く納得できない理由で叱られた赤まりさ達は泣き叫びながら巣の外に飛び出していった。
そして、これがまりさと赤まりさ達の今生に別れになった。

「ゆぅ・・・ま、まりさぁ・・・」

赤ちゃんまりさ達が飛び出した後でれいむはか細い声でまりさを呼んだ。
まりさは狭い洞穴の中を這いずってれいむのそばまで行く。

「なあに、れいむ?」
「れいむ・・・まりさとす~りす~り、したいよ・・・」
「ゆっくりりかいしたよ!」

まりさは俺におかしなものを食わされ続けたせいで荒れに荒れたれいむの頬に自分の頬をくっつけると、ゆっくりと全身を上下に揺らした。
お世辞にも心地よいとは言いがたい感触を頬に受けながら、およそ1週間ぶりのれいむとのすりすりを味わう。
一方のれいむは他のゆっくりと触れ合うこと自体がすでに1週間ぶり。
しかも、その相手が俺の家出の食生活によって以前より艶やかになったまりさとあって、非常にゆっくりした笑顔を浮かべている。

「す~りす~り!」
「す~・・・り、す~り・・・」

まりさの頬の感触をかみ締めながら、れいむもすーりすーりを返す。
しかし、その力はあまりにもか細く、今にも消えてなくなってしまいそうなほど。
いや、ほどと言うのは不適切だろう。

「す~りす~り・・・」
「す~り・・・す~・・・」
「す~りす~り!」
「す~・・・り・・・・・・」

れいむからす~りす~りを返してこなくなっていたことにまりさが気づいた時、れいむは永遠のゆっくりへと旅立ってしまっていた。
毒にも等しいものを食べさせられ、孤独と罵倒に耐え続けたれいむは心身ともに既に限界に達していたようだ。



その日の真夜中。
まりさはかつてれいむだった物言わぬ饅頭と、2匹の赤ゆっくりを洞穴に残して俺の家を目指した。
まともに育つ見込みのないれいむの子ども達のことはもう諦めていた。

「ゆっ!ゆっ!まりさは・・・ありすとゆっくりするよ!」

それは何もおかしな事ではない。
子どもを産む意味は子どもが育ってこそのものである以上、育つ見込みのない個体を放棄するのは当然のこと。
そして、今や何処にいるかはっきりしている我が子は俺の家のありすしか居ない。
だから、まりさは俺の家を目指して森の中を一心不乱に跳ねていった。

「ありす・・・ゆっくりまっててね!」

ならば、どうして赤まりさを引き止めなかったのか。
ならば、どうして赤まりさよりもつがいのれいむの優先したのか。
野生動物らしい本能と、変に人間くさい豊かな情緒をもったゆっくりゆえ、その振る舞いには明らかな矛盾もある。
もしかしたら、自分がゆっくりしたいと言う利己的な気質が行動原理なのかもしれない。

「ゆふぅ、ゆはぁ・・・ゆっくりとうちゃくしたよ!」

しかし、本能のままに唯一自分に残されたゆっくりの元を目指したまりさは思いのほかすぐに俺の家に到着した。
玄関先で何度も何度も「ゆっくりしていってね!」と叫び、何とか俺を呼び出そうと試みる。

「なんだよ、五月蝿いな・・・」
「おにーさん、まりさありすとゆっくりしたいよ!」

そして、開口一番にそんな事を要求した。
当然、そう簡単に応じてもらえるとは思っていない。
最悪の場合、永遠にゆっくりさせられてしまうかもしれない。
それだけの覚悟がまりさにはあった。

「ああ、良いよ」

が、その覚悟に反して俺の返事はあっさりとしており、まりさは一瞬間抜けな表情になる。

「ゆゆっ!ほ、ほんとうにいいの?」
「ああ。つっても家に上げてやる気はないけどな」
「ゆぅ?」
「つーわけで、こいつらは責任をもって処分しといてくれよ」

俺はまりさの目の前にありすと2匹の赤ありすを放り投げ、再び戸を締めた。
まりさの前にいるありすには少し前までのゆっくりした面影は微塵もなく、まるでボロ雑巾のようだ。
どのありすも底部を焼かれ、髪の大半を引き抜かれ、柔らかかった頬と底部を焼かれていた。



翌朝、まりさは朝早く目を覚ますと急いでごはんを集めに出かけていった。
もちろん、動くことの叶わないありす達を養うためである。
昨夜、まりさはれいむの子ども達を育つ見込みがないと言う理由で見捨てた。
にもかかわらず、ありすとその子ども達を見捨てることが出来なかった。

「ゆっくりごはんさんをさがすよ!」

空元気でそう意気込んでいるが、ありす達を養い続ける限りまりさはずっとゆっくり出来ないだろう。
何せ彼女達は見捨てた赤ちゃんまりさと同等か、それ以上に舌の肥えているゆっくりなのだから。
それでいて空腹を覚えたことのない3匹を満足させることなどまりさにできるはずがない。

「ゆゆっ!おいしそうなむしさんだよ!」

しかし、何度も家族を見捨てるほどに非情になれないまりさは彼女達を養い続ける。
れみりゃに襲われて帰らぬゆっくりとなるその日まで。


---あとがき---
実質作業時間4時間程度
もしかしたら最速の作品かもしれない

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最終更新:2022年05月21日 22:07