竹取り男とゆっくり 6
ある山で、ゆっくりまりさとゆっくりありすが仲良く暮らしていた。
つがいではない。
まだ初々しい恋仲だった。
親同士がご近所で、同じ時期に生まれて小さい頃から一緒に遊んでいたまりさとありす。
大人になると2匹は連れ立って親元を離れ、今こうして真新しい巣穴で寄りって眠っていた。
いずれは……と。
まりさもありすも同じ夢を描いていた。
その夢は、この冬の先にとってある。
厳しい寒さを越えて草木の新芽が芽吹くころ、まりさとありすは本当の家族になるのだ。
木の根元に掘った小さな巣穴には、そんな愛と希望があふれていた。
朝…………
「ゆ」
バレーボールサイズのまりさは、巣穴に差し込む太陽の光で目を覚ました。
「ゆっくりしていってね!」
「ゆぅん……ゆっくり……」
ありすを起こそうと元気に叫ぶまりさだが、ありすはまだ眠たそう。
「ゆ! ありす! もうあさだよ! ゆっくりおきてね!」
「ゆふ…ゆっくりまってね……ゆっくり……おき……」
と言いつつ眠ってしまうありす。
まりさはそんなありすを可愛いと思った。
とてもゆっくりしていたから…。
まりさはありすの頬にすーりすーりしてからいったん外に出ると、センダングサの白い花をくわえて戻ってきた。
そして、眠っているありすの側にある大きな葉っぱを持ち上げた。
その下にはわずかばかりの食料。
まだ若いまりさは巣穴を上手に掘ることができない。狩りもうまくない。
そのため、2匹は狭い一部屋を寝室兼食料庫として使っていた。
まりさは葉っぱを地面に敷くと、その上に食べ物をきれいに並べた。
小さなドングリが6つ。
小さなキノコが1つ。
小さなダンゴムシが2匹。
最後に、つんできた小さな花を添える。
「ありす、ゆっくりおきてね!」
「ゆ…ん」
「ごはんできたよ! いっしょにたべようね!」
「ごはん?」
ありすはゆっくりと目をひらいた。
そして、まりさが用意してくれた食事に気づいて笑顔を輝かせた。
「ありがとう! とかいはらしいすてきなもーにんぐね!」
まりさとありすは仲良く食べはじめた
ありすがドングリを食べれば、まりさもドングリを食べた。
ありすは1つしかないキノコを「とかいはのてくよ!」と口だけで器用に均等にちぎると、半分をまりさに渡した。
2匹は毎日、同じものを同じ量だけ仲良く食べた。
ゆっくりの食事にしては質素すぎるものだが、添えられた花は彼らの空腹感を幸福で満たした。
「「むーしゃむーしゃ、しあわせ〜!」」
食事を終えたまりさとありすは、連れ立って湧き水を飲みに行く。
水場には同じように朝食を終えたゆっくりの家族がたくさん集まって会話していた。
「「ゆっくりしていってね!」」
「「「「「「ゆっくりしていってね!!」」」」」」
2匹のあいさつに、彼らは一斉に応えた。
まりさはその中に馴染みの一家を見つけた。
その一家は、両親であるまりさとれいむ、そして1匹の赤ちゃんまりさ、3匹の赤ちゃんれいむという構成。
まりさとありすがここに来て巣穴を掘りはじめた頃、なにかと世話をしてくれた親切な一家だ。
みんなとてもゆっくりして幸せそうだった。
さて、その親まりさは2匹のそばに来ると、残念そうに別れを告げた。
「きょうでみんなとはおわかれなんだ!」
「ゆ? どうして?」
「となりのやまにゆっくりひっこしするんだよ!」
「ゆゆ? でも、あそこはごはんがないよ?」
隣の山とは、彼らが住んでいる山の隣にある、竹ばかり生い茂った大きな山のことだった。
その竹山にはゆっくりが常食にしている昆虫や花がほとんど無いため、どのゆっくりも寄りつくことはない。
若いまりさは、なぜここを捨ててまでそんな山に移り住もうとしているのか理解できなかった。
「じつはね…」
親まりさは、とくに仲良くしていた若いまりさに引っ越す理由を教えた。
これは道に迷ったある1匹の"はぐれゆっくり"から聞いた話で、春になるとあの山には"タケノコ"という美味しい食べ物ができるという。
しかも、そのはぐれゆっくりは三日三晩のあいだ、一度も人間ともゆっくりとも遭遇しなかったという。
このことを知っているのはごく一部だけだから、今のうちに引っ越せば、春にはタケノコをおなかいっぱい食べてゆっくりし放題だというのだ。
「ひっこしはいつなの?」
「これからいくよ! まりさのれいむが、はやく"たけのこ"をたべたいっていってるから!」
「あかちゃんもつれてくの?」
「ゆっ! もちろんだよ!」
見ると、体の大きな親れいむの足元には、食料や家具をくるんで丸めた葉っぱが数個置かれている。
赤ちゃんたちも、きっとお弁当だろう…小さな葉っぱを丸めたものを咥えていた。
「まりさ、ゆっくりしてないではやくいこうね!」
「ゆ! わかったよれいむ! じゃあまりさ、ありすとゆっくりたっしゃでね!」
「ゆ! まりさもれいむやあかちゃんとゆっくりくらしてね!」
こうして、まりさとありすは一家を見送った。
一家は本当に幸せそうに、ポンポン飛びはねて行った。
そして、彼らは二度とここへ戻ってくることはなかった。
さて、あれから数日後、まりさとありすは巣の中で、今日はなにをしてゆっくりしようかと話し合っていた。
ふと会話が途切れたとき、おもむろにまりさは言った。
「ゆぅ……ありす、まりさたちのおひっこし、どうおもう?」
「ゆ? ありすはいやよ! あんなだれもいないところ、ぜんぜんとかいはらしくないわ!」
「でも、おいしいたけのこがあるらしいよ」
「ゆゆ? たけのこ?」
「それに、にんげんもいないんだって」
「ゆゆゆ! まりさはありすのことほっといて、たけのこがたべたいのね!?」
「たべたいよ…! ありすといっしょにたけのこをたべて、ふたりでいっしょにゆっくりしたいよ!」
「ばっ、ばりざっ…!!」
危なかった…。
もう少しで黄色いボルケーノを大噴火させてしまうところだった…。
ありすはこっそり壁に涎をなすりつけて、ハァ…ハァ…と呼吸を整えていた。
一方、まりさのほうは純粋に、大好きなありすにタケノコを食べさせてあげたいと考えていた。
なぜならまりさは、自分がありすとつり合うような立派なゆっくりだという自信が持てなかったから。
まりさはまだ大人になったばかりで、狩りも下手。
巣穴も同サイズのゆっくりが3匹入るかどうかの、こんなに狭いワンルームだ。
"とかいは"なありすを満足させてあげるためには、おなかいっぱいの食べ物と広い3LDKが必要だった。
…隣の山は美味しいタケノコがたくさん生えるという。
…しかも、人間もゆっくりも住んでいないという。
若いまりさは、そんな未知の世界への誘惑にすっかり魅了されていた。
そして、今こそ頼りがいを見せるときだと思ったのだろう…。いつになく、まりさは強くありすを誘った。
「ありすのこと、まりさがまもるからね!! まりさにゆっくりついてきてね!!」
ボムッ☆
ありすのあふれる愛情が、カスタードに形を変えて口から噴き出した。
体の下のほうの小さなバッテンからも、なんか変な汁が出てきた。
「し、し、しかたないわね! ちょっととかいてきじゃないけどっ、ばばっばりざがいうならいっしょにいってあげてもいいわよ!?」
ギンギンに目を血走らせるありすに、まりさはこの上ない笑顔を向けた。
かくして、この若い2匹もまた引越しの準備を整えはじめた。
旅立ちは4日後の早朝だった。
もともと狭い巣穴に家具などあるわけもなく、持って行くものといったら食料ぐらい。
見知らぬ土地に行くということで、まりさもありすも2つずつ、葉っぱにくるんだお弁当を持った。
「「ゆっくりさようなら!」」
「「「「「ゆっくりきをつけていってね!」」」」」
前の一家と同じように、2匹はそろって親しい友達に別れを告げた。
そして同じように、とくに親しい友人には行き先と理由をうち明けてきた。
まりさは先頭、ありすはその後に続いた。
弁当を2つも持つのは難しいので、1つは口に咥えて、もう1つはコロコロ転がした。
「ゆっゆっゆ゙ー!♪ ゆゅっゆゆ゙ー!♪」
「まりさはへたね! ありすのそぷらのをおてほんにしてね! ……ゆ〜ゆ〜〜ゆ゙ぅ〜!♪ ……」
新天地への希望でいっぱいのまりさとありす。
2匹は音程も外れ、リズムもちんぷんかんぷんなくせに声だけはやたら大きい、聞くに耐えない歌を歌っていた。
そうしてしばらく歌って飛び跳ねているうちにおなかが空いたので、1つ目の弁当を使うことにした。
中身はたくさんのドングリと珍しいキノコで、この4日間のうちにまりさがはりきって集めてきたものだった。
2匹はどんなに空腹でも、仲良く一緒に食べた。
「ゆゆ〜ん! おいしいね!」
「ゆっくりできるわね!」
「「むーしゃむーしゃ、しあわせぇ〜!」」
食事を終えると、また跳ねていく。
弁当が1つ減ったので、速度も早くなった。
これなら日没のだいぶ前に、ふもとにたどり着くだろう。
そう思った矢先である。
「ゆ゙っぐぅ……あ…ありず、まりざおなかがいたいよ……」
「まりさもなの? じ、じつは……ありすもな゙の゙……」
急に、まりさのおなか(頭しかないが)の餡子がズキズキと痛みだした。
一方のありすはもう随分前から腹痛(頭しかないが)に苦しんでいた。
それでも都会派の意地で我慢していたのだが、まりさに告白されると、とうとう自分も白状してしまった。
「ゆぐうぅぅ…もじがじて…きのこかな゙ぁ…」
「ゆ…。どんぐりはいつもとおんなじだったから、きっときのこよ…」
そういえば2匹が食べたキノコはやけにカラフルだった。
新しい門出にふさわしいと、まりさが取ってきたものである。
まりさの体もありすの体も、ネチョネチョした汗をしたたらせてテラテラ光ってきた。
そうして、ゆるやかな上り坂にさしかかった時である。
弁当を咥えて上っていたまりさが、
「ゆっしょ! ゆっしょ! ゆっしょ! …ゆっぶげえ゙!!!」
と、さっき食べたものを吐き出して苦しみ出した。
「まりさ!? しっかりしてねまりさ! まりざおろろろろっろおろろろろろろっろお!!!」
心配して駆けつけたありすが、まりさの嘔吐物のビジュアル・アンド・スメルにやられて、もらいゲロへと突入してしまった。
「ぶっぶげっ! ぶげえっ!! ぶげげぇ!!」
「ゆおろろろおおおおろおろろっろろおおおろろろろおろろろっ!!」
道のド真ん中で、しかも嘔吐物の海のド真ん中で、糸を引きながらネッチャネッチャとのたうち回るゆっくりが2匹。
もしこんな光景を人間に見られたら火でもかけられて消毒されそうなものだが、幸いこの道はめったに人間が通らなかった。
「あ、あ゙じずゔゔゔ……だいじょぶぅぅぅ……?」
「ばじざのばがぁぁぁぁぁ」
「ごべんであ゙じずゔぅぅぅ」
「ぐる゙じい゙よ゙ぉ」
3時間たっぷり悶え苦しんだ2匹はげっそりやつれて、舌を出したまま仰向けに伸びていた。
腹痛は収まっていたが、体内のものを吐き出しすぎて力が入らない。
消化不良のどんぐり&キノコ。餡子。カスタード。涙。涎。謎の粘液。
2匹が作った湖は黒と黄色の様々な液体が混ざり合って、異様な臭いを撒き散らしていた。
「ゆぶぅっ…ゆぶぅっ…ゆぶぅっ…」
「ゆひぃ、ゆひぃ、ゆひぃ」
こうして毒キノコを食べたまりさとありすは地面をのたうって地獄の苦しみを味わったものの、幸い命を落とすことはなかった。
陽が傾いてそろそろ日没という頃、2匹はやっと悪臭の湖から起き上がった。
「よるになっぢゃうよ……あじず、ゆっぐりあるごうね?」
「ゆ……ぐ……」
ありすはまりさに抱えられ、体を引きずって歩き出した。
「ばじざ、おべんとは?」
「ゆっ…ゆっぐじわずれでだよ…」
まりさは2つの弁当を取りに這って戻ったが、悪臭の湖に長時間沈んでいた弁当はもはや食べられそうもなかった。
まして、弁当の中身は先に食べたものと同じだったので例の毒キノコ入りだ。
まりさは泣く泣く弁当を諦めてありすのところに戻った。
「ばじざ…? おべんと…」
「ゆっ…たべられぞうにながっだよ…」
意気消沈した2匹は、ふたたび体を引きずって歩きだした。
体の中身が空っぽのような気がして、まったく力が入らない。
事実、2匹の中身は4割ぐらい減っていた。
それでも夜の闇は怖いので、何度も倒れながら道を歩いた。
日もとっぷり暮れた午後7時、まりさとありすはやっと竹の鬱蒼と生い茂る山のふもとに到着した。
ぜんぜん嬉しくなかった。2匹は涙目になって寝る場所を探しはじめた。
だが、見つからない。
広葉樹や針葉樹の大木の根元ならいくらでも穴が見つかるが、地面からスッと垂直に伸びる竹の山に、ゆっくりが眠れる場所など皆無だった。
「ゆ…まりさどうするの…?」
「まってね、ゆっくりかんがえるよ」
「もうよるになっちゃったよ…?」
「ゆっくりまってね、ゆっくりかんがえさせてね」
「ゆぐっ…ゆぐっ…やっぱりこなければよかったぁぁぁ!! ありすはいやっていったのにぃぃぃ!!」
「ゆっくりしずかにしてね!! わがままいわないでね!!」
夜の闇を不安な目で見まわしていたありすは、とうとう泣き出してしまった。
まりさもだんだん怖くなってきて、いっそ逃げ出そうかという思いが餡子脳をよぎった。
だが、2匹で暮らしていた巣穴を思い出したとき、まりさはひらめいた。
「ゆっくりー! あなをほればいいんだよ!」
まりさはそう叫ぶと、口を開けて地面の土にガッついた。
「かたいよおおお!!!」
その土は固く、とてもゆっくりの歯で掘れるものではなかった。
「ゆゆ! まりさ、こっちはほれそうよ!」
ありすは山の斜面で、土の固さを確かめるようにポンポンと飛んでいた。
たしかに、斜面の土は落ち葉に覆われてやわらかい。
まりさは再び口を大きくひらくと、地面にガッついた。
そして、口いっぱいに溜めこんだ土を脇に吐く。
土特有のにおいに、弱っているまりさは何度か嘔吐をもよおしたが、だんだん穴は掘れていった。
「がぼ!! ゆぺっ! がぼ!! ゆぺっ」
「まりさ、もだんですてきなおうちをつくってね!」
そうして40分も経つと、単に横に掘り進めただけの巣穴ができあがった。
「ゆふぅ…やっとできたよ!」
「ゆゆ〜ん! ありがとうまりさ!」
「これでいっしょにゆっくりできるね!」
月明かりのなか、まずはありすが中に入っていった。
ゆっくりが1匹しか通れないような細い穴。
奥行きも2匹がギリギリ入るかどうかの窮屈な巣だが、急場をしのぐためには仕方がない。
少なくとも恐怖と寒さに震えながら外で眠るよりは、身を隠せるだけ安全だった。
「まりさ! ゆっくりできるわよ!」
「ゆゆっ! よかったよ! じゃあまりさもはいっ…」
「ゆあああああああああ!!!」
ついさっきまでウキウキしていたありすが、穴の奥で唐突に叫んだ。
「どうしたの!? なにかあったの!?」
「うしろがみえないよぉぉ!! これじゃゆっぐじでぎないぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
なんと、振り返るスペースがないので奥を向いたまま反転できないというのだ。
「ゆっ! ありす! そこでゆっくりまわればいいんだよ!」
「ゆ? こぉ? くーるくーる…」
ありすはその場で足踏みして少しずつ回ると、入口を向くことができた。
「ゆゆ!? できたよ! まりさすごいわ!」
「ゆっへん!」
あごをのけ反らせて自信満々のまりさ。
ありすはそんなまりさを見て、泣きべそをかいた自分が恥ずかしく思った。
「つ、つかれててちょっとこんらんしてただけなんだからね!? ほら、まりさもはやくはいってね!!」
「ゆっくりはいるよ! ゆっくり〜♪」
モゾモゾしながらまりさが入ると、とんがり帽子が穴の入口につっかえて、脱げて落ちた。
「ゆゆっ!? まりさのおぼうしがおちちゃったよ!」
まりさはその場足踏みで半回転すると、帽子を取りに巣を出て、斜面を下りた。
「ゆ。まりさのたいせつなおぼうし、よごれてなくてよかったよ!」
まりさは帽子をかぶりなおし、再度ありすのいる巣穴に入った。
トサッ
「ゆぅ!?」
まりさはまたもや足踏みして半回転し、帽子を取りに斜面を下りた。
「まりさのたいせつなおぼうしさん、おねがいだからゆっくりしていってね!」
まりさは帽子に声をかけてかぶりなおすと、巣穴に入って………また帽子を落とした。
「ゆげぇ!? …もう! ゆっくりしてっていってるでしょっ! いいかげんにしないとおこるよ!! ぷんぷん!!」
「まりさ、おぼうしがおおきすぎるんじゃない?」
「そんなことないよ!! まりさはちいさいころ、もっとせまいあなにもはいったことがあるんだよ!?」
そりゃ、小さい頃は帽子も同じように小さかったんだから、もっと狭い穴にも入れただろう。
だが、餡子脳しか持たないまりさにはその理屈がわからない。
言うことを聞かない自分の帽子に癇癪を起こしたまりさは、とうとうありすにも当たり散らしはじめた。
「ゆっくりおぼうしをとりにいくよ! くーるくーる、くーるくーる…」
足踏みで半回転して巣穴を飛び出し、斜面を下りて帽子をかぶる。
そしてまた斜面を登って、巣穴に入って帽子を落とす。
それをくり返すこと7度。
まりさは疲れと怒りで真っ赤になって荒い息を吐いていた。
「ゆふーっ! ゆふーっ! ゆふーっ!」
「まりさ、だいじょうぶ?」
「ゆ! こんなのどうってことないよ! ありすはゆっくりあんしんしてね!」
そうして、また帽子をかぶった。
「かっこよくてすてきなおぼうしさん! まりさはゆっくりあなにはいるから、おぼうしさんもゆっくりはいろうね!」
まりさはそう言うと、慎重に慎重に穴に入りはじめた。
「ゆっくり、ゆっくりはいるよ! そろーり…そろーり…」
トサッ
「……………………」
まりさの帽子は、入口に引っかかって落ちた。
「……どぼぢでお゙ぢる゙の゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙!!!!??」
まりさはとうとう自分の帽子にプッツンして巣穴を飛び出した。
そして、よほど怒り狂っているのだろう…ゆっくりたちがあれほど大切にしている帽子を、咥えてビリビリに引き裂いた。
「どぼぢでいうごどぎがな゙い゙の゙お゙お゙お゙!!!? ばじざのぼーじでじょお゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙!!!!???」
引き裂いた帽子をさらに細かくちぎり、今度は上に乗ってドンドンと踏み潰すまりさ。
「ま、まりさ! おちついてね! たいせつなおぼうしでしょ!?」
「いうごどきかないくそぼーじなんがっ、ばじざのぼーじじゃないよっ!!!! ゆっぐじぢねぇぇっ!!!!」
驚いて止めに入ったありすに体当たりをかますと、再び帽子を踏みつぶすまりさ。
まるで性格の変わってしまった乱暴なまりさを見て、ありすは側でゆぅゆぅと泣いていた。
とんがり帽子が土と見極めがつかないほどボロボロになる頃、まりさはやっと落ち着きを取り戻した。
「ゆぶーっ…ゆぶーっ…ありす、ゆっくりできないぼーしはもういないよ! これでいっしょにゆっくりできるよ!」
「まりさ…おぼうし…いいの? こんなにしちゃって…」
「まりさたちをゆっくりさせないぼーしなんて、まりさのぼーしじゃないよ! ぼーしのことはあとでゆっくりかんがえればいいよ!」
「ゆ……」
冷静さを取り戻したまりさに多少安心したありすは、先に巣に入った。
帽子のないまりさは乱れた金髪を整えようともせずに、続いて穴に入った。
もう、なにも落ちるものはなかった。
「ゆ〜♪ あったかいね!」
「そ、そうね…」
唇が触れる。
これまでは同じ方向を向いて頬を寄せて眠っていたので、ありすはすっかり戸惑ってしまった。
「ゆゆ……ぷるぷる〜!」
ふいに、まりさは自分で「ぷるぷる〜」と言いながらぷるぷると体を震わせた。
「ゆゆ? どうしたの?」
「ゆぅ…ちょっとさむいね」
実は、冷静になったまりさは寒さに震えているのではなかった。
怒りに我を忘れて大切なお帽子をビリビリに引き裂いてしまったことに。
そして、風に頭を冷やされるという慣れない感触に。
他のゆっくりたちからいじめられたらどうしよう…と、そのことに恐怖を感じて震えていた。
「もっと、こっちきてもいいわよ」
「ゆ? いいの? ありすくるしくない?」
「くるしくないわよ。ほら、もっときて。 …ちゅ!」
「ありが…ちゅぅ!?」
ありすは自分から唇を重ねた。
まりさは驚いて固まった。
やがて2匹は唇を離すと、じ〜っと見つめあった。
「あ…ありす…? ありす……ありすぅ! ありすうぅぅぅ!!」
「むほおおおまりさ!! もっとありすをこすってぇ!! めちゃくちゃにしてぇーっ!!」
冬籠りが終わったときに……と。
言葉にせずともお互いの胸の内に秘めていた想いが今、はじけ飛んだ。
かねてから抑制に抑制を重ねてきた交尾への欲求は、ひょんなことから、この狭い穴倉で実現してしまった。
ぬちぬちぬち… ねちゃくちゃぁ…
「ゆひぃ! ゆひぃ! まりさのほっぺ…やわらかくてきもちいいわぁ! もっと、もっと…」
「ゆううぅっふ!! ゆっふ、ゆっふふぅぅぅぅ!! ありすぅ! ありすのほっぺたも、こすりごごちさいこぉなんだぜぇ!!」
ふと気づくと、まりさの口調が変わっている。
単に背伸びしているだけなのか、交尾を始めたことで本当に大人の階段上っちゃってるのか、それはわからない。
ぬっちゅぬっちゅ…
2匹の体からとめどなく流れる粘液が、巣穴の外までも溢れ出して線をつくりだす。
「ゆっへっへっへぇ…ありずのまむまむきもちいいぜぇ……まりざのぺにぺに…しめつけてくるんだぜぇ……」
「ゆはぁぁぁぁぁぁ……いいよぉ……きもちいいよぉ……」
ピタッ ピタッ ピタッ
まりさは欲望のままに、ありすにぺにぺにを打ちつけた。
冬籠りがどう…などという話は、もはや餡子脳から消えうせていた。
「ゆひぃ…ゆひっひぃぃ…ひぃ…いいよぉまりさぁ……もっとつよくっ…つよくしてよぉ……」
ありすはうわごとのように「つよくして」を繰り返しながら、焦点の定まらない目で涎をダラダラ垂らしていた。
ありすの希望どおり、思いきりぺにぺにを打ちつけるまりさ。
ピタン! ピタン! ピタン!
「ばりざの! びっぐぺにぺにで! ありずの! いんらんな! ほんしょう! あばい! ぢゃったん! だぜぇ!!」
「いんらん…いんらん……ゆ、そうよ、みぬかれちゃった…ありすは…じつは………い゙ ん゙ ら゙ ん゙ な゙ の゙ よ゙ お゙ っ !!!!!」
何かに吹っ切れたありすが突如ぐるりと振り返り、まりさのぺにぺにはその拍子にちゅぷんと抜けた。
後ろからありすを突いていたまりさは気づかなかった。
ありすの変化を。
ありすの凄絶な表情を!
「ばぁぁぁじぃぃぃざぁぁぁぁぁあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っっ!!!!!!!」
「ゆぎゃぁ!!? やっやめるんだぜあじずっ!!!」
ありすのまむまむが一瞬でぺにぺにへとチェンジし、その大きさはゆっくりの極大値をはるかに超えていた。
ありすの顔とぺにぺにの迫力に縮み上がったまりさ。
暴君となったありすのぺにぺには、問答無用とばかりにまりさの縮み上がった小さなぺにぺにに衝突した。
「ゆっぎえええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
ぺにぺにを強制的にまむまむへと変えられたまりさは、悲壮な叫び声をあげた。
「ゆほお゙お゙お゙お゙ばじざのごえっっっがわ゙いいよお゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙っ!!!!」
バスンッ! バスンッ! バスンッ!
「ぎゃあっ!! ばっっ!!! ぎょべえぇぇぇぇぇっ!!! だっ!! だずげでぐれ゙だぜぇ!!!」
巣穴いっぱいに膨張したありすにガップリ組まれてしまったまりさ。
こんな状況ではその場足踏みで半回転などできるわけもなく、まりさは大声で助けを求めた。
そのとき…。
なにかが動いたと思うと、外から月明かりとは別の赤い光が差し込んできて、まりさは穴の外に出された。
まりさの頭をつかんでいたのは、蝋燭をかかげた人間だった。
「こんなところにも巣穴があるのか」
「に、にんげんのおにいさん! ばじざをたすけてくれてかんしゃしてるんだぜ!!」
「だぜ、だと? するってーとコイツはまりさ種だな? このやろう…」
人間の男は帽子のないまりさを奇妙な目で見ていたが、口調からまりさ種だと判別したようだ。
しかもまりさ種に恨みでも持っている様子だが、まりさはそれに気づく余裕など無い。
「そうだぜ! ばじざだぜ! じつは…」
「ちゃんと怖い目に合ってただろうな?」
「そうなんだぜ! じつはあじずにおそわれて……ってそれはだめだぜえええええ!!!!」
早口で説明しようとしたまりさの体は、はやくも真っ二つに割られていた。
「そうかそうか。じゃ、餡子も甘くなってるだろうな。どれどれ…」
人間の右手と左手に均等に分かれたまりさの体。
男はまず、左手にあるまりさの後頭部の切り口から中身を味見した。
「お! あま〜い!」
「な゙っ! なにじでる゙んだぜ!!? やべる゙んだぜ!!! もどにもどずんだぜ!!!」
まりさが必死に叫んでいるうちに、左手のまりさの後頭部は早くも皮だけになった。
…と、まりさがいないことに気づいた発情ありすのくぐもった声が、穴の中から聞こえてくる。
人間はまりさの皮を、ありすのいる巣穴に投げこんだ。
「ゆほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!??」
姿は見えないが、ありすの驚いたような嬉しいような、なんとも言えない叫び声が漏れてきた。
「あ゙あ゙っ!!! ばじざのあ゙だま゙があ゙っ!!!!
「ああ、これもいらないんだよな」
まりさの視界に人間の手が急接近してくる。
まりさは本能的に何をされるのか悟った。
グポッ グポッ
「ゆびゃああああ!!!! ばじざのおべべがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
男は抉り取った目玉も巣穴に投げ入れると、またもやありすの嬌声が上がった。
「ゆぐぅぅぅっ!!! どぼぢでごんなごどずるのお゙!!!?? ばじざな゙んにもじでな゙いのに゙ぃぃぃぃ!!!!」
「俺の山に無断で住みついたお前が悪いんだよ。ゆっくりりかいしてね?」
「ばじざはぎょおごごにぎだばっかじなのにぃぃぃぃ!!!!」
「じゃあ今日一日分の家賃、お前の体で払ってね! …こんの泥棒ゆっくりがっ!!」
「ばじざはどどぼーじゃないよぉぉぉぉぉ!!!! だげのごだっでどっでないのに゙ぃぃぃぃぃ!!!!」
「お前もタケノコ狙いかよ。じゃあ来年のタケノコの代金、お前の体で前払いしてね! …こんの泥棒予備ゆっくりがっ!!」
「なにいっでるのがわがんないよおおおおおおおおお!!!!」
あわれ……。
希望を抱いて新天地にたどりついた若いまりさは、その希望をなにひとつ叶えられないまま、見知らぬ人間に餡子を提供してその生涯を終えた。
まりさの餡子を堪能し終わった男は、腰をかがめて地面の巣を覗いてみた。
中にいたありすは、体中黄色いカスタードにまみれてグズグズになっていた。
まりさの皮を体に巻きつけて、えげつない顔でニヤニヤ笑いながらへっこへっこと体を振っている。
口の中でしゃぶっているのは、まりさの二つの目玉だった。
「ゆげへへぇ……ばじざぁ……ゆへぇ……どべべべー」
「やれやれ…」
男は持ってきた鉤付き棒で狂ったようにニヤニヤ笑っているありすを穴から出すと、荷車に積んでいた大袋に入れて口を閉めた。
「ゆ!」
「ゆゆ!?」
「ゆっゆっゆっ」
中にいるのは全てありす種。
無類の餡子好きのこの男にカスタードは必要ないので、加工所か甘味屋に売るつもりだった。
結局、一部始終を知らない男は、狂ったレイパーありすがまりさを襲っていたのだと思った。
ついさっきまでこの2匹が愛し合い、将来を約束していたなどとは夢にも思わなかった。
夜も更け、夜空は今にも雪が降らん厚い雲に覆われる。
タケノコの噂を聞きつけ、この竹山にたくさんのゆっくりが押し寄せて越冬の準備をしていることを、男はまだ知らない。
〜あとがき〜
あけましておめでとうございマス(人〃▽〃)
お餅ばっか食べてゆっくりしてました (〃▽〃人)
このシリーズ『竹取り男とゆっくり』は、一応続き物です。
が、どこから読んでくださってもいいように、なるべく各話独立させてます。
でわ、キャラ紹介します。
男・・・主人公。竹切って売って生活してる人。餡子好き。
甘味屋の店主・・・ゆっくり饅頭を売ってる人。虐待好き。
ゆっくり全般・・・ヒロイン(笑)
これ最初に書いとけってばよ自分。。。
最終更新:2022年05月21日 23:40