比較的街に近い、さほど高くもない山の中、一人の男が息を潜めて標的のゆっくりに近づいてゆく。
彼の視線の先にいるゆっくりはごく平凡なゆっくりれいむの子どもで、陽気に中てられたのか無防備な寝顔を晒していた。
「ゆぅ~・・・ゆぅ~・・・」
安らかな寝息を立てる子れいむと男の距離は10m程度。
彼はゆったりとした動作で手にした筒を口元に持って行き、思いきり息を吹きかけた。
瞬間、筒の中に収まっていた小さな矢が子れいむめがけて飛んでいき、下あごの辺りに刺さった。
「ゆびゅ!?」
痛みで目を覚ました子れいむだが、ゆっくりの体の構造上自力で深々と刺さった矢を抜くことは出来ない。
それでも、体を捩ったり、近くの石に矢をぶつけたりと試行錯誤するが、やはり徒労に終わってしまう。
それどころか体内で矢の先端が動き、餡子を引っ掻き回したために余計な痛みを味わう羽目になった。
「ゆぐ・・・いぢゃいぃ、いぢゃいよぉ・・・」
しかし、泣き声がゆっくりにしては妙に小さい。
本来なら小さな体を目いっぱい使って信じられない大声で泣きじゃくるはずなのに。
子れいむはすすり泣く、といった表現が相応しい控えめな声で泣いている。
「ゆえーん、ゆえー・・・ゆぎっ」
どうやら、泣くだけでも餡子や矢が動いてしまい激痛が走るらしい。
痛みを耐え切れずぽろぽろと涙を流すその表情が時々苦痛によって歪んでいた。
「ゆっぐ・・・もうやだ、おうちかえる」
しばらく泣きじゃくっていた子れいむはそう叫びながら巣に戻るために飛び跳ねた。
そして、着地した瞬間に衝撃で矢が動き、また苦痛に顔を歪めた。
もちろん、矢は刺さった後に飛び出す特殊な返しのおかげで抜けることなく刺さったまま。
「ゆ゛っ・・・ゆっぐちしたいよー・・・」
結局、子れいむは跳ねて移動することを諦め、ゆっくりと地べたを這いずって巣へと戻っていった。
「おかーしゃあん・・・いぢゃ、いぢゃいよぉ!」
「おちびちゃん!ゆっくりだよ、ゆっくりしてね!?」
「ゆっぎぢできないよぉ!とって!はやくとってー!」
数時間後、幸いにも日が暮れる前に巣に戻った子れいむは母れいむに矢を取ってもらおうとしていた。
しかし、母れいむが矢を少し動かすだけで激痛が走ってしまい、彼女は大泣きしてしまう。
そのせいで子どもに甘い母れいむは娘が痛がるのに無理に引き抜くことが出来ず、右往左往。
「おがーぢゃん!どっぢぇ!はやぎゅどっぢぇー!?」
「ゆぅ・・・おにぇーちゃん!ゆっくち、ゆっくちだよ!」
「ゆっくち!ゆっきゅちちていっちぇね!」
「ゆっくりぢでいっでね、ゆぎぃ!?」
泣きじゃくる子れいむの周りで母れいむと一緒に右往左往しているのは妹のれいむとまりさ。
当然、彼女達に何かが出来るはずもなく、子れいむにつられて泣き出してしまった。
「ゆぅ・・・わがらないよぉ!れいぶ、ゆっぐぢでぎないよおぉぉ!?」
そればかりか、とうとう母れいむまで泣き出してしまった。
慰めるものもおらず、ただひたすら泣きじゃくるれいむ一家。
一家の大黒柱のまりさが帰ってきたとき、彼女達はようやく泣き止んだ。
「ゆゆっ!ゆっくりりかいしたよ!まりさがぬいてあげるね!」
事情を聞いたまりさの動作は素早かった。
すぐさま子れいむに刺さった矢の露出している息を受ける部分を咥えると思いっきり引っ張った。
「ゆぎゅぅぅぅうぅううぅぅう・・・!?」
当然、返しに阻まれて簡単には抜けず、子れいむは尋常でない痛みのせいで悲鳴をあげることすら出来ない。
ただ歯を食いしばりながら大量の涙で水溜りを作るばかり。
しかし、そんな地獄の苦しみも永遠に続くはずがなく、数十秒後には解放された。
「ゆっ!」
「ゆ゛ぐぅ!?」
まりさが引き抜いた矢には返しが4つ、ちょうど十字に見えるように付いている。
それはつまり、それが子れいむの体から引き抜かれたことを意味していた。
「ゆ゛っ・・・!ゆ゛っゆ゛っ・・・!?」
大きな口を両断され、底部をべろんとめくられた子れいむはまるで口が3つあるように見える。
その傷はあまりに大きく、そしてあまりに深かった。成体ならまだしも、子どもにとっては確実に致命傷。
現に傷口から餡子を撒き散らした子れいむは白目を剥いて、割れた口から危険信号といわれる「ゆ゛っ」という嗚咽を漏らしていた。
「ゆゆっ!おちびぢゃん!ゆっぐぢ、ゆっぐぢぃー!」
「おにぇーちゃああん、ゆっきゅちー!ゆっきゅちー!」
「まりさのおぢびぢゃん!ゆっぐぢぢぢゃだべだよおおおお!ゆっぐぢー!
「もっぢょ・・・ゆっくちちたかったよ・・・」
異常に気付いた両親は必死に子れいむを励まして、傷口を舐めたが何の意味もなさず、子れいむは息絶えた。
「れ、れいぶのおぢびぢゃんがああああああああああ!?」
「ゆえええええん!おぢびぢゃあああああああああん!?」
悲嘆に暮れるれいむとまりさ。
しかし、彼女達にはゆっくり絶望する暇すら与えられない。
「ゆき゛ゅ!?」「い゛っ!?」
短く悲鳴を上げたのは姉を失い、母親同様に悲しんでいた赤れいむと赤まりさ。
赤れいむののこめかみと赤まりさの後頭部には先ほど子れいむの命を奪ったあの矢が突き刺さっていた。
---あとがき---
ありそうであんまりなかった矢ゆっくり。
文字通り矢が刺さったままになっているゆっくりです。
動くと激痛、抜くと死ぬ、放っておくと狩りなんてまず出来ない。
こんな有様の赤ゆっくり2匹を抱えて生きていくこの一家の行く末は・・・
たいちょさんが書いてくれるらしいです(
byゆっくりボールマン
最終更新:2022年04月16日 23:02