環境系

俺設定あり




ゆっくり種には様々な天敵がいる。れみりゃなどの捕食種、野犬やカラスなどの野生動物、そして人間。
また、ゲスゆっくり、レイパーありすなどの同じゆっくり種にも危険なものたちがいる。
食べ物や縄張りを巡ってまともなゆっくり同士が争わねばならないこともある。
だが、自然はそんなゆっくりたちにさらなる試練を課そうとしていた……。

あるゆっくりの一家が長い旅の果て、ようやくゆっくりできそうな場所にたどり着いた。
そこは森の奥深く。土地は豊かで、食べ物になる草や果物、木の実、虫などがたくさんある。
人里からは離れていて人間に遭う心配もない。どうやら捕食種もいないようである。
ゆっくりもいない……。こんなにいい場所なのに先に棲んでいるものがいないのは妙ではある。
だが、一家は深く考えなかった。一家は他の普通のゆっくりにも怖い眼に遭わされたことがあった。
自分たちだけで生活できるのならそれに越したことはなかったのだ。
単にこの場所が穴場だったのだと考えることにした。

一家は巣になりそうな樹のうろを見つけると、高らかにおうち宣言をした。
喜びと悲しみに満ちた苦難の果てのおうち宣言である。
「今日からここはれいむたちのおうちだよ! ゆっくりしていってね!」
「ゆっきゅりしていっちぇね!」
「ゆ……ゆぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
親れいむは感極まって泣き出してしまった。
「おかあしゃん、ゆっきゅりなきやんでにぇ? ゆっきゅりちようにぇ?」
「ゆえーん! ゆえーん!」
ある子供は親をなだめようとし、ある子供はもらい泣きした。
やがて一家は泣き止んだ。ゆっくりとしてはそんなに切り替えが早くなかったのが、それまでの苦労を忍ばせる。
「うん、もう泣かないよ。まりさや死んじゃったみんなの分までゆっくりするよ!」
「ゆっきゅりちようにぇ!」
この一家は片親しかいない。旅の途中で死んでしまったのだろう。
子供たちも何匹も失ってきたことだろう。
一家はようやく安住の地を得ようとしていた……。

一家は思い思いにゆっくり過ごし始めた。ここにはたっぷり食べ物があるので、必死に駆けずり回らなくとも充分すごせる。
子ゆっくりたちは虫を追いかけて遊んだり、ほお擦りしあったり、宝物になりそうなものを探している。
「ゆー! ゆー!」
一家の中でも一番小さい赤ゆっくりが、親れいむにしきりに呼びかける。
「なあに?」
「ゆー!」
赤ゆっくりは咥えていた骨を離した。それは魚の頭部の骨であった。水の苦手なゆっくりにとっては珍しい代物だ。
「まあ、素敵な宝物! よかったね!」
親れいむは赤ゆっくりにほお擦りしてやる。
「ゆー! ゆー!」
赤ゆっくりはぴょんぴょんと新しい巣の中に跳ねていった。ついてきて欲しいようだ。親れいむもそれに続く。
赤ゆっくりは穴の側で跳ねている。穴は今掘ったばかりのようだ。
「そこに埋めるのね。手伝ってあげるね!」
親れいむは魚の骨を穴に落とすと土をかけ、上で跳ねて踏み固めた。ちょうどいい石が側にあったので目印に置いておく。
「ゆー! ゆー! ゆぅぅぅ!」
赤ゆっくりはなんだか不満そうである。親れいむは少しいぶかしげに思ったが、お腹がすいているのだろうと解釈した。
「はいはい、今ごはんにしますからね。もうちょっとゆっくりまっててね」
「ゆぅぅぅ……」

いっぱいゆっくりして、いっぱい食べて、一家は満ち足りた。これほどのゆっくりは生まれて初めてかもしれない。
親れいむは思った。伴侶のまりさが惨殺されたのをはじめとして、今まで辛い眼に遭ってきた。
世界はゆっくりの天敵でいっぱいだ。ようやく他のゆっくりたちの集落を見つけてもそこに安住することはできなかった。
集落のゆっくりたちは皆、外敵との戦いと食糧の確保でカツカツしていた。受け入れる余裕がないと宣告されることもあれば、
受け入れられても重労働を課せられるのだ。結束を保つためにも新参者を優遇するわけにはいかないのだ。
子ゆっくりたちはすやすやと眠っている。安逸そのものの寝顔だ。
親れいむはそんな子供たちを見て、思わず涙がこぼれた。
ようやく本物のゆっくりプレイスを見つけたんだ……。親れいむは感慨でいっぱいになった。

真夜中に異変は起きた。
子ゆっくりの一人が悲鳴を上げて飛び起きたのだ。単に悪夢を見て起きたという悲鳴ではない。激しい苦痛の悲鳴だった。
「ちびちゃんどうしたの!?」
「ゆっ! ゆっ! ゆぎっ! ゆげっ!」
子ゆっくりの様子は尋常ではない。瞳孔は全開になっているし、口からは餡を吐き出している。
小刻みに痙攣しているかと思うと、唐突に飛び上がり、転がりまわる。まるでなにかを振り払おうとしているかのように。
「ゆっくりしてね! ゆっくりしてね!」
親れいむは必死に介抱する。
だが、やがて……。
「もっちょ……ゆっきゅりしたかっ……ゆぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ひときわ大きな悲鳴をあげた後、もう二度と動かなくなった。
「でいぶのあがぢゃんがじんじゃっだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
せっかく、ゆっくりプレイスにたどりついたのに、その矢先に死んでしまうなんて……。

だが、不幸はそれに留まらなかった。
子供たちが次々に同じ症状を示し始めたのだ。
「ゆっぎ! ゆげっぎゃぁっ!」
「ゆぅ……ゆぅ……」
親れいむは必死に呼びかけ介抱したが、なす術もなく子供たちは死んでいった。
いずれもすさまじい形相だった。相当苦しい目にあったに違いない。
だが親れいむにはまったく理由がわからなかった。なにか病か毒のように思えるが食料は前もって毒見した。
悪霊にとりつかれたとしかいいようがない有様だ。
だがそのとき親れいむは子ゆっくりの死体の眼窩から何かが這い出すのを見た。
それは蟻だった。一匹の蟻だった。

「おまえかぁぁぁぁ!!! おまえがわたしのこどもをぉぉぉぉ!!!」
親れいむは怒りにまかせて飛び上がり、蟻を踏み潰した。
そのとき、それが引き金になったのか、どこからともなく蟻の群れが巣の中に殺到してきた!
「ころしてやる! ころしてやる! みんなころしてやる!」
親れいむは子供を皆殺しにされた怒りに駆られて、完全に理性を失った。
もし、正気だったなら一目散に逃げ出していただろう。逃げ切れたかどうかはわからないが、それならまだ生き残る確率があった。
親れいむは蟻の大群目掛けて突進し、次々に踏み潰していった。
だが蟻も次々にれいむにまとわりついていく。
そのうち蟻は皮を食い破り、体内へと侵入してきた。
「ゆぎぃ! ゆぐげぎぃ!!」
親れいむは先ほど子供たちが味わった苦痛を知った。子供たちが狂って死んだのは蟻が体内に侵入し、餡を食い荒らしたからだった。
蟻がれいむの餡を這い回り、次々に齧っては運動中枢を狂わせていく。痛いといよりも痒かった。恐ろしい痒さだ。体内を虫が這い回る感覚はおぞましかった。
親れいむは蟻を殺すためというより苦痛から逃れるために暴れまわったが、体内に侵入した蟻はどうやっても振り払えない。
蟻の群れが子ゆっくりの死体を運び出していくのが見えたがどうすることもできない。
皮はボロボロに破れ、蟻が出たり入ったりしている。蟻に食われた目玉が取れてぽっかり空いた眼窩からさらに蟻が入ってくる。
苦痛は際限なく高まっていき、ついに力尽きるときが来た。
「ゆっぐり……ゆっぐりでぎるどおぼっだのに……」

親れいむは死ぬ前に気がついただろうか。赤ゆっくりの示した魚の骨は拾ってきたものではなかった。
掘り出してきたものだったのだ。それも巣の中からである。
赤ゆっくりはキレイな石を見つけたので、巣に埋めようとした。だが、石を埋めるために掘った穴から魚の骨が出てきたのだ。
よく見れば魚の骨が土塗れであることに気がついただろう。傍目には平穏そのものに見える森が親れいむの警戒心を弱めたのだろうか。
魚の骨はここに住んでいたゆっくりたちの宝物だったのだ。

そう先住ゆっくりはいたのだ。だが、そのゆっくりたちはあるとき全滅した。
蟻たちによってである。
本来、ゆっくりには虫を防ぐ力がある。おそらくは体表に纏った粕がその効果を持っている。
ゆっくりたちが頬擦りをしあう習性があるのも、この粕を満遍なく纏うためではないかと思われる。
この蟻たちは最近現れた新種、ゆっくりの防虫能力に耐性を得た種なのだろう。
もしこの蟻の生息範囲が拡大していったならば、ゆっくりたちは野に放置された甘味のごとくひとたまりもないだろう。
ゆっくりたちは生き残れるだろうか……。



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最終更新:2018年03月21日 16:50