今までに書いたもの

  • 神をも恐れぬ
  • 冬虫夏草


※注意事項
  • 東方キャラが登場します。オリキャラいうな。
  • 登場するゆっくりは全滅しません
  • 虐待っていうか……なんだろう。

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「しゅーりしゅーり、しあわせー♪」
「しゅーりしゅーり、しあわせー♪」

 安心して欲しい、これは『すっきり』の光景ではない。
 ここは人里の畑に間近い、とある森の中の巣穴。
 決して広いとはいえないその空間に、まだ成体になったばかりのまりさとありすのつがいが幸せそうな顔でその身を寄せ合わせていた。

 それは子作りのためのすりすりではなく、単純な愛情表現としてのすりすりだ。
 二匹は幼馴染同士くっついて、群れを出たばかりの新婚夫婦だった。
 一通り生きる為の知恵は身につけて、同胞の数が増えゆっくりできなくなりつつあったゆっくりプレイスから移住してきてから最初の冬篭りなのだった。

「はるになったら、いっぱいこどもつくるんだぜ」
「ええ、りっぱなとかいはれでぃにそだてなくちゃね」

 幸い、近場には「かってにおやさいがはえてくるゆっくりプレイス」がある。食料には困らないだろう。
 問題は「おやさいをひとりじめするばかなにんげんさん」が山ほどいることだが……まあ、まりささまが本気出せば何とかなるはずだ。
 本当の考えはどうあれ口ではまりさはそういっていたし、ありすはそんな「とかいはのまりさ」を全面的に信用していたから疑う理由はこれっぽっちもない。

「しゅーりしゅーり、しあわせー♪」
「しゅーりしゅーり、しあわせー♪」

 お互い気持ちが高まってしまわない程度に身体をすり合わせ、一緒になれた今の幸せを確かめあう。
 幸い、このありすにレイパーの傾向はなく、やや大言壮語の気があるまりさにもゲスというほどの極端な性向はなかった。
 そもそも、口でいうほどには人間の恐ろしさも畑の仕組みも軽んじて考えているわけではない。迂闊に畑を狙って殺された同族の例は、嫌というほど見てきている。
 春になったらとりあえず畑の様子を窺いつつ、危険が伴うようならさっさとより人里からもう少し離れた場所に移住するつもりだった。
 さいわい、つがいのありすもまりさと同じく判断力がゆっくりにしては高い。多分、二匹とも理性が本能を抑圧できるタイプなのだ。
 きっと、まりさの状況判断を聞き分けてくれると楽観することができた。

 二者二様、夫婦の夢を語らいながら、ゆっくりとまどろみに落ちていく。
 二匹が望むのは、幸せな家族と安全な暮らし。ありすはこれに「とかいはのくらし」を付け加えるのだが、この二匹なら高望みさえしなければ天寿をまっとうする事もできるだろう。
 あるいは、二匹の判断力を超越するようなよっぽどのことがないかぎり。

 ……そう、よっぽどのことがない限り。

 ぽんっ、となんだか軽い音がした。
 頭がなんだかむず痒い。はて、一体なんだろう?
 二匹は不思議そうに揃って頭上へと目を向けて、

「「…………」」

 そこにあるモノを眼にして数瞬、言葉と思考と身体の自由とを失った。

「…………っ!!」
「…………っ!?」

 ……最初、自由になるのはぱくぱく意味もなく開閉する口元だけ。
 ようやく身体の自由は戻ったけど、互いに驚愕の表情で固まった顔を見合わせる二匹になかなかおつむと言葉の自由は戻らなくって。
 一頻り、自分はパニックに陥ってますよー、ってアピールを続けた二匹の喉奥から、ようやく言葉が競りあがってくるまでにまたしばらく。

「「ゆげえええええええええぇぇぇぇぇっ!?」」

 ……うん、声は出せてもまだうまく言葉にできなかったみたいだけれど。

「「ど、どぼぢでえええぇぇぇぇぇっ!!?」」
「「「「「「「「「「……うみゅ、うるしゃいょ……しゅーや、しゅーや♪」」」」」」」」」」

 その代わり、主語も述語もない絶叫に混じって仲良く声を揃えた寝言の合唱が聞こえたりしたりする。
 ……二匹のつがいゆっくりだけしかいない巣の中のはずなのに。

 うん、二匹はこう思ったんだ。
 自分たちは軽くしゅーりしゅーりしただけなのに。

「「どぼぢでごんなにいっばいいるのおおおぉぉぉぉぉぉっ!!?」」

 なんで頭に茎が生えて、かわいいあかちゃんがこんなに実っちゃったのって。



    *           *           *



 ところ変わってここは妖怪の山、そのどこかにあるうらぶれたお社の中のこと。

「……んげぁっ」
「……どうしたの、穣子。幾ら冬だからって欝だ死のうは止めてね、止めるのも億劫だから」

 夏過ぎて、秋も去り、冬となれども神は在り。
 神生に疲れ果てた老婆のような声を床間から投げてくる姉神に、奇妙な叫び声を上げた妹神はそれに負けず劣らずどんより曇った陰鬱な目線を向けた。

「欝だ死のう……って言わないわよそんなの。っていうよりも姉さんも人のこと言えないじゃない」 
「そんなこと……ない、とはいえないけど……」

 自覚症状は、もう嫌って程に備わっている。そりゃまあ何百年何千年と付き合ってきているサイクルなので。
 だからって慣れるもんであるはずもなく、姉妹二人して明るさの欠片もない風貌を無理にゆがめて笑いあった。自嘲というヤツだ。
 秋静葉と秋穣子。
 幻想郷の秋を司る二人の姉妹神にとって、冬は言わずと知れた鬼門の季節である。
 秋にはそれぞれが司る豊穣と紅葉の神徳を互いに誇りあって過ごす二人だが、紅葉の最後の一枚も散り果てて冬場ともなれば二人仲良く
春まで鬱病に掛かって過ごすというのは知る人ぞ知るところ。
 それが家の中、姉妹相手とは言えど、この時期這い出して活動しているなんてのは珍しい話ではあるのだ。

「それよりもさ」
「……なぁに、穣子ちゃん」

 ことに穣子は幻想郷の地図など持ち出して何やら難しい顔をしている。
 その地図から目を離さないまま、自分に向けられた妹の言葉に姉はなにやら面倒ごとが迫っているのを察知し、少し難しい顔をした。
 別に妹が何をしているのか、気になったわけじゃない。変な声を上げるから、気になっただけで――でもこれは、どうも巻き込まれるのを避けるのは無理っぽい。
 そして案の定、ルナサ要らずの重苦しい溜息と共に、穣子が地図の一点を指差して地霊殿から聞こえてくるような声を搾り出した。

「……ごめん、ちょっと間違えちゃって。お願いがあるんだけど、聞いてくれない……?」



    *           *           *



 またまた場面は切り替わり、ここは先刻のゆっくり家族とはまた別の家族の――ちょうど畑を挟んで向こう側の林にある巣穴のお話。

「ゆっ!」
「あかちゃんがふるえてるよ!」

 薄暗い巣穴の奥も奥、干しわらを敷き詰められたその部屋には赤ちゃんが実る茎を生やしたれいむとまりさが、未だ固く眼を閉じた十匹の我が子が突然身震いを始めたことに戸惑いと喜びが混ぜ合わさった表情を見せている。

 こちらは先刻の家族とは異なり、待ち望まれたにんっしんっと出産を迎えるつがいである。
 一見すると冬に出産など正気の沙汰ではないように見えるが、この群れはその問題を解決する為に人間と『協定』を結んでいた。
 この群れの『協定』は、畑の雑草取りや害虫駆除をゆっくりが請け負う代わりに冬場に一定量の食料を人が提供するというギヴアンドテイクのものだ。
 まあ作物に手を出して人間や仲間のゆっくりに即決処刑されるゲスも絶えないが、今のところ順調に機能しているケースといえるだろう。
 春先の野外で子供を育てるよりは、冬場に安全な巣穴の中で子育てをしようというのが、この群れのリーダーを務めるドスまりさの方針らしい。

「ゆう……もう、うまれるのかな」
「ゆゆっ。もううまれるんだね」

 どのようなにんっしんっ形態であれ、ゆっくりはお産の瞬間に見るものをゆっくりさせる至福の表情を浮かべるという。


「「……ゆっくりうまれてきてね!」」

 ひょっとして、そのささやかな呼び掛けが赤ゆっくりに届いたのかもしれない。
 直後に赤ゆっくり達の身震いが、一斉に止まった。
 息を呑む二匹。茎から垂れ下がったまま静止する赤ゆっくりたち。

 永劫とも思えるひと時のあと――寸分のずれもなく、閉ざされたままだった十対の愛らしい瞳が一斉にぱちくりと見開かれる!

「「ゆっくりうまれてね!!」」

 両目から流れ落ちる滂沱の涙と、一匹も欠けない無事なる生誕を寿ぐ言葉とどちらが先立ったか分からない。
 親ゆっくりにとって、それは待ちわびた瞬間だった。
 愛する我が子にゆっくりと呼びかける。そして、次には還ってくるはずだ。愛する我が子のゆっくりとした幸せな呼び掛けが。
 はたしてまだ母親から伸びる茎に連なったまま、揃って目を覚ました赤ゆっくりたちは素敵な笑顔と共にそろって産声となるはじめての挨拶を叫ぶ。

「「「「「ゆっきゅちうまれちゃきゃったよ……ゆぎぇぅっ!?」」」」」

 その愛らしい、舌ったらずな声を聞いて親ゆっくりは思わず……いや、待て。はて、何故に過去形なのか。
 しかも、えらい苦しそうな声を出すし。

 ぱああっ、と輝く笑顔を浮かべる両親も、さすがにゆっくりと疑問を感じざるを得ない。
 まじまじと今にも零れ落ちてきそうなの赤ちゃんたちを見詰める――と、同時にがくんと顎が落ちた。
 小さい我が子の顔色をよくよく見れば、何故かすでに全員真っ黒だったり。
 満面の笑顔が十個並んで大空にキメとか、すごい、シュールです。いやここ洞穴の中だけど。

「「っ!!!!!!??????」」

 それと気が付いた直後、両親の絶叫が巣穴という巣穴に轟いたことはいうまでもない。



    *           *           *



「……ふう。穣子ちゃん、終わったわよ」
「ありがと、姉さん」

 再度再三とところを変えて、またしてもここは秋姉妹のお社である。
 あいも変わらず疲れた顔×二人分……なのだが、どうも静葉が先ほどよりさらにお疲れのご様子だった。
 地図を広げたままのおこたに入り込み、お礼の言葉と共に妹が差し出した番茶をずずーっと啜る。ああ、ちょっと人心地ついた。

「……それにしても、最近の人間は冬場でも収穫できる作物を作るのね」

 感慨深げに呟きながら、お茶請けに手を伸ばすのは大福餅だ。
 まったく、ゆっくりが増えてからというも幻想郷に餡子が不足することだけはなくなったのは良いことだと思った。

「……外の世界の豊穣の神はもっと大変みたいだけどね」

 自分の湯飲みにお茶を注ぎつつ、穣子はうんざりした様子で姉に応えた。

 秋に種を撒き、夏に収穫する冬小麦や冬場に収穫する冬キャベツなどなど。
 外界からスキマ経由で入って来た種を含め、冬場に収穫や生育の重要な時期を迎える作物も今の時代は多いのだ。
 穣子が毎年恒例の来賓として招かれる収穫祭は秋の収穫には間に合わないけど、逆に冬や春収穫の作物の豊穣を願われればそれに応えなければならない道理なのだ。
 なにせ、冬の神に豊穣の神様はいないから。

 ……秋の神様に冬の豊穣なんかやらせるから、加護を与える場所を間違えたりするんだととりあえず穣子は呪ってみた。
 一応立場的に神を呪う訳にもいかないから、とりあえず運命のダークサイド方面を。

「外の世界は、ねぇ……」

 神無月、八百万の神様が出雲大社に集まる日。
 秋姉妹もその例外でなく、出雲への道中目にした外界の光景――まるで季節感のない外界人の生活に思わず二人揃って重苦しい溜息を吐いてしまう。
 いやほんと、自分たちが秋を司る場所が幻想郷でよかった。

 ここは何時までも古き良き昔のままだ。
 外界の信仰が絶え果てても、地上人が月にまで攻め入って月人と覇権を争っても、ここだけは変わることはない。
 まあ、しょっちゅう異変なんてものに襲われて、妖怪や人が右往左往したりもするけど。
 そんなものは

 ……うん。
 そんな異変に比べたら、ちょーっと穣子に頼まれた場所と反対方向の森の実りを枯れ果てさせてしまったこととか、
 面倒だからってやり直しはパスしちゃったことぐらいたいした事はないだろう。

 ないはずだ。

 ないんじゃないかな。

「ま、ちょっと覚悟はしておけ」
「……何を?」
「ううん、なんでもないわ」

 胡散臭げにこちらを見る妹に、とりあえず静葉は穏やかに笑ってごまかした。
 うん、我ながら最高に穏やかな笑みだったと思う。
 どうやら自分にとっては本当に、この件は「なんでもない」ことのようだ。

 だからこれにてこの案件は終了なのである。



    *           *           *



 一方そのころ、件の畑を取り巻く森や林の中では。

「あがぢゃんがうばれだら、じょぐりょうがだりないよおおおぉぉぉ!!」
「ゆがあああああっ、ぶゆざんをごぜないよおおおぉぉぉっ!!」

「どぼぢであがぢゃんみんなじんじゃっだのおおおぉぉぉ!!」
「いっじょにゆっぐりじだがっだのにいいぃぃぃ!!」


 まあ、ゆっくりにとってはなんでもないこととか、大したことってレベルじゃねえぞって話なんですけどね。 
 神様の庇護からゆっくりがまるっと外れてるのは、恐らく幻想郷の仕様。

 今日も神なきゆっくり達には大声で泣き喚き餡を吐き玉の緒を絶え果てる仕事が待っているのだ。

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最終更新:2018年03月21日 19:43