街から遠く離れた森の茂み。
ここなら人通りもないから、誰かに見られる心配はない。それに。
俺がここに足を踏み入れたのを嗅ぎつけたグラエナ達が
茂みからひょっこりと顔を出して、じっと見ている。
俺を襲うつもりじゃない。あいつらは知ってるんだ。俺がここに何をしに来たのかを。
俺は素早くモンスターボールからポケモンを取り出すと、一目散に駈け出した。
出されたポケモン達は俺を追いかけようとするだろうが、追いついてくるものはいない、きっと。
俺が走り出した瞬間に、グラエナ達が茂みから飛び出していったような気がする。あとは知らない。
何も見たくない、聞きたくない。耳をふさいだまま全速力で駆け抜けた。

どうせ逃がしたって、生まれたばかりの能力じゃ野生ポケモンに太刀打ち出来るわけがない。
厳しい野生の世界で生き延びられるはずもない。
飢えや乾きに蝕まれて朽ち果てていくよりはいっそのことひと思いに。
もうここでポケモンを逃がすのが習慣になっていて
グラエナからは餌をくれる人という認識をされているのかもしれない。
奴らもいたぶったりはせずに一瞬で終わらせてくれているだろうから、持ちつ持たれつと言ったところか。

強いポケモンを育てるには厳選しなければならないんだ。
ボックスにも限界はある。何かを切り捨てる勇気も必要なんだ。
そうやって自分に言い聞かせながら、きっと俺はまたここを訪れるんだ。

……おかしいな。俺ってポケモンが好きだったはずなのに、どうしてこんなことやってるんだろう。
何も見てないし、聞いてもいないのに、涙が止まらない。


作 2代目スレ>>431

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最終更新:2008年05月06日 19:58