「これだけポッチャマがいるのにどいつもこいつもカスばかりだな。おまえら全員どこへでも行け」
そう言われて生まれたばかりの僕たち10匹の兄弟は人里離れた草叢に捨てられた。
どうしよう・・・
お腹が空いたけど、どうやってご飯を取ればいいんだろう。
それよりも何が食べられるのかもわかんないよ。
遠くから何かの遠吠えが聞こえる。
その日の晩はみんなで寄り添いあって寝た。
2日目
次の日、みんなと手分けをして食べ物を探しに行った。
でも食べ物は集まらなかった。
夕方になって捨てられた場所に集まったけど2匹帰って来なかった。
そして1匹は背中に大きな傷を負って帰ってきた。
その日の晩は傷を負って帰ってきた弟の看病をみんなで必死になってしようとした。
でも、どうしたらいいかわからない。
どうしよう、弟の血が止まらない。
弟は血を流しながら「パパとママの所に帰りたい」と大声で泣き喚いている。
泣き声はだんだん小さくなっていく。
お月様が夜の草叢を照らす頃には傷を負った弟は一言も喋らなくなって冷たくなっていた。
そのとき僕たちは知った。
それが「死」であることを。
多分帰って来なかった2匹は他のポケモンに襲われて死んだんだ。
その日の晩、みんなと話し合って明日ここを出発することにした。
3日目
朝早くから出発した。
でも行く当ては無い。
一昨日から何も食べて無いからお腹が減ってたまらない。
お日様が空のてっぺんに登る頃に大きな河に着いた。
河に映った自分の顔を見てみると随分やせ細っていた。
他の兄弟も僕と同じようにやせ細っている。
一昨日まで真ん丸だった顔も頬が痩せこけているし、横腹の骨も浮き上がっている。
とりあえず水をお腹一杯飲むことにした。
うぅっ・・・なんだかますますお腹が空いてきた気がする。
水を飲んだ後、みんなと一緒に河を泳いで渡ることにした。
泳いでいる途中で後ろを振り向いてみたら、一番小さな妹が沈み始めていた。
僕は妹の所に引き返してヒレを掴んだ。
でも、どんどん沈んでいく。
僕も一緒に潜って妹を引き上げようとする。
でも妹はどんどん沈んでいく。
とうとう息が続かなくなって思わず妹を放して息継ぎに戻ってしまった。
急いで息継ぎをすると妹めがけてもう一度潜った。
妹がどこにいるかわからない。
水の中でキョロキョロしてると一番上のお兄ちゃんがやってきて僕を羽交い絞めにして無理矢理水面に上がった。
お兄ちゃんは僕に「もう手遅れだ。あきらめろ!」と言ってる。
僕は羽交い絞めにされたままお兄ちゃんに泳がされた。
こうして既に河の中央まで来ていた兄弟たちと合流して、みんなで固まって泳ぐことにした。
お兄ちゃんが妹のことで僕を励まそうと話しかけている。
でも耳に入らない。
あのとき僕が離さなければ助かったかもしれないのに。
そのとき僕に話しかけていたお兄ちゃんは僕を突き飛ばした。
次の瞬間、お兄ちゃんは水面から突然飛び出してきた青い竜の大口に飲み込まれた。
硬く閉ざされた口からお兄ちゃんの上半身が飛び出している。
僕たちは恐怖で固まった。
青い竜に水の中に引きずり込まれながらお兄ちゃんは「俺のことはいいからみんな逃げろ!」と力の限り叫んでいた。
それが僕たちが見た一番上のお兄ちゃんの最期だった。
お兄ちゃんが水の中に引きずり込まれた所からゴボゴボと泡が吹き上がっている。
泡はすぐに収まったけど、それとほぼ同時に水面が赤く染まった。
僕たちは陸めがけて大急ぎで泳いだ。
一番後ろを泳いでいた弟の悲鳴が聞こえたけど、誰も振り返らなかった。
泳いでいる間に今度はお姉ちゃんの悲鳴が聞こえた気がしたけど、それを気にする余裕は無かった。
なんとか陸地に着いたけど、僕たち兄弟は4匹に減っていた。
4日目
僕たちは雪原に来ていた。
ただでさえ寒いのに雪原には吹雪きが吹いていた。。
お腹空いた・・・
雪原を歩いている途中で飢えと寒さでで弟が2匹力尽きた。
雪原を抜けた頃には僕と2番目のお姉ちゃんだけになっていた。
5日目
僕とお姉ちゃんは「まち」っていう人間が沢山いる場所に来ていた。
色々な所から食べ物の匂いがする。
お腹が空いていた僕とお姉ちゃんはふらふらと果物が一杯あるお店に行ってみた。
店先の果物を見ていたら店の奥からおじさんが出てきて、なにか叫びながら僕を思いっきり叩いた。
背中をまるめてる僕をおじさんは棒で滅多打ちにした。
痛い!やめて!僕はまだ何もしてないよ!
するとお姉ちゃんがおじさんに背中から飛び掛った。
おじさんはお姉ちゃんを振り落とそうとしてもがいている。
お姉ちゃんは僕に「逃げて」と言っている。
僕は力の限り走った。
後ろの方でお姉ちゃんが棒で滅多打ちにされる音が聞こえる。
一回お姉ちゃんの大きな悲鳴が聞こえると、棒で叩く音は聞こえなくなった。
6日目
僕は草原を1匹だけで歩いていた。
草原に吹いている心地よい風も今の僕にとっては強い向かい風にすら感じられた。
とうとう僕だけになっちゃった。
お腹が空いて・・・
もう歩けそうにない。
なにか木の柵をくぐりぬけた所で僕は力尽きた。
誰でもいいから何か食べ物をちょうだい・・・・・・・
なんだかとても寒いよ。
僕も死ぬの?
そう思うと体の震えが止まらなくなった。
体が震えればその分お腹が空くってわかってたのに止まらなかった。
それにとても眠かった。
ふと上を見上げてみると紺色の体のドラゴンが二本足で立っていた。
赤い色のお腹に、手の替わりに鋭い1本の鉤爪が見える。
そのドラゴンは鋭い無数の歯を覗かせた凶暴そうな顔をしている。
河で僕たちを襲った青い竜よりも怖い顔をしている。
ドラゴンの怖い顔が僕に近づいている。
ここで死ぬんだ。
薄れていく意識の中、最後の生き残りのポッチャマはそんなことを考えていた。
なんだかとても暖かい。
ここは天国?
・・・チャ・・・・ポッ・・・マ!
優しい声が聞こえる。
ママ?
ゆっくり目を開けてみた。
すると僕は毛布をかけられて誰かに抱きかかえられていた。
僕を抱きかかえていたのは例の紺色のドラゴンだった。
鋭い鉤爪で僕を傷つけないように細心の注意を払って僕を抱きかかえてくれていた。
「良かった!気がついたのね。ビックリしたわ。ボロボロのあなたが突然うちの牧場に入ってくるんだもの。」
あの紺色のドラゴンは♀だったようだ。
これまでのことを僕はそのドラゴン・・・ガブリアスに話した。
ガブリアスは目に涙を浮かべて僕を抱きしめて「もう大丈夫よ」と優しく言ってくれた。
気がつくと僕たちの目の前に真ん丸に太ったおじさんが食べ物を持ってきてくれていた。
「この人はこの牧場のオーナーなの」
そんなことをガブリアスが言っているとおじさんは僕の目の前に食べ物を置いたトレーを置いてくれた。
僕は出された食べ物に思いっきりがっついた。
生まれて初めて食べるご飯。
ご飯ってこんなにおいしいんだ。
・・・みんなと一緒にご飯を食べたかったな。
そうポツリと漏らすと涙が止まらなくなった。
ガブリアスは僕の目から零れ落ちた涙をやさしく拭ってくれると「まだ辛いと思うけど、みんなの分も生きてあげて」と言ってくれた。
おじさんはやさしい笑顔を浮かべてこう言ってくれた。
「行く所が無いのなら、ずっとここにいていいんだよ」
部屋の入り口から沢山のポケモンたちが僕を見ていることに気がついた。
ポケモンたちは僕に優しい笑顔を向けてくれている
僕はうれしかった。
捨てられていた僕にこんなにもやさしくしてくれる人がいたなんて。
みんなの分も生きよう。
僕はそう決心した。
その日の晩はガブリアスと一緒に寝ることにした。
ガブリアスは僕の頭をそっと撫でながら子守唄を歌ってくれた。
心地よい子守唄は牧場中に響いていた。
ポッチャマが眠りについた頃、ガブリアスは「また明日ね」と言うと彼女もまた静かに眠りについた。
作 2代目スレ>>512-517
最終更新:2008年06月26日 18:45