はれすぎたそらのした

ああ、あなた。あなたですよ、そこのあなた。
いやはや、今日はとても暑いですね、全く。
私のような水ポケモンにゃとても辛いですよ。
だって水こそが自分の生まれた場所、生きる場所なんですから。
……いや、私が生まれたのは、ここでした。
私が生きるのもこの場所で……死ぬのも、この場所だ。
ああ、お忙しいところを引き留めてすみませんねぇ。つい、声をかけてしまって。
え?そんなことない、暇だって?
じゃあ、もしも良いのなら、
このくたばり損ないの独り言でも、聞いて下さいませんかねぇ。

私ゃ少しだけ、ほんの短い間だけ、とあるトレーナーの元に居たんですよ。
正確には、生まれて数分だけですけど。
タマゴから孵化したのが、丁度この場所だったんですよ。
ここで、ある少年と目があったんです。そう、その彼が私のトレーナー。
あんたが私の主人かい、ごきげんよう、と私ゃ挨拶代わりに力強く跳ねてみせたんです。
残念ながらあの人は何やら鞄を漁っていたので、
あっさり無視されてしまったんですけどね。
あの人が取り出したのは飴でした。十三個くらいでしたかね。
それを次々に、私の口に放り込むんですよ。
知ってます?あれ、甘くて、美味しくて、
しかも何だか体に力がみなぎるんですよ。
こんなものをくれるだなんて、ああ、頑張らなきゃな、と、
鼻息荒くした瞬間、ふっと灯りが消されたみたいに意識が無くなりましてね、
次に目覚めた時には、あの時感じた力が無くなってたんです。不思議でしょ?
そして、あの人のとても冷たい目。

直感的に、私ゃわかったんですよ。ああ、私ゃ、要らないんだって。
まるで養豚場の豚でも見てるような目でしたよ、あれは。
そしてあの人は、私をここに置いて行ってしまったんです。
ああ、そんな顔なんてしないでくだせぇよ。
あの人を酷いだなんて言わないでくだせぇ。
悪いのはきっと私なんですよ。
だって、コイキングなんて誰が愛してくれるんです?
生まれた瞬間から、ここに置かれるのは、決まってたんですよ。
ははは、はは、は……

ああ、しかし暑いですね。
……私、棄てられたの、昨日なんですよ。
昨日からずっと、この水のない原っぱにいるんです。
水が無い、私にゃ生きられない、って知ってて、
あの人は私をここに棄てたんですかね。
恨みませんよ、恨みませんとも。恨めません。
だって、あの人は私の「おや」なんですよ。
ポケモンが「おや」を憎んでどうするんです?
たとえ日干しになっても、自慢の鱗が乾燥して、全てパリパリ剥がれても、
私ゃあの人を恨みませんよ。ええ、決して。
ああ、しかし暑い、暑い……
水、ありませんか?無いですよねぇ。
私、水ポケモンなのに、とうとう一生……
といっても二日だけですけど、
一生、水を拝めないんだなぁ……
ああ、水、水を、水……!
体が、乾いて痛いんです!
ビッパにはかじられてしまうし、風が吹いても体が痛いんだ!
ああ、暑い、熱い、痛い、あ、あ……!
名前も知らないあの人は、私の「おや」は、
私が、私がこうやって死ぬのを、望んで、ああ……
あ……あ……み、ず……
いや、だ……死に……たく、な……たすけ…………
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作 2代目スレ>>592-595

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最終更新:2008年10月02日 21:49