慰めの歌


私は歌を歌うことが大好きだった。歌を歌えば主人は喜んでくれたし、褒めてくれた。それなのに。

「―ばいばい」だなんて。

私は幼い頃に主人によって捕まった。私はあまり戦いが好きではなかったけれど、
頑張れば頑張るだけ主人が褒めて喜んでくれるから、どんなに辛い戦いだろうと必死になって戦っていた。

歌を歌うのはもとから好きだったけれど、進化してもっと好きになった。
これも主人が「お前のソプラノの声、綺麗だな」って褒めてくれたからだろう。
だから私は旅と戦いで疲れた主人を癒そうと歌を歌い、主人はそれを喜んで聴いてくれた。

ある時から主人は同じ道を往復するようになった。そしてそれから少し経った日に、
新しく仲間に入った小さい竜の子。小さいながらも鋭い目付きに、一瞬恐怖を感じた。
主人はこの頃から小さい竜の子に構い始め、私をボールから出すこと、私の歌を聞くことが日に日に少なくなった。

私の歌の存在が薄れるに連れてどんどん成長する竜の子。同じドラゴンタイプだけれども、その子は私と違い、戦い向きなようだ。
私はこの頃からボールから出されることはなくなり、主人が聴きに来ない歌をボールの中で歌うようになった。少しでも、主人に届くように。

ある日のことだった。主人が私を珍しくボールから出した。
また歌を聴きたくなったのかな?やっぱりボールの中からの歌が届いてた?…そう思ったのに。

主人を見れば、その隣には竜の…子?なんだかとても強そうな竜がいた。
その竜は私を見下ろすように見ている。
なんだかとても不安になり、主人が褒めてくれたソプラノの声で鳴いてみたけれども、主人は何の反応もしなかった。そして。

「お前とは此処でお別れだ。」
「お前の歌は好きだったけど、お前弱いしさ。」
そう言って主人は自分の隣にいる竜を撫でた。
「見ろよ、コイツ。厳選に厳選を重ねただけあって凄く強く育ったよ。だから、な?」

「―ばいばい。」

よく、意味が解らなかった。けれど主人は颯爽と自転車に乗り、あの竜をボールに戻すと走り去ってしまった。

…私は逃がされたんだ、ということを理解したのはそれから暫くたった頃だった。


あれからどれくらい月日が流れたのだろう。私は主人が何度も往復していた道の先の霧が立ち込める場所で暮らしている。
此処には生まれたばかりでレベルが低いのに、逃がされたポケモンたちをよく見かける。

彼らは決まってボロボロに傷ついていた。無理もない、此処ではレベルが違いすぎる。
そんなポケモン達を見かけては私は私の綿のような羽で傷ついたポケモンを休ませている。
そして、あの頃を思い出すかのように歌を歌う。

傷ついたこの幼いポケモンたちがせめてこの時は安らかに眠れるように、
幼い彼らを逃がし傷つけた人たちに、この悲しい歌が届くようにと。


(終わり)


作 2代目スレ>>673-674

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最終更新:2008年10月05日 21:42