生まれた場所は覚えていない
でも、そこから遠く、遠くに来たんだってことは、なんとなくわかったんだ。



寝起きでぼんやりしている僕の前に、一人の人間。
知らないけど、なんとなく判る。これがご主人ってやつなのかな?
どうしたらいいんだろう。どんな挨拶をすれば、一番好きになってもらえる?
声を出そうと思って、
ぎょっとした。

「うわ…マジかよ、改造じゃん…」

僕を見るご主人の目が、酷く恐ろしかったから。
僕に触れていた手が急に強張って、汚いものを触るような、そんな手つきになったから。



結局僕は、一瞬だけのご主人に挨拶すらできないまま、摘み出されるように外へ逃がされた。
草むらを歩く。何匹かのポケモンとすれ違いはしたけど、不思議と怖くはなかった。
というか寧ろ、向こうが避けて歩いてくれた。僕は強くて怖いのだろうか、何も知らないのに。

ふと立ち止まり、振り返る。もう入れない、ニンゲンの住む場所。
一瞬だけのご主人と同時に、僕が生まれたときに傍にいたであろう誰かをぼんやりと想った。
真っ暗な夜空にピカピカ輝く、大きな大きな建物。
…帰りたくても帰れない、生まれた場所。遠い遠いどこか。
止めていた足を再び動かし、歩き出す。行く宛なんかどこにもないんだけれど。


作 2代目スレ>>880

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最終更新:2009年02月24日 23:05