「ここはGTS。ぐろーばるなんとか…っていう名前で、ここで世界中の人とポケモン交換ができるんだってさ。」
俺の主人は嬉しそうにそう話していた。
「すごいね!」
フフ、と笑いモンスターボールに俺をしまい、その建物の中に入っていった。
カウンターの受付の前でボール越しの俺に話しかける。
「ごめんね。僕、友達作るの苦手で…。本当は、ここに君を預けるの怖いんだ。
誰かが君を連れていっちゃうんじゃないかって。でも、君も強くなりたいもんね。」
主人が俺を進化させようと決意したのは公園で見かけたポケモントレーナー同士のバトル。
そのバトルに俺の同族、進化した姿である、赤いポケモンがいた。奴の圧倒的な強さに俺も主人も魅了された。
―ねえ、『ストライク』。君も、やっぱり―、『ハッサム』になりたいの?
俺は、ゆっくりと頷いた。
初めて出会ったあの日から。ずっと俺は、いや、俺達は強くなりたいと思ってきた。
色んなトレーナーと戦い、色んなポケモンと戦い、ジムリーダーとかいう強いトレーナーとも戦った。
遠くまで旅をすることは無かったがこの辺りではかなり強い方だと思う。
主人が持たせてくれたメタルコートをじっと見つめ、今までの主人との事を思い出す。
スピアーに追い回されたり、バタフリーに痺れ粉捲かれたり、カイロスにビビって腰抜かしたり…。
本当に情けない主人だと我ながら思う。俺が強くならなければ誰がこのヘタレを守ってやれるんだ?
だけど俺が進化するには他のトレーナーと交換をしないといけないらしい。
虫ポケモンとばっかり遊んでいたせいかもしれないが、このヘタr…気弱で大人しい主人は友達がいない。
交換する相手がいなければ進化もできない。…かと思ったら、このGTSとか言う施設を使えば進化できるそうだ。
一旦預けてすぐに引き取れば通信交換したのと同じ事が起きるらしい。
「絶対に誰も引き取らない条件にして…っと。これなら大丈夫だ!」
元々ここは『ポケモンを交換するための施設』だから、俺が見知らぬ他人のポケモンと交換される危険がある。
それが最大の問題だ。だから主人はここを利用するのをためらっていたが、あり得ない条件を設定すれば
交換されるはずが無いと考え、ついに決心してここに来たのだ。
…それにしても、なんでいちいち交換しないと進化できないんだろうな。
野生のイワークなんて長い年月をかけてハガネールになるって聞いたことあるぞ。
「すぐに迎えに行くからね、バイバイ ストライク!」
俺の入ったボールが受付の人間に預けられる。そして電子空間の中に放り出された。
五分くらい経った頃だろうが。急に体が上に吸い上げられるような感覚に襲われる。
その途端、体が急激に熱くなる。体の中のエネルギーが一気に沸騰するようだ。
俺にはよくわからんが、通信の際のデータとメタルコートが反応して身体が…やっぱわからん。つまりは成功したんだ。
引き取られた俺はすぐさまボールから出された。やれやれ、進化するのも手間だな。
目の前には人間が立っている。よう、待たせたな、と顔を上げてあいつを…?
!?
違う。あいつじゃない…!嘘だろ…まさか、失敗したのか…?
その男は何やら機械を取り出して俺の体を調べ始める。
「ちっ、折角タダでハッサムが手に入ると思ったら勇敢とかクズじゃねーかよ!!!!
しかも野生かよ。大方どっかの友達いないかわいそーなガキが預けたんだろうな。ざまぁ!!
一応個体値も調べっか…。なんだよ、振ってあるじゃねーか。面倒くせぇ…。」
見知らぬ男は訳のわからない事を口走りながら俺の頭を押さえつけて、無理やり木の実を捻じ込む。
おい何をする!やめろ!苦しい…。抵抗しようとするが力が入らない。
その時、男の上着の裏に八個の金属製の飾りが見えた。確か、あいつも二、三個持ってたハズ…。
でも形が違う。それにあいつの持っていたバッジはキラキラ輝いていた…。
この男のそれは、酷く汚れて、くすんで、全く輝いてはいなかった。
「たったの1V!他も糞個体値だし親にも使えねぇ!!あーあ、所詮GTSなんてこんなもんだよな。」
でもこないだ掴まされた改造ポケモンを処分できたし、まあいいか。」
気味の悪い笑みを浮かべた後、その男は俺を再びボールに収め、数刻が過ぎ、
―そして、不意に俺の体は宙に投げ出された。
「あばよゴミムシ!!!」
俺の目に映ったのは赤い翼と青い体のポケモンに乗るその男がケラケラ笑う姿だった。
おいっ!待てよ!!!お前は一体誰なんだ!?あいつはどうしたんだ!?
そんな事よりも、俺は、今、落 ち て い る ?
慌てて羽根を動かすが、ブウゥンと音が鳴るだけだ。体が重い。上から凄い力で押さえつけられてるようだ。
ああ、そうだ。あいつが言っていた。
『進化すると体が頑丈になる代わりに、重くなってスピードが落ち上手く飛べなくなる』と。
進化したら飛ぶ練習をしようね、そう言っていたあいつの笑顔が頭に浮かんだ。
あいつは、今頃どうしたんだろうな。俺がいなくなって、ピーピー泣いてるのかな。
だからちゃんと友達を作れって言ったのにな…。俺の言葉が通じる訳が無かったんだが。
こうして見知らぬ土地で見ず知らずの人間に捨てられて、誰にも知られず死んでいくのか…。
俺は 死ぬのか―?
俺は死ぬのか?おれは しぬのか?死ぬ?死?
ふざけるな!どうして俺が!!俺がいなくなったら、誰があいつを、あいつを――ッ!
―しかし無情にも、重力は彼を地へと引き寄せるのだった。
4代目スレ>>110-113
最終更新:2010年08月21日 19:14