1 とある森の中、小さな家にて

…最近、ご主人様が遊んでくれなくなった。

少し前までは「はぁ…」とため息をつきながら哀しそうな顔をすることはあっても、
基本的に顔を合わせればニコニコしながら頭を撫でてくれたのに。
基本的にご飯がなくても生きていける僕らにも、アイスやおまんじゅう、
遠い場所からわざわざ取り寄せてくれたポロックをいっぱい食べさせてくれて、
美味しかったし、そこまでしてくれるご主人様が大好きで幸せだった。
きっと野生のままだったら、味わうことのなかった幸福な日々。

「朝になったら、起こしてね。そしたら、一緒に――に行こうね」
初めて出会った頃。お寝坊なご主人様は、いつも僕たちにそう言ってた。
かわいいお嫁さんと結婚してからは、その役目はお嫁さんになったけど…
お嫁さんが「遠い場所」に旅立ってからは、また僕たちの役目になった。
それからしばらく経って。段々ご主人様の元気がなくなっていって。
「おやすみ」と言ったきり。起きてこない。遊んでくれない。お寝坊なご主人様。
でも、僕たちはご飯なくても大丈夫だから、良い子にしてご主人様が起きてくれるのを待ってられる。
そしてご主人様が起きたら、また一緒に遊びに行くんだ。


2 とある町、ポケモンセンターにて

めそめそ。しくしく。
俺よりはるかに年下の、ガキどもがボックスの中で湿っぽく泣いてやがる。

3番道路で捨てられていたところを拾われた「泣き虫(悲観的ですぐ泣くから俺はそう呼んでいる)」が
「ああ、嫌な予感がする。あの時もボックスに押し込められて数ヶ月放置されていた。
久々に出してもらえたと思ったら、『あばよ!』って蹴られたんだ」などとほざいてる。
前の主人がどんだけ酷いくそったれだったか知らんが、あの女はそんなことできる人間じゃねえ。
そんな度胸があったらそもそもお前なんか拾うわけねーよバーカと言ってやりたいが、
こんなことを言ったらよけい鬱陶しくなりそうだから黙ってる。

「だいじょーぶだーよ。そーゆーことになる前にはボクが連れていかれるのがお約束だーし」
おい、ピンク。ぐねぐねのったり言ってるが、それはそれで能天気すぎる。
あのボケっとした女が来なくなってどんだけ経ってると思うんだ。半年だぞ、半年。
いつもなら少なくとも1週間に1回は見に来てたぞ。
最近は2週間に1回とか3週間に1回に減っていた、ってのは横に置いておくにしてもだ。
まさか洞窟か変な場所で迷子になってるとかじゃねーよな?
だからいつも俺を連れてけと言ってるのに、あのボケは「皆大好きなんだもん」と
1週間に1回ローテーション組んで出来るだけ全員連れて行こうとするから一人占めできない。

その時、誰かがボックスを開いたのか、眩しい光が俺たちの視界に降り注ぐ。
…あの女じゃない。よく似ているけど、こいつはあの女のガキ(と言っても、もうじじぃ)だ。

「遅くなってすまんな…葬式やら後の事務やらで、時間がかかっちまってな。
 お袋はな、遠いところに行っちまったけどな、最後までお前らのこと気にかけてたぜ」
葬式?遠いところ?どこだよ、そこは。××だとか○○○だとかの外国か?
「おいおい、泣くなよ。心配しなくてもいい。お前らの里親なら、ちゃんと手配できてるぞ。
 お前ら全員、最後まで面倒見てやりたい。それがお袋の願いだったしな」

は?
意味が分からない。
泣き虫が横でわんわん泣いている。ピンクは真っ青になって色違いと化している。
おっさんは、オフクロハモウイナインダヨ、などとガキポケモンを撫でている。
コンナニシタッテモラエテテンゴクノオフクロモキットヨロコンデイルヨ、などと抱きついて泣いている。
意味が分からない。大体、なんだ?オフクロって誰だよ。―――って名前なら知っている。
だから、あの女がもう俺たちのところに来ないなんて、ないだろ。ありえない。ないない。

俺はあの女の最初のパートナーだったんだ。
泣き虫とピンクは前のくそったれ主人のせいで、あの女以外のトレーナーじゃだめなんだ。
気がついたら、俺は泣き虫とピンクを掴んで、おっさんを突き飛ばして、外へと走り出していた。

どこまで走ったのだろう。気がつけば、遠く町外れまで来ていた。
久々に走ったからなのか、泣き虫とピンク持ってきたのが悪かったのか、やけに体が重たい。
もう走れない。いや、歩くのも、無理。一度うずくまってしまうと、起き上がるのが嫌になった。
うるせーよ泣き虫。何を泣いているんだ。ピンク。お前まで泣くな。
しかも雨まで降ってきやがった。最悪だな。疲れているけど、こんなとこにいたら風邪ひいちまう。

仕方なしに頭をあげると、見知った顔が一つ。
なんだ、ほら。だから言ったじゃねーか。ちゃんといたじゃねーか。遅いだろ、ボケ女。
良かったな。旦那さんも一緒か。いなくなってさびしいって言ってたからほっとしたぜ。
しかもお前ら…皆そこにいたのかよ!懐かしいな…お前らいなくなってから寂しかったぜ。

…俺も連れて行ってくれるのか?当然だな。あいつらや他の連中は?まだ無理?
そうか。遠い場所に行くには準備いるのか。悪いな。泣き虫。ピンク。
最初のパートナー特権で先に行くぜ。心配すんなって。ちゃんと後で迎えに来てやるからよ…。

―逃げ出した3匹を探して数時間。もしやと思ってお袋の墓の前まで来た時には、もう。
お袋が幼いころからのパートナーだったという、最年長のあのポケモンはすでに息絶えていた。
とても嬉しそうな顔をして、墓に頭をすりよせて。
残りの2匹は、結局いつまで経っても、どこまで探しても見つからなかったが、
行くたびに、何者かによって綺麗に磨かれ、木の実が供えられた墓を見るたびに。
ああ、あいつらは元気にしているのだな。そう思えた。

――父が亡くなった後、おばあさまのお墓を掃除するのは私の役割になった。
一度だけ、父が話していたポケモンらしい姿を見たことがある。
立派に進化した、とてもすばらしい姿のポケモンだった。
そのポケモンも、今はもういない。
数ヶ月ほど前に、お墓の前で、それはそれは幸せそうな笑顔を浮かべて倒れていたのだ。
そして、お墓の周りでは、薄く透き通るような、ピンク色の花が咲き誇っていた…。


3 遠い過去、あるいは遠い未来。砂漠にて

ご主人様がお眠りになられて、どれだけの時間が経ったのだろう。
太陽が出てくるのも、10000回まではちゃんと数えた記憶があるけど、そこから先はよく覚えてない。

それからさらに何千、何万もの太陽と月を超えて。
ある日、大きな地響きと、閃光と、悲鳴を遺して、人間たちはいなくなってしまった。
いくら探しても、もうどこにもいなかった。
きっとどこか遠い場所にでも出かけたに違いない。それだけは分かった。

そして僕たちは、どうすればいいのか分からなくなってしまった。
人間が指示してくれないと、何をすればいいのかもよく分からない僕たち。
それから、また何千もの太陽と月が昇って。
きっかけは、なんだったのか。もう分からない。
結論だけは、はっきりしている。なぜなら、今も、ずっとこうしているのだから。

僕たちは、ご主人様の眠っているこの場所を守り続けると決めたのだ。
僕たちは、ご主人様が起きてくれる日を待っている。
僕たちは、皆が遠い場所から戻ってきてくれる日を待っている。
そして、また、皆で美味しいものを食べたり、遊びに行けるのだから。
きっとご主人様と一緒に幸せになれるはずなんだから。
いつまでだって、待っている。


100年後のポケモン新作空想スレ見てなんとなく
トレーナーと別れて100年とか1000年後話書いてみたくなった。
ポケモンの中には寿命がものすごく長いのとか死ぬかどうかすら怪しいのもいるだろうから
へたすりゃあの世界の文明崩壊後もずっと生き残ってるポケモンとかもいそうな気がして。
3番目の話のイメージはアンノーンかシンボラーの過去、もしくはポリゴンの未来。


作 6代目スレ>>58-59-60-61-62

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最終更新:2011年07月30日 21:21