「あーもう、ムカつくな!消えろこのザコ!」
13番道路の外れに存在する洞窟、ジャイアントホールの草むらの中。
そこで少年は、手持ちの1匹であるタブンネに悪態をつきながら蹴りを入れていた。
タブンネは小さく蹲り、たまに涙でビショビショになった顔を上げ、また蹴られる。その繰り返しだった。
「はぁ~ぁ……レアポケかと思って頑張ってゲットしたのになんだよこの屑……
 進化もしない、ステータスはカス、覚える技も微妙……なんでこんなゴミポケが人気あるのか分かんねぇな」
少年は大きな溜息を吐き、独り言を呟きながら震えるタブンネの背中を踏みつけ、そのままぐっと力を込めた。
タブンネの口からは苦しげな短い鳴き声と荒い息が絶えず漏れ出し、時折少量の血が吐き出された。
「ふー、どうしようかなコイツ……別にいらないし、かといってボックスに入れる価値も無いし……そうだ!」
少年はタブンネを踏みつけたまま考え込むが、すぐに何か思いついた顔をして、タブンネを蹴りながら洞窟の奥へと向かっていった。

「はぁ、やっぱり野生うぜーなぁ……数多すぎだろ」
そんな事を呟きながら、少年はタブンネをボールから出した。
ボールの中でも何度か吐いたのか、可愛らしいピンクの体や丸い尻尾は赤黒い血液や嘔吐物に塗れていた。
「うわ、きったねー……こりゃ本当にゴミだな」
既に瀕死の状態のタブンネを見下ろし、少年はバッグから小型の刃物を取り出す。
昔から刃物好きだった少年が愛用しているその刃物――小型ノコギリを、タブンネの尻尾の根元にあてがった。
「こんな汚物触りたくねーけど……ブルンゲルがいるし洗い流してもらえばいいか」
少年はタブンネの尻尾を鷲掴みにして強く引っ張り、そのままノコギリを動かし始めた。
「ぴっ……ぴ、ぴいぃぃ……」
やめるよう懇願しているのか、黙っていたタブンネが弱々しく鳴き始めた。
しかし少年は全く気にする事はなく、タブンネの尻尾を切り落とす事に集中した。
やがて尻尾は完全に体から離れ、それを見たタブンネは目を大きく見開いて絶叫した。
「ぴ……ぴっ、ぃ……ぴぃぃぃぁぁぁぁっ!!!」
「ちっ……うるせーよゴミクズが!」
不快に感じた少年がタブンネを思いっきり蹴り飛ばすと、タブンネは背中から壁に勢いよく叩きつけられた。
その衝撃でタブンネは大量に吐血し、力なく地面にゆっくりと落ちた。
「ほら、せめて止血と回復はしてやるよ。ここで一生1匹で暮らしな。じゃあな」
すごいキズぐすりをタブンネの体にぶっかけると、少年は何も無かったような顔で外へと歩いていった。
その後ろ姿を、タブンネが憎しみと怒りの籠った目で睨みつけているのにも気付かずに……

「はぁー、図鑑埋めるのって結構大変だな……またあそこに行かないといけねぇのか……」
数ヶ月後、少年は再びタブンネを捨てた場所でもあるジャイアントホールに訪れた。
既に図鑑を埋める、という目的しか頭になく、タブンネの事はすっかり頭から消え去っていた。
ゴールドスプレーを何度も使いながら、少年は洞窟の奥へと進んでいく。
草むらのあるエリアに辿り着くと休まず走り回り、ピッピやメタモン等を捕獲し続けた。
「はぁ……そろそろ休むか……お?」
しばらく捕獲を続けた少年が何気なく辺りを見回すと、壁の一部の大きな穴を発見した。
「あれって確か……キュレムってのがいたところだよな……?よし、行ってみるか」
少年はボールからウォーグルを出して飛び乗り、その穴の中に入った。
「うーん、やっぱり復活はしてないか……あ?なんだアレ……」
かつて伝説のポケモン、キュレムが存在し、少年を待ち受けていた場所。
そこに今、少年がここで捨てていった元・手持ちのポケモン、タブンネが立っていた。
愛らしい顔つきは憎しみ等で凶悪なものへと変わり、じっと少年を睨み続けている。
しかし少年はそんなタブンネを見ても動じず、鼻で笑いながら蔑みの視線をタブンネに向けた。
「ふん、お前生きてたのかよ。とっくの昔に死んだかと思ったぜ」
その言葉を合図にしたかの様に、タブンネはギガインパクトをなんの躊躇いもなく少年に向けて使用した。
当然、人間がポケモンの全力での攻撃に耐えられるハズもなく、少年は一瞬で後方の壁に叩きつけられた。
主人を傷つけられて怒り狂ったウォーグルはタブンネに突っ込んでいく。
しかし、タブンネのワイルドボルトにより少年と同じ様に叩きつけられる。
ウォーグルは生きたままかえんほうしゃで焼かれ、その後原形を留めない程に食い千切られていった。

一瞬の出来事だった。強力な野生ポケモンが生息するジャイアントホールで何ヶ月もの時を過ごしたタブンネにとって、
普通の旅のトレーナーである少年を倒す事など、木の実を食べるより簡単な事だったのだ。
少年が繰り出したポケモン達も、何もできないうちにタブンネに殺されていった。
ブルンゲルとスイクンはワイルドボルトで、ゲンガーとライチュウはシャドークローで。
最後のリザードンはギガインパクトで。それぞれ凄惨な方法で殺された。
この状況になって初めて、少年はこのタブンネに恐怖を抱いた。
逃げようにも体が動かず、声を出す事すらできなかった。
その時、少年の頭の中に子供の様な少し高い声が響いた。
「っ!?なんだ、これ……」
最初はよく聞き取れなかったその声が、徐々にはっきりとしていく。そこで少年は、ある事に気がついた。
「まさか、お前か?お前がやってるのか……?」
少年はその声を聞きながら、少しずつ歩み寄るタブンネを見つめながら、必死に頭を働かせる。
――まさか、コイツがテレパシーを?エスパータイプでもないのに?
――ただの平凡な、ノーマルポケモンの癖に?
――い、いや、そんな事はどうでもいい!逃げないと……
そこまで考えた時、タブンネの牙が少年の足を噛み砕いた。
牙は骨まで達し、その骨までもが一瞬で砕かれる。
「ぎゃあっ!?いっ……てぇ……っ!」
少年は悲鳴を上げ、涙が滲む目でタブンネを見下ろす。
しかしタブンネはその顔にもギガインパクトを発動し、少年の顔と声帯を潰した。

何もできなくなった少年を睨みながら、タブンネは少年の脳内に語りかける。

――どうして?どうして私を捨てたの?
  よく分からない機械で覚えられない技を無理やり覚えさせたぐらいで、あとは可愛がってくれると思ったのに……

タブンネが少年達に向けて使用した、ギガインパクトとシャドークロー。
これは本来タブンネは覚えられない技であるが、少年はある機械で強制的に覚えさせた。
そのせいかタブンネの体は一部が変形し、自由に動かせない状態にあった。
しかしそんな体でも、彼女は少年への復讐を可能にした。
痙攣する少年への攻撃を続けながら、タブンネは思考を送り続ける。

――どう?痛い?私はもっと痛かったのよ?貴方のせいでね。
  あの時私がどんな事を思ったか、貴方に分かるかしら?
  この数ヶ月、私の事なんて全然気にしてなかったんでしょうね。さっきだってずっと忘れてたような顔してたし。
  許さない。貴方、絶対に許さないから……!
  死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね殺す殺す殺す殺す殺す殺すっ!!
  殺す殺す許さない許さない殺す殺す殺す死ね死ね!!あああぁぁぁっ!!


数週間後、子供のトレーナーと手持ちと思われるポケモンの死体がジャイアントホールの奥地で発見される。
それと同時に、イッシュ地方の各地で全身に血痕のような汚れのある、尻尾の無いタブンネが目撃されるようになったという。

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最終更新:2011年07月30日 22:04