私はある人の噂を聞いて、その人をよく見かけるというギアステーションにやってきた
そこに入ってすぐに目に留まったのは、男性と話している同じポケモンを数匹連れた女性だった
これもまた噂で聞いたのだが、あの男性は「ジャッジ」とかいう事をするらしい
そして男性と話をしている女性こそ、私が捜していた女性だった
女性といっても10代後半の若い女性で、そこら辺のポケモンと楽しく暮らしている子達と見た目はさほど変わりはない
…見た目は、の話だが
意外と早く発見したので少々拍子抜けしたが、まずは男性と話している様子をうかがう事にする
男性から何か言われると、女性はとても嬉しそうな顔をしていた
女性は男性に別れを告げるとポケモン達をボールへしまい、近くのトレインの出入り口へと向かう
私は思わず女性を呼び止めた
「すみません!」
「…?」
女性はこちらを振り向いたが、先程の嬉しそうな顔は何処へやら…とても悲しげな表情をしていた
その表情に少し戸惑ったが、私は彼女に近寄って彼女の名前を伺った
…やはりあの人だ
確信した私はまず名乗り、噂を聞いて来たと前置きをしてから彼女に問い掛けた
「先程男性に見せていたポケモン達…どうするおつもりですか?」
「…」
答えは分かっている。大体の廃人という人々は答えなくとも「逃がす」だろう
だが、彼女は噂だと…
彼女は今にも泣きそうな顔で、素早く私の横を駆け抜けていった
正直、言い訳でもしてごまかすだろうと予想していたのだが…まさかいきなり逃げだすとは
私は慌てて彼女を追いかけて行った…
ギアステーションを出ると、彼女の姿は無かった
空を飛ぶポケモンを使って逃げたのかと思って空を見上げてみたが、空はただ青いだけだった
今なら見つかるだろうと彼女を捜す為に飛行ポケモンを出そうとした時、私の足元に何かが転がっているのに気付いた
…モンスターボールだ
男性に見せていたポケモン達が入っている。その数は4つ
手持ちは基本6匹までだから…おそらく残りの一匹は移動用のポケモンで、もう一匹は彼女が嬉しそうな顔をした程「ジャッジ」の結果が良かったポケモンなのだろう
何故ここに4匹を置いたのか、あるいは落としたのか…私は悪い予想しかつかない
私はモンスターボールを全部拾いあげて溜め息をついた
「どうしてこんな事を…」
本当は私も分かっている
トレーナーとして強くなる為に強いポケモンを選び、育てる為だ
強いポケモンを産もうとすれば、おのずと弱いポケモンも産まれる。廃人と呼ばれるトレーナーにとって、弱いポケモンは不要なのだ
だから弱いポケモンを逃がす
そして今の時代はポケモンを大量に逃がすと重い罪を被る事になる
だからこっそりと逃がしたり、他人に譲るという名の配布をしたり、彼女の噂のような事をする人々がいるのだ
…でも、このポケモン達が彼女から離れる事が出来たのは幸いだったのかもしれない
あの噂が正しければ、彼女はポケモンを逃がす事よりも罪深い事をしているのだから…
最終更新:2011年07月30日 22:09