綺麗な月夜。空に輝くお月さまを眺めていると、
変な建物からこのあたりでは見ないポケモンを抱えた人間がでてきた。
興味本位で、私はそっと草むらから様子をうかがう。
「バイバイ、クズ。」
人間はポケモンをこちら――私が潜んでいるのとは反対側の草むら――へ放ると、
そのまま自転車に乗って去っていった。
残されたポケモンは、何かを大事そうに握ったままうずくまっている。
ああ、捨てられたんだな、と。私はそう理解して、興味を失い自分の巣穴へと戻った。
朝。餌を取りに行こうと巣穴から這い出れば、
例のポケモンが昨日と全く変わらぬ位置にうずくまっていた。
よほどショックだったのか、握った何かを見つめ続ける彼。
野生になったからには自分で生きていかなければならないというのに、
いつまでああしているつもりなのか。
かわいそうではあるが野生のルール、自力で生きようとしない者には
食べ物を分けてやるわけにもいかない。
まあ私には関係ないことだ…。
だが、その手にあるものが気になって、彼に話しかけてみた。
見せられたのは、何の変哲もないモモンの実。
彼のトレーナーがポケモンを選別し始める前に、気まぐれにくれたものだと。
そう言って彼は力なく笑った。
次の日も、その次の日も彼はそこに座ったままだった。
手にはモモンの実が握られたまま。
もしかして、あの日から何も食べていないのではないか。
日に日に毛づやの悪くなっていく彼に、その実を食べれば良いではないかと聞いてみた。
すると彼は首を振り。この実は食べてはいけないんだ、忘れてしまうから、
と小さく答えて再びモモンの実を見つめた。
飢えているのに。
その実を食べてしまったら、だんだんとトレーナーを忘れてしまうのではないか。
トレーナーの顔を思い出せなくなるのがただ怖いと。
その実さえあればいつでもトレーナーを思い出せると言って、彼は痩せ細っていく。
あくる日、私が縄張りの巡回から帰ってきた時、彼はその身を横たえていた。
骨と皮だけになってしまったその手には、原型もわからぬほど黒く痛んだモモンの実が、
やはりしっかりと握られたままだった。
さっさと食べてしまえば良かったのに。耐え難い飢えだったろうに。
それでもトレーナーを慕い続けて死んでいった彼。
せめて地に埋めてやろうと地面を掘り出したそのとき、
キキッというブレーキ音がして、あの人間が妙な建物の前にやって来た。
人間は建物に入るとすぐに出てきて、また別のポケモンを草むらに放って去る。
ポケモンは手に何かを持っていて……
気づいた時には、私は人間に飛びかかっていた。
作 初代スレ>>303-304
最終更新:2007年10月19日 19:57