彼女は私の主人…いや、私の女神である。
女神が望むならばこの醜い私の命なんか惜しくはない。
女神が望むならば不可能を可能とするためにどのような手段でも取ろう。
女神が望むならば女神の側を離れることも恐ろしくはない。

女神は我々の力を不要と見なしたのならば、私はその方針に従うまで。
女神を呪い、怒り、憎悪をぶつけ、復讐を決意するなどということはもっての他である。
そのような愚か者は女神に仕える資格など最初からなかったということだ。
愚かにも女神に害を与えようと企てた元仲間、元兄弟、元姉妹、元家族は全て断罪した。
女神が幸せそうに笑っていらっしゃる、その笑顔を見ること以上にありがたいことなんかあるものか。

最近、女神がある男の名前をよく口にする。
―もうっ、あいつ強すぎなんだからっ。いっつもあたしに勝っちゃうあいつなんか大嫌いっ。
―あいつ。私に育成理論を教えてくれて、いつも連戦連勝のあいつであたしの頭いっぱいなんてむかつくっ。
―ばかばかばか。あんな奴なんか大嫌いっ。好きだなんてありえないわよぉ。
―今度俺が勝ったら付き合ってくれ…って何言ってるのよぉ。あたしに負けろって言ってるようなものじゃない。
女神の嫌う相手は私も嫌いである。女神の敵は私の敵でもある。

久しぶりに女神の御前へと参上する。
敵であるあの男との決戦のため、美しく着飾り、髪を結い、化粧をした女神はいつもにも増して美しい。
しかし女神よ。貴方のお手を煩わせる必要なんかありません。
貴方の敵ならば、私風情でも簡単でした。どんなに強いかと思っていたら、夜討ちへの警戒すらしてません。
貴方すら嫌う相手だけあって、皆にも嫌われているのですね…ポケモン達も邪魔をしてきたりはしませんでした。
前口上が長くなりましたね。女神よ。証拠の首はここにあります。見苦しい顔をした首ですが、お受け取りください。

―なんで?なんで?なんでなんであいつが、首、なんで…いやぁぁぁぁあああああっっっっっっ!!!!!!


……
………

女神の敵を討ち、一カ月が経った。私としたことが迂闊であった。
あのような醜く汚い生首を持たせてしまったからだろう。女神が捕えられてしまったのだ。
白い壁。高い建物。窓には檻。「―――精神病院」という名の牢獄だ。
女神の閉じ込められている場所は分かっている。
女神の嘆きの声と寂しげな歌声が私を導いてくれたのだ。
相変わらず女神はお優しい。敵であり、今は女神をこのような境遇に陥れた愚かな男のためにも
鎮魂の祈り、そして愛情の言葉をかけてやっている声すら聞こえるのだ。慈愛深い私の女神。
そんな女神をこのような汚らわしい牢に閉じ込めるなんて許されない。
女神を救い出すため、私は鬨の声をあげ、窓の檻を捻じ曲げ、壁を叩き壊し、
女神に優しく話かけるふりをしながら奇怪な薬を勧める白衣の女共々、相応しい末路を与えてやった。

ご安心ください、女神。もう怖くありませんよ。助けに来ました。もう助けてとおっしゃらなくても大丈夫です。
助けて、助けて…。ああ、そんなにも恐ろしい目にあわされたのですね。可哀想に。でも大丈夫です。
さあ、行きましょう。志を同じくする私の仲間もいますから。ずっと守ってさしあげますから、もう大丈夫ですよ。

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最終更新:2011年07月30日 22:38