私の名前は・・・もう忘れてしまった。
ただ自分がヒトカゲというポケモンである事だけはわかる。
私が生まれたのは海の見える景色の良い場所だった。
生まれたばかりの私になぜか自転車に乗っていた
私の主人は優しく笑いかけた気がした。その場所は
サイクリングロードという場所で私の姉妹や兄弟も
そこで生まれたと聞いた。ただ私は生まれてすぐに二人の老人の
住む「そだてや」という場所に連れて行かれた。そこには
柵に囲まれた空間があり私はそこで暮らす事になったらしい。
そのすぐあとにもう一匹別のポケモンが柵の中に入ってきた。
随分と体の大きいポケモンで少なくとも生まれたばかりの
その時の私から見たら相当巨大なポケモンに見えた。
そのポケモンはゆっくりと私に近づいてきた。何をしようと
しているのか生まれたばかりの私はわからなかった。でも
そのポケモンは一言「すまない・・・主人から言われた事だからな」
なぜか小さな私に謝った気がした。そのあとにあった事を私は
忘れようとしても忘れられない。あれから長い時間が流れた気がする。
私は沢山の子供達を生まされた。数え切れない数の卵を
朝から晩まで毎日毎日休む事無く生まされ続けた。
私はヒトカゲというポケモンらしい。
長い時間柵に囲まれた空間の中で同じ事を繰り返すだけの
私はもう記憶も自分が何の為に生きているのかすらよく
わからなくなっていた。柵に囲まれた世界から見る空だけが
私の見る世界の景色だった。そんな同じ事を繰り返すだけの
時間にある日変化が訪れた。私が生まれてからずっと一緒に
柵の中にいたポケモンが「もうすぐ俺達はここから出られるみたいだ」
そんな事を言った。ここから出られる・・・? そんな事私は
考えた事も無かった。ただ私は卵を生み続けるだけに生きている。
それだけだと思っていた。ただ彼の言っていた事は本当だった。
それからすぐに長い間会っていなかった主人が私たちに会いにきた。
私達を「そだてや」から引き取るらしい。柵の外に出られる。
外の世界に行ける・・・? 卵を生み続けるだけの時間が
終わる・・・? ずっと一緒にいた彼は最後に私にこう言った。
「主人に言われた事とはいえ今まで辛い思いをさせてすまなかった」
「でもこれからはお前は自由だ。幸せに暮らせると良いな」
何故そんなもう二度と会えないみたいな言い方をするのか
その時の私はわからなかった。
私はヒトカゲ。名前もあるらしい。
生まれてすぐに「そだてや」に預けられ長い時間をそこで
過ごした私は自分に名前がある事すら知らなかった。久しぶりに
見る私達を迎えに来た主人の表情は明るい笑顔だった。なんで
あんなに嬉しそうなのか私の疑問が顔に出ていたのか長い時間を
柵の中で一緒に過ごした彼は気づいたようで私の疑問に答えるように
こう言った「主人は俺達のような能力の高いポケモン同士で子供を
作らせてより良いポケモンを作ろうとしていたんだ。そして長い
時間をかけてそのポケモンが生まれた。だから俺達もここから
外に出られる事になる。今回は「色違い」のポケモンを
作る為だったからあれだけの長い時間がかかったみたいだが」
高い能力。色違い。その為に私は生まれ今まで柵の中で生きてきた。
「俺は主人から見たら「能力が高く子作りに最適なポケモン」らしい」
「だから今までお前のようなポケモンを俺はずっと見てきた」
彼もまた生まれた時から長い時間同じ事を繰り返してたのだろうか。
「俺はLV100でこれ以上強くなる事は無いがお前には・・・」
「?」彼が何か言いかけた所で主人は私達を引き取りそこで
彼の話は途切れた。
私はヒトカゲ。名前があるらしい。
長い時間「そだてや」にあずけていた私達を引き取り主人は
ある場所へと向かった。その場所はグローバルトレードセンターと
呼ばれる場所でポケモンの「交換」を行う場所だと聞いた。
主人は私達をパソコンに預けて何か考えているようだった。
パソコンの中で「そだてや」でずっと一緒だった彼が私に
「お前はこれから「交換」に出されるんだ」そう言った。
私が交換・・・? よく意味がわからなかった。彼は話を続けた。
「お前は長い時間「そだてや」に預けられてLVも上がっている
ただ投薬も努力値も振られていないお前では戦いは・・・。
だから主人はお前を交換に出す事にしたんだ」彼はそう言った。
私はこれから誰か別の人の手に渡る。今の主人とまともに一緒の
時間を過ごした事も無いのに。今の主人に未練があるわけでは
無い。けれど私は・・・。彼は「ちょうどヒトカゲを欲しいという
交換相手が見つかったらしい。きっとお前の事を大切にして
可愛がってもらえるだろう。」そう私に言った。彼はこれから
どうするのだろうか。私は長い時間を彼と過ごして情のような物を
感じていた。彼と一緒にいたいとそう思った。
私はヒトカゲ。名前は・・・。
「そだてや」という閉ざされた空間の小さな柵の中にいた「私」
その私と長い間一緒にいた「彼」私が交換に出される前に彼は
パソコンの中で私にこう言った。「俺はこれからも今の主人の元で
暮らす事になるだろう。俺はLV100で今以上に強くなる事は
無いがお前には・・・。お前には未来がある。新しい主人が
お前を大切に育ててくれればお前も強くなれるかもしれないし
まだまだ色々な可能性がお前には残されている。」私は
彼と一緒にいたいと伝えようとした。けれど彼の言葉を
聞いていると何も言えなくなった。私は彼にとって卵を
作る為だけのポケモンの一匹だったんだろうか。その時私は
彼と初めて会った時の事を思い出した。「すまない」彼は小さな私に
そう言った。彼はこれからも私のようなポケモンに謝るのだろうか。
私は彼に今の気持ちを伝えた。彼は「・・・ありがとう。
お前が・・・君が遠くに離れても俺はここで君の幸せを祈っている。」
それが彼が私に言った最後の言葉だった。
それから主人はGTSに私を預けた。主人は最後に
「バイバイ」と言ったあとに私の名前を言った。私の名前は・・・。
私はヒトカゲというポケモンとして
この世界に生まれた。私の名前は・・・。
「よし!今日も一緒にがんばろうね。「トーカ」!」
「トーカ」 それが私の名前。私が生まれた時に前の主人が
私にくれた名前だ。新しい主人の元で私は初めて名前で
呼ばれる事の嬉しさを知った。前の主人の元では名前なんて
ほとんど呼ばれた事がなかったから。新しい主人は私の事を
可愛がってくれている。「コンテスト」や「ポケスロン」に
参加させてくれたりポケモンバトルで私を育ててくれたりした。
おかげでヒトカゲだった私もリザードンまで進化する事ができた。
多分ヒトカゲだったからトーカという名前だったのかもしれない
けれど主人は女の子だからか「私は可愛くて好きだよこの名前。」
そう言ってくれている。私はたまにずっと一緒だった「彼」の
最後の言葉を思い出す。「君が遠くに離れても
俺はここで君の幸せを祈っている。」大丈夫だよ。私は
今すごく幸せだから。あなたも幸せに暮らせるといいな。
「それじゃあ今日はどこに行こうか?」今の私の主人が
無邪気に語りかけてくる。あなたと一緒ならどこへでも。
この翼があればどこまでも飛べそうな気がするから。
作 四代目スレ>>232-233,238-241
最終更新:2012年08月23日 14:33