今から半年以上前の秋・・・。
レックウザとデオキシスにより世界滅亡の危機に晒されたホウエン地方を救った少年がいた。
彼の名前はアル。
そう、ホウエン地方初のポケモンリーグチャンピオンとなった優秀なポケモントレーナーである。
彼の活躍をたたえ、ホウエン地方でも最強のエリートトレーナーであったサムは、アルに彼の長年のパートナーであったバシャーモとガブリアスを託した。
二匹を仲間にしたアルは、ポケモンリーグを複数回にわたり優勝し、バトルハウスでは連戦連勝の世界一のトレーナーとなり、一躍有名人となった。
新たに仲間となったバシャーモやガブリアスをはじめ、古くからアルの長い付き合いであるカイオーガやアブソル、ライボルトやキノガッサも数々のバトルに勝ち抜いていき、決して彼の元を離れられない存在であった。
そんな彼は毎日全国図鑑完成のためマボロシの場所で珍しいポケモンを手に入れるなど幸せな日々を送っていた。
そう、あの運命の日が訪れるまでは。
月日は流れて2015年の夏のある日、アルはいつものようにバトルハウスを訪れ、勝ち抜きバトルに挑もうとした。
スーパーシングルバトルへの申し込みをした彼だったが、
手続きを終えるといつもはすぐバトルがスタートするはずが、
受付の女性がアルにこう指示した。
バトルハウス受付の女性「では、手持ちポケモンの検査を行いますので、
モンスターボールをお出しください。」
アル「は、はい。」
アルは少々困惑した表情でモンスターボールを受付に出し、
受付の女性は見たことも無い機械でモンスターボールの中身を調べているようだった。
すると、検査の結果衝撃の事実が発覚したのであった。」
バトルハウス受付の女性「今あなたが持っているポケモンのうち、
バシャーモとガブリアスが、改造ポケモンである事が明らかとなりました。
改造ポケモンのバトルハウスや公式大会での使用は禁止されております。
最近、違法な機器を利用して超強力に改造したポケモンをバトルハウスで使用し、トレーナーの死亡事故が起きたため、
対策として、手持ちポケモンの能力検査を強化しているのですよ。」
アル「え、僕は改造ポケモンを手に入れた覚えも一切ありません!」
バトルハウス受付の女性「能力検査の結果、二匹共に攻撃、防御、すばやさ、特殊攻撃および特殊防御全てにおいて通常はありえない数値です。余りに強力な能力を持つ為、バトル中にトレーナーの死亡事故が再度起こりえないため、
公式大会およびバトルハウスで使用する事は出来ないのです。間違った扱い方をすればあなた自身をはじめ、他人の生命に関わります。死亡事故に至る場合もあるのです。
ですので、直ちに保健所に頼んで殺処分を依頼しなければなりません。」
アル「そ、そんな・・・。」
アルはあまりのショックで泣き崩れた表情でそう言うとバトルリゾートを後にし、無限の笛を吹いた。
笛はアルの感情が悲しい雰囲気に包まれているかのように、悲しい音色が響いていた。
彼はメガラティアスに乗り、懐かしのミシロタウンへと飛び立つのであった。 ミシロタウンに着陸した頃にはもう当たり一面真っ暗だった。
久しぶりに家に帰ってきたアル。
いつものように出迎えたママも彼の悲しい表情にびっくりしていた。
ママ「お帰りアル!どうしたの?そんな顔して。」
アルは泣きながら、ママに話した。
アル「ママ・・・、俺のバシャーモが・・・、ガブリアスが・・・、」
ママ「どうしたのよ?ガブちゃんとバシャちゃんがどうかしたの?」
アル「改造ポケモンだったんだって、俺、改造なんかしてないのに、改造ポケモンは人に危害を与えるから、直ちに逃がさなきゃいけないんだって。」
ママ「何を言ってるの、改造ポケモンなわけないでしょ。」
アル「ウソじゃないよ、バトルハウスに行ったら、受付の人が正確な能力検査をしたんだ、そしたら、通常ではありえない能力値だって。」
ママ「そうなの・・・、ちょっとまた後でパパに相談してみるわ、アルがこんな事するはずないもんね。」
それから数分後、アルの父親であるセンリがトウカジムでの仕事を終えて帰ってきた。
センリ「ただいま、おっ、どうしたんだアル。」
アル「パパ!僕のガブリアスとバシャーモが改造ポケモンだったんだ!
バトルハウスの受付の人が検査したんだ!ウソじゃないよ!」
センリ「何だって。確かお前のバシャーモとガブリアスは誰かから貰ったんだよな、
誰に貰ったんだ。」
アル「サムさんだよ!
あのホウエンの他カロスなどのほかの地方のリーグでも優勝したエリートトレーナーの!」
センリ「何。サムの野郎?何であいつがお前にポケモンなんか?」
アル「え?」
センリ「いいかアルよく聴け。
サムはな、確かにお前の言うとおり最強のトレーナーだと長らくいわれていたんだが、
最近になって本当は強力なマシンを利用してポケモンを違法に改造していたことが明らかとなり、
更には改造ポケモンを公式大会で使用して死亡事故を起こし、ポケモントレーナー失格となった極悪トレーナーだぞ?
何でお前がそんな奴から違法な改造ポケモンを貰う?トレーナーとして最低だぞ?」
アル「何言ってるんだよ!サムさんは本当は優秀なトレーナーなんだよ!
僕の活躍を認めてくれてバシャとガブを託したんだ!
そんな優秀なトレーナーが違法にポケモンを改造したりなんかしないよ!
バシャもガブも決して人を襲ったり殺したりはしない、何度も厳しい戦いに勝ち抜いてきた・・・。
そんな仲間を見捨てる事なんてできないよ!」
センリ「黙れ!ダメなものはダメだ!
いくらお前に懐いていようが、人を襲う事はしないだろうが、
違法は違法なんだ!もしもの事が起きたら、
お前もポケモントレーナー失格になるんだぞ!
さあ、早く俺にモンスターボールをよこせ。
明日保健所につれてって殺処分してもらうからさ!」
アル「嫌だ!誰がガブとバシャを見捨てるもんか!」
アルは泣きながら家を飛び出してしまった。
センリ・ママ「アル、待ちなさい!」 しかし、彼の耳には聞こえなかった。彼は懐かしの103番道路に向かって走った。
103番道路で泣きながらモンスターボールを取り出すと、全ての手持ちポケモンを出した。
アル「ねえ、バシャ。お前、本当に改造ポケモンなのかい?」
バシャーモ「長らくお前には黙っていたが、俺もガブもサムによって作られた改造ポケモンだったんだ。ウソじゃない。」
ガブリアス「その通りだ。あの時サムは、俺を超強力にするべく強力な光線銃を使い、俺を最強の身体に改造した。
勿論その身体で何度もポケモンリーグに優勝したし、バトルハウスにも勝ち抜いてきた・・・。」
アル「ウソだろ?何言ってるの?いくら改造だろうがなんだろうがお前は人を襲う奴なんかじゃない!」
アルも、ガブリアスも、バシャーモも、更に泣き崩れた。勿論他のポケモンたちもだ。
ライボルト「そんな・・・。バシャとガブが実は改造ポケモンだったなんて。信じられないよ!」
アブソル「今まで私たちが勝ち抜いてこれたのは、一体誰のおかげと思ってるのよ!」
カイオーガ「たとえ違法な改造ポケモンだったとしても、
長らく旅を共にしてきた俺たちと別れなきゃなんないなんて、とても出来ないよ!」
キノガッサ「ガブとバシャは他人を襲ったりなんかしない!
アルさんや私たちを襲ったりなんかしない!
それなのになぜ、改造ポケだって分かるのよ!」 他のポケモン達はみな涙を流した。やがて、アルはガブとバシャに口を開いた。
アル「明日父さんが、お前らをを保健所につれてって、殺処分するってさ・・・。だから・・・。」
彼は今まで以上に泣きながらそういうと、バシャとガブだけをボールに戻さず、残りの4匹は全てボールに戻した。
アル「バシャ、ガブ。お前と旅を続けたいのは山々だけど、やっぱりダメなものはだめだ。
これ以上お前らと旅を続ける事はできない。
もし万が一の事が起きたら、俺もトレーナー失格になってしまう。
それだけは嫌なんだ。
ただ、長らく旅を共にしてきたお前らを殺す事だけはしたくない。
だからお前らはここに残れ。ここでいつまでも幸せに暮らせよ。
またどこかで会おうな。さよなら。」
そういったアルは二匹を草むらに残し、無限の笛を取り出すと、又どこかへ飛び去っていった。
バシャとガブは、アルの姿が見えなくなるまで泣きながら叫んだ。
バシャーモ・ガブリアス「アルーーーー!」
それから1年以上の時が流れた。
二人目のご主人様を失ったが、草むらに逃がされた事で殺処分を免れた二匹は、全国をアルと再会すべく放浪する日々が続いた。
だが、場所が進むにつれなかなか多くの廃人トレーナーが逃がした雑魚ポケモンや
多くのトレーナーに倒された野生ポケモンなどの餌も取れなくなっていった。
そんな厳しい状況の中で、日に日に弱っていく身体に耐えられるはずもなく、動く事すら精一杯であった。
勿論他のポケモンと戦う気力などすっかりなくなっていた。
それでも二匹はどうしても一番長らく共に旅を続けた二人目のご主人様に再会すべく全国各地への放浪を続けた。
バシャーモ・ガブリアス「もう、アルには永久に会えないんじゃないかな・・・。」
やがて厳しい寒さとなる冬が来た。吹雪の中ついに二匹はどこかの道で力尽き、倒れこんでしまった。
二匹は最後の力を振り絞り、言葉を交わした。
ガブリアス・バシャーモ「何だか段々、気が遠くなっていくよ・・・・。」
二匹がゆっくり目を閉じると、空から四匹の天使が舞い降りてきた。
今、二匹は二人目のご主人様の手に届かない、遠くの世界へと旅立っていったのであった。