2015年3月。レッドがポケモン図鑑完成の旅を始めてから早くも19年の歳月が流れた。
相棒のピッピやピカチュウ達と共に今日も新たなポケモンを捜し求め今日も旅を続けるレッド一行。
だが、彼は未だに全国図鑑完成は愚か各地方のポケモンリーグ制覇も程遠いものとなっていた。
彼の冒険はカントー地方に始まり、ジョウト、ホウエン、シンオウ、イッシュとあらゆる地方を巡った末、
今はカロス地方にまで達していたが、ポケモンリーグ制覇は未だにカントーただ1つ、ポケモン図鑑は
最初の冒険で全てゲットしたと思われる151匹を除き殆どスカスカの状態だ。
というのも、彼とは一番長い付き合いである相棒のピッピが余りにもドジで間抜けであるのが最大の要因だ。
余りにも酷すぎるピッピのドジのおかげで、何度も何度も彼を殴りつけ、怒鳴りつけるレッド。
あまりにも馬鹿なピッピに足を引っ張られるレッドや他のポケモン達、他のトレーナー達。
そして、そんな辛い冒険にとうとう耐えられなくなったレッドは遂に重大な決断をする事になる。
2015年4月のある日、この日のカロス地方はもう春だというのに積もるドカ雪の降り続けるとても寒い一日だった。
この雪は、去年の2月にカントー地方で立て続けに降った大雪とは比べ物にならないものであった。
この日の積雪は、エイセツシティ周辺で最大200cmを超えるなど観測史上最大記録だったようだ。
その日の午後、猛吹雪の中、彼はどこかへ向かうべくエイセツシティから迷いの森を通っていく。
今日の彼はいつものリュックだけでなく、なぜかとても大きなかばんも手に持ち歩いていた。
ピカチュウやケロマツを初めとした彼の相棒達も余りの寒さに今日はモンスターボールに入ったままであったが、
ピッピだけは厚手のコートを着せられてレッドと共に猛吹雪の中慎重に道を進んだ。
彼はあまりの食いしん坊の末太りすぎてモンスターボールに入れないのだ。
吹雪はやむ事なく、雪が更に積もり続ける道を歩く事1時間。
小声ながら歩き続けるレッド一行・・・。
ピッピ「ねえ、レッド。これから僕達を何処まで連れて行くピか?後どれくらいかかるの?
僕は今寒くて凍死しそうだっピ。」
レッド「うるせーな、我慢しろ。寒いのは皆同じだ。これからお前らをとてもいい場所に連れてってやるから。」
ピッピ「いい場所?何かおいしいものが沢山食えるピか?」
レッド「まあまあ、それは到着してからのお楽しみだ。」
そして又数十分後、彼らは目的地に着いたようだ。
そこはポケモンの村という、人間のいないポケモン達だけが住んでいる小さな村だった。
レッドは手にしていた大きなかばんから何かを取り出そうとしているようだ。
彼がかばんから取り出したものは、大きなボロボロの毛布だった。
そして、ピカチュウ達他の手持ちポケモン全員をボールから取り出した。
みんなは余りの寒さに凍えていた。
村一体が銀世界となり、いつもは元気に村の花畑で遊んでいるポケモンの群れは影も形も見えない。
そして、レッドはボロボロの毛布をピッピにかけてあげた。やがて彼はピッピに衝撃の発言を下す。
レッド「これから俺達はまた次の目的地へ向かうが、ピッピ、お前だけはここに残れ。」
ピッピ「え?何言ってるピよ?何で僕はここに残らなきゃいけないピよ?」
レッド「うるせえ、いいからお前はここに残れ!トレーナーの命令が聞けねえのか?」
ピッピ「嫌だ!僕も一緒に行くっピよ!なんで僕は行けないピよ?」
ピッピがこうレッドに歯向かった瞬間、彼は交わす言葉に困った様子だ。
レッド「ピッピ、よく聴け。俺は今までこんなドジで間抜けなお前と旅を続けてきたが、このまま
お前がへまを続けるようでは俺は一生、最強のポケモントレーナーにはなれない。ポケモン図鑑完成も出来ない。
全国のポケモンリーグで殿堂入りして、チャンピオンにもなれない。今までこれらの目標が達成できなかったのは
全部お前のせいなんだ、分かるかピッピ。だから、俺はこれ以上お前と一緒に旅を続ける事はできないんだ。
19年間、俺と旅を共にしたお前には辛い事だけど、仕方ねえんだ。ごめんよ。」
レッドはとうとうピッピに対する19年間の長旅での恨みを晴らす発言をした。
ピッピ「嫌だ!レッドと別れるなんて絶対に嫌だピよ!僕は一人じゃ、何も出来ないピよ・・・・。」
レッド「うるせえ!甘ったれるのもいい加減にしろ馬鹿ヤロー!」
ガン!
レッドは19年間の旅で今までにないほどの強さでピッピをぶん殴り、今まで以上にない大声で雷を落とした。
ピッピはあまりのショックと傷で、動けなくなった。
ピッピ「レッド・・・。」
他のポケモン達も余りのショックで何も言葉も出ない様子だ。
レッド「じゃあな、ピッピ。いつまでもここで幸せに暮らせよ。」
そういってレッドはピカチュウ達をボールに戻し、ピッピ1匹のみを村に取り残し
ポケモンの村を後にした。
レッドに殴られたおかげでピッピは身体の痛みで後を追う事すらできないまま
彼の姿が見えなくなるまで泣き叫んだ。
ピッピ「レッドーーーーー!」 ピッピがポケモンの村に逃がされた次の日。
この日は昨日とは正反対の快晴の1日だった。
普段は人影もないポケモンの村には多くの人々が集まり子供たちが昨日降り積もった雪で
村のポケモン達と楽しそうに季節はずれの雪合戦をしていた。
だが、ピッピはレッドに殴られた傷は回復したようだったがいきなり逃がされたのだから
皆の輪の中に入れるわけがなかった。一人ぼっちでただ皆の雪合戦を楽しむ姿をただ見つめる事しかできない。
それから暫く時間が経った。多くのポケモン達や子供たちがはしゃいでいた為か、普段は村の真ん中で気持ちよさそうに
寝ていたカビゴンが目を覚ました。目を覚ました彼はみすぼらしいピッピの姿を見た。
カビゴン「おや、見慣れない顔だね。どうしたんだ、こんなとこに突っ立って。君は皆と雪合戦をしないのかい?」
ピッピ「昨日僕は吹雪の中ここでトレーナーに捨てられたんだっピ。僕があまりにもダメポケモンだからって。」
カビゴン「ほーう、そうなのかい。随分酷いトレーナーさんだねえ。最近この地方でも生まれたてのポケモンを逃がす悪いトレーナーさんが
増えているんだよ。しかし君は少なくとも生まれたてのポケモンには見えない。」
カビゴンにそういわれたピッピは何ともいえない気持ちになり、泣き崩れた。
ピッピ「どーせ僕はダメポケモンだっピよ。長年旅をしたレッドにとうとう捨てられたほどなんだからピよ。
もう僕は死ぬしかないのかなピよ・・・・。」
カビゴン「それは可哀相に。でもこの村にいればもう君はトレーナーに粗末に扱われたりする事はない。私のほか、
沢山の仲間たちがここにいるんだから・・・。」君はここでいつまでも幸せに暮らせるだろう多分。
さあ、他の皆と一緒に雪合戦でもして楽しみなさい。そんな残酷なトレーナーの事は忘れて・・・。」
だが、ピッピは長年旅をしたレッドの事が忘れられなかった。
だがそれから暫くして、渋々雪合戦の輪に入った。
しかし、この雪合戦はどうも皆とうまくいかない。
子供たちや他のポケモン達から餌のポケモンフーズを貰っても口にしなかった。
長年人間と同じ食べ物をばくばく食べていたんだから仕方ない。
その夜、ピッピはこの村に逃がされてから他のポケモン達と共に二度目の眠りに付いた。
だが、彼は思うように眠れない様子だった。
夢の中で、19年間旅を共にしたレッドたちとの思い出が走馬灯のようによみがえっているようだ。
ピッピは涙を流した。やっぱりレッドの事が頭から離れられないようだった。
やがて彼は皆に気づかれないよう忍び歩きで村からどこかへ向かうべく歩き始めた。
次の日からポケモンの村を後にしたピッピはカロス地方のあらゆる所をレッドを捜し求めてさまよった。
町中の人々や警察官に尋ねるピッピ。しかし誰もレッドたちのことは知らないという。
そんな日々が何日も続いていった・・・。何も食べることなく・・・・。
やがて、ピッピが村を後にしてから半年の歳月が流れた・・・。
太っていた彼の身体はやせこけ、動くのもしんどい状態だった。
彼はいつの間にかカロス地方から遠く離れたどこか見知らぬ土地をさまよっていた。
しかし、幾ら探してもレッドたちは見つからない。
そしてそれからまた暫く経ったある日の朝のこと。
すっかり満身創痍の状態であったピッピはとある道をただあてもなくさまよっていた。
そして、運命の時がまもなく待ち構えていた。
それは、多くの車がひっきりなしに通る道路にある、交差点での出来事であった。
歩道では、通学途中の小学生の男の子と女の子が信号待ちをしていた。
数分後、歩道の信号が青信号に変わった。
二人の子供が横断歩道を渡ろうとした次の瞬間、暴走する赤いスポーツカーが信号を無視して
子供二人をめがけて突っ込んでいった。子供たちは悲鳴を上げた。
小学生の男の子・女の子「キャーッ!」
それに気づいたピッピはボロボロの体で横断歩道へと走り、二人をかばった。
ピッピ「危ない!」
キーーーーーーッ!ドスン!
赤いスポーツカーは子供たちを庇ったピッピもろとも跳ね飛ばし、急ブレーキをかけてようやく止まった。
子供たち二人は何とかはねられずにほっとしていたが、その後血まみれになったポケモンの姿に気づいた。
周辺には多くの野次馬達と思われる人々が集まっていた。
通行人「大変だ!ポケモンが車にはねられたぞ!」
男の子「おい!大丈夫か?しっかりしろ!」
女の子「大変!誰か!すぐに救急車を呼んで!」
すぐに、通行人の一人は119番通報をし救急車を呼び、その後更に110番通報し警察を呼んだ。
もうひとりの通行人は意識のないピッピを安全な場所まで運び、すぐに応急処置を行おうとしていた。心臓マッサージなどの応急処置が行われる意識不明のピッピ。
やがて数分後、警察と救急車が到着し、ピッピは急いで病院へ搬送された。
丁度その頃、レッドは進化したライチュウやブリガロン、マフォクシー、ゲッコウガたちをつれ
カロス地方のリーグに出場するべくポケモンセンター内のベンチで休憩をとっていた。
備え付けのテレビで放送されていたある番組を見ていたレッドたちであったが、
突然番組がニュース番組に切り替わった。
テレビニュースのアナウンサー「番組の途中ですが、ここで臨時ニュースを申し上げます。
今朝8時半ごろ、国道889号線の横断歩道で、信号無視で暴走していた赤いスポーツカーと、
ポケモンが衝突する事故がありました、この事故でスポーツカーに惹かれそうになった小学生二人を庇った
ポケモンピッピが病院に搬送されましたが、意識不明の重態です。」
レッドは何が起きたのか信じられなかった。心臓が止まるかとおもった。
すぐに、レッドはポケモンセンターを後にし、ピッピが搬送された病院へと急いだ。
その頃病院では多くの医師や看護師達がピッピの命を助けようと懸命な手当てを行っていた。
しかしピッピの意識は戻らない。
病院へと足を急ぐレッド、しかし病院まではとても自転車で行ける距離ではなかったので、
ミアレシティでタクシーを拾い、運転士に病院まで急ぐよう頼んだ。
タクシーに乗る事2時間、ようやく病院に到着した。料金は1万円以上かかった。
レッドは病院に着くとすぐに医師と思われる人を見つけた。もうパニック状態だ。
レッド「先生!ピッピはどうなんですか?」
医師「此方にどうぞ・・・。」
医者は何かとても苦しそうな顔でレッドをどこかの部屋へ案内した。
そして目的の部屋に着いたレッドが見たものは、顔に白い布がかけられ横たわるポケモンの姿だった。
医師や看護師たちが深々と一礼し、事故を目撃した人たちは泣き崩れていた。
レッドはその時何が起きたのか信じられなかった。そして白い布を取るとまぎれもなく
かつて長年共に旅をしたピッピだと分かった。
レッド「ピッピ・・・。おいピッピなのか?おい起きろ。俺だよ!レッドだよ!
返事しろよ、俺やピカチュウや他の皆が見えないのか、おい!黙ってないで返事しろよ!ピッピ!
勝手に俺のわがままで逃がしてごめんよ、また俺と冒険の旅に行こうよ、な!聞こえないか?ピッピ!おい!
何で、何で起きてくれないんだ!おい!ピッピ!」
レッドは今までの人生の中で一番泣き崩れた顔でピッピに叫び続けた。
医師「残念ですが・・・・。」
2015年7月18日、ピッピは、こうして天国へと旅立ってしまった。享年19歳。
ピッピが亡くなってすぐに、お葬式が開かれた。
お葬式にはレッドの両親のほか、オーキド博士やグリーン、かつてのライバル達が別れを惜しみ参列した。
レッドはこの時誰のお葬式なのか、とても信じられなかった。
まさか、自分と長年旅をした相棒を捨ててしまったことで、こんな形で最期を迎えてしまうなんて・・・。
レッドはお葬式が終わってからもショックから立ち直れずポケモントレーナーをやめる事にした。
彼の他のポケモン達はオーキド博士に引き取られた。
そして、事故から1年以上の歳月が流れた春・・・・。
事故現場近くに立てられたピッピの慰霊碑には、連日多くの人々がお花等をお供えに来ていた。
あの時ピッピに助けられた子供たちは、中学生になっていた。
みんなは、生命には限りがあるもの、決して他人に変われるようなものではないことを肝に銘じていた。
ピッピは、多くの人々の心の中で、永遠に生き続けています。
終わり