あるポケモントレーナーの腰のモンスターボールの中で、
フシギバナとゲッコウガが話を始めた。

「……時に月光よ」
「なんだ、バナ者」
「汝は厳選という事柄を知っておるか」
「厳選?……わざわざ聞くという事は、何か特別な意味があるのか」
「うむ……トレーナーが優秀な個体を得るために卵、ひいてはポケモンを量産する事柄よ」
「それの何が問題なのだ?」
「意図にそぐわぬ全ての個体は容赦無く野に放たれるのよ」
「生まれたての個体を大量に野に放つ?……我らが主では考えられぬ事だな」
「まだ主と呼んでおるのか。あやつ自身は友と呼べと言うておったであろうが」
「まじめな性分ゆえ、仕方が無い」
「その性分も、厳選の対象となるようだぞ」
「ほう……バナ者の性格はせっかちであったな」
「厳選でいうと、動作は機敏となるが身の守りが甘くなるらしい」
「そう、ポフレ……あれを二口で食らうのはバナ者だけだ」
「せっかちゆえ仕方が無い」
「我らが流派のギャラ者はきょうあくポケットモンスターだが性格はまじめだぞ」
「まじめにきょうあくなのであろうよ……毎回律儀にいかくしておるし」
「かの最終兵器を目の当たりにした時に『俺に使わせろ』とわめいたのには参った」
「まじめよのう……我らの中であやつが一番才能が無いのがまた救いが無い」

ゲッコウガは他の仲間の面々の性格を思い返した。
「クレッフィはまじめでいたずらごころを持っているとは……真逆で中々分からぬ性格だな」
「若いおなごとは案外そういう物よ」
「コジョンドはがんばりやで、せいしんりょくを持っている」
「指示が無い限りはドレインパンチを使おうとせぬからな、自らの危機にもひるまぬのも考え物よ」
「おなごのわりには肝が据わりすぎているな」
「おなごとは案外そういう物よ」
「焙烙火矢はすなおな奴だな」
「ファイアローにはもっとましな呼び名を付けてやれい」
「すなおとまじめはどう違うのだ?」
「知らぬわ」
「厳選の際に必要な性格を持って生まれた個体で無ければ捨てられるわけだな?」
「そういう事だな」
「わざわざ産ませるより、性格を変える薬なり機械を作れば手間がかからぬのではないか?」
「そこの辺りは分からぬな。少なくとも倫理とやらの問題では無かろうがな……」
「ともかく、このまま厳選で野生に放たれる個体が増え続ければ……」
「そうだ……あのフラダリとやらがほざいておった事が真になりかねん」
「それにしても、バナ者は何故今の話をする気になったのだ?」
「もう一つ思い出した事があるのよ」

もはや意味を為さなくなったふしぎなアメを新しく口に含みながらフシギバナが続ける。
「その昔、人間は今よりもずっと弱弱しかったらしい」
「ほう?」
「壁をよじ登れるのも、ツタを用いて向こう岸に飛び移れるのも一部のみ」
「ふむ」
「全力で走り続けたり泳ぎ続けたりできるのもわずか数百メートル足らず」
「今では考えられぬな」
「イシツブテ合戦をやろう物ならたちまち死者続出」
「子供のやる遊戯だぞ?」
「それどころか歩けぬ、目が見えぬ、耳が聞こえぬ、頭が足りぬ人間も大勢いたという」
「……バナ者が言いたき事が見えて来たぞ」
「うむ……」

ふしぎなアメを噛み砕いてフシギバナがこう続けた。
「今を生きる人間達は、その昔に淘汰……厳選された者達の子孫では無いか、という事だ」
「皮肉な物よ……歴史は繰り返すか」
「未だ誰の目にも触れておらぬ伝説の中に、答えはあるのやも知れぬ」
「バナ者よ、拙者は昔、ポケットモンスターと人間とが結ばれていた時代の事を耳にした」
「ふむ……興味深い話よ。何らかの関連があるのか……?」

その時、彼らのトレーナーからお呼びがかかった。

「おーいフシギバナー、行くよー、頼むよー」
「声に緊張感が欠けておる……若手に任せればよいだろうに」
「歴戦の貴殿の戦いぶり、拝見させていただく」
「とうに見飽きておるだろ汝は」

戦いの場へ飛び出していく刹那、フシギバナはこう言い残していった。

「月光よ。いずれポケモンとヒトとで、厳選し合う時代が来るのやもしれんな……」

彼の背中にゲッコウガはこう返した。

「老いたかバナ者。そんな時代は我らが阻止するのみよ」
 

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最終更新:2015年12月06日 16:07