これは今から3年前のイッシュ地方でのお話です。
半年ほど前にポケモンリーグを制したある一人のトレーナーの少女、アヤは
世界一のトレーナーになるべく毎日朝から晩までホドモエシティの近くにある
ポケモンワールドトーナメント会場で各地方のジムリーダー達を相手に激しい戦いを
繰り広げていました。更に彼女はトーナメントで優勝できる強いポケモンを手に入れるべく
毎日毎日育て屋に足を運び沢山の卵を手に入れては、3番道路で孵化作業に励むいわゆる
廃人トレーナーとしての日々を送っていました。そんな彼女の一番のパートナーは
ポケモントレーナーになって直ぐであったポケモンであるダイケンキでした。
ダイケンキは、ミジュマルの時にアヤに出会い、旅では沢山のジムリーダーやプラズマ団員たちを
相手に殿堂入りを果たすまで彼女の為には命がけで戦ってくれました。今ではバトルに出る機会こそ
少なくなったものの、今でも秘伝要員としてパーティーにおける縁の下の力持ちとなっていました。
アヤもそんなダイケンキが大好きでした。ところが、そんなダイケンキと彼女の友情はこの後長くは続きませんでした。まさか、あんな悲劇が起こる日が来るなんて、誰もが思いもしませんでした。
2012年12月17日。クリスマスイブの1週間前の事です。その日の夕方、アヤはいつものようにPWTでのあるトーナメントで優勝し、PWTからヒオウギシティの自宅へと帰路を急ぎ自転車を飛ばしていました。その日の夕方はもう6時を過ぎているのにまだ明るく、綺麗なオレンジ色の空と美しい雲が空一面に広がっていました。アヤはこんな夕焼けは生まれてから一度も見たことがありませんでした。ダイケンキを初め他のポケモン達も同様でした。あまりに美しすぎる夕日に彼女の顔はとても目が輝いていました。アヤが自転車を走らせてからおよそ20分後、もうすぐ自宅に帰れるという一歩手前の道路で、1匹のナマズンを連れた一人の老人の姿がありました。ナマズンはイッシュ地方では珍しいポケモンの1匹でしたから、アヤはそんな彼を見てとても驚き自転車を止めました。そして、老人は、いきなりアヤにこんなとんでもない事を言い渡したのです。
老人「トレーナーよ、お前らはこの異変の前触れが分からんのか・・・。」
アヤ「え?異変の前触れって、何のことよ?」アヤは動揺してしまいました。
老人「この夕焼け空は数日後イッシュ地方に大いなる災いが起こる前触れであるとナマズンがおっしゃる。お前さんも早くこの地方から逃げるがいい・・・。もし逃げなければお前さんはろくな事にあわないのだ。」
ナマズン「命が惜しければ、早くイッシュ地方から逃げるんだ・・・。」
アヤ「え?何言ってるのよ!どうして?」
アヤは老人たちの言ってる事がさっぱり分からない為更に動揺した様子でしたがとりあえずこれ以上何も言わないまま自宅へ帰ることにしました。しかし、この予言が彼女とダイケンキとの永遠の別れになるなんて、ちっとも思いませんでした。それから1週間後、2012年12月24日、クリスマスイブの出来事です。この日の朝、彼女は早朝に自宅を出発し、またPWTを目指し自転車を飛ばしました。彼女が丁度タチワキシティ周辺に差し掛かったその時です。突然、グラグラグラと大きな大きな地震が襲い掛かりました。彼女も、他の通行人たちもあまりに大きすぎる地震に皆がパニックになっていました。余りに激しすぎる揺れは、5分以上も続き、沢山の建物がガラガラと倒壊していきました。それから数分後、揺れが少しおさまった時の事です。突然、大きな爆発音が響き渡りました。
「ドカーーーーーーーーーーーーン」
アヤや他の皆は「キャーーーーーーーーーーー」と悲鳴を上げました。
そしてある住民が、アヤや他の人々たちに大声で叫びました。
「大変だ大変だ大変だ!火事だ!大地震でタチワキコンビナートで大爆発が起きた!このままではこのあたりにまで燃え広がる!すぐに避難しろ!」
アヤや人々はすぐその場を離れようとしました。でも、ダイケンキは中々その場を離れようとせず、衝撃の発言をしました。
ダイケンキ「大変だ!このままでは中に取り残されている作業員たちが危ない!みんな、僕は消防隊たちの応援に行く!沈下しだい戻るから、早く逃げるんだ!」
アヤ「ダメよ!ダイケンキ!そんな事をしたら、あなたまで死んでしまうわ!」
アヤは泣きながらそういい引きとめようとしましたが、ダイケンキはその言葉を聴きもせずタチワキコンビナートへと一目散に向かっていきました。アヤやみんなは叫びました。
「ダイケンキーーーーーーーーーーーーーーー!」
それから暫くして、激しい炎はどんどんどんどん燃え広がりました。アヤや他の人々らはすぐその場から避難しました。
ダイケンキが火事現場に到着すると、タチワキコンビナートは激しい炎が収まることなく、駆けつけた沢山の消防隊達も歯が立たない状況でした。彼も得意技のハイドロポンプで消火にあたろうと、炎まで一歩一歩近づいていきましたが、消防隊員は必死に引き止めます。
「君、危ないから近寄るな!早く避難するんだ!」
消防隊員の言う事も聞かず、ダイケンキは得意技のハイドロポンプで消火活動にあたりました。しかし火は収まるどころか、どんどんどんどん燃え広がっていきました。その時です。突然、激しい炎の中から、今までに聞いた事もないような叫び声が聞こえてきました。
「誰かーーーーーーーーーー、助けてくれーーーーーーーーーーーー!」
炎の中で助けを求める叫び声をあげていたのは、逃げ遅れた作業員と思われる男性でした。、消防隊員たちは炎の中から彼を助けようとしましたが、焼けた瓦礫ががらがらと、消防隊員と作業員めがけて倒れていきました。それを見たダイケンキは彼らをかばいました。ハイドロポンプのPPを使い切ったダイケンキの身体は既に満身創痍でした。
ダイケンキ「危ない!」
彼らをかばったダイケンキはガラガラと崩れ落ちた瓦礫の下敷きになってしまいました。それに気づいた消防隊員たちは後ろを振り返り、ポケモンが下敷きになっているのに気づきました。
「大変だ!ポケモンが下敷きになっている!すぐに助け出すんだ!」
しかし、炎は更に強さを増していきました。それから5時間後、火は鎮火しました。しかし、ダイケンキと消防隊員2名、作業員の行方が分かりません。他の隊員たちは彼らの捜索を始めました。
一方、イッシュ地方のはずれにある避難所では沢山の人々が、人々の安否を心配していました。避難所ではガスや電気や水道も使えないため真っ暗になり、時々余震も襲ってきました。ラジオでの安否情報では、なくなられた方々の発表が毎日続き、泣き崩れる人々でいっぱいになりました。アヤはというと、家族は避難して何とか無事であったものの、自宅を失ってしまいました。ボックス内にいたポケモン達も何とか無事であったものの、ダイケンキの安否が分からず不安で眠れない日々が続きました。それから数日後の事です。ラジオの安否情報で、ダイケンキと、逃げ遅れた消防隊員、作業員の死亡が発表されました。その放送を聴いた瞬間、アヤは勿論彼女の家族はとても泣き崩れました。
アヤ「どうして、どうしてなの・・・。ダイケンキ・・・・。ダイケンキ!うわああああああああああああああああああああああああ!」
泣き崩れた彼女の元に、1人の喪服を着た男が姿を現しました。そして、彼はアヤたちをダイケンキの亡骸が安置された地震で亡くなったポケモン達の零暗所へと案内しました。彼の亡骸は火事現場で全身大やけどを負ったためなのか、もう面影もないほど痛々しい姿でした。それを見たアヤは更に泣き崩れました。まさか、自分の大切な相棒を失うことになるなんて、夢に思っていませんでしたから。
あの震災から1年後、ダイケンキが眠るお墓には、今日も多くの人々が、墓参りに訪れるのでした・・・・・。
おしまい