俺はこの前、沢山のポケモンを逃がした。生まれたてで、レベルも1と低い。
理由は勿論強く望み通りのポケモンが欲しいからだ。
逃がされた時に悲しそうな顔をする奴もいたが、痛みなど感じなかった。


気付いたら、自分は独りになっていた。
あぁ、逃がされたんだ、ということに暫く気付かなかった。
今自分は雨風が凌げて、生まれた場所の近くにある高いタワーの中にいる。名前は確か・・・


今日も孵化作業を始めようか。時間は夜中。そしてズイの下で自転車を止めた。
ロストタワーが目に入ったからだ。
「怪力」の秘伝マシンを貰って以来、来たことがない。
探索をしてみようか。そう思った。


夜はゴースやヤミカラス、ムウマ達が怖いけど、ここは安全な場所だ。
お腹が空いたなぁ、そんな事を思いつつ、眠ろうとした時だ。
「暗いなぁ・・・」そんな声と足音が聞こえる。
この声は。忘れもしない、僕の親の声だ!
足音は声と共に階段を上っていった。

「前に来た時に拾い忘れた道具とかがあるかと思ったが・・・時間の無駄だったか。」
今の手持ちは孵化中のために、卵が5個と、特性「炎の体」の低レベルなマグマッグだ。
いきなり思いついた探索だったため、十分な準備をしなかった。
今は此処の野生のポケモンが低レベルでも、素早さの低いマグマッグでは・・・
そう思い、引き返そうとした。
周りにはゴースやヤミカラス、ムウマがいる・・・
俺が此処を荒らしている、とでも思ったのだろう。
「クソッ!行けっ、マグマッグ!」頼みの綱はこいつしかいない。
しかし、すぐにマグマッグより素早いゴース達がマグマッグを攻撃し始める。
マグマッグは数分もしないうちに倒されてしまった。
「どうすればいいんだ!」
その時、ヤミカラスがボールの一つを突いた。
「あ、おい!」ヤミカラスはゴースに何か合図を送った。
転がり出たのはまだまだ孵化に時間が掛かりそうな卵。
不運なことに自分よりも離れた場所に転がってしまった
そしてそれを目掛けてゴースが何か影のような球体を放とうとしている・・・
「やめろ!それだけは止めてくれ!」


凄い音と、叫び声が聞こえる。僕は慌てて3階へと階段を上る。
少し前に草むらの野生のポケモンに傷つけられた足が痛い。
そして、3階に着いた時、「あ、おい!」と声が聞こえた。
僕の数メートル先に卵が見える。そしてそれを攻撃しようとするゴースも。
そして、僕は無意識に飛び出していた。

一瞬何があったのか分からなかった。何か別のポケモンが飛び出してきたような気がする。
何処か懐かしい姿をしたポケモンが。
見ると、ゴース達は困った様な顔をして、立ち去っていった。
そして、卵には何かが覆いかぶさっている。しかしピクりとも動かない。
恐る恐る「それ」を持ち上げる。卵にはヒビ一つ入っていない。
持ち上げて、近くで見てやっと分かった。「それ」は俺が昔に逃がしたポケモンだった。
背中に酷い傷を負っている。卵を庇ってゴースの攻撃を受けたからだろう。
何処か嬉しそうな表情を浮かべるそいつを見て、涙が止まらなくなった。
俺が「臆病」だからと言って躊躇いも無く逃がしたそいつが、
自分よりレベルの高い相手に向かって身代わりになったことがとてもショックだった。
何より、逃がすにしても自分がLV1で逃がさず、
もう少しレベルを上げてから逃がせばこんなことには・・・
俺はそいつを抱きしめて泣く事しか出来なかった。
こいつはきっともっと別のことを望んでいた筈なのに。

翌朝、ロストタワーの頂上、2人老婆の前に一人の少年が立っていた。
「此処にポケモンのお墓をつくりたいんです」少年は力なく言った。
すると老婆は、「とてもポケモン想いの少年じゃの・・・分かった、望み通りに墓をつくり弔ってやろう」と言った。
「いえ、そんなことは無いです。僕はこのポケモンに、とても酷いことをしてしまいました」
「このポケモンを見て見なさい、とても嬉しそうな顔をしているじゃろう。
最近此処らでは、卵から生まれたばかりのとても野生では生きて生きないようなポケモンを
逃がす人がいるらしいからの。君みたいな優しい少年に会えてワシらも嬉しいからの・・・
きっとこのポケモンも君みたいな人に出会えて喜んでいることじゃろう。」
こいつは俺に出会えて本当に幸せだったのだろうか?
その言葉を聞いて、少年はまた涙を流した。

この少年が以降生まれたてのポケモンを逃がすなどということは無くなった。


作 初代スレ>>390-392

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最終更新:2007年10月19日 20:20