「・・・ばいばい、ムクホーク。」
そう言って、トレーナーはムクホークに背を向けた。
ムクホークは困ったような顔をして、トレーナーについて行こうとする。
「・・・来るな!お前はもう逃がしたんだ、だからついて来るな!」
そう言い残して、トレーナーは走り去った。
…これからどうすればいいのだろう。
トレーナーはついて来てはいけないと言った。しかし、どうしても気になる。
トレーナーが自分に背を向けたとき、トレーナーは確かに泣いていた。
肩が微かに震えていたのを、ムクホークの鋭い眼は見逃さなかった。
そして、ムクホークはトレーナーが走り去った方へと、飛び去った。
近くの街を飛び回り、様々な宿などを回り窓から覗いたが、トレーナーは見つからなかった
その次の日はその街より遠くを探した。そして、一つの病院が目にとまった。
そういえば、ここ最近のトレーナーの様子はなんだかおかしかった、とムクホークは思った。
咳込んだりすることが多く、苦しそうにしていたことがあった。
周りから見れば気が付かないかもしれないが、長年一緒だったムクホークは気が付いていた。
もしかしたら・・・、そう思い、病院の開いている窓を一つ一つ覗き、トレーナーを探す。
…、いた。数えたところ、15階建ての病院の12階の1室にトレーナーはいた。
寝ているらしく、少しも動かない。ムクホークは高度を下げ、少しずつ近づく。
見てみると、トレーナーから点滴の管が伸びている。
やはり、どこか体の具合悪いのだろうか?
その時、ガチャりと音がして、扉が開いた。チラりと見えたその姿は、トレーナーの友人だった。
見つかったら不味いので、隣の病室の窓の淵へととまった。
「よぉ、調子はどうなんだ?」
「あまり、よくないな・・・、咳が酷くて、苦しいんだ。」
「そうか・・・、あれ?いつも一緒にいたムクホークは?」彼の友人が訪ねた。
「あぁ、逃がした。」ポツりとトレーナーが言った。
「はぁ!?なんでだよ!大事にしてたじゃねぇか!」友人はかなり驚いているようだった。
「大事にしてたから、逃がした。あいつ、俺を見ていつも心配そうな顔をするんだ。
あいつには体の調子が悪いこと、気付かれない様にしてたんだけどな・・・」
「だから、なんで・・・」
「あいつには、いつも助けられたよ。バトルの時も。そうじゃない時も。
…今の俺を見たら、きっとムクホークは心配するだろうから・・・
こんな時まで、あいつに心配かけさせたくないからな。
せめて最後は自由に空を飛んで貰いたくてね・・・」ゴホッと、トレーナが咳込んだ。
「・・・。」
…自分を逃がしたことに、そんな意味があったなんて・・・、
「それに、こんだけ高い部屋なら空も少しは近いだろ?自由に飛ぶムクホークが見えるかもしれない。」
その言葉を聞いて、ムクホークは昔を思い出した。
広い草原で、自由に飛んでいるムクホークを見て、トレーナーは笑顔で
「やっぱりお前は、青空が似合ってるよ、」と言ってくれた事を。
…次の日も、その次の日もムクホークは病院を訪れた。
そしてある日、いつもの様にこっそりと病室を訪れたムクホークは違和感を感じた。
トレーナーの動きがおかしい。何度も咳込み、呻き声を上げているようだった。
トレーナーの動きが止まった。
そして、トレーナーに繋がっている機械が変な音を立てた。
『ピッピッピッピッ・・・ピーーーーーーー・・・』
トレーナーの手から力が抜けたのを、ムクホークは見た。
そして、騒がしくなる病室・・・、ムクホークは、静かに病院から飛び去った。
私を育て、大切にしてくれたあなたへ、
私を逃がしたことに、大きな意味があったことを私は忘れません。
あなたが私と別れる時に、静かに泣いていたことも。
私は今、晴れた青空を自由に飛んでいます。
あなたが笑顔で私に似合っている、と言ってくれた、青空を。
作 初代スレ>>937-939
最終更新:2008年03月27日 21:58