ばいばい、とご主人様が言いました。
生まれたばかりのぼくたちは「ばいばい」の意味が分かりません。
でも、ぼくたち兄弟が寒い夜道に放り出されたのは、ご主人様が「ばいばい」と言ったからみたいです。
何も知らない、誰も何も教えてくれない世界で、こわいこわい、さむいさむい、
とぼくたちは体をくっつけあいました。

みんなでくっついてほっとしていると、道沿いに連なる柵の向こうに影が見えました。
なんでかは分からないけど、その影になら助けてもらえるんじゃないかと思って、
ぼくたちはその影に近付きました。
そしたらそこにはぼくたち兄弟と同じ姿の丸い影と、
赤い玉飾りのついた影とが何だかよく分からない具合に混じり合ったのがいて、
びっくりしたぼくたちはつい隠れてしまいました。

隠れながら、くちゃくちゃになっているそれを見ていたら、二つの影がふと離れました。
離れた影の間に丸くて白いものがあって、玉飾りのある方の影はそれに何か話しかけ、ぼくたちと同じ姿の影はそれを見守っています。
それを見たとき、ぼくたちは理解しました。
あれはぼくたちの、おとうさんとおかあさん。


何も知らないと思っていたけど、ぼくたちは、おとうさんとおかあさんから確かにそれを教えてもらっていたことを思い出しました。
タマゴの時に教えてもらった、それ。囁きかけてもらった、歌。
知っていたことが嬉しくて嬉しくて、ぼくたちはその歌をみんなで歌いました。
お月様まで高く響いて、そのままぼくたちの体の中に落ちてくるような綺麗な歌。
ぼくたち唯一の歌を歌いながら、ふと何も教えてくれなかったご主人様を思いました。
せめてなにか一つでも、教えてくれれば良かったのに。
そんなことを考えていると、歌声に紛れて、ぽとり、と音が聞こえました。
見ると、地面に伏している兄弟が目に入りました。
ぽとり、ぽとりと次々に落ちてゆく兄弟達。段々消えていく歌声。
どういうこと、一体何が起こっているの。
気付けばもう、ぼくしか浮かんでいませんでした。
でも、歌う力さえ出ません。体中から力が抜けていきます。
ご主人様。一つだけ、教えてくれれば。それだけで良かったのに。

そしてぼくも地に落ちました。


逃がしたポケモンの行方 自滅パターン


作 2代目スレ>>22-23

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最終更新:2007年10月23日 16:42