子供の頃、弟がポケモンを拾ってきた。
弟が6歳か7歳か、詳しくは覚えていないが
ポケモンをゲットできる年齢でなかったことは確かだ。
あのポケモン。
とても小さくて生まれたばかりだった。
小さくて、震えていたピチュー。
当時の私も、ポケモンをゲットできない10歳未満だった。
たとえば、私が10歳以上で、空のポールを持っていたら、
迷わずボールを使ってポケモンセンターまで走っただろう。
たとえば、私が大人であり移動手段と体力を持っていたら、
迷わず山を越えて街にあるポケモンセンターまで走れただろう。
私はその両方を持っていなかった。
弟の腕の中でどんどんと冷えていく小さな命。
それが動かなくなったとき、弟は泣いて私に言った。
「おねえちゃん、たすけてあげて!まだしんでないよ!」
私は、無力だった。
何も出来ない。何が出来るかもわからない。
何をしてあげれば良かったのか?
せっかく生まれてきたあの命は、寒さだけを知って消えた。
ピチューは弟を頼り、弟は私を頼った。私は何も出来なかった。
泣いてしゃくりあげる弟をあやしながら、ピチューを土に埋めた。
小さな墓穴は酷く簡単に掘れて、私と弟と2人で手を合わせた。
その数日後か、1人で遊びに行っていた弟がまたピチューを連れて帰ってきた。
今度は2匹。
そして弟は顔面鼻血塗れの満身創痍。
我が家は大パニック。
母と父が「何があったのか」と問い詰めるも、弟は黙秘権を施行してだんまりを続けたまま、
ただ私にだけ、コッソリと
「おねえちゃん、ぼく、なにがあってもポケモンをまもるよ。
ポケモンはともだちなんだ!どうぐじゃないんだよ!」
と、熱く語ってくれた。
当時から『能力値』というものでポケモンを選別して、捨てるというトレーナーが存在していた。
当時は意味などわからなかったが、今ならわかる。
たぶん弟は、生まれたばかりのピチューを捨てるトレーナーを見つけたのだろう。
そして殴りかかって反撃された。 きっとそんな所だろう。
今、私はポケモンセンターで働いている。
隣には、ついこのあいだライチュウに進化した私の大切なパートナー。
弟は世界中をピカチュウと一緒にまわっている。
ポケモンレンジャー、だったか。そういう名前の仕事をしているらしい。
あまり連絡がつかないからよくわからないのだけれど。
小さなピチューが私達の前で死んでいった日から、もう何年もたった。
子供だった私達は大人になり、もう一緒に走り回ったりしない。
どんなに時がたっても、自分勝手な理由でポケモンを捨てていくトレーナーが絶えない。
私は、私なりの方法でそんなトレーナー達と戦おう。
「すいません!あの、道路にピィが倒れてて!動かないんです!!」
この街には育て屋がある。
毎日毎日低いレベルのまま捨てられ、ケガをするポケモンたち。
「骨が折れているのかもしれないわ、すぐに診察するわね!」
1匹でも元気で、生きる喜びを知ってもらうために。
私は 戦う。
作 2代目スレ>>163-166
最終更新:2007年11月28日 20:27