名簿
01:AICE
02:綾乃
03:andante
04:一真
05:xiwong
06:佐藤
07:gemini
08:snowe
09:tara
10:男爵
11:提督
12:なめねこ
13:伯爵
14:ハングリーサン
15:huma
16:まな
17:右
18:有理
19:euro
20:yorozuya
◆ルール
A.参加者全員には爆弾つきの首輪がつけられている。
B.一日に一人、誰かが死なないと全員の首輪爆発。
C.参加者には、ランダムで武器が支給される。
D.参加者の中には三人の人狼と十七人の村人がいる。
E.支給される武器と一緒に、人狼カードか村人カードが入っている。
F.生存している村人の数が生存している人狼以下の数になると、村人全員の首輪爆発。
G.全ての人狼か、村人が死亡した時点でゲーム終了。
H.ゲームが終了した時点で生きている者は、無事帰れる。
「と、言う訳でみなさんには殺し合いをして貰いますにゃ」
教壇に立ったnaviaは、厳かにそう宣言した。
「先生!」
一番最初に発言した奴は死ぬ。そんな他の企画のセオリーを知ってか知らずか、ネームプレートに13:伯爵と書いてある男が手を挙げる。
「はい、何でしょうか伯爵」
「学校の教室と言う舞台に一同を集めると言うのは様式美上いいんですが、どう考えても提督に学ランは無理があると思います」
みんなの視線が11:提督に集中する。
「どうも、提督です」
その視線を気にせず、提督は立ち上がると、周囲の人間に提督と印刷された自分の名刺を配り始めた。
「うん、正直あたしも無理があると思うにゃ」
「でも、yorozuyaにセーラー服を着せるセンスは何か安いAVっぽくていいと思いました!」
人を殺せそうな視線を、20:yorozuyaが13:伯爵へと向ける。
聞いての通り、男は全員学ラン、女は全員セーラー服を着させられている。
本当にそれは、安っぽい作り物の光景であった。
「まあ、そういうことで、適当に出席番号一番の人から武器を渡して行こっか。あ、その前に一人殺さなきゃいけないんだっけ。誰を殺すかはもう決まってるけど」
naviaさんのその言葉で、教室が緊張に包まれる。
「ごめんね、佐藤ちゃん」
「クソがっ」
06:佐藤は、そう言って机を殴った。naviaはサバイバルナイフを取り出すと、オーバースローでそれを放る。
「ショック」
06:佐藤はそう言い残し、頭にナイフを生やして絶命した。
「それじゃ、武器を配るよー」
こうして、割と酷いノリで人狼バトロワは始まるのであった。
【残り19人】
「舐めてる。絶対に舐めてる」
07:geminiは走った。
学校を出てすぐの戦闘行為、また学校内での戦闘行為は禁止されていない。
武器次第では交渉の余地が生まれるかも知れないが、彼のバックパックに入っていたのは保存食と水筒、そしてひのきのぼうと村人カードだった。だからこそ聡明な彼は、取り敢えず逃げて身を隠すことを選んだのだ。
木々の隙間を縫い、茂みを駆け抜け、どうにか学校から視認されない場所へ腰を落ち着ける。
乱れた呼吸を整えていると、何者かの声がした。
「gemini、カードを見せるにゃん!」
「……まあ、いいけど」
元より、武器がこれでは武力的解決は望めない。
geminiはサングラスのズレを直すと、バックパックから村人カードを取り出して放り投げた。
それを見て、草むらからバックパックを担いだ猫が姿を現す。
「geminiと戦うことにならなくて良かったにゃん」
「ところで、何でお前猫なの」
geminiは03:andanteが長靴を履いてない長靴を履いた猫状態なのに首を傾げる。
「誰かの悪ノリとか、きっとそういうのニャンよ。むしろnaviaさんが最強過ぎる存在な時点で、色々な人の願望が実現した世界なのかも知れないにゃん」
「成る程。naviaさん、実物にはあそこまで滅茶苦茶な戦闘力はなかったもんな。怖さは変わらないけど」
言った瞬間、ザーザーと無線のノイズのような音がする。
『げみに君、何か言った?』
「いえ」
「何でもないにゃん」
それは、首輪から聞こえた。
位置の監視や盗聴機能だけではなく、無線機能もついてるらしい。
「心臓によろしくないことがさらっと起きたのは気にしないことにして、andante、お前何支給された?」
「これにゃん」
andanteはバックパックから村人カードを見せた後、防弾チョッキを見せる。それは、人間用のサイズだった。
「サイズが合わないから、これはgeminiにやるにゃん。代わりにgeminiの武器を寄越すにゃん」
「……いいけど、多分要らないと思うで」
そう言って、geminiはバックパックからひのきのぼうを取り出す。
「……geminiだし、納得したにゃん」
「納得された。まあ、俺の得物こんなんだから、別に交換しないでいいぞ。悪いから」
「でも、俺はとても着られないからやっぱりやるにゃん」
「ありがとよ」
geminiはandanteから防弾チョッキを受け取ると、素早くそれを着込む。
「しかし、これからどうするかなあ」
「取り敢えず、それをやったお礼に俺を運ぶにゃん」
「分かった。まあ、辺りでも探索するか」
geminiはandanteを両手で抱えると、学校から更に離れるよう歩き出した。
【残り19人】
少女のバックパックにはリボルバーが入っていた。六発の弾が込められており、激突を起こしてトリガーを引けば弾が出る。単純な構造故に誤作動を起こしにくい武器だ。
「やあ、ハングリーサン」
その男は、校舎に寄っかかるようにして立っていた。サングラスをしている、不敵な笑みを浮かべた学ランの男。
「……伯爵さん」
14:hungrysunは、名前を呼びながら一歩後ずさる。
「別に、俺はそう名乗った訳じゃないんだけどな。何故かそう呼ばれる上、ネームプレートまで伯爵扱いだよ。天国ではそれはらむたらのIDなんだけどな。俺は三橋だよ、三橋」
「本当に、リアルでもその喋り方なんですね」
「……良く言われるよ」
やれやれと言った風に、13:伯爵は大袈裟に肩を竦める。
「まあ、取り敢えず一緒に行かないか?」
「何でです?」
伯爵がhungrysunに向かって一歩進むと、hungryusunはそれを受けて一歩下がる。
「何でって、そうだな。例えば四人以上のグループがあれば、そいつらを無理に殺そうとする奴は三人しか居なくなるんじゃないか」
「……どういうことです?」
「回転が遅いな。まあ、初めてやるゲームじゃこんなもんか。とは言え、俺は初めてでも待ち時間の間にそれぐらいは考えたが」
伯爵が一歩進む。hungrysunが一歩下がる。
「そう怯えるなよ」
伯爵は苦笑する。
「何で、四人以上のグループだと安全なんですか?」
「そうだな。お前、俺と手を組まないか? 取り敢えず、歩きながらその辺のことについて――」
そう言って近付いた瞬間。hungrysunは駆け出した。
「あー……まあ、いいか」
伯爵は小さくなっていくhungrysunの背中を見送ると、再び校舎に背を預けて次の人間を待った。
【残り19人】
17:右は考えた。
一体これは何だろうか、と。
分からなかったので、右は取り敢えずそれを自分に対して使ってみた。
『どうやら17:右は村人のようだ』
「成る程」
右は納得し、それを自分のバックパックへと仕舞う。
それは、人狼チェッカーというアイテムだった。瞳の形をした紫色の水晶っぽい手の平大の物体で、説明書には『瞳を首輪に向けると占い師気分が味わえます』と簡潔に書かれている。
「しかし、どうすりゃいんだろ」
右は腹が減っていたので保存食の乾パンを出すと、もぐもぐと食べながら校舎を出る。
「男爵さんか伯爵さんがいれば、色々と教えてくれそうなんだけど」
辺りを見回しても、人の気配はない。
「参ったなぁ」
右は食べ終えた乾パンの袋をバックパックへ入れ、適当な方向に歩き出す。
「本当、どうすりゃいいんだろ」
右は人がいそうな方向を何となくこっちだと決め、そっちへ歩いて行った。
「男爵さーん! いませんかー!」
その声は空しくこだまする。
「本当、どうすりゃいいんだろ」
そう言った時。不意にピンポンパンポーンという音が鳴り響く。
「あー、学校で聞いたなこれ。懐かしい」
『15:humaが死亡しました。残り、18人です』
「マジで!?」
右は驚いた。自分より遙かに逞しそうなhumaさんが死ぬなんて、と。
「ああもう、どうするかなあ」
右はそう言いながら、保存食の乾パンをもう一袋開けた。
【残り18人】
18:有理は走った。
既にやる気の奴がいる。それが分かったからだ。
humaさんを殺したのは多分人狼だろう。そう考えたから有理は走った。
走って走って走ったところで、男に会った。
「おや」
男はボウガンを右手に持ち、学ランの胸ポケットにそれと分かるよう村人カードを貼り付けている。
「有理は村人?」
09:taraは、にこにことしながら、油断無くボウガンを有理に向けて問う。
「……はい」
「見せて。ああ、ゆっくりね」
有理は言われた通り、ゆっくりとした動作で村人カードを取り出す。
「ああよかった。やっぱり私は運がいいな」
taraはボウガンを下ろすと、左手でおいでおいでをする。
有理は行くか逃げるか考えた後、taraへと近付いた。
「有理の武器は何?」
「……これです」
バックパックから取り出されたのは、給食用のフォークだった。
「あはは。それじゃ自分の身も守れないよね。私と一緒に行動した方がいいんじゃないかな」
「……そうですね」
「うん、それがいい。それじゃ行こっか」
「……どこにです?」
有理が気付かれないよう、ボウガンに視線を向ける。トリガーに人差し指がかかっており、それはいつでも発射出来るように思えた。
「近くに小屋があるんだ。休んだりするのにいいんじゃないかな。疲れてるだろう?」
「……はい」
「行こう」
taraは微笑み、ついてくるよう促す。
有理はこくんと頷くと、taraの視線を受けながら歩き出した。
【残り18人】
「yorozuyaさんは人狼ですよね?」
「いいえ、違います」
20:yorozuyaが村人カードを出すと、19:euroはディス・マシンガンの銃口を下ろす。
「ああ良かった、俺はyorozuyaさんを信じてましたよ」
「嘘ばっかり」
浴びせられる冷ややかな視線を、euroは好青年笑いで受け流す。大学で擬態して行く為に身につけられた、誰にでも好印象を与える笑みだ。
「取り敢えず、射線が確保出来なさそうなところまで走りましょうか」
「そうですね」
そう言って、二人は走り出す。
しばらく走ると、いい感じに視界が悪く、芝生が生えた場所を見つけたのでそこでこれからのことを話すことにした。
「何だか大変なことになりましたね」
「そうですね」
「セーラー服姿のyorozu」
「殴りますよ?」
「冗談です」
euroはバックパックから水筒を出すと、水分を補給する。
「huma君、死んじゃいましたね」
「会ったことあるんですか?」
「いや、今回初めて会いましたけど」
「そうですか」
蓋を閉め、バックパックへ水筒を仕舞うeuro。
「えーっと」
「それ」
yorozuyaは、euroの持つディス・マシンガンを指す。
「見せて貰っていいですか?」
「ああ、いいですよ」
村人が村人を殺しても意味がないと思ったのか、euroは無警戒にそれを渡した。
「結構重いですね」
「女の人が持ち歩くには向きませんね」
「これを持って、あれだけ走れるんですか」
「バスケやってましたし。まあ、もしそれをyorozuyaさんが持ち逃げしようとしても、走って追いつくぐらいは出来るんじゃないかな」
「そうですか」
yorozuyaは片手にディス・マシンガンを携えたまま、バックパックから一枚のカードを取り出す。
「あの、これ」
「げ」
そのカードには、人狼、と書かれていた。
【残り18人】
「いやー、マサカsnoweさんと合流出来るなんて」
「何でAICEさん、芋ジャージなんです? セーラー服じゃなくて」
01:AICEと08:snoweは和やかに家庭科室で談笑していた。
机の上にはクッキーとティーカップが二つ載っている。
「こう、正直自分でも無いなと思ったんで、更衣室で見つけたんで着替えました」
「成る程。似合ってますよAICEさん」
「snoweさんそれ褒めてませんよね」
「いや、えーっと。何となく言っただけです」
「そうですか、何となくですか。snoweさんは白いなあ」
二人は和やかに喋りながら、クッキー食べ食べ紅茶を飲む。
「それにしても、何でsnoweさんはここに?」
「普通、みんな急いで校舎から離れようとしますよね。だったら逆に、しばらく校舎で身を隠す方が安全だと思ったんですよ」
「ナルホド」
「AICEさんはどうして校舎に?」
「正直この格好はないので、何か着替えないかなーと探して見つけて着替え終わったら、丁度snoweさんと鉢合わせしたって言う」
「大丈夫、提督さんよりは似合ってましたよ、制服」
「あれはあれで凄く似合ってると言うか何と言うか、snoweさんは白いなあ」
AICEは乾いた笑いを誤魔化すよう、紅茶を飲む。
「しかし、ここで隠れている内に上手いこと終わらないかな」
「流石にそれは都合がよすぎるでしょう。まあ人数減ったらアナウンスがあるみたいなんで、残り8人とかになったら動き出さないと不味いと思いますよ」
「逆に言うなら、残り8人ぐらいになるまでは隠れていても大丈夫ですよね」
「まあウン、そうだけど。と言うかsnoweさん、humaさんが殺されたって言うのによくそんなクッキー食べられますね」
「甘い物は別腹ですから。と言うか、AICEさんも結構食べてるじゃないですか」
「いやマア、別にhumaさんを忍んでクッキーを食べないでいても、それでhumaさんが浮かばれるかと言えば別にそんなことはねえよなと言うか」
「AICEさんは白いですね」
「snoweさんは白いなあ」
こうして、家庭科室では平和なお茶会が続いていた。
【残り18人】
02:綾乃は一人、森を行く。
信じられるものが誰もいないからだ。
左手にはバックパックを持ち、右手には怪電波銃を携え。
「……これ、射程距離とかどんなもんなんだろ」
『20mぐらいかな』
「あ、どうも」
綾乃は心臓を押さえながら、お礼の言葉をどうにか口に出す。
「そっかー、20mかー。……そしてこれ、無線機能とかついてたんだ」
『じゃないと、変なことしようとしてた時爆破出来ないじゃん』
「……naviaさんこえー」
『こわくねー』
いやいや怖いですから。綾乃は心の中でそう呟きながら歩く。
「もしかして、humaさんは変なことしたんですか?」
返事はない。他の人の状況は教えられない決まりになっているのか、そもそも武器に関してのことだけ答えることになってるのだろうか。
ぼんやりと考えながら歩いていると小川を見つけたので、近くに腰を下ろし休む。
「さて、どうしようかな」
ポケットから自分のカードを取り出して、綾乃は一人ごちる。
「あの人なら、やるしかないことはやるんだろうな、きっと」
脳裏に浮かぶのは、死を畏れずに手を挙げたその姿。
「いや、むしろ死なないことが分かってたから手を挙げた――?」
バックパックをクッション代わりに、もふもふしながら綾乃は考える。
「何にせよ、やらなきゃいけないから、やるしかないか」
溜息。そして、怪電波銃を見つめる。
「まさか、精神耐性があるエイリアンとかいないよね?」
『いないよ』
「……ありがとうございます」
綾乃は鼓動を早める心臓に手をあてながら、何とかそう言った。
「やっぱり武器に関することだけなのかな」
その答えは、首輪からは返ってこなかった。
【残り18人】
「あ、andanteさーんっ」
「にゃァァァアア!!!!」
16:まなに抱きしめられ、圧死しそうになるandante。
「……よかったな、andante」
「よくにゃァアアアアアア死ぬ、死ぬって! 死ぬにゃ!」
「ごめんなさい、嬉しかったから……」
まなはandanteを抱きしめる手を緩めると、滲んだ涙をandanteで拭く。
「俺はタオルじゃないのにゃ……」
「私、どうしたらいいか分からなくて。寂しくて。渡された物も物騒だし……」
「とりあえず、えーっと、まな君はどうして俺達が見つけられたんだ。そして俺達が人狼二人組だとは思わなかったのか。それ以前にまな君は村人なのか」
geminiは感動の再会をする二人を冷ややかに見つめながら、矢継ぎ早に質問をする。
「あ、geminiさんですか? はい、これ」
不用心に放り投げられたバックパックをキャッチすると、中を改めた。
出てきたのは村人カードと、コルトパイソンと呼ばれるリボルバー式の銃。
「……えーっと」
geminiはどうしたもんか、とずしりと重いそれを見ながら考える。
その時。
『09:taraが死亡しました。残り、17人です』
そんなアナウンスが聞こえて来る。まなは体を強張らせた。
「だから、死ぬにゃー! 強いにゃー! 人間と同じ力で抱きしめ、あっ、漏れる! 漏れる何かがにゃアアアアアアアアアア」
「ご、ごめんなさい」
まなが抱きしめを解くと、andanteはぜーはーと肩で息をする。
「病魔が死んだか」
「まあ、人狼はとにかく村人を殺さにゃいと生き延びられないからにゃー。手当たり次第なんだろうにゃー」
「たららんが……」
まなはtaraのことを思いだして涙し、それをandanteで拭った。
「だから俺はタオルじゃないにゃ! やめろにゃ!」
geminiはコルトパイソンのシリンダーをカチリ、カチリと回しながら言う。
「まあ、普通に考えたら人狼がやったんだろうけど」
「……にゃ?」
「まあ、普通に考えておこうか」
そう言って、まなにコルトパイソンを差し出す。
「……そんなもの、私使えないよ。geminiさんが」
「いや、俺だから使えないんだ。これがオートマチックだったら良かったんだけどね」
geminiは苦笑し、自嘲気味に言う。
「君達、俺がリボルバー撃って弾出ると思ってるの?」
「にゃ。……そう言えば、そんにゃ話もあったにゃんね」
「俺が使っても弾が出ないし、andanteは猫の手だから使えない。だからこれは、まな君が持つべきやろ。元々、まな君のだし」
「そんな、まさかgeminiさんでも……」
geminiはコルトパイソンの撃鉄を慣れた仕草で起こすと、大木に向かって躊躇わず引き金を引いた。
カチリ。
「……多分、この世界は俺への悪意で出来てると思う。andanteが猫ということは、俺がリボルバー使って弾が出る訳がないんや」
「gemini……」
それを見て、andanteはほろりと涙を流す。
「そういう訳で、まな君が持っとき」
「……はい」
「まあ、どうにか村人が三人集まった。これは、いいことやで」
「そうなんですか?」
「そうにゃのか?」
geminiは頭を押さえ、andanteを持つまなの方を向いて喋り始める。
「要するに、人狼は最大で3だから、四人以上の集団があれば――」
【残り17人】
遠くで銃声がした、
『09:taraが死亡しました。残り、17人です』
アナウンスが流れる。
12:なめねこは考えた。普通、銃声がした方向から遠ざかるべきだ。
しかし、ヒル魔さんならどうするか。
普通、銃声がしたら逃げる。しかし、ヒル魔さんならその逆を行く。
そう思い、なめねこは歩き出す。銃声のした方へと。
走ったりはせず、ゆっくりと慎重に、周りに気を付けて歩き始めた。
しばらく歩くと小屋が見えた。
扉は開いていて、そこから硝煙と血の匂いが流れて来る。
なめねこは別に硝煙の匂いを嗅いだことは無かったが、それでもそれが硝煙の匂いだと分かった。硫黄の匂いを卵の腐った匂いと表現する人がいるが、腐った卵の匂いを実際に嗅いだことのない人間も硫黄の匂いをそう表現するのと似たようなものだろう。
なめねこは、おっと思考が逸れた、と自分を戒め、慎重に小屋に入る。
「これは……」
そこには、土手っ腹に風穴を空けた09:taraの死体があった。彼の足下にはボウガンが乱雑に置かれていて、その手にはカードが握らされている。
「あのー」
不意に掛けられた声に驚き、なめねこは身構え振り向く。
そこには紫色の怪しい瞳型オブジェクトを持った、17:右の姿があった。
「なめねこさん、ですよね」
「あ、はい」
丁寧な言葉でそう聞かれ、思わず敬語で返してしまう。
「俺が右です、初めまして」
「あ、はい。コロッサスとかすじにくとかなめねこです」
軽くおじぎをして来るので、なめねこも会釈を返す。
「あ、俺、村人です。ほら」
右は手に持ったそれを自分の首輪へと向ける。
『どうやら17:右は村人のようだ』
紫色のオブジェクトから、そんな声が聞こえた。
「えっと、それなんですか?」
「人狼チェッカーらしいです。あ、そうか。カードの方がいいのか」
右はバックパックから村人カードを取り出すと、それをなめねこへと見せる。
なめねこもポケットからカードを取り出し、それを右へと見せた。
「ああ良かった、なめねこさんが人狼だったらどうしようかと」
「……村人だと賭けてるなら、普通誤射を恐れてまずカードを見せますよね」
「ああ、そうか。そうした方がいいのか」
「そしてそれ、何です?」
「人狼チェッカーですか? なんかこれ、首輪に向けてスイッチを押すとその人が人狼かどうか分かるらしいです」
「……何で、話しかける前にそれを使わなかったんですか?」
「ああそうか、そうすれば良かったんだ」
なめねこは微妙な顔を右へと向ける。占い師が無能な村の村人は苦労するからだ。
「それで、何があったんです?」
「ああ、俺も今来たばかりで良く分からないんですけど、taraさんが死んでます」
「うわー」
右はなめねこに近付くと、その影からtaraの死体を見て嫌そうな顔をする。
「何か持ってますね」
「カード、のようですが」
なめねこはtaraの手を取り、持ってるカードの内容を確かめる。
そこには人狼、と書かれていた。
「うお」
「ああ、taraさんが人狼で、村人を殺そうとして返り討ちになったのかな」
右は足下に落ちているボウガンを見て言う。
「いや、これはもっと最悪なことだと思う」
「そうなんですか?」
「人狼は死んだ。そう思わせたい人狼の作戦だと考える方が妥当です」
「え、そうなの?」
「右さん、ちょっとそれ、貸して下さい」
「あ、いいですよ」
なめねこは人狼チェッカーを受け取り、taraの首輪に向けてスイッチを押す。
『このアイテムは、17:右専用です』
「なんだと……」
なめねこは驚愕した。自分の想像通りなら、これは最悪の事態だ。
最悪の事態を打開出来るかも知れない最終兵器を手にしたと思ったら、まさかそれを使えるのは右さんしかいないとは。占い師が無能だと、村人は苦労を強いられる。
「taraさんをチェックすればいいんですね?」
右はなめねこから人狼チェッカーを返して貰うと、taraの首輪に向けてそれを使う。
『どうやら09:taraは村人のようだ』
そんな音声が人狼チェッカーから流れる。
「やっぱり……」
「あれ、これ、壊れてるのかな」
右は人狼チェッカーを壁にがんがんと打ち付けた。
「やめてぇー! その子は繊細なのよ! そして別に壊れてる訳じゃない!」
「でも、taraさんは人狼だったんですよね?」
「いやいやいや! これは、人狼がtaraさんを殺して、自分のカードとtaraさんのカードを入れ替えたんですよ! 村人には人狼が死んだと見せかけて、自分は村人のフリをする。霊能者乗っ取りのような感じのことが行われたんですってば!」
「ああ、これがこの間やれって言ってた霊能者乗っ取りって奴ですか」
「いや、そうだけど! そうじゃないけど! そうだけど!」
「あれ、そうするとなめねこさんが乗っ取った可能性もありますよね?」
「乗っ取ってたらわざわざそんなこと話さないから! と言うか、普通そんなアイテムあったらまず俺に使いますよね!」
「あ、そうか。じゃあ使うね」
『どうやら12:なめねこは村人のようだ』
「おお、そうか」
「ええ、そうなんですよ右さん。そして、右さんは自分でも思っているより物凄く重要な立場にあるんです」
「え、なんで?」
「えーっと、その人狼チェッカーが右さん専用だからです。言わば、右さんは占い師なんですよ」
「ああ、そうか」
本当に分かってるのかこいつ。
なめねこは訝しみながら右を見る。
「取り敢えず、これからは一緒に行動しましょう。俺が狩人となり、右さんを守ります」
「おお、それは頼もしい」
なめねこは落ちていたボウガンを拾うと、それをチェックする。
どこも壊れておらず、普通に使えそうだ。
人狼は銃器を持っているようだが、これぐらいの武器なら使いようによっては対抗出来るはずだ。
「そういや、なめねこさんはどんな武器が支給されたんです?」
「トンカチです。周りが人狼チェッカーとかボウガンとか銃とか支給されてる中、トンカチです」
「あれ、もしかして俺の武器っていいものだったんですか?」
「……ええ、俺のトンカチより遙かに」
なめねこは説明するのを諦めると、taraの持っている人狼カードをどうするか考えて、そのままにすることに決めて小屋を出た。
「でも、なめねこさんのトンカチを使えば、俺の人狼チェッカーぐらい簡単に壊せそうですよ」
「お願いですから壊さないで下さい」
「いや、そういうことじゃなくて。使い方次第では、俺の武器よりなめねこさんの武器の方が強いっていうことを言いたくて」
「……まあ、大丈夫。俺に全て任せて、右さんはついて来て下さい」
「はい、分かりました」
不安だな。不安しかないな。
こんな時だからこそ、ヒル魔さんは虚勢を張る。
なめねこはそう考えると、右と一緒に歩き出した。
【残り17人】
04:一真はアイスピックで氷を削っていた。
ガッシュ、ガッシュ、ガッシュ。
それが手頃なサイズになるとグラスに移し、そこへ酒を注いでいく。
「悪いな」
「いえ」
10:男爵はそれを受け取ると、ちびちびと舐めるように味わい始める。
「……」
「……」
そこは、寂れた酒場だった。
酒があり、電気や水道も通っている。
拠点に選ぶには十分過ぎる好条件の場所だ。
「……」
「……」
会話もなく、手持ち無沙汰な一真はアイスピックでガッシュガッシュとロックアイスを削り始める。
「……」
「……」
カラン、とグラスの中で氷が鳴った。
味わいのある音だが、学ランを着た中学生と三十路の男しかいない酒場では味わいも何もない。
ただ、そこには沈黙があった。
見る者にとっては重い、だとか気不味い、だとかの形容詞がつくであろう。
「……飲まないのか?」
「ああ、はい。ウィスキーボンボンすら無理なんで」
「……そうか」
「……」
「……」
男爵はちびちびと酒を舐めながら、チーズたらを食べる。
「……」
「……」
酒場には家電類の稼働音と、一真が氷を削る音と、グラスと氷がぶつかる音だけ。
「男爵さんは」
「うん?」
「武器は、何を支給されたんですか?」
「原子力空母と搭載機および乗員一式」
「……えーっと、それは凄いですね」
「凄いは凄いが、現在日本海上を漂ってるらしい。ここは山の中で、連絡手段は何もない」
「……つまり、何もないのと同じってことですか?」
「そうでなきゃ、此処に来て火炎瓶なんか作ってないな」
男爵が視線を向けた先には、九十度以上の酒を選りすぐって作った火炎瓶が幾つも置いてあった。
「男爵さんは、人狼が来たらそれで戦うんですよね」
「どうするかな。メンドイ。一真、お前が戦え」
「ええ……?」
そう言われて、一真は困惑する。
「だって、相手は伯爵だぞ。面倒だろ」
「え? 伯爵さんが人狼なんですか?」
「名簿を良く見てみろ」
「あれ、名簿なんてありましたか?」
「教室に置いてあっただろ。ほら」
一真は、差し出されたそれを見る。
「良く見てみろ。こんなもん、humaを殺すのは伯爵しかいないだろ」
「そうですか……? 一応AICEさんからはんぐりさんまで可能性はあると思いますが」
「いや、どう考えても伯爵だろ。番号近いし。こんなもん伯爵がやったに決まってる」
「そうですか……」
男爵さんがそう言うのなら、そうなのかも知れない。
伯爵さんには気を付けよう。一真はそう思い、アイスピックで氷を砕く。
「おい一真、ちょっと伯爵殺して来てくれ」
「ええ……?」
「火炎瓶を投げるなり、アイスピックで一突きするなり、方法は何でもいい」
「でも、村人だったらどうするんですか」
「奴が人狼なら、humaから奪った村人カードを持ってるはずだ。殺してからゆっくりと確かめればいい」
「いや、伯爵さんが村人でも、村人カードは出て来ますよね」
「そんなのは些細なことだ。と言うかこんなもん、伯爵が人狼じゃない訳ないだろ。humaが死んでるんだから」
「はあ……」
そして話すことがなくなったのか、再び酒場は静かな音に包まれた。
【残り17人】
「しかし、こういう格好をしてると、若返った気がしますな」
「そうですか。正直私は、余りそういう趣味はないのですが」
11:提督と05:xiwongが並んで歩いていた。
提督の手には猟銃、xiwongさんの手にはポンプ式のショットガンが握られている。
「それにしてもまさか、こんなことになるなんて。世の中は不思議なことでいっぱいですな」
「そうですね。私もまさか、こんな悪趣味な催しに巻き込まれるとは思いませんでした」
二人は慎重に長銃を構え、森の中を歩いて行く。
ふと、視界に光る何かが入った。
「今、何か……」
「誰かいますね」
xiwongは提督を手で制して、軽く地面に伏せる。
「二人、人がいるのかな」
「euroさまと、yorozuyaさまですね。二人とも人狼、と言う確率は低いと思います。カードを出して、接触してみましょうか」
「そうですな」
提督とxiwongは村人と書かれたカードを取り出すと、慎重に二人へと近付いて行った。
【残り17人】
「歩けども、歩けども、人の姿はなし。運がいいのか、悪いのか」
「geminiの運が悪くても、俺の運は普通だから大丈夫にゃ」
「私も、運はいい方ー」
geminiと、andanteを抱いたまなは森の中を歩いていた。
何にせよ、誰かと接触しないことには始まらないからだ。
「ところでまな君は、どうして俺達の居場所が分かったの?」
「ああ、えっと。何だか美味しそうな匂いがしたんです」
「……これがgeminiが良く初回襲撃される秘密か」
「な・め・ん・な」
geminiは、フラワーロックのような笑顔を一人と一匹に向ける。
「しかし、まなは実際運がいいにゃ。俺達と会えたんだから」
「うん。andanteさん、大好きー」
「いやだからちょっと強い強い強いっておうふゲフッ」
「割と本気でandante死にそうだから、緩めておやり」
「は~い」
そう返事をすると、まなはandanteのふわふわボディに頬擦りをする。
「ああっ、俺の自慢の毛並みがー。にゃー」
「えへへ」
その光景を見て、geminiは優しい笑みを漏らす。
その時。
「げはぁっ」
不意にgeminiが吹っ飛ぶようにして倒れた。
「geminiィーーーッ!!!」
「geminiさんっ!!」
一人と一匹は、慌ててgeminiに駆け寄る。
「敵にゃ!? 人狼にゃ!? どこにゃ!? せめてそれを伝えてから死んでくれにゃ!」
「geminiさんっ、geminiさんっ!」
andanteは切羽詰まった顔で、まなは泣きそうな顔で倒れたgeminiを揺さぶる。
「だ、大丈夫や。防弾チョッキのお陰で助かった。多分、無ければ普通に死んでた」
「一体何があったんだ、gemini! 言え! 言うんにゃ!」
「大丈夫ですか!? 怪我ないですか!? 本当に大丈夫ですか? 頭とか打ってませんか!?」
geminiは一人と一匹を宥めるよう、落ち着いた声色で言う。
「大丈夫。これは恐らく……流れ弾や」
そう言った瞬間、アナウンスが聞こえてくる。
『11:提督、19:euro、20:yorozuyaが死亡しました。残り、14人です』
「にゃんだって!?」
「多分、その戦闘の流れ弾だろうな。と言うか、どういう確率だろうなこれ。本当に悪意に満ちてるな、この世界」
「……そんな。人狼は、やる気なんですね」
まなは、悲しそうに目を伏せて呟く。
「そうだね。生きる為に必死なんだろう。だからまな君、それが敵なら……躊躇わずに撃て」
「…………。はい」
「と言うか、geminiが戦えにゃ」
「だから、俺は武器がないんだよ! リボルバーは弾出ないんだよ!」
「情けない奴にゃ」
「猫のandanteに言われたくねぇ!!!」
geminiとandanteのじゃれ合いを見て、まなはくすりと笑った。
【残り14人】
『11:提督、19:euro、20:yorozuyaが死亡しました。残り、14人です』
かたん。ティーカップが倒れ、琥珀色の液体が机の上に広がった。
「あ、え、えーっと、snoweさん」
「……現実味が、沸きませんね」
「そ、そうですね。と言うかそもそも何かコスプレ喫茶みたいなことになってますね、と言うかそうじゃなくイヤつまりその」
「大丈夫です」
snoweはそう言って微笑む。
「結局、一番大事なのは自分の身ですから」
「あ、いや、エートsnoweさん」
「なんですか、AICEさん」
AICEは姿勢を正し、言う。
「割と本気で、snoweさんは私が守りますから」
「それなら、私はAICEさんを守ります」
「あ、ハイ。よろしくお願いします」
それでもお茶会は続く。
【残り14人】
『11:提督、19:euro、20:yorozuyaが死亡しました。残り、14人です』
「やべえー! 人狼が派手にやってやがる!」
なめねこはそう言うと、器用にボウガンを持ったまま頭を抱えた。
「大丈夫ですよ、なめねこさん。きっと今ので人狼が一匹ぐらい減ってますって」
「減ってなかったらどうするんだ! と言うか、右さんは危機感が足りませんよね!」
「よく言われます」
「いや、言われます、じゃなくて」
なめねこはがくりと膝をつく。
「どうしたんですかなめねこさん、歩き通しで疲れましたか?」
「いや、それは大丈夫ですけど。まあ、いいでしょう。全て狩人の私が何とかしてみせましょう」
「おお、頼もしい。ところでなめねこさん、思ったんですが」
「何でしょう」
右は、自信満々に言った。
「これが人狼を模してるゲームなら、色々な役職が存在するかも知れない」
「まあ、その可能性はありますね」
「そこで考えたんだけど、実は俺、狩人かも知れない!」
「いや、どう考えても右さんは占い師ですから! 占い師ですから! と言うか、さっきそれ言いましたよね!? なめねこ言いました! なめねこ言っちゃった! 言っちゃった!!」
「なめねこさん、キャラが壊れてますよ」
「フフフ、この私ともあろうものが……」
なめねこは水筒を取り出すと、水を一口飲んで息を吐き出す。
「とにかく、今は情報を集めるのが先決です。どうにか隠れながら、人狼全員の情報が欲しい」
「人狼を全員倒さない限り、俺達生きて帰れないもんね」
「そういうことです。まず大事なのは、情報。二人組とか三人組とかでも、今となっては安心出来ません」
「え、何で?」
「いやだから、人狼が村人になりすまして混ざってると言ったじゃないですか」
「ああ、そうだった」
なめねこは、不安になる。
不安になったが、やるしかない。
占い師は彼だけなのだ。
多分、彼が死んだら人狼の天下がやって来る。
いや、本当に人狼ゲームが始まってしまう。村人が村人を殺し合う。
それだけは、避けたかった。
そんなことになったら、人狼の方が有利に決まっているのだから。
「とにかく、今は誰かをこっそり見つけましょう。早くしないと、人数が六人とかになって私達の首輪が爆発するかも知れない」
「え、何で?」
「いや……村人の数が人狼以下になったら、村人の首輪は全部爆発しますよね」
「……おお」
「おお、じゃねぇえええええええ!!!!!!!!」
「落ち着いて、なめねこさん」
「はあ、はあ、はあ、はあ……」
二人の旅は続く。
河原で一人、ぱしゃぱしゃと手を洗う少女が一人。
「よう」
男はくるくるとカードを弄びながら、少女に声を掛けた。
「……伯爵さん……?」
「元気か?」
「洗っても、洗っても……落ちないんです」
少女の制服は血で彩られていて、何かがあったことは誰の目にも明らかだ。
「大丈夫、もう十分綺麗だよ。もう何もついてない」
「でも……落ちないんです」
「そりゃ、記憶はそう簡単に無くならない。だからこそ、それでいいんだよ。行くぞ」
「何処へ……ですか?」
少女は虚ろな瞳で、もう夕暮れだと言うのにサングラスを掛けた男を見上げる。
「学校へ。そこには着替えぐらいあるだろう。その格好は、少々警戒心を煽りすぎる」
ほら、と言うように手を差し伸べると、少女はそれを掴んで立ち上がる。
「アイムシンギン、ザレィーン♪」
男は少女の手を引きながら、晴れているのに雨の日の歌を唄いながら歩き始めた。
それは神の悪戯か、悪魔の導きか。
夕暮れの森の中、二人は出会ってしまった。
「は、はぐりん?」
「あ、あやのん?」
02:綾乃と14:hungryusunは、お互いのことをそんな名前で呼んだ。
「何であやのん、学ラン着てるの?」
「……誰かの悪意だよ。はぐりんだって、どうして今更セーラー服とか着てるの?」
「……」
「……」
無意識に、お互いの傷を付き合ってしまう二人。
油断無く銃を構えながら、二人は出方を探り合う。
「はぐりんは村人だよね?」
「そういうあやのんは?」
「えーっと、カード見せてくれるかな」
「あやのんが見せてくれたら見せるよ」
「……」
「……」
二人に緊張が走り、冷や汗が肌を伝う。
「それじゃあ、一緒に出すってのはどう?」
「一緒に弾が出そうだから怖い」
「うん、私もそう思った」
「ですよね」
「……」
「……」
気不味い沈黙。
このままでは、共倒れも有り得る。
綾乃はそう考えた。
「じゃあ、私が先にカードを見せるから。それでどう? ね」
「……それじゃあ、とりあえず見せて下さい」
「はい」
綾乃はポケットから村人と書かれたカードを取り出すと、それを見せる。
「でも、人狼はhumaさんを殺して村人カードを既に奪ってると思います」
「……いや、それは私も考えたけど」
「だから、あやのんは信用出来ません。むしろ誰も信用出来ません。信じられるのは自分だけです」
「私は、今の反応からはぐりんが村人だってことは分かったよ……」
「そうやって油断させて、taraさんや提督さん、xiwongさんやeuroさんを殺した可能性もありますよね?」
「その推理は間違ってるよ」
「……いいんです、私はポンで!」
「開き直った!?」
hungrysunは、身を翻して走り出す。
「ああ、もう……仕方無いな」
そして辺りに銃声が響いた。
酒場で、男爵は酒を飲んでいた。
一真は、あり合わせの材料で夕食を作ろうとしている。
「……焼き肉のタレをご飯にかけたらむっちゃ美味いかと思ってやってみたんですけど、不味いです」
「……。飯を足して胡椒を振って、水を加えて中華鍋で炒めろ。油の代わりにマヨネーズを敷いて」
「分かりました」
男爵は呼吸をするように一真を顎で使い、ちびちびと酒を舐める。
「さっき、まとめて三人死んだだろ」
「あ、はい」
中華鍋を振る一真に、男爵は話しかける。
「マシンガンだとか、ショットガンとか、その手の大物を持つ奴には気を付けろ。まず人狼と思って間違いない」
「その人が、三人を殺したんですか?」
「乱戦の末、そうなった可能性もあるが……相打ちとかも有り得るが。普通に考えたら、人狼はそういう殺戮兵器を持ってると思って間違いない」
「ほむ」
一真はじゃーじゃーと具無しチャーハンを炒め、皿に盛る。
「出来ました」
「ご苦労」
それを肴に、男爵はちびちびと酒を舐める。
「おお、むっちゃ美味い」
「まあまあだ」
一真はそれを食べながら、カクテル用のオレンジジュースを飲む。
そして皿が空になる頃、アナウンスが入った。
『14:hungrysunが死亡しました。残り、13人です』
「……うわぁ」
「一人は伯爵で、一人はマシンガンかショットガンを持った奴。最後の一人は普通に短銃を持った奴かな。人狼は大体絞れた」
「それなら、そろそろ動きますか? このまま何もしないと、俺達の首輪も爆発する可能性が」
「そうだな」
男爵は考えるようにして、一気にグラスの中身を空にする。
「……メンドイ」
「……ですよねー」
男爵は村人と印刷されている上に、油性マジックで狩人と上書きされた自分のカードを見ながら氷を噛み砕いた。
やがて日が落ち、夜になった。
【残り13人】
「夜だにゃー。暇にゃー」
naviaは校長室のふかふかの椅子に座って、伸びをする。
「まあ、このペースなら明日か明後日には終わるかにゃー。……お?」
光点が、ある場所へと集まり始めていた。その数は七つ。
「これは、案外今日中に終わるかもにゃー」
naviaは、愉しそうに機器を弄り始めた。
【残り13人】
「学校とは、盲点だったにゃんね」
「宿直室とか保健室とか、色々あるやろ」
「うん、言われてみればそうかも」
gemini、まな、andanteの二人と一匹は、夜の闇に紛れて学校に戻って来ていた。
足音を立てないよう、そろりそろりと保健室へ忍び込む。
「ふかふかベッドにゃー!」
忍び込むまではそろりそろりとしていたが、保健室に入るなりandanteはいきなりベッドにダイブした。
「ぼうんぼうんにゃー! にゃー!」
ベッドの上でぼふんぼふんと跳ねる。
「いや、保健室のベッドって、割と固い方やと思うで」
「わーい、ベッドベッドー」
まなもそれに続いて、andanteの上にダイブする。
「オブバッ! ……きゅう、にゃー……」
ぐったりと伸びるandante。
「まあ、あんまり騒ぐのはよくないで。いつ、人狼が襲ってくるかも分からんし」
「でも、まさかスタート地点に戻って来てる人なんていないよね?」
「にゃー。いないと思うにゃー」
andanteはすぐに復活し、ごろごろごろごろごろごろごろしだす。気持ち良さそうだ。
「まあ、一応電気は消したままで。俺、校舎を見回ってくるから」
「いってらっしゃーい」
「防弾チョッキ分働けにゃ! 何かあったら叫びながら囮になって逃げろにゃ! 俺達はその間に逃げ出すからにゃっ」
「あいよ」
geminiは苦笑すると、保健室を出て行った。
【残り13人】
「まあ、スタート地点に戻ってる奴は他にも居るだろうな、とは思ってはいたが」
伯爵はクイ、とサングラスのずれを直して紅茶に口をつける。
「まさか最初から校舎から出てない連中がいるとは。灯台最も暗し作戦か」
「ハハハ、何か成り行きでそんなことに」
伯爵、有理、AICE、snoweの四人は家庭科室で紅茶を飲んでいた。
「ところで伯爵さん、人狼は誰だと思いますか?」
「一人はhumaだった」
snoweの質問に、伯爵は涼しい顔で答える。
偽りの和やかさが、一気に凍り付くのを三人は感じていた。
「俺は村人だぜ! とカード見せたらじゃあ死ね! と突っ込んできたので返り討ちにした。そうしたら奴のバックパックからこれが出てきたな」
伯爵は、ゆっくりとした動作で人狼と書かれたカードを放る。
「いや、マサカhumaさんが……」
「まあ、人狼は後二匹だ。何か既に結構人が死んでるから、もしかしたら残り一匹かも知れないな」
「そうだったんですか。……humaさんが村人で、伯爵さんは人狼で、伯爵さんはhumaさんの村人カードを奪ったということも当然考えられますよね?」
snoweは、油断なく聞く。テーブルの下には、いつでも取り出せるようジュラルミンシールドが用意してあった。
「俺が人狼なら、とっくに有理を殺してるんじゃないか。と言うか、のんびりお茶なんて飲んでないよね。もし俺が人狼なら、最低でも六人まで人数を減らさなきゃいけない。最悪の場合、自分を含めて二人までだな。とても、誰かを生かす余裕なんてないと思うんだが」
「有理さんが人狼で、手を組んでいるのかも知れません」
「はっはっは、まさか。俺はともかく、有理まで人狼に見えるかい?」
「確かに、伯爵は人狼でもおかしくはないけれど、有理さんはなんかそんな気はしないなーという気もしなくもないようなあるような」
AICEは、乾いた笑いをしながら言う。
「まあ、どうせ俺が信用されないであろうことは解ってたからいいけど。二人が村人だって解って良かったよ。後は男爵、右、なめねこ、一真、まな、andanteだけかな。俺視点の人狼候補は」
「……? geminiさんや綾乃さん、xiwongさんには会ったんですか?」
「ああ、序盤にちょっとね。多分その三人が人狼って事は無いと思うよ」
「そうですか。どうしてその三人と一緒に行動しなかったんです?」
伯爵は、ぐいっと紅茶を一気にあおってから答える。
「……誰一人として、俺を村人と信用しなかったんだ。信じてくれたのは悲しいかな、有理だけだ。こう、伯爵だからこそ何でもやる、と思われて本気で全然信用されなかった。悲しいよな」
「気持ちは分かる気もします。……それで、他には誰に会いました?」
「ハングリーサンと、死体となったtaraだけかな。ハングリーサンはこう、脱兎の勢いで俺から逃げて行ったよ。ありゃ、間違いなく村人だったな。taraは、何か人狼カード握って死んでたぞ」
「え?」
がたん。snoweが思わずテーブルに乗り出し、紅茶が揺れる。
「多分、人狼がtaraをぶっ殺して、カードを交換したんじゃねーかな。だから正直、村人カードを見せたぐらいで信用しないってのは正しい。人狼は、村人の中に潜伏してる」
「……だったら」
「だからこそ俺は、多くの人間と接触して、そいつが人狼かどうか確かめてる。俺は、人の嘘ぐらい見抜けるからな。隠し事がある奴はすぐに解るんだよ。知ってるだろ?」
snoweもAICEも、何も言えずに伯爵を見る。
この男を、信用していいのかどうか。
「まあ、いいけどよ。此処に篭もってりゃ、俺が人狼を見つけ次第ちゃんと殺しておくから。ああ、俺が死んだという放送が流れたら、後は宜しくな。それまでは、隠れてるだけでいい」
そう言うと、伯爵は立ち上がる。
「あれ伯爵、どこ行くんですか?」
「トイレ」
「あ、行ってらっしゃい」
そして後ろを見せ、無警戒に歩き出す。
「伯爵さん」
それを呼び止めるsnowe。
「ん、何だ?」
「どうして有理が、AICEさんの制服を着ているんですか?」
「あ、言われてみれば」
AICEは、有理の着ているセーラー服をしげしげと眺める。
「更衣室にあったから、拝借したんだが。そうか、AICE野郎のだったか。いや、有理が途中川に落ちてな。此処には、着替えを探す目的で来たんだよ。そうしたら丁度良く制服があったもので、まあ、サイズは少しばかり大きいみたいだったけど着て貰ったんだ」
「……そうですか」
伯爵は家庭科室の扉を開けると、出て行った。
「……ねぇ、有理。今の伯爵さんの話、本当?」
「はい、本当です」
「……うん、そっか。ごめんね、疑って」
「いいえ、こんな状況ですから仕方ありませんよ」
【残り13人】
「にゃー」
「ごろごろー」
「にゃー」
「ごろごろー」
「もふもふにゃー」
「ごろごろー」
一人と一匹はくつろいでいた。
「何か、こうしてると余り綾乃のことを言えないにゃんね」
「そうだにゃー」
「真似するにゃあ」
「にゃー♪」
まなは、andanteを抱きしめてすりすりする。
「……このまま、誰かが人狼を全部倒してくれればいいのにね」
「にゃー。多分世の中そう甘くないにゃ」
「うー」
「唸っても甘くないものは甘くないにゃ」
そんなことを話してた時、保健室のドアが開き、誰か入って来た。
「geminiさんお帰りー」
「あ、gemi……にゃっ!?」
そして銃声が二回響く。
『03:andanteと16:まなが死亡しました。残り、11人です』
人影はバックパックを一つ担ぐと、物言わぬ死体となったまなからコルトパイソンを抜き取り、保健室を後にした。
【残り11人】
「そろそろ動かないと不味いか」
「ですね」
酒場で、相変わらず男爵は酒を飲んでいた。
「今日は眠いから、明日から頑張ろう」
「ですね」
「お邪魔しまーす」
右は、元気良く挨拶しながら扉を開けた。
「右さん危なぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああい!!!!」
なめねこは右にタックルをし、引き倒す。
「な、なんだ?」
「襲撃にしては、何か間抜けすぎる声が聞こえましたが」
そう言いつつ、油断無く一真は武器を取る。
「だから右さん! わざわざそんな、要らない! そんな度胸は! そんな度胸は何も要らない!」
「でもなめねこさん、この間命は投げ捨てるものだって」
「そんな世紀末バスケの話は! 現実に当てはめてはいけない! これはゲームじゃなくて現実なのよ、右さん!」
「そっかー」
入り口から、そんな声が聞こえて来る。
「おい一真、あれ人狼だと思うか?」
「いえ、思いません」
「俺もそう思う」
しばらく待ってると、紫色のオブジェクトを高々と掲げた右と、ボウガンを構えたなめねこが酒場へと入って来た。
「いらっしゃいませ」
「あ、どうも。ほら、右さん」
右は事前の打ち合わせ通り、二人の首輪に向けてスイッチを押した。
『どうやら10:男爵は村人のようだ』
『どうやら04:一真は村人のようだ』
「……なんだそれ?」
「ああ、よかった。二人とも、村人だった」
なめねこは胸を撫で下ろす。
「わーい、仲間仲間」
右は男爵に駆け寄り、隣に座った。
「ええっと、これはですね……」
何故か右のことなのに、なめねこが詳しく説明しだした。
【残り11人】