「あ、andanteさーんっ」
「にゃァァァアア!!!!」
16:まなに抱きしめられ、圧死しそうになるandante。
「……よかったな、andante」
「よくにゃァアアアアアア死ぬ、死ぬって! 死ぬにゃ!」
「ごめんなさい、嬉しかったから……」
まなはandanteを抱きしめる手を緩めると、滲んだ涙をandanteで拭く。
「俺はタオルじゃないのにゃ……」
「私、どうしたらいいか分からなくて。寂しくて。渡された物も物騒だし……」
「とりあえず、えーっと、まな君はどうして俺達が見つけられたんだ。そして俺達が人狼二人組だとは思わなかったのか。それ以前にまな君は村人なのか」
geminiは感動の再会をする二人を冷ややかに見つめながら、矢継ぎ早に質問をする。
「あ、geminiさんですか? はい、これ」
不用心に放り投げられたバックパックをキャッチすると、中を改めた。
出てきたのは村人カードと、コルトパイソンと呼ばれるリボルバー式の銃。
「……えーっと」
geminiはどうしたもんか、とずしりと重いそれを見ながら考える。
その時。
『09:taraが死亡しました。残り、17人です』
そんなアナウンスが聞こえて来る。まなは体を強張らせた。
「だから、死ぬにゃー! 強いにゃー! 人間と同じ力で抱きしめ、あっ、漏れる! 漏れる何かがにゃアアアアアアアアアア」
「ご、ごめんなさい」
まなが抱きしめを解くと、andanteはぜーはーと肩で息をする。
「病魔が死んだか」
「まあ、人狼はとにかく村人を殺さにゃいと生き延びられないからにゃー。手当たり次第なんだろうにゃー」
「たららんが……」
まなはtaraのことを思いだして涙し、それをandanteで拭った。
「だから俺はタオルじゃないにゃ! やめろにゃ!」
geminiはコルトパイソンのシリンダーをカチリ、カチリと回しながら言う。
「まあ、普通に考えたら人狼がやったんだろうけど」
「……にゃ?」
「まあ、普通に考えておこうか」
そう言って、まなにコルトパイソンを差し出す。
「……そんなもの、私使えないよ。geminiさんが」
「いや、俺だから使えないんだ。これがオートマチックだったら良かったんだけどね」
geminiは苦笑し、自嘲気味に言う。
「君達、俺がリボルバー撃って弾出ると思ってるの?」
「にゃ。……そう言えば、そんにゃ話もあったにゃんね」
「俺が使っても弾が出ないし、andanteは猫の手だから使えない。だからこれは、まな君が持つべきやろ。元々、まな君のだし」
「そんな、まさかgeminiさんでも……」
geminiはコルトパイソンの撃鉄を慣れた仕草で起こすと、大木に向かって躊躇わず引き金を引いた。
カチリ。
「……多分、この世界は俺への悪意で出来てると思う。andanteが猫ということは、俺がリボルバー使って弾が出る訳がないんや」
「gemini……」
それを見て、andanteはほろりと涙を流す。
「そういう訳で、まな君が持っとき」
「……はい」
「まあ、どうにか村人が三人集まった。これは、いいことやで」
「そうなんですか?」
「そうにゃのか?」
geminiは頭を押さえ、andanteを持つまなの方を向いて喋り始める。
「要するに、人狼は最大で3だから、四人以上の集団があれば――」
【残り17人】
遠くで銃声がした、
『09:taraが死亡しました。残り、17人です』
アナウンスが流れる。
12:なめねこは考えた。普通、銃声がした方向から遠ざかるべきだ。
しかし、ヒル魔さんならどうするか。
普通、銃声がしたら逃げる。しかし、ヒル魔さんならその逆を行く。
そう思い、なめねこは歩き出す。銃声のした方へと。
走ったりはせず、ゆっくりと慎重に、周りに気を付けて歩き始めた。
しばらく歩くと小屋が見えた。
扉は開いていて、そこから硝煙と血の匂いが流れて来る。
なめねこは別に硝煙の匂いを嗅いだことは無かったが、それでもそれが硝煙の匂いだと分かった。硫黄の匂いを卵の腐った匂いと表現する人がいるが、腐った卵の匂いを実際に嗅いだことのない人間も硫黄の匂いをそう表現するのと似たようなものだろう。
なめねこは、おっと思考が逸れた、と自分を戒め、慎重に小屋に入る。
「これは……」
そこには、土手っ腹に風穴を空けた09:taraの死体があった。彼の足下にはボウガンが乱雑に置かれていて、その手にはカードが握らされている。
「あのー」
不意に掛けられた声に驚き、なめねこは身構え振り向く。
そこには紫色の怪しい瞳型オブジェクトを持った、17:右の姿があった。
「なめねこさん、ですよね」
「あ、はい」
丁寧な言葉でそう聞かれ、思わず敬語で返してしまう。
「俺が右です、初めまして」
「あ、はい。コロッサスとかすじにくとかなめねこです」
軽くおじぎをして来るので、なめねこも会釈を返す。
「あ、俺、村人です。ほら」
右は手に持ったそれを自分の首輪へと向ける。
『どうやら17:右は村人のようだ』
紫色のオブジェクトから、そんな声が聞こえた。
「えっと、それなんですか?」
「人狼チェッカーらしいです。あ、そうか。カードの方がいいのか」
右はバックパックから村人カードを取り出すと、それをなめねこへと見せる。
なめねこもポケットからカードを取り出し、それを右へと見せた。
「ああ良かった、なめねこさんが人狼だったらどうしようかと」
「……村人だと賭けてるなら、普通誤射を恐れてまずカードを見せますよね」
「ああ、そうか。そうした方がいいのか」
「そしてそれ、何です?」
「人狼チェッカーですか? なんかこれ、首輪に向けてスイッチを押すとその人が人狼かどうか分かるらしいです」
「……何で、話しかける前にそれを使わなかったんですか?」
「ああそうか、そうすれば良かったんだ」
なめねこは微妙な顔を右へと向ける。占い師が無能な村の村人は苦労するからだ。
「それで、何があったんです?」
「ああ、俺も今来たばかりで良く分からないんですけど、taraさんが死んでます」
「うわー」
右はなめねこに近付くと、その影からtaraの死体を見て嫌そうな顔をする。
「何か持ってますね」
「カード、のようですが」
なめねこはtaraの手を取り、持ってるカードの内容を確かめる。
そこには人狼、と書かれていた。
「うお」
「ああ、taraさんが人狼で、村人を殺そうとして返り討ちになったのかな」
右は足下に落ちているボウガンを見て言う。
「いや、これはもっと最悪なことだと思う」
「そうなんですか?」
「人狼は死んだ。そう思わせたい人狼の作戦だと考える方が妥当です」
「え、そうなの?」
「右さん、ちょっとそれ、貸して下さい」
「あ、いいですよ」
なめねこは人狼チェッカーを受け取り、taraの首輪に向けてスイッチを押す。
『このアイテムは、17:右専用です』
「なんだと……」
なめねこは驚愕した。自分の想像通りなら、これは最悪の事態だ。
最悪の事態を打開出来るかも知れない最終兵器を手にしたと思ったら、まさかそれを使えるのは右さんしかいないとは。占い師が無能だと、村人は苦労を強いられる。
「taraさんをチェックすればいいんですね?」
右はなめねこから人狼チェッカーを返して貰うと、taraの首輪に向けてそれを使う。
『どうやら09:taraは村人のようだ』
そんな音声が人狼チェッカーから流れる。
「やっぱり……」
「あれ、これ、壊れてるのかな」
右は人狼チェッカーを壁にがんがんと打ち付けた。
「やめてぇー! その子は繊細なのよ! そして別に壊れてる訳じゃない!」
「でも、taraさんは人狼だったんですよね?」
「いやいやいや! これは、人狼がtaraさんを殺して、自分のカードとtaraさんのカードを入れ替えたんですよ! 村人には人狼が死んだと見せかけて、自分は村人のフリをする。霊能者乗っ取りのような感じのことが行われたんですってば!」
「ああ、これがこの間やれって言ってた霊能者乗っ取りって奴ですか」
「いや、そうだけど! そうじゃないけど! そうだけど!」
「あれ、そうするとなめねこさんが乗っ取った可能性もありますよね?」
「乗っ取ってたらわざわざそんなこと話さないから! と言うか、普通そんなアイテムあったらまず俺に使いますよね!」
「あ、そうか。じゃあ使うね」
『どうやら12:なめねこは村人のようだ』
「おお、そうか」
「ええ、そうなんですよ右さん。そして、右さんは自分でも思っているより物凄く重要な立場にあるんです」
「え、なんで?」
「えーっと、その人狼チェッカーが右さん専用だからです。言わば、右さんは占い師なんですよ」
「ああ、そうか」
本当に分かってるのかこいつ。
なめねこは訝しみながら右を見る。
「取り敢えず、これからは一緒に行動しましょう。俺が狩人となり、右さんを守ります」
「おお、それは頼もしい」
なめねこは落ちていたボウガンを拾うと、それをチェックする。
どこも壊れておらず、普通に使えそうだ。
人狼は銃器を持っているようだが、これぐらいの武器なら使いようによっては対抗出来るはずだ。
「そういや、なめねこさんはどんな武器が支給されたんです?」
「トンカチです。周りが人狼チェッカーとかボウガンとか銃とか支給されてる中、トンカチです」
「あれ、もしかして俺の武器っていいものだったんですか?」
「……ええ、俺のトンカチより遙かに」
なめねこは説明するのを諦めると、taraの持っている人狼カードをどうするか考えて、そのままにすることに決めて小屋を出た。
「でも、なめねこさんのトンカチを使えば、俺の人狼チェッカーぐらい簡単に壊せそうですよ」
「お願いですから壊さないで下さい」
「いや、そういうことじゃなくて。使い方次第では、俺の武器よりなめねこさんの武器の方が強いっていうことを言いたくて」
「……まあ、大丈夫。俺に全て任せて、右さんはついて来て下さい」
「はい、分かりました」
不安だな。不安しかないな。
こんな時だからこそ、ヒル魔さんは虚勢を張る。
なめねこはそう考えると、右と一緒に歩き出した。