人狼バトロワ

名簿

01:AICE
02:綾乃
03:andante
04:一真
05:xiwong
06:佐藤
07:gemini
08:snowe
09:tara
10:男爵
11:提督
12:なめねこ
13:伯爵
14:hungrysun
15:huma
16:まな
17:右
18:有理
19:euro
20:yorozuya

◆ルール
A.参加者全員には爆弾つきの首輪がつけられている。
B.一日に一人、誰かが死なないと全員の首輪爆発。
C.参加者には、ランダムで武器が支給される。
D.参加者の中には三人の人狼と十七人の村人がいる。
E.支給される武器と一緒に、人狼カードか村人カードが入っている。
F.生存している村人の数が生存している人狼以下の数になると、村人全員の首輪爆発。
G.全ての人狼か、村人が死亡した時点でゲーム終了。
H.ゲームが終了した時点で生きている者は、無事帰れる。

 

 


01:AICE
ディス・リボルバー:??
02:綾乃
怪電波銃:??
03:andante
防弾チョッキ:??
04:一真
デリンジャー:??
05:xiwong
ポンプ式ショットガン:??
06:佐藤
N.E.P.:??
07:gemini
ひのきのぼう:??
08:snowe
ジュラルミンシールド:??
09:tara
ボウガン:??
10:男爵
原子力空母と搭載機および乗員一式:??
11:提督
猟銃:??
12:なめねこ
トンカチ:??
13:伯爵
デザートイーグル:??
14:hungrysun
リボルバー:??
15:huma
鋏:村人
16:まな
コルトパイソン:??
17:右
人狼チェッカー:??
18:有理
44マグナム:??
19:euro
ディス・マシンガン:??
20:yorozuya
ナイフ:??
「と、言う訳でみなさんには殺し合いをして貰いますにゃ」

 教壇に立ったnaviaは、厳かにそう宣言した。

「先生!」

 一番最初に発言した奴は死ぬ。そんな他の企画のセオリーを知ってか知らずか、ネーム
プレートに13:伯爵と書いてある男が手を挙げる。

「はい、何でしょうか伯爵」
「学校の教室と言う舞台に一同を集めると言うのは様式美上いいんですが、どう考えても
提督に学ランは無理があると思います」

 みんなの視線が11:提督に集中する。

「どうも、提督です」

 その視線を気にせず、提督は立ち上がると、周囲の人間に提督と印刷された自分の名刺
を配り始めた。

「うん、正直あたしも無理があると思うにゃ」
「でも、yorozuyaにセーラー服を着せるセンスは何か安いAVっぽくていいと思いまし
た!」

 人を殺せそうな視線を、20:yorozuyaが13:伯爵へと向ける。
 聞いての通り、男は全員学ラン、女は全員セーラー服を着させられている。
 本当にそれは、安っぽい作り物の光景であった。

「まあ、そういうことで、適当に出席番号一番の人から武器を渡して行こっか。あ、その
前に一人殺さなきゃいけないんだっけ。誰を殺すかはもう決まってるけど」

 naviaさんのその言葉で、教室が緊張に包まれる。

「ごめんね、佐藤ちゃん」
「クソがっ」

 06:佐藤は、そう言って机を殴った。naviaはサバイバルナイフを取り出すと、オー
バースローでそれを放る。

「ショック」

 06:佐藤はそう言い残し、頭にナイフを生やして絶命した。

「それじゃ、武器を配るよー」

 こうして、割と酷いノリで人狼バトロワは始まるのであった。

                                 【残り19人】

 

「舐めてる。絶対に舐めてる」

 07:geminiは走った。
 学校を出てすぐの戦闘行為、また学校内での戦闘行為は禁止されていない。
 武器次第では交渉の余地が生まれるかも知れないが、彼のバックパックに入っていたの
は保存食と水筒、そしてひのきのぼうと村人カードだった。だからこそ聡明な彼は、取り
敢えず逃げて身を隠すことを選んだのだ。
 木々の隙間を縫い、茂みを駆け抜け、どうにか学校から視認されない場所へ腰を落ち着
ける。
 乱れた呼吸を整えていると、何者かの声がした。

「gemini、カードを見せるにゃん!」
「……まあ、いいけど」

 元より、武器がこれでは武力的解決は望めない。
 geminiはサングラスのズレを直すと、バックパックから村人カードを取り出して放り投
げた。
 それを見て、草むらからバックパックを担いだ猫が姿を現す。

「geminiと戦うことにならなくて良かったにゃん」
「ところで、何でお前猫なの」

 geminiは03:andanteが長靴を履いてない長靴を履いた猫状態なのに首を傾げる。

「誰かの悪ノリとか、きっとそういうのニャンよ。むしろnaviaさんが最強過ぎる存在な
時点で、色々な人の願望が実現した世界なのかも知れないにゃん」
「成る程。naviaさん、実物にはあそこまで滅茶苦茶な戦闘力はなかったもんな。怖さは
変わらないけど」

 言った瞬間、ザーザーと無線のノイズのような音がする。

『げみに君、何か言った?』
「いえ」
「何でもないにゃん」

 それは、首輪から聞こえた。
 位置の監視や盗聴機能だけではなく、無線機能もついてるらしい。

「心臓によろしくないことがさらっと起きたのは気にしないことにして、andante、お前
何支給された?」
「これにゃん」

 andanteはバックパックから村人カードを見せた後、防弾チョッキを見せる。それは、
人間用のサイズだった。

「サイズが合わないから、これはgeminiにやるにゃん。代わりにgeminiの武器を寄越す
にゃん」
「……いいけど、多分要らないと思うで」

 そう言って、geminiはバックパックからひのきのぼうを取り出す。

「……geminiだし、納得したにゃん」
「納得された。まあ、俺の得物こんなんだから、別に交換しないでいいぞ。悪いから」
「でも、俺はとても着られないからやっぱりやるにゃん」
「ありがとよ」

 geminiはandanteから防弾チョッキを受け取ると、素早くそれを着込む。

「しかし、これからどうするかなあ」
「取り敢えず、それをやったお礼に俺を運ぶにゃん」
「分かった。まあ、辺りでも探索するか」

 geminiはandanteを両手で抱えると、学校から更に離れるよう歩き出した。

                                 【残り19人】

 

 少女のバックパックにはリボルバーが入っていた。六発の弾が込められており、撃鉄を
起こしてトリガーを引けば弾が出る。単純な構造故に誤作動を起こしにくい武器だ。

「やあ、ハングリーサン」

 その男は、校舎に寄っかかるようにして立っていた。サングラスをしている、不敵な笑
みを浮かべた学ランの男。

「……伯爵さん」

 14:hungrysunは、名前を呼びながら一歩後ずさる。

「別に、俺はそう名乗った訳じゃないんだけどな。何故かそう呼ばれる上、ネームプレー
トまで伯爵扱いだよ。天国ではそれはらむたらのIDなんだけどな。俺は三橋だよ、三橋」
「本当に、リアルでもその喋り方なんですね」
「……良く言われるよ」

 やれやれと言った風に、13:伯爵は大袈裟に肩を竦める。

「まあ、取り敢えず一緒に行かないか?」
「何でです?」

 伯爵がhungrysunに向かって一歩進むと、hungryusunはそれを受けて一歩下がる。

「何でって、そうだな。例えば四人以上のグループがあれば、そいつらを無理に殺そうと
する奴は三人しか居なくなるんじゃないか」
「……どういうことです?」
「回転が遅いな。まあ、初めてやるゲームじゃこんなもんか。とは言え、俺は初めてでも
待ち時間の間にそれぐらいは考えたが」

 伯爵が一歩進む。hungrysunが一歩下がる。

「そう怯えるなよ」

 伯爵は苦笑する。

「何で、四人以上のグループだと安全なんですか?」
「そうだな。お前、俺と手を組まないか? 取り敢えず、歩きながらその辺のことについ
て――」

 そう言って近付いた瞬間。hungrysunは駆け出した。

「あー……まあ、いいか」

 伯爵は小さくなっていくhungrysunの背中を見送ると、再び校舎に背を預けて次の人間
を待った。

 

                                 【残り19人】

 

 17:右は考えた。
 一体これは何だろうか、と。
 分からなかったので、右は取り敢えずそれを自分に対して使ってみた。

『どうやら17:右は村人のようだ』

「成る程」

 右は納得し、それを自分のバックパックへと仕舞う。
 それは、人狼チェッカーというアイテムだった。瞳の形をした紫色の水晶っぽい手の平
大の物体で、説明書には『瞳を首輪に向けると占い師気分が味わえます』と簡潔に書かれ
ている。

「しかし、どうすりゃいんだろ」

 右は腹が減っていたので保存食の乾パンを出すと、もぐもぐと食べながら校舎を出る。

「男爵か伯爵がいれば、色々と教えてくれそうなんだけど」

 辺りを見回しても、人の気配はない。

「参ったなぁ」

 右は食べ終えた乾パンの袋をバックパックへ入れ、適当な方向に歩き出す。

「本当、どうすりゃいいんだろ」

 右は人がいそうな方向を何となくこっちだと決め、そっちへ歩いて行った。

「男爵ー! いませんかー!」

 その声は空しくこだまする。

「本当、どうすりゃいいんだろ」

 そう言った時。不意にピンポンパンポーンという音が鳴り響く。

「あー、学校で聞いたなこれ。懐かしい」

『15:humaが死亡しました。残り、18人です』

「マジで!?」

 右は驚いた。自分より遙かに逞しそうなhumaさんが死ぬなんて、と。

「ああもう、どうするかなあ」

 右はそう言いながら、保存食の乾パンをもう一袋開けた。

 

                                 【残り18人】

 

 18:有理は走った。
 既にやる気の奴がいる。それが分かったからだ。
 humaさんを殺したのは多分人狼だろう。そう考えたから有理は走った。
 走って走って走ったところで、男に会った。

「おや」

 男はボウガンを右手に持ち、学ランの胸ポケットにそれと分かるよう村人カードを貼り
付けている。

「有理は村人?」

 09:taraは、にこにことしながら、油断無くボウガンを有理に向けて問う。

「……はい」
「見せて。ああ、ゆっくりね」

 有理は言われた通り、ゆっくりとした動作で村人カードを取り出す。

「ああよかった。やっぱり私は運がいいな」

 taraはボウガンを下ろすと、左手でおいでおいでをする。
 有理は行くか逃げるか考えた後、taraへと近付いた。

「有理の武器は何?」
「……これです」

 バックパックから取り出されたのは、給食用のフォークだった。

「あはは。それじゃ自分の身も守れないよね。私と一緒に行動した方がいいんじゃないか
な」
「……そうですね」
「うん、それがいい。それじゃ行こっか」
「……どこにです?」

 有理が気付かれないよう、ボウガンに視線を向ける。トリガーに人差し指がかかってお
り、それはいつでも発射出来るように思えた。

「近くに小屋があるんだ。休んだりするのにいいんじゃないかな。疲れてるだろう?」
「……はい」
「行こう」

 taraは微笑み、ついてくるよう促す。
 有理はこくんと頷くと、taraの視線を受けながら歩き出した。

 

                                 【残り18人】

 

「yorozuyaさんは人狼ですよね?」
「いいえ、違います」

 20:yorozuyaが村人カードを出すと、19:euroはディス・マシンガンの銃口を下ろ
す。

「ああ良かった、俺はyorozuyaさんを信じてましたよ」
「嘘ばっかり」

 浴びせられる冷ややかな視線を、euroは好青年笑いで受け流す。大学で擬態して行く
為に身につけられた、誰にでも好印象を与える笑みだ。

「取り敢えず、射線が確保出来なさそうなところまで走りましょうか」
「そうですね」

 そう言って、二人は走り出す。
 しばらく走ると、いい感じに視界が悪く、芝生が生えた場所を見つけたのでそこでこれ
からのことを話すことにした。

「何だか大変なことになりましたね」
「そうですね」
「セーラー服姿のyorozu」
「殴りますよ?」
「冗談です」

 euroはバックパックから水筒を出すと、水分を補給する。

「huma君、死んじゃいましたね」
「会ったことあるんですか?」
「いや、今回初めて会いましたけど」
「そうですか」

 蓋を閉め、バックパックへ水筒を仕舞うeuro。

「えーっと」
「それ」

 yorozuyaは、euroの持つディス・マシンガンを指す。

「見せて貰っていいですか?」
「ああ、いいですよ」

 村人が村人を殺しても意味がないと思ったのか、euroは無警戒にそれを渡した。

「結構重いですね」
「女の人が持ち歩くには向きませんね」
「これを持って、あれだけ走れるんですか」
「バスケやってましたし。まあ、もしそれをyorozuyaさんが持ち逃げしようとしても、
走って追いつくぐらいは出来るんじゃないかな」
「そうですか」

 yorozuyaは片手にディス・マシンガンを携えたまま、バックパックから一枚のカードを
取り出す。

「あの、これ」
「げ」

 そのカードには、人狼、と書かれていた。

 

                                 【残り18人】

 

「いやー、マサカsnoweさんと合流出来るなんて」
「何でAICEさん、芋ジャージなんです? セーラー服じゃなくて」

 01:AICEと08:snoweは和やかに家庭科室で談笑していた。
 机の上にはクッキーとティーカップが二つ載っている。

「こう、正直自分でも無いなと思ったんで、更衣室で見つけたんで着替えました」
「成る程。似合ってますよAICEさん」
「snoweさんそれ褒めてませんよね」
「いや、えーっと。何となく言っただけです」
「そうですか、何となくですか。snoweさんは白いなあ」

 二人は和やかに喋りながら、クッキー食べ食べ紅茶を飲む。

「それにしても、何でsnoweさんはここに?」
「普通、みんな急いで校舎から離れようとしますよね。だったら逆に、しばらく校舎で身
を隠す方が安全だと思ったんですよ」
「ナルホド」
「AICEさんはどうして校舎に?」
「正直この格好はないので、何か着替えないかなーと探して見つけて着替え終わったら、丁度snoweさんと鉢合わせしたって言う」
「大丈夫、提督さんよりは似合ってましたよ、制服」
「あれはあれで凄く似合ってると言うか何と言うか、snoweさんは白いなあ」

 AICEは乾いた笑いを誤魔化すよう、紅茶を飲む。

「しかし、ここで隠れている内に上手いこと終わらないかな」
「流石にそれは都合がよすぎるでしょう。まあ人数減ったらアナウンスがあるみたいなん
で、残り8人とかになったら動き出さないと不味いと思いますよ」
「逆に言うなら、残り8人ぐらいになるまでは隠れていても大丈夫ですよね」
「まあウン、そうだけど。と言うかsnoweさん、humaさんが殺されたって言うのによく
そんなクッキー食べられますね」
「甘い物は別腹ですから。と言うか、AICEさんも結構食べてるじゃないですか」
「いやマア、別にhumaさんを忍んでクッキーを食べないでいても、それでhumaさんが
浮かばれるかと言えば別にそんなことはねえよなと言うか」
「AICEさんは白いですね」
「snoweさんは白いなあ」

 こうして、家庭科室では平和なお茶会が続いていた。

 

                                 【残り18人】

 

 02:綾乃は一人、森を行く。
 信じられるものが誰もいないからだ。
 左手にはバックパックを持ち、右手には怪電波銃を携え。

「……これ、射程距離とかどんなもんなんだろ」
『20mぐらいかな』
「あ、どうも」

 綾乃は心臓を押さえながら、お礼の言葉をどうにか口に出す。

「そっかー、20mかー。……そしてこれ、無線機能とかついてたんだ」
『じゃないと、変なことしようとしてた時爆破出来ないじゃん』
「……naviaさんこえー」
『こわくねー』

 いやいや怖いですから。綾乃は心の中でそう呟きながら歩く。

「もしかして、humaさんは変なことしたんですか?」

 返事はない。他の人の状況は教えられない決まりになっているのか、そもそも武器に関
してのことだけ答えることになってるのだろうか。
 ぼんやりと考えながら歩いていると小川を見つけたので、近くに腰を下ろし休む。

「さて、どうしようかな」

 ポケットから自分のカードを取り出して、綾乃は一人ごちる。

「あの人なら、やるしかないことはやるんだろうな、きっと」

 脳裏に浮かぶのは、死を畏れずに手を挙げたその姿。

「いや、むしろ死なないことが分かってたから手を挙げた――?」

 バックパックをクッション代わりに、もふもふしながら綾乃は考える。

「何にせよ、やらなきゃいけないから、やるしかないか」

 溜息。そして、怪電波銃を見つめる。

「まさか、精神耐性があるエイリアンとかいないよね?」
『いないよ』
「……ありがとうございます」

 綾乃は鼓動を早める心臓に手をあてながら、何とかそう言った。

「やっぱり武器に関することだけなのかな」

 その答えは、首輪からは返ってこなかった。

 

                                 【残り18人】

 

「あ、andanteさーんっ」
「にゃァァァアア!!!!」

 16:まなに抱きしめられ、圧死しそうになるandante。

「……よかったな、andante」
「よくにゃァアアアアアア死ぬ、死ぬって! 死ぬにゃ!」
「ごめんなさい、嬉しかったから……」

 まなはandanteを抱きしめる手を緩めると、滲んだ涙をandanteで拭く。

「俺はタオルじゃないのにゃ……」
「私、どうしたらいいか分からなくて。寂しくて。渡された物も物騒だし……」
「とりあえず、えーっと、まな君はどうして俺達が見つけられたんだ。そして俺達が人狼
二人組だとは思わなかったのか。それ以前にまな君は村人なのか」

 geminiは感動の再会をする二人を冷ややかに見つめながら、矢継ぎ早に質問をする。

「あ、geminiさんですか? はい、これ」

 不用心に放り投げられたバックパックをキャッチすると、中を改めた。
 出てきたのは村人カードと、コルトパイソンと呼ばれるリボルバー式の銃。

「……えーっと」

 geminiはどうしたもんか、とずしりと重いそれを見ながら考える。
 その時。

『09:taraが死亡しました。残り、17人です』

 そんなアナウンスが聞こえて来る。まなは体を強張らせた。

「だから、死ぬにゃー! 強いにゃー! 人間と同じ力で抱きしめ、あっ、漏れる! 漏れる何かがにゃアアアアアアアアアア」
「ご、ごめんなさい」

 まなが抱きしめを解くと、andanteはぜーはーと肩で息をする。

「病魔が死んだか」
「まあ、人狼はとにかく村人を殺さにゃいと生き延びられないからにゃー。手当たり次第
なんだろうにゃー」
「たららんが……」

 まなはtaraのことを思いだして涙し、それをandanteで拭った。

「だから俺はタオルじゃないにゃ! やめろにゃ!」

 geminiはコルトパイソンのシリンダーをカチリ、カチリと回しながら言う。

「まあ、普通に考えたら人狼がやったんだろうけど」
「……にゃ?」
「まあ、普通に考えておこうか」

 そう言って、まなにコルトパイソンを差し出す。

「……そんなもの、私使えないよ。geminiさんが」
「いや、俺だから使えないんだ。これがオートマチックだったら良かったんだけどね」

 geminiは苦笑し、自嘲気味に言う。

「君達、俺がリボルバー撃って弾出ると思ってるの?」
「にゃ。……そう言えば、そんにゃ話もあったにゃんね」
「俺が使っても弾が出ないし、andanteは猫の手だから使えない。だからこれは、まな君
が持つべきやろ。元々、まな君のだし」
「そんな、まさかgeminiさんでも……」

 geminiはコルトパイソンの撃鉄を慣れた仕草で起こすと、大木に向かって躊躇わず引き
金を引いた。
 カチリ。

「……多分、この世界は俺への悪意で出来てると思う。andanteが猫ということは、俺が
リボルバー使って弾が出る訳がないんや」
「gemini……」

 それを見て、andanteはほろりと涙を流す。

「そういう訳で、まな君が持っとき」
「……はい」
「まあ、どうにか村人が三人集まった。これは、いいことやで」
「そうなんですか?」
「そうにゃのか?」

 geminiは頭を押さえ、andanteを持つまなの方を向いて喋り始める。

「要するに、人狼は最大で3だから、四人以上の集団があれば――」

 

                                 【残り17人】

 

 遠くで銃声がした、

『09:taraが死亡しました。残り、17人です』

 アナウンスが流れる。
 12:なめねこは考えた。普通、銃声がした方向から遠ざかるべきだ。
 しかし、ヒル魔さんならどうするか。
 普通、銃声がしたら逃げる。しかし、ヒル魔さんならその逆を行く。
 そう思い、なめねこは歩き出す。銃声のした方へと。
 走ったりはせず、ゆっくりと慎重に、周りに気を付けて歩き始めた。

 しばらく歩くと小屋が見えた。
 扉は開いていて、そこから硝煙と血の匂いが流れて来る。
 なめねこは別に硝煙の匂いを嗅いだことは無かったが、それでもそれが硝煙の匂いだと
分かった。硫黄の匂いを卵の腐った匂いと表現する人がいるが、腐った卵の匂いを実際に
嗅いだことのない人間も硫黄の匂いをそう表現するのと似たようなものだろう。
 なめねこは、おっと思考が逸れた、と自分を戒め、慎重に小屋に入る。

「これは……」

 そこには、土手っ腹に風穴を空けた09:taraの死体があった。彼の足下にはボウガン
が乱雑に置かれていて、その手にはカードが握らされている。

「あのー」

 不意に掛けられた声に驚き、なめねこは身構え振り向く。
 そこには紫色の怪しい瞳型オブジェクトを持った、17:右の姿があった。

「なめねこさん、ですよね」
「あ、はい」

 丁寧な言葉でそう聞かれ、思わず敬語で返してしまう。

「俺が右です、初めまして」
「あ、はい。コロッサスとかすじにくとかなめねこです」

 軽くおじぎをして来るので、なめねこも会釈を返す。

「あ、俺、村人です。ほら」

 右は手に持ったそれを自分の首輪へと向ける。

『どうやら17:右は村人のようだ』

 紫色のオブジェクトから、そんな声が聞こえた。

「えっと、それなんですか?」
「人狼チェッカーらしいです。あ、そうか。カードの方がいいのか」

 右はバックパックから村人カードを取り出すと、それをなめねこへと見せる。
 なめねこもポケットからカードを取り出し、それを右へと見せた。

「ああ良かった、なめねこさんが人狼だったらどうしようかと」
「……村人だと賭けてるなら、普通誤射を恐れてまずカードを見せますよね」
「ああ、そうか。そうした方がいいのか」
「そしてそれ、何です?」
「人狼チェッカーですか? なんかこれ、首輪に向けてスイッチを押すとその人が人狼か
どうか分かるらしいです」
「……何で、話しかける前にそれを使わなかったんですか?」
「ああそうか、そうすれば良かったんだ」

 なめねこは微妙な顔を右へと向ける。占い師が無能な村の村人は苦労するからだ。

「それで、何があったんです?」
「ああ、俺も今来たばかりで良く分からないんですけど、taraさんが死んでます」
「うわー」

 右はなめねこに近付くと、その影からtaraの死体を見て嫌そうな顔をする。

「何か持ってますね」
「カード、のようですが」

 なめねこはtaraの手を取り、持ってるカードの内容を確かめる。
 そこには人狼、と書かれていた。

「うお」
「ああ、taraさんが人狼で、村人を殺そうとして返り討ちになったのかな」

 右は足下に落ちているボウガンを見て言う。

「いや、これはもっと最悪なことだと思う」
「そうなんですか?」
「人狼は死んだ。そう思わせたい人狼の作戦だと考える方が妥当です」
「え、そうなの?」
「右さん、ちょっとそれ、貸して下さい」
「あ、いいですよ」

 なめねこは人狼チェッカーを受け取り、taraの首輪に向けてスイッチを押す。

『このアイテムは、17:右専用です』

「なんだと……」

 なめねこは驚愕した。自分の想像通りなら、これは最悪の事態だ。
 最悪の事態を打開出来るかも知れない最終兵器を手にしたと思ったら、まさかそれを使
えるのは右さんしかいないとは。占い師が無能だと、村人は苦労を強いられる。

「taraさんをチェックすればいいんですね?」

 右はなめねこから人狼チェッカーを返して貰うと、taraの首輪に向けてそれを使う。

『どうやら09:taraは村人のようだ』

 そんな音声が人狼チェッカーから流れる。

「やっぱり……」
「あれ、これ、壊れてるのかな」

 右は人狼チェッカーを壁にがんがんと打ち付けた。

「やめてぇー! その子は繊細なのよ! そして別に壊れてる訳じゃない!」
「でも、taraさんは人狼だったんですよね?」
「いやいやいや! これは、人狼がtaraさんを殺して、自分のカードとtaraさんのカード
を入れ替えたんですよ! 村人には人狼が死んだと見せかけて、自分は村人のフリをする。
霊能者乗っ取りのような感じのことが行われたんですってば!」
「ああ、これがこの間やれって言ってた霊能者乗っ取りって奴ですか」
「いや、そうだけど! そうじゃないけど! そうだけど!」
「あれ、そうするとなめねこさんが乗っ取った可能性もありますよね?」
「乗っ取ってたらわざわざそんなこと話さないから! と言うか、普通そんなアイテムあ
ったらまず俺に使いますよね!」
「あ、そうか。じゃあ使うね」

『どうやら12:なめねこは村人のようだ』

「おお、そうか」
「ええ、そうなんですよ右さん。そして、右さんは自分でも思っているより物凄く重要な
立場にあるんです」
「え、なんで?」
「えーっと、その人狼チェッカーが右さん専用だからです。言わば、右さんは占い師なん
ですよ」
「ああ、そうか」

 本当に分かってるのかこいつ。
 なめねこは訝しみながら右を見る。

「取り敢えず、これからは一緒に行動しましょう。俺が狩人となり、右さんを守ります」
「おお、それは頼もしい」

 なめねこは落ちていたボウガンを拾うと、それをチェックする。
 どこも壊れておらず、普通に使えそうだ。
 人狼は銃器を持っているようだが、これぐらいの武器なら使いようによっては対抗出来
るはずだ。

「そういや、なめねこさんはどんな武器が支給されたんです?」
「トンカチです。周りが人狼チェッカーとかボウガンとか銃とか支給されてる中、トンカ
チです」
「あれ、もしかして俺の武器っていいものだったんですか?」
「……ええ、俺のトンカチより遙かに」

 なめねこは説明するのを諦めると、taraの持っている人狼カードをどうするか考えて、
そのままにすることに決めて小屋を出た。

「でも、なめねこさんのトンカチを使えば、俺の人狼チェッカーぐらい簡単に壊せそうで
すよ」
「お願いですから壊さないで下さい」
「いや、そういうことじゃなくて。使い方次第では、俺の武器よりなめねこさんの武器の
方が強いっていうことを言いたくて」
「……まあ、大丈夫。俺に全て任せて、右さんはついて来て下さい」
「はい、分かりました」

 不安だな。不安しかないな。
 こんな時だからこそ、ヒル魔さんなら虚勢を張る。
 なめねこはそう考えると、右と一緒に歩き出した。

                                 【残り17人】

 

 04:一真はアイスピックで氷を削っていた。
 ガッシュ、ガッシュ、ガッシュ。
 それが手頃なサイズになるとグラスに移し、そこへ酒を注いでいく。

「悪いな」
「いえ」

 10:男爵はそれを受け取ると、ちびちびと舐めるように味わい始める。

「……」
「……」

 そこは、寂れた酒場だった。
 酒があり、電気や水道も通っている。
 拠点に選ぶには十分過ぎる好条件の場所だ。

「……」
「……」

 会話もなく、手持ち無沙汰な一真はアイスピックでガッシュガッシュとロックアイスを
削り始める。

「……」
「……」

 カラン、とグラスの中で氷が鳴った。
 味わいのある音だが、学ランを着た中学生と三十路の男しかいない酒場では味わいも何
もない。
 ただ、そこには沈黙があった。
 見る者にとっては重い、だとか気不味い、だとかの形容詞がつくであろう。

「……飲まないのか?」
「ああ、はい。ウィスキーボンボンすら無理なんで」
「……そうか」
「……」
「……」

 男爵はちびちびと酒を舐めながら、チーズたらを食べる。

「……」
「……」

 酒場には家電類の稼働音と、一真が氷を削る音と、グラスと氷がぶつかる音だけ。

「男爵さんは」
「うん?」
「武器は、何を支給されたんですか?」
「原子力空母と搭載機および乗員一式」
「……えーっと、それは凄いですね」
「凄いは凄いが、現在日本海上を漂ってるらしい。ここは山の中で、連絡手段は何もない」
「……つまり、何もないのと同じってことですか?」
「そうでなきゃ、此処に来て火炎瓶なんか作ってないな」

 男爵が視線を向けた先には、九十度以上の酒を選りすぐって作った火炎瓶が幾つも置い
てあった。

「男爵さんは、人狼が来たらそれで戦うんですよね」
「どうするかな。メンドイ。一真、お前が戦え」
「ええ……?」

 そう言われて、一真は困惑する。

「だって、相手は伯爵だぞ。面倒だろ」
「え? 伯爵さんが人狼なんですか?」
「名簿を良く見てみろ」
「あれ、名簿なんてありましたか?」
「教室に置いてあっただろ。ほら」

 一真は、差し出されたそれを見る。

「良く見てみろ。こんなもん、humaを殺すのは伯爵しかいないだろ」
「そうですか……? 一応AICEさんからはんぐりさんまで可能性はあると思いますが」
「いや、どう考えても伯爵だろ。番号近いし。こんなもん伯爵がやったに決まってる」
「そうですか……」

 男爵さんがそう言うのなら、そうなのかも知れない。
 伯爵さんには気を付けよう。一真はそう思い、アイスピックで氷を砕く。

「おい一真、ちょっと伯爵殺して来てくれ」
「ええ……?」
「火炎瓶を投げるなり、アイスピックで一突きするなり、方法は何でもいい」
「でも、村人だったらどうするんですか」
「奴が人狼なら、humaから奪った村人カードを持ってるはずだ。殺してからゆっくりと
確かめればいい」
「いや、伯爵さんが村人でも、村人カードは出て来ますよね」
「そんなのは些細なことだ。と言うかこんなもん、伯爵が人狼じゃない訳ないだろ。huma
が死んでるんだから」
「はあ……」

 そして話すことがなくなったのか、再び酒場は静かな音に包まれた。

                                 【残り17人】

 

「しかし、こういう格好をしてると、若返った気がしますな」
「そうですか。正直私は、余りそういう趣味はないのですが」

 11:提督と05:xiwongが並んで歩いていた。
 提督の手には猟銃、xiwongさんの手にはポンプ式のショットガンが握られている。

「それにしてもまさか、こんなことになるなんて。世の中は不思議なことでいっぱいです
な」
「そうですね。私もまさか、こんな悪趣味な催しに巻き込まれるとは思いませんでした」

 二人は慎重に長銃を構え、森の中を歩いて行く。
 ふと、視界に光る何かが入った。

「今、何か……」
「誰かいますね」

 xiwongは提督を手で制して、軽く地面に伏せる。

「二人、人がいるのかな」
「euroさまと、yorozuyaさまですね。二人とも人狼、と言う確率は低いと思います。カー
ドを出して、接触してみましょうか」
「そうですな」

 提督とxiwongは村人と書かれたカードを取り出すと、慎重に二人へと近付いて行った。

 

                                 【残り17人】

 

「歩けども、歩けども、人の姿はなし。運がいいのか、悪いのか」
「geminiの運が悪くても、俺の運は普通だから大丈夫にゃ」
「私も、運はいい方ー」

 geminiと、andanteを抱いたまなは森の中を歩いていた。
 何にせよ、誰かと接触しないことには始まらないからだ。

「ところでまな君は、どうして俺達の居場所が分かったの?」
「ああ、えっと。何だか美味しそうな匂いがしたんです」
「……これがgeminiが良く初回襲撃される秘密か」
「な・め・ん・な」

 geminiは、フラワーロックのような笑顔を一人と一匹に向ける。

「しかし、まなは実際運がいいにゃ。俺達と会えたんだから」
「うん。andanteさん、大好きー」
「いやだからちょっと強い強い強いっておうふゲフッ」
「割と本気でandante死にそうだから、緩めておやり」
「は~い」

 そう返事をすると、まなはandanteのふわふわボディに頬擦りをする。

「ああっ、俺の自慢の毛並みがー。にゃー」
「えへへ」

 その光景を見て、geminiは優しい笑みを漏らす。
 その時。

「げはぁっ」

 不意にgeminiが吹っ飛ぶようにして倒れた。

「geminiィーーーッ!!!」
「geminiさんっ!!」

 一人と一匹は、慌ててgeminiに駆け寄る。

「敵にゃ!? 人狼にゃ!? どこにゃ!? せめてそれを伝えてから死んでくれにゃ!」
「geminiさんっ、geminiさんっ!」

 andanteは切羽詰まった顔で、まなは泣きそうな顔で倒れたgeminiを揺さぶる。

「だ、大丈夫や。防弾チョッキのお陰で助かった。多分、無ければ普通に死んでた」
「一体何があったんだ、gemini! 言え! 言うんにゃ!」
「大丈夫ですか!? 怪我ないですか!? 本当に大丈夫ですか? 頭とか打ってません
か!?」

 geminiは一人と一匹を宥めるよう、落ち着いた声色で言う。

「大丈夫。これは恐らく……流れ弾や」

 そう言った瞬間、アナウンスが聞こえてくる。

『11:提督、19:euro、20:yorozuyaが死亡しました。残り、14人です』

「にゃんだって!?」
「多分、その戦闘の流れ弾だろうな。と言うか、どういう確率だろうなこれ。本当に悪意
に満ちてるな、この世界」
「……そんな。人狼は、やる気なんですね」

 まなは、悲しそうに目を伏せて呟く。

「そうだね。生きる為に必死なんだろう。だからまな君、それが敵なら……躊躇わずに撃
て」
「…………。はい」
「と言うか、geminiが戦えにゃ」
「だから、俺は武器がないんだよ! リボルバーは弾出ないんだよ!」
「情けない奴にゃ」
「猫のandanteに言われたくねぇ!!!」

 geminiとandanteのじゃれ合いを見て、まなはくすりと笑った。

                                 【残り14人】

 

『11:提督、19:euro、20:yorozuyaが死亡しました。残り、14人です』

 かたん。ティーカップが倒れ、琥珀色の液体が机の上に広がった。

「あ、え、えーっと、snoweさん」
「……現実味が、沸きませんね」
「そ、そうですね。と言うかそもそも何かコスプレ喫茶みたいなことになってますね、と
言うかそうじゃなくイヤつまりその」
「大丈夫です」

 snoweはそう言って微笑む。

「結局、一番大事なのは自分の身ですから」
「あ、いや、エートsnoweさん」
「なんですか、AICEさん」

 AICEは姿勢を正し、言う。

「割と本気で、snoweさんは私が守りますから」
「それなら、私はAICEさんを守ります」
「あ、ハイ。よろしくお願いします」

 それでもお茶会は続く。

                                 【残り14人】

 

『11:提督、19:euro、20:yorozuyaが死亡しました。残り、14人です』

「やべえー! 人狼が派手にやってやがる!」

 なめねこはそう言うと、器用にボウガンを持ったまま頭を抱えた。

「大丈夫ですよ、なめねこさん。きっと今ので人狼が一匹ぐらい減ってますって」
「減ってなかったらどうするんだ! と言うか、右さんは危機感が足りませんよね!」
「よく言われます」
「いや、言われます、じゃなくて」

 なめねこはがくりと膝をつく。

「どうしたんですかなめねこさん、歩き通しで疲れましたか?」
「いや、それは大丈夫ですけど。まあ、いいでしょう。全て狩人の私が何とかしてみせま
しょう」
「おお、頼もしい。ところでなめねこさん、思ったんですが」
「何でしょう」

 右は、自信満々に言った。

「これが人狼を模してるゲームなら、色々な役職が存在するかも知れない」
「まあ、その可能性はありますね」
「そこで考えたんだけど、実は俺、狩人かも知れない!」
「いや、どう考えても右さんは占い師ですから! 占い師ですから! と言うか、さっき
それ言いましたよね!? なめねこ言いました! なめねこ言っちゃった! 言っちゃっ
た!!」
「なめねこさん、キャラが壊れてますよ」
「フフフ、この私ともあろうものが……」

 なめねこは水筒を取り出すと、水を一口飲んで息を吐き出す。

「とにかく、今は情報を集めるのが先決です。どうにか隠れながら、人狼全員の情報が欲
しい」
「人狼を全員倒さない限り、俺達生きて帰れないもんね」
「そういうことです。まず大事なのは、情報。二人組とか三人組とかでも、今となっては
安心出来ません」
「え、何で?」
「いやだから、人狼が村人になりすまして混ざってると言ったじゃないですか」
「ああ、そうだった」

 なめねこは、不安になる。
 不安になったが、やるしかない。
 占い師は彼だけなのだ。
 多分、彼が死んだら人狼の天下がやって来る。
 いや、本当に人狼ゲームが始まってしまう。村人が村人を殺し合う。
 それだけは、避けたかった。
 そんなことになったら、人狼の方が有利に決まっているのだから。

「とにかく、今は誰かをこっそり見つけましょう。早くしないと、人数が六人とかになっ
て私達の首輪が爆発するかも知れない」
「え、何で?」
「いや……村人の数が人狼以下になったら、村人の首輪は全部爆発しますよね」
「……おお」
「おお、じゃねぇえええええええ!!!!!!!!」
「落ち着いて、なめねこさん」
「はあ、はあ、はあ、はあ……」

 二人の旅は続く。

                                 【残り14人】

 


 河原で一人、ぱしゃぱしゃと手を洗う少女が一人。

「よう」

 男はくるくるとカードを弄びながら、少女に声を掛けた。

「……伯爵さん……?」
「元気か?」
「洗っても、洗っても……落ちないんです」

 少女の制服は血で彩られていて、何かがあったことは誰の目にも明らかだ。

「大丈夫、もう十分綺麗だよ。もう何もついてない」
「でも……落ちないんです」
「そりゃ、記憶はそう簡単に無くならない。だからこそ、それでいいんだよ。行くぞ」
「何処へ……ですか?」

 少女は虚ろな瞳で、もう夕暮れだと言うのにサングラスを掛けた男を見上げる。

「学校へ。そこには着替えぐらいあるだろう。その格好は、少々警戒心を煽りすぎる」

 ほら、と言うように手を差し伸べると、少女はそれを掴んで立ち上がる。

「アイムシンギン、ザレィーン♪」

 男は少女の手を引きながら、晴れているのに雨の日の歌を唄いながら歩き始めた。

                                 【残り14人】

 

 それは神の悪戯か、悪魔の導きか。
 夕暮れの森の中、二人は出会ってしまった。

「は、はぐりん?」
「あ、綾乃さん?」

 02:綾乃と14:hungryusunは、お互いのことをそんな名前で呼んだ。

「何で綾乃さん、学ラン着てるの?」
「……誰かの悪意だよ。はぐりんだって、どうして今更セーラー服とか着てるの?」
「……」
「……」

 無意識に、お互いの傷を付き合ってしまう二人。
 油断無く銃を構えながら、二人は出方を探り合う。

「はぐりんは村人だよね?」
「そういう綾乃さんは?」
「えーっと、カード見せてくれるかな」
「綾乃さんが見せてくれたら見せるよ」
「……」
「……」

 二人に緊張が走り、冷や汗が肌を伝う。

「それじゃあ、一緒に出すってのはどう?」
「一緒に弾が出そうだから怖い」
「うん、私もそう思った」
「ですよね」
「……」
「……」

 気不味い沈黙。
 このままでは、共倒れも有り得る。
 綾乃はそう考えた。

「じゃあ、私が先にカードを見せるから。それでどう? ね」
「……それじゃあ、とりあえず見せて下さい」
「はい」

 綾乃はポケットから村人と書かれたカードを取り出すと、それを見せる。

「でも、人狼はhumaさんを殺して村人カードを既に奪ってると思います」
「……いや、それは私も考えたけど」
「だから、綾乃さんは信用出来ません。むしろ誰も信用出来ません。信じられるのは自分
だけです」
「私は、今の反応からはぐりんが村人だってことは分かったよ……」
「そうやって油断させて、taraさんや提督さん、yorozuyaさんやeuroさんを殺した可能性
もありますよね?」
「その推理は間違ってるよ」
「……いいんです、私はポンで!」
「開き直った!?」

 hungrysunは、身を翻して走り出す。

「ああ、もう……仕方無いな」

 そして辺りに銃声が響いた。

                                 【残り14人】

 

 酒場で、男爵は酒を飲んでいた。
 一真は、あり合わせの材料で夕食を作ろうとしている。

「……焼き肉のタレをご飯にかけたらむっちゃ美味いかと思ってやってみたんですけど、
不味いです」
「……。飯を足して胡椒を振って、水を加えて中華鍋で炒めろ。油の代わりにマヨネーズ
を敷いて」
「分かりました」

 男爵は呼吸をするように一真を顎で使い、ちびちびと酒を舐める。

「さっき、まとめて三人死んだだろ」
「あ、はい」

 中華鍋を振る一真に、男爵は話しかける。

「マシンガンだとか、ショットガンとか、その手の大物を持つ奴には気を付けろ。まず人
狼と思って間違いない」
「その人が、三人を殺したんですか?」
「乱戦の末、そうなった可能性もあるが……相打ちとかも有り得るが。普通に考えたら、
人狼はそういう殺戮兵器を持ってると思って間違いない」
「ほむ」

 一真はじゃーじゃーと具無しチャーハンを炒め、皿に盛る。

「出来ました」
「ご苦労」

 それを肴に、男爵はちびちびと酒を舐める。

「おお、むっちゃ美味い」
「まあまあだ」

 一真はそれを食べながら、カクテル用のオレンジジュースを飲む。
 そして皿が空になる頃、アナウンスが入った。

『14:hungrysunが死亡しました。残り、13人です』

「……うわぁ」
「一人は伯爵で、一人はマシンガンかショットガンを持った奴。最後の一人は普通に短銃
を持った奴かな。人狼は大体絞れた」
「それなら、そろそろ動きますか? このまま何もしないと、俺達の首輪も爆発する可能
性が」
「そうだな」

 男爵は考えるようにして、一気にグラスの中身を空にする。

「……メンドイ」
「……ですよねー」

 男爵は村人と印刷されている上に、油性マジックで狩人と上書きされた自分のカードを
見つめながら氷を噛み砕いた。
 やがて日が落ち、夜になった。

                                 【残り13人】

 

「夜だにゃー。暇にゃー」

 00:naviaは校長室のふかふかの椅子に座って、伸びをする。

「まあ、このペースなら明日か明後日には終わるかにゃー。……お?」

 光点が、ある場所へと集まり始めていた。その数は七つ。

「これは、案外今日中に終わるかもにゃー」

 naviaは、愉しそうに機器を弄り始めた。

                                 【残り13人】

 

「学校とは、盲点だったにゃんね」
「宿直室とか保健室とか、色々あるやろ」
「うん、言われてみればそうかも」

 gemini、まな、andanteの二人と一匹は、夜の闇に紛れて学校に戻って来ていた。
 足音を立てないよう、そろりそろりと保健室へ忍び込む。

「ふかふかベッドにゃー!」

 忍び込むまではそろりそろりとしていたが、保健室に入るなりandanteはいきなりベッ
ドにダイブした。

「ぼうんぼうんにゃー! にゃー!」

 ベッドの上でぼふんぼふんと跳ねる。

「いや、保健室のベッドって、割と固い方やと思うで」
「わーい、ベッドベッドー」

 まなもそれに続いて、andanteの上にダイブする。

「オブバッ! ……きゅう、にゃー……」

 ぐったりと伸びるandante。

「まあ、あんまり騒ぐのはよくないで。いつ、人狼が襲ってくるかも分からんし」
「でも、まさかスタート地点に戻って来てる人なんていないよね?」
「にゃー。いないと思うにゃー」

 andanteはすぐに復活し、ごろごろごろごろごろごろごろしだす。気持ち良さそうだ。

「まあ、一応電気は消したままで。俺、校舎を見回ってくるから」
「いってらっしゃーい」
「防弾チョッキ分働けにゃ! 何かあったら叫びながら囮になって逃げろにゃ! 俺達は
その間に逃げ出すからにゃっ」
「あいよ」

 geminiは苦笑すると、保健室を出て行った。

                                 【残り13人】

 

「まあ、スタート地点に戻ってる奴は他にも居るだろうな、とは思ってはいたが」

 伯爵はクイ、とサングラスのずれを直して紅茶に口をつける。

「まさか最初から校舎から出てない連中がいるとは。灯台最も暗し作戦か」
「ハハハ、何か成り行きでそんなことに」

 伯爵、有理、AICE、snoweの四人は家庭科室で紅茶を飲んでいた。

「ところで伯爵さん、人狼は誰だと思いますか?」
「一人はhumaだった」

 snoweの質問に、伯爵は涼しい顔で答える。
 偽りの和やかさが、一気に凍り付くのを三人は感じていた。

「俺は村人だぜ! とカード見せたらじゃあ死ね! と突っ込んできたので返り討ちにし
た。そうしたら奴のバックパックからこれが出てきたな」

 伯爵は、ゆっくりとした動作で人狼と書かれたカードを放る。

「いや、マサカhumaさんが……」
「まあ、人狼は後二匹だ。何か既に結構人が死んでるから、もしかしたら残り一匹かも知
れないな」
「そうだったんですか。……humaさんが村人で、伯爵さんは人狼で、伯爵さんはhuma
さんの村人カードを奪ったということも当然考えられますよね?」

 snoweは、油断なく聞く。テーブルの下には、いつでも取り出せるようジュラルミンシ
ールドが用意してあった。

「俺が人狼なら、とっくに有理を殺してるんじゃないか。と言うか、のんびりお茶なんて
飲んでないよね。もし俺が人狼なら、最低でも六人まで人数を減らさなきゃいけない。最
悪の場合、自分を含めて二人までだな。とても、誰かを生かす余裕なんてないと思うんだ
が」
「有理さんが人狼で、手を組んでいるのかも知れません」
「はっはっは、まさか。俺はともかく、有理まで人狼に見えるかい?」
「確かに、伯爵は人狼でもおかしくはないけれど、有理さんはなんかそんな気はしないな
ーという気もしなくもないようなあるような」

 AICEは、乾いた笑いをしながら言う。

「まあ、どうせ俺が信用されないであろうことは解ってたからいいけど。二人が村人だっ
て解って良かったよ。後は男爵、右、なめねこ、一真、まな、andanteだけかな。俺視点
の人狼候補は」
「……? geminiさんや綾乃さん、xiwongさんには会ったんですか?」
「ああ、序盤にちょっとね。多分その三人が人狼って事は無いと思うよ」
「そうですか。どうしてその三人と一緒に行動しなかったんです?」

 伯爵は、ぐいっと紅茶を一気にあおってから答える。

「……誰一人として、俺を村人と信用しなかったんだ。信じてくれたのは悲しいかな、有
理だけだ。こう、伯爵だからこそ何でもやる、と思われて本気で全然信用されなかった。
悲しいよな」
「気持ちは分かる気もします。……それで、他には誰に会いました?」
「ハングリーサンと、死体となったtaraだけかな。ハングリーサンはこう、脱兎の勢いで
俺から逃げて行ったよ。ありゃ、間違いなく村人だったな。taraは、何か人狼カード握っ
て死んでたぞ」
「え?」

 がたん。snoweが思わずテーブルに乗り出し、紅茶が揺れる。

「多分、人狼がtaraをぶっ殺して、カードを交換したんじゃねーかな。だから正直、村人
カードを見せたぐらいで信用しないってのは正しい。人狼は、村人の中に潜伏してる」
「……だったら」
「だからこそ俺は、多くの人間と接触して、そいつが人狼かどうか確かめてる。俺は、人
の嘘ぐらい見抜けるからな。隠し事がある奴はすぐに解るんだよ。知ってるだろ?」

 snoweもAICEも、何も言えずに伯爵を見る。
 この男を、信用していいのかどうか。

「まあ、いいけどよ。此処に篭もってりゃ、俺が人狼を見つけ次第ちゃんと殺しておくか
ら。ああ、俺が死んだという放送が流れたら、後は宜しくな。それまでは、隠れてるだけ
でいい」

 そう言うと、伯爵は立ち上がる。

「あれ伯爵、どこ行くんですか?」
「トイレ」
「あ、行ってらっしゃい」

 そして後ろを見せ、無警戒に歩き出す。

「伯爵さん」

 それを呼び止めるsnowe。

「ん、何だ?」
「どうして有理が、AICEさんの制服を着ているんですか?」
「あ、言われてみれば」

 AICEは、有理の着ているセーラー服をしげしげと眺める。

「更衣室にあったから、拝借したんだが。そうか、AICE野郎のだったか。いや、有理が
途中川に落ちてな。此処には、着替えを探す目的で来たんだよ。そうしたら丁度良く制服
があったもので、まあ、サイズは少しばかり大きいみたいだったけど着て貰ったんだ」
「……そうですか」

 伯爵は家庭科室の扉を開けると、出て行った。

「……ねぇ、有理。今の伯爵さんの話、本当?」
「はい、本当です」
「……うん、そっか。ごめんね、疑って」
「いいえ、こんな状況ですから仕方ありませんよ」

                                 【残り13人】

 

「にゃー」
「ごろごろー」
「にゃー」
「ごろごろー」
「もふもふにゃー」
「ごろごろー」

 一人と一匹はくつろいでいた。

「何か、こうしてると余り綾乃のことを言えないにゃんね」
「そうだにゃー」
「真似するにゃあ」
「にゃー♪」

 まなは、andanteを抱きしめてすりすりする。

「……このまま、誰かが人狼を全部倒してくれればいいのにね」
「にゃー。多分世の中そう甘くないにゃ」
「うー」
「唸っても甘くないものは甘くないにゃ」

 そんなことを話してた時、保健室のドアが開き、誰か入って来た。

「geminiさんお帰りー」
「あ、gemi……にゃっ!?」

 そして銃声が二回響く。

『03:andanteと16:まなが死亡しました。残り、11人です』

 人影はバックパックを一つ担ぐと、物言わぬ死体となったまなからコルトパイソンを抜
き取り、保健室を後にした。

                                 【残り11人】

 

「そろそろ動かないと不味いか」
「ですね」

 酒場で、相変わらず男爵は酒を飲んでいた。

「今日は眠いから、明日から頑張ろう」
「ですね」
「お邪魔しまーす」

 右は、元気良く挨拶しながら扉を開けた。

「右さん危なぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああい!!!!」

 なめねこは右にタックルをし、引き倒す。

「な、なんだ?」
「襲撃にしては、何か間抜けすぎる声が聞こえましたが」

 そう言いつつ、油断無く一真は武器を取る。

「だから右さん! わざわざそんな、要らない! そんな度胸は! そんな度胸は何も要
らない!」
「でもなめねこさん、この間命は投げ捨てるものだって」
「そんな世紀末バスケの話は! 現実に当てはめてはいけない! これはゲームじゃなく
て現実なのよ、右さん!」
「そっかー」

 入り口から、そんな声が聞こえて来る。

「おい一真、あれ人狼だと思うか?」
「いえ、思いません」
「俺もそう思う」

 しばらく待ってると、紫色のオブジェクトを高々と掲げた右と、ボウガンを構えたなめ
ねこが酒場へと入って来た。

「いらっしゃいませ」
「あ、どうも。ほら、右さん」

 右は事前の打ち合わせ通り、二人の首輪に向けてスイッチを押した。

『どうやら10:男爵は村人のようだ』
『どうやら04:一真は村人のようだ』

「……なんだそれ?」
「ああ、よかった。二人とも、村人だった」

 なめねこは胸を撫で下ろす。

「わーい、仲間仲間」

 右は男爵に駆け寄り、隣に座った。

「ええっと、これはですね……」

 何故か右のことなのに、なめねこが詳しく説明しだした。

                                 【残り11人】

 

 サングラスを掛けた男が、夜の廊下を歩く。
 理科室と書かれたそこに入ると、マッチとアルコールランプを取り出し、全てのガスの
元栓を開けていく。
 窓を開けて外に出ると、窓を閉めてガスが漏れないよう密閉する。
 そしてアルコールランプに火を灯すと、ガスが充満するのを待った。

「そろそろかな」

 男は振りかぶり、アルコールランプを投げ入れる。それは窓を破り、そして、爆ぜた。
 爆音。
 しかしそれは学校を吹き飛ばす程ではなく、ごうごうと燃えさかる炎が広がるだけだっ
た。

「……まあ、そう上手くは行かないか」

 男はそう言って踵を返す。
 少し派手な火葬になったかな、そう思いながら。

                                 【残り11人】

 

 けたたましいベルの音により、お茶会は中断させられた。

「火事? 爆発? 煙?」

 AICEが窓から顔を出すと、下の階から炎が迫っているのが見えた。

「二人とも、煙を吸わないようにして! 逃げるよ!」
「あ、はい」
「分かりました」

 三人は、非常階段を駆け下りる。

「しかし、一体誰がこんな……」
「そんなの、伯爵さんに決まってるじゃないですか!」
「伯爵は、村人でも信用出来なければこれぐらいやりそうな気もしますがマアとにかく逃
げましょう」

 火の周りはそれ程早くなく、三人はあっさりと校舎の外に出られた。
 そこには、サングラスを掛けた男が立っていた。手にはマッチ箱。

「やっぱり伯爵が人狼だった!」
「AICEさんさっきと言ってることが違う!」
「あ……」

 AICEはディス・リボルバーを取り出すと引き金を二回引いた。
 パンパンと軽い音が響く。

「―――……」

 サングラスの男は何かを言おうとしたが、頭に二発銃弾を受け、倒れた。
 揺らめく炎が、血溜まりに沈んだサングラスの男を照らす。そこには。

                                 【残り10人】

 

「さて、どうするか。一真、取り敢えず酒」
「はい」

 男爵は、朝日を眩しそうに見ながら、カウンターへと座る。

「……おいなめねこ、お前何喰ってるんだ」
「俺特製の焼き肉丼ですが。男爵も食べます?」
「くれ」
「はーい」

 なめねこは立ち上がると、厨房に入り、男爵の分の焼き肉丼を作り始める。

「さて、どうするかな。残り11人の内、4人はここにいる訳だが」

 男爵はそう言うと、一真に渡されたグラスを一気にあおる。

「俺達が四人でここにいる限り、首輪が爆発することはないってことですよね」
「あれ、右さんがまともなことを言ってる……?」
「俺はいつもまともだよ! ひどいよなめねこさん!」

 男爵に焼き肉丼を持って来たなめねこが、右の発言に驚く。

「今まで、どれだけなめねこが苦労して来たか解る発言だな……」
「なめねこさん……」
「何で二人とも、なめねこさんに哀れみの視線を向けるの!? おかしいよ! 俺、みん
なが思ってるほどひどくないって!」

 その時、不意に扉が開く。

「おはようございます」
「俺だってちゃんと言われたことぐらい出来るよ!」

 右は入って来たxiwongに人狼チェッカーを向けるとスイッチを押す。

『どうやら05:xiwongは人狼のようだ』

「ほらー!」

 右は勝ち誇ったように人狼チェッカーをみんなの方へ掲げる。
 その瞬間、派手な銃声が轟いた。

                                  【残り9人】

 

 ショットガンが吹き荒れ、酒場は西部劇のような惨状を呈していた。

「おい一真、なめねこ」
「はい」
「なんですか」

 男爵はグラスの酒を名残惜しそうに舐めながら、言う。

「なめねこがボウガンで動きを止めて、一真があれを当てろ。解るな」
「はい」
「まあ、やれと言うならやりましょう。それで男爵は?」
「酒飲みながら幸運を祈ってる」
「……」
「……」

 なめねこと一真は、目と目で「この大人は駄目な大人だ!」と会話した。

「それじゃあ、撃ち終わった瞬間にやれ。ポンプアップの隙を少しでも拡げてやるんだ。出来るな」
「バルログ使いの私からすれば、タイガーショットの隙を縫うなど造作もないこと」
「それじゃあ、行け」

 壁にしたカウンターが、ゴリゴリと削れて行く。このままでは、近い内に壁を貫き蜂の
巣にされるだろう。
 その時、なめねこが動いた。

「!?」

 その一射はxiwongの動きを一秒止めた。
 そしてその一秒の間に、一真は火炎瓶をxiwongへと投げ、足下に炎が広がった。

「やべえ、外した!」
「オイ、どうすんだよ」
「このボウガンって、装填に十秒以上かかるというか、ちょっと座ったままで装填するの
は難しいんだけれど」
「あ、あれ?」
「どうした」

 しかし、銃撃音は止んでいる。
 何が起こってるのかと、一真はカウンターからそっと顔を出す。

「あ、xiwongさんの髪に炎が燃え移って、消そうとしてます」
「それを早く言え」

 男爵はアイスピックを取り出すとカウンターの影から躍り出る。

「あ……」
「悪いな」

 それだけで、魔女の心臓にアイスピックを深々と突き刺した。

                                  【残り8人】

 

「どうして、死亡の放送がなかったんでしょう?」

 有理は、疑問に思ったことを訊ねる。

「それはやっぱりアレじゃないか。学校使って放送してたから、燃えてしまったので誰も
アナウンス出来なくなったとかそういう」
「そう考えるのが妥当ですね」

 うんうんと、snoweはAICEの仮説に頷く。
 その時。
 がさがさと、何かが近付いて来る音がした。

「snoweさん、有理さん!」
「はい、二人とも私の後ろに」

 snoweがジュラルミンシールドを構えると、茂みの中から疲れた様子の綾乃が現れた。

「あやのん!?」
「……三人の内、誰が人狼ですか。それとも、三人とも人狼ですか?」
「いや、私達は全員」
「有理さんは人狼の可能性があります。けれど、私とAICEさんは村人です」
「ってあれー!? snoweさん、それは」

 綾乃は、注意深く判断する。
 自分の推理を信じた方がいい。
 人を信用するな。
 そう自分に言い聞かせて、怪電波銃を構えたまま三人を見据えた。

「綾乃は、自分が人狼でないと証明出来ますか?」
「……出来ません。村人カードならありますけど。でも、それを言ったら三人が人狼では
ないという正面も出来ませんよね」
「マア、確かにそういうパラドックスみたいなのはソレ、とりあえず落ち着いて話し合い
ませんかあやのん」

 綾乃は考えた。
 二人の言うことはどれだけ信用出来るのか。
 何も言わない有理はどれだけ信用出来るのかを。
 そして。

「二人が人狼だ!」

 綾乃は引き金を引いた。
 ピロピロピロという間抜けな電子音と共に発生した怪電波はsnoweのジュラルミンシ
ールドを無視し、snoweを黒こげにした。

                                  【残り7人】

 

「右、お前にしては珍しく俺の役に立った」
「右さん、守ろうとしたけど、流石に人狼の前に飛び出されたらちょっと無理です」
「右さん、えーっと、あの世でも頑張って小説書いて下さい」

 焼け落ちる酒場を尻目に、三人は歩き出す。

「……俺のサケが」
「二言目にはそれですか。もうちょっと右さんをこう、偲びましょうよ」
「貴重なサケの中で燃え尽きるなら、右はきっと本望だったろう」
「右さん、余りお酒は飲めないって言ってましたよね……」

 一真は、生前の右と話した幾つかのことを思い出しながら言う。

「いいんだよ、どうせ人間生まれたらいつかは死ぬんだよ。その死に方がサケに溺れてだ
ったら贅沢な方だろ」
「贅沢かどうかはさておき、何と言うか、あの死に方は正直なかったと思いますが」
「僕もそう思いますが」
「右も最後に人狼が占えて、幸せだったろうよ。今頃あの世でほら男爵さん! 俺活躍し
たじゃないですか! 頭おかしくないですよね! 俺はまともだった! とか言って勝ち
誇ってるよ、絶対」
「……まあ、確かにそんな気はしますが」
「……右さんって、やっぱり相当だったんですね」

 なめねこは、一真の相当と言う言葉に苦笑しながら焼け落ちる酒場を仰ぎ見る。

「しかし、これからどうするか。人狼チェッカーは右にしか使えないしな」
「まあ、もう手当たり次第に出会う人出会う人殺っちまうのがいいんじゃないかという気
も割とする。疑わしきは罰せよ形式で」
「僕も、まあこんなことが起こったしそれもやむなしかなと」
「どうせ伯爵が人狼だから、取り敢えず伯爵は見つけ次第殺そう。それ以外は見つけてか
ら考えよう」

 三人は頷くと、それぞれ猟銃とボウガンとディス・マシンガンを構えて歩き出した。

                                  【残り7人】

 

 乾いた音が四発。
 内の二発が当たり、綾乃はあっさりと絶命した。

「このあやのんはもう目がイっちゃってたので、殺るしかなかったというか殺ってしまっ
たはいいが、もう弾が尽きたしああでもあやのんの武器を貰えばいいか」

 AICEは、平常心を保とうとしながら、色々と動揺しつつ綾乃の手から怪電波銃を取る。

「えーっと、何だか色々と良く考えると私は村人しか殺してない気がして来たとかそうい
う酷い展開な気も無きにしもあらずだと思うけれど、そもそも何故か村人達がのんびりお
茶会してる私達に牙剥いて来たのでこれはもう割としょうがないと言うか、しょうがない
ならしょうがないでサクッとあやのんを殺っちまうべきだったと言うか、とにかくsnowe
さんごめんなさい」

 AICEは黒こげになったsnoweの死体に頭を下げる。

「AICEさん」

 有理が、虚ろな目で問いかける。

「AICEさんは、本当に人狼じゃないんですか?」
「いや、何というか私とかsnoweさんが人狼だったらとっくに有理さんとか殺す機会は
幾らでもあったよね、とか言うのを信じて貰うしか」

 AICEの説得を、銃声が遮った。

                                  【残り6人】

 

「やべえ、外した! ちょっとこの距離はきつかったか。と言うか、或る意味狙い過ぎに
狙ってるような部分に当たってしまったな。はっはっは」
「やっぱり伯爵が人狼じゃねぇか!」
「いや待て、それだと俺が有理を殺さなかったのがおかしいだろ!」

 伯爵の放った弾丸は、AICEではなくその手に持った怪電波銃を弾き飛ばし、破壊した。

「じゃあ何か! まだ見ぬ男爵やなめねこ君、右さんやらが人狼だとでも言うのか! な
らば何故あの時私とsnoweさんのお茶会空間を燃やして逃げた!」
「どうせAICE野郎とか男爵とかが人狼なんだろ! 俺には解る! 俺と男爵が同じ陣営
になった事なんてねぇんだよ昔から! そして俺は確かにあの場に有理を置いて逃げた
が、別に校舎は燃やしてねぇ! マジで燃やしてねぇ! andanteとまなはちょっとこう
殺したんでそれ、色々こうあれがあれで逃げただけで!」
「何だよ! あれがあれって! 最早言葉になってねぇよ!」
「うるせぇ! 俺が人狼だと全て説明がつくかも知れないが、俺は村人なんだ! そうい
う訳で死ね、AICE野郎!」
「イヤだ、逃げる!」

 AICEはそう捨て台詞を残すと、茂みをかき分けて姿を消した。

「……さて、有理。お前は誰を信じる?」
「私、私は……」

 有理が何か言おうとしたその時。

「おい、銃声こっちの方だよな?」
「大分近いと思います」
「私に任せて下さい」

 遠くからそんな声が聞こえて来た。

                                  【残り6人】

 

「居たぞ伯爵だ、殺せ!」

 男爵はそう言いながらディス・マシンガンをパラパラとばらまく。

「おい、俺村人だって! やめろよ!」
「うるせえ、お前が人狼じゃなかったら誰が人狼なんだ!」
「AICE野郎とか男爵とかxiwongとか色々いるだろ!」
「確かにxiwongは人狼だったが、それは別に伯爵の白証明にはならない。そして私が村
人なことは右が証明した」
「酷ぇ! と言うか右なんかに証明出来るのかよ!」
「それが出来たんだよ! 俺も驚いたよ!」

 ごろごろと転がって回避しながら、二人は罵り合いを続ける。

「あ、あの、男爵さん」
「ん、何だ」
「本当に伯爵さんが人狼なんですか?」

 男爵は少し考え、言った。

「もしかしたら違うかも知れないが、別に違っても問題あるまい」
「ええー」

 それはどうなの、と言う表情でなめねこが男爵を見る。

「取り敢えずお前等固まれ。そして俺を守れ」
「え、ええー」

 気が付くと一真は二人から距離を置いていた。
 そこにコルトパイソンを持った伯爵が茂みの中から現れ突っ込んでくる。

「相打ち上等ぉ!」
「死ね、伯爵!」
「ちょ、その位置は!」

 男爵のディス・マシンガンは伯爵の胸を捉え、その流れ弾はなめねこに当たり、伯爵の
撃った弾も男爵の胸を捉え――後に残ったのは三人の倒れた男と、それを呆然と見ている
一真だけ。

 それでもまだ、村に平和は訪れない。

                                  【残り5人】

 

 一真は悪夢を見ているような気分で、その場を後にした。
 どうしてこんなに人が死んで、終わらないのか。
 呆然としたまま歩いていると、一人の少女と出会う。
 有理だ。

「……一真君?」
「有理……」

 この少女が、人狼なのだろうか。
 ふと思う。
 この少女を殺したら、悪夢は終わるのだろうかと。

「一真君が、人狼なの……?」

 けれど。
 その言葉は、不思議と嘘を吐いてる気がしなくて。

「ううん、違うよ」

 そう言って、一真は猟銃を捨てた。

「これ、弾入ってないんだ。飾りだよ」
「……そっか」

 一真は有理の近くの木に、背を預けるようにして座った。

「有理は、誰が人狼だと思う?」
「AICEさんは逃げていっちゃったし、伯爵さんは私を撃たなかったし。他に会った人は
みんな死んじゃった」
「男爵さんとなめねこさんと伯爵さんは、あっちの方で死んでるんだけど。それじゃあ
AICEさんが人狼なのかな?」
「そんな感じは、しなかったと思う。右さんは?」
「俺の目の前で死んじゃった。xiwongさんと一緒に。xiwongさんは人狼だったけど。そ
ういやgeminiさんは? まだ生きてるよね?」
「geminiさんは、AICEさんが仕留めてたよ」
「……やっぱりもう、AICEさんしかいないような」
「一真君が人狼なら、今ここで私を殺してるよね?」
「どうかな。武器が無いだけかも」

 一真が冗談めかして言うと、有理はスカートの中から不似合いなごつい銃を取り出した。

「それじゃあこれ、一真君にあげる」
「え、いや」

 一真は後ずさった、その時。銃声がして、44マグナムが弾け飛んだ。

「また外したよおい!」

 そしてそこには、サングラスを掛けた学ラン姿の男が立っていた。

                                  【残り5人】

 

「やっぱり、伯爵さんが人狼だったんですね」
「まあ、その通りだ。と言うか、冷静に考えて俺しか人狼いないよなこれ。そしてこう、
今外したのは決して俺の腕が悪いとかそういう事ではなくて、防弾チョッキの上からでも
ディス・マシンガンとか喰らったら余裕でアバラがイカれたとかそういう事なんだ。有理
が銃を持っているのは知ってたので、こう、確実にどうにかするにはどうすればいいかな、
と息も絶え絶え様子を見ていた訳ですな。っつーか、冷静に考えてジュラルミンシールド
でも5点抜けてくるディス・マシンガンの弾とか、防弾チョッキとか着てても全然痛いっ
て言うね。誤算と言えば誤算だったね、困ったね」

 伯爵は、笑いながら一歩一歩、二人へと近付いて行く。

「どうして、私を殺さなかったんですか?」
「俺一人だと近づけない相手も、有理と二人なら近づけるだろ? 後は、適度に疑惑の種
を残しておくことで勝手に殺し合ってくれないかな、と。全員殺しきるには、弾薬の量が
明らかに足りてなかったんだよな。一発必中で殺して行ければそうでも無かったが。見て
の通り思ったより結構外すんだよ。まあ、射撃訓練とか受けて無いから当たり前と言えば
当たり前なんだけどな」
「それは、嘘です」

 有理の言葉に、伯爵は足を止める。

「何が嘘だ?」
「それじゃあ、何でAICEさんが逃げた時、私を殺さなかったんですか。おかしいじゃな
いですか。その時点ではもう、私を生かしておく意味なんて無いじゃないですか」
「……あー。それはまあ、アレだよ。アレ。気紛れ。どうせ後で殺すんだから、今殺さな
くてもいいとか言う。それにあの時はまだ、有理は武器を持っていただろ。だからこう、
逆に殺されるかも知れない、みたいな。44マグナムって、インド象の頭でも撃ち抜ける
んだぜ? 防弾チョッキ一枚で防ぎきれるかどうか解らないだろ。微妙に」
「そんな嘘、信じると思っているんですか?」
「いやいや、嘘じゃないって。俺人狼だもん。余裕で。ちゃんと全員皆殺しにする気満々
でしたとも」

 そう言って、また一歩距離を詰める。

「ああ、そうか」

 一真は口を開く。

「人狼と同じだ」
「……クックック」

 伯爵は、顔を押さえて笑う。
 愉しそうに愉しそうに、笑った。

「一応勝とうとする。勝てるようにはする。けれど。別に、負けてもいいやって考えてた
んだ」
「……空が青いな」

 伯爵は、笑いながら二人へと近付く。
 外しようの無い距離にまで、近付く。

「伯爵さん」
「何だ」

 一真は、サングラスの奥の瞳を見据え、言う。

「僕だって、男の子なんです。男の子には、意地が……あるんですよ!」

 そう言って、一真は伯爵へとタックルを仕掛けた。
 伯爵はよろめき、その手からデザートイーグルが転がる。
 その先には、有理がいた。

                                  【残り5人】

 

「有理、撃て!」
「中学生に押し倒される情けない俺。と言うか、マジでディス・マシンガンは痛かったん
だよな。と言うか、何だ。俺防弾チョッキ着てるし、何だ。しまったな、AICE野郎を殺
しておけばうっかり外してカズマーンが死ぬと有理の首輪が爆発! 俺勝利! みたいな
ドラマチックな状況に出来たのか。しまっつ」

 伯爵は必死に一真を退けようとするが、一真はそうはさせじと伯爵を押さえ込む。
 有理はデザートイーグルを構え、震える腕で照準を定めた。
 足も震えていて、とても的を狙える状態ではない。

「やめとけ、やめとけ。自分の足を撃つだけだぞ」
「有理、撃てー!」
「もしくは、カズマーンに当たるか」
「有理、撃て! 伯爵さんは、伯爵は、人狼なんだ! みんなを殺した!」
「人を撃墜王みたいに言うなよ。俺は四人しか殺してねーよ」
「有理!!」

 それでも。
 有理は照準を定め、引き金を引いた。
 森の中に、銃声が木霊する。

                                  【残り――】

 

「さて、十分盛り上がったかな」

 伯爵はポケットから鋏を取り出すと、それを一真の太腿へと突き刺す。

「がぁっ」

 そして悠々と起き上がると、伯爵はデザートイーグルを拾った。

「訓練もしてない奴が、そう簡単に大型拳銃を的に当てられる訳無いだろ。良く考えろよ。
第一、華奢な中学生何かがそんなもん撃ったら、反動で肩が余裕で外れるわ。訓練された
軍人でさえ、デザートイーグルは片手では撃てない。そんなの常識だよな」
「ああっ!!」

 脱臼し、痛みに藻掻く有理の肩を踏み付けながら、伯爵は笑う。

「そもそも何だよ、負けてもいいって。そんな訳無いだろ。俺はどんな勝負も、常に勝つ
為にやってるよ。まあ、たまに後の二勝の為にその時の一敗を選ぶ事は在るけどな。全く、
勘違いも甚だしい」
「あああああっ!!! ぐぃっ……!」

 勝者の余裕を見せるかのように、ぐりぐりと外れた肩を抉るように踏み付ける。

「殺せる時に殺さなかったり、一見無駄な行動をするのは、推理を攪乱する為の常套手段
だろ? 全ての行動に意味が在ると思うな。どう見ても俺が人狼だって言うのに、読者の
中にはまだ俺が人狼じゃないって思ってる奴等も居るしよ。疑わし過ぎて逆に怪しく無い
ってか? まあ、賢明な読者諸君はとっくに解ってるだろうが」

 伯爵は、デザートイーグルを両手で構え、有理の頭部へと押しつけ。

「俺が、人狼だ」

 乾いた銃声が響いた。

                                  【残り4人】

 

「ようやく油断、してくれましたね」

 一真はデリンジャーから漂う硝煙を吹き消しながら、物言わぬ伯爵の死体に語りかける。

「伯爵さんは、今まで一度も油断しませんでした。正直、こんな小さい口径の銃じゃ、い
つ撃っても殺せる気がしませんでした。けど。最後の最後で、ようやく油断してくれまし
たね」

 有理に覆い被さったそれを蹴ってどかすとか、一真は有理を助け起こす。
 そして宣言した。

「だから。僕の……僕達の勝ちです、伯爵さん」

 仰向けに転がされたその死体の顔は、清々しく笑っていた。

「一真、君……」
「全部、全部終わったよ」

 首輪から、naviaさんの声で通信が入る。

『すべての人狼を退治しました。多くの犠牲の上に、ついに村に平和が訪れました。村人の勝利です!』

 

01:AICE
ディス・リボルバー:村人:生存
02:綾乃
怪電波銃:村人:死亡
03:andante
防弾チョッキ:村人:死亡
04:一真
デリンジャー:村人:生存
05:xiwong
ポンプ式ショットガン:人狼:死亡
06:佐藤
N.E.P.:人狼:死亡
07:gemini
ひのきのぼう:村人:死亡
08:snowe
ジュラルミンシールド:村人:死亡
09:tara
ボウガン:村人:死亡
10:男爵
原子力空母と搭載機および乗員一式:狩人:死亡
11:提督
猟銃:村人:死亡
12:なめねこ
トンカチ:村人:生存
13:伯爵
デザートイーグル:人狼:死亡
14:hungrysun
リボルバー:村人:死亡
15:huma
鋏:村人:死亡
16:まな
コルトパイソン:村人:死亡
17:右
人狼チェッカー:村人:死亡
18:有理
44マグナム:村人:生存
19:euro
ディス・マシンガン:村人:死亡
20:yorozuya
ナイフ:村人:死亡

 

                              【And That All...?】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 naviaさんは俺達に殺し合いをして貰うと言った後、無惨にも06:佐藤(誰だっけ?)
を虐殺した。
 そして出席番号一番にバックパックを渡すと、五分時間を空けて次の人にバックパック
を渡す。
 05:xiwongさんのバックパックが不自然に膨らんでいたところを見ると、xiwongさ
んに配られた武器は毒物ではなくかなりの重火器だろう。重火器が与えられるのは殺人鬼
役と相場が決まっているので、xiwongさんはきっと人狼に違いない。人狼カードを引い
たら接触して、村人カードを引いたら関わらないようにしよう。そう決めた。
 それから暫く観察していると、taraと言う人のバックパックもまた不自然に膨らんでい
るのが見えた。あいつも人狼か。
 バックパックを渡し始めてから、一時間ばかり経った頃だろうか。ようやく私の番が来
た。不自然に膨らんでいるバックパックはもう一つ見えたので、残る人狼は16:まなか
17:右、18:有理、19:euro、20:yorozuyaの五人の中に一人となる。教室を出
て歩きながら自分のバックパックを開け、中に鋏と村人カード、水と大量のハートチップ
ルが入っているのを見て確信した。やはり、人狼は渡される武器が豪華なんだ。うん、そ
うじゃないとゲームにならないもんな。私より後ろの五人、そしてxiwongさんとtaraに
は気を付けよう。そう思い、歩き出す。
 校舎を出たところで伯爵が立っていた。ビビったが、余り表情に出さないようにして話
しかける。
「よう」
 前に向こうから話しかけて来た。
「どうも」
 軽く会釈を交えてそう返す。
「よしhuma、一緒に行こうぜ!」
「いいぜ!」
 取り敢えず即答した。私の完璧な理論によると伯爵は村人だ。何の問題もない。
「まあ、その前にお前、カードを見せろ」
「ああ、分かった」
 ポケットから村人カードを取り出し、それを伯爵へ渡す。
「よし、お前が味方で良かった。行こうぜ」
 伯爵はそう言うと、私にカードを返却する。私はそれをポケットに入れると、既に歩き
出してる伯爵に追いつくため、小走りに後をついて行った。

「ところでhuma、武器は何だった?」
「その前に伯爵、一応カード見せてくれ」
「ああ、いいぜ」
 そう言って伯爵は村人カードを見せる。やはり私の完璧な理論は間違っていない。
「私は鋏だったな。私でさえ鋏と言うことは、gemini辺りはひのきの棒でも配られてるに
違いない。伯爵の武器は?」
「これだ」
 そう言って、伯爵はごっつい銃を取り出す。重そうだ。
「何だそれ」
「デザートイーグル50Action-Express版。レベルⅡ規格までの防弾チョッキなら軽々貫通
する、自動拳銃最高峰の威力を持つ大型拳銃だ。しかし、携行性やその他の問題から、実
用性は低いと言われているな。確かに片手で撃てない程の大口径ってのは実用性が低い」
「何で片手で撃てないんだ?」
「肩が外れるからだ。と言うのは嘘で、実は大人であれば女性であっても姿勢次第で片手
で扱える。ただ重すぎて、片手で扱うと命中精度が極端に落ちるんだ」
 そんなもんか、と思う。
「使い方は多くの自動拳銃と同じ。安全装置を外し、スライドを後ろまで引き、狙いをつけ、そして」
「お、おい伯爵。やめろよ。怖いだろ」
 冗談のつもりか、伯爵は私に狙いをつける。
「……なあhuma。お前、自分のカードを見てみ?」
 今の伯爵に逆らうのは危険だ。そう判断した私は、自分のポケットからカードを出す。
そこには人狼、と書かれていた。
「え?」
「引き金を引く」
 重い音が響いた。胸から熱いものがこみ上げ、吹っ飛ぶようにして仰向けに倒れる。あ
あ、私は。死ぬのか。
「残りは六発か。うわ、本当にこいつの支給品鋏だよ。そして何だ、この大量のハートチ
ップルは。これはアレか。humaはそういうキャラクターか。理解した」
 伯爵が何か言ってるのが聞こえるが、それも段々遠くなり、やがて目の前が真っ暗に―
―。

                                 【残り18人】

 

 支給品の説明書には、S&W M29と書いてあった。それは44マグナムと呼ばれる回転
式拳銃であり、発売された当時は世界最強の拳銃であったらしい。弾倉は六発。私はそれ
を付属のガーターベルトで太腿に隠すと、学校内を探索する。一階の給食見本でフォーク
を見つけた時、放送が入った。

『15:humaが死亡しました。残り、18人です』

 人狼はもう動き出したらしい。村人のカードを持つ私としては、落ち着いてはいられな
い。狙われるとしたら学校を出てすぐの可能性もある。私は玄関へ向かうと、そこから走
って木々の中に入った。
 走って、走って、走る。息が切れるまで走る。そして。
「おや」
 そこには09:taraさんが立っていた。

 支給品はフォークだと嘘を吐いて、私はtaraさんの出方を見ることにした。
 常に右手はボウガンのトリガーにかかり、最大限警戒しているように思える。心細いの
だろうか。少なくとも、打って出て人狼を全滅させよう、と言う意思は見えない。
 走って逃げようとすれば、撃たれる可能性もあった。しかし、言うことに従ってる限り
は危害を加えようとはしないだろう。そう思いついて行き、小屋へとついた。
「使われていないログハウス、だろうね」
 聞いてもいないのに、説明してくれる。不安なのか、それとも。
「何もないところだけど、入ってくれ」
 私はこくんと頷き、後へ続く。
 中はそこそこ広くて温かかった。プロパンガスと水、簡素な台所があり、ベッドの数は
一つ。誰が、何のためにこんな場所に小屋を建てたのだろう。
「お茶でも淹れてくれないか?」
「……はい、分かりました」
 お湯を沸かし、急須にお茶っ葉を入れる。
 taraさんは椅子に腰掛け、ボウガンを机に置いて私を見ていた。変な動きをしたら、い
つでも私を撃てるように備えているのがよく分かった。もしかして、私がhumaさんを殺
して、村人のカードを奪った可能性を考えているのかも知れない。それはまず無いだろう
と思いつつも、一応警戒してるんだろう、きっと。それなら。
「大変なことに、なってしまったね」
「そうですね。学校でhumaさんが亡くなったという放送を聞いた時は、驚きました」
「有理は、humaが死んだ時はまだ学校に?」
「ええ、バックパックを渡されて、廊下に出た時ぐらいに。それで、危ないと思って、急
いで走って……」
「そこで私に会った、と」
「はい」
 taraさんは、何気ない話をしているようで、色々と考えてみているようだ。手元が少し
おろそかになっているので分かる。今なら、逃げ出せるかも知れない。しかし、村人が村
人から逃げるようじゃ、状況は好転しないだろう。
「お茶、入りましたよ」
「ありがとう」
 taraさんは受け取ると、それを飲む。
 私も椅子に座ると、湯飲みに淹れたお茶を飲んだ。
「そうか、やっぱり有理は村人か」
「そうですよ。taraさんと同じ、村人です」
 そして私は、taraさんの緊張をほぐすため、天国での村の話などをし始めた。

「伯爵のせいで、みんな私のことを病魔って言うんだ」
「あはは」
「全然、そんなことないのにね」
「……」
「え、何で黙るの? 確かに私は小学生までの女の子が好きだけど、別に手を出そうとか
そういうことは思ってないんだよ」
「ええ、そうですね」
 taraさんは、やっぱり病魔だ。
「なのに、全然病魔じゃないのに、みんな、みんな私のことを病魔とか言うんだ。有理も
どうせ、そう思ってるんだ」
「い、いえ……」
 あれ。何か、雲行きが怪しい。
 私は、どこかで言葉を間違ったか。
 それとも、taraさんと二人きりというのは間違ったのか。
「私は全然病魔じゃないのに、みんな病魔と言うんだ。だったら、本当に病魔になってや
ろうか。そう考えても、仕方ないだろう?」
 そう言うとtaraさんは立ち上がり、私を押し倒す。しまった、反応が遅れた。
「ど、どうしたんですかtaraさん?」
 思わず声が震える。
「こんな状況だ、いつ死ぬか分からない。病魔と呼ばれたまま死ぬぐらいなら、いっそ本
当に病魔になっても構わないよな。私は悪くない。みんなが、私のことを病魔と呼ぶから。
幸い、私は中学生までならギリギリ――」
 言いながら、私の膝を無理矢理割り、そして。
「え?」
 私は自分でも驚く程冷静に44マグナムを取り出すと、それを両手で構え、引き金を引
く。それはtaraさんの腹部を貫き、私を真っ赤に染めた。血って、熱いんだ。

『09:taraが死亡しました。残り、17人です』

 どこからか、そんなアナウンスが聞こえて来た。

「あ、あ、あ……」
 血の熱さを感じて、視界が赤に染まって、taraさんが死んだとアナウンスがされ、よう
やく震えが来た。ことりと拳銃を取り落とす。手が赤い。撫でても落ちない。水で洗おう
としたが、足りない。落ちない。
 覚悟は決めたつもりだった。人狼だと思ったら、誰であろうとも撃つ覚悟はしていた。
 それなのに、実際一人殺してしまったら、どうだ。
 手は震え、足は震え、血の匂いに咽せ、吐かないようにするだけで精一杯じゃないか。
 私は、人を殺してしまった。それも人狼ではなく、村人を。味方を。
「私は……」
 悪くない、と言うことは出来る。
 けれど、それは違うと思った。
 私は、悪い。間違った。判断を。
 だから、殺してしまった。私は人を、殺してしまった。
「うふふ、ふ」
 何故だか笑いが漏れる。震えは、どうにか収まって来た。
 私は拳銃を仕舞うと、バックパックを背負い、ふらふらと歩き出す。真っ直ぐ歩いてる
つもりなのに、何故だか視界が揺れた。
 どこかで、血を、落とさないと。

                                 【残り17人】

 

 小屋の中から銃声がし、暫くしてから18:有理が出て来た。さて、彼女は人狼だろう
か。それを木の陰から見送り、小屋へと入る。
 バックパックはそのままで、武器のボウガンもそのままだ。死体からは村人カードも出
てきた。一応彼女が人狼の可能性はあるけれど、村人の可能性の方が高い。何故なら、人
狼ならまず村人カードを確保したいと考えるからだ。
 だから私はそれを抜き出すと、taraの手に人狼のカードを持たせた。
 机の上に置いてあるボウガンは、少し迷ってから地面に置いておく。こうしておけば、
運が良ければ誰かが有理を始末してくれるだろう。体を洗ったとしても、血に塗れた制服
を見れば、誰だって警戒し、それを疑うだろうから。
「成る程な」
 不意に掛けられた声に、ショットガンを構えながら振り返る。
 そこには、13:伯爵が人狼カードを見せるようにして立っていた。

「貴方が味方というのは、心強いものですね」
「取り敢えず、此処を離れながら話そうか」
 伯爵は、そう言うと無防備に背中を向け歩き出す。私はそれについて行った。
「どうして、ここに?」
 幾つか仮説は立てられるが、分からなかったので素直に聞く。
「君は、どうやって中の二人を殺すか、見極めるか考え、木陰に隠れていた。俺は、そん
な君を木の上から観察していた。それだけだよ」
「いつの間に……?」
「さて、そんな昔の事は忘れたな」
 冗談めかすように、伯爵はそう言った。
「武器はあのままで良かったのですか?」
「扱いにくいものだし、それ程殺傷力が高くない割りに携行性が悪い。それに、病魔を人
狼と思わせる為には置いておく必要があるだろう。まあ、まず騙せないだろうけれど、一
応ね」
「病魔?」
「ああ、taraの通称だよ」
 クイ、とサングラスのずれを直しながら伯爵は言う。
「そうですか。それで、これからどうするんです?」
「俺は有理と合流する。面倒だから、中から崩したいしな。校舎の方で何か起こったら、
俺がやったと思え」
「分かりました」
 この人のことだ、何か考えがあるのだろう。
「xiwongは、そのカードを使って誰かと合流しろ。なるべく鋭く無さそうな奴がいい。
時間が経ち、疑われ始める前に、騙せそうな奴と合流しろ」
「人狼と同士討ちになるかも知れませんが」
「遠吠えが無い以上、俺とxiwongが出会えた事自体が奇跡的だ。他の仲間はうっかり殺
してしまっても構わん」
「そうですね。そうしましょうか」
「それじゃあ、な」
 伯爵は、そう言って踵を返す。私にはこのまま行けということだろうか。そう思った時、
猟銃を肩に担いだ11:提督の姿が見えた。

                                 【残り17人】

 

「これ、naviaさんから貰ったんです。佐藤さんのものだったけど、死んじゃったからあ
げるって」
 20:yorozuyaさんはそう言うと、俺にディス・マシンガンを返した。
「成る程。確かにyorozuyaさんが人狼なら、今俺を撃てば良かったですよね」
 逆に、いきなり人狼カードを見せられたら俺は取り敢えずyorozuyaさんをディス・マ
シンガンで蜂の巣にしていただろう。危ないところだった。yorozuyaさんもそう考えたか
らこそ、俺から一端武器を奪ってから人狼カードを見せたのだ。
「ええ、そういうことです。人狼は、残り二人しかいないことになります」
 そうなると、人狼は大分不利。村人の俺達は大分有利だ。
「このことは、他の誰かに話しましたか?」
「いえ、まだeuroさんとしか会ってませんし」
「そうですか。それなら、早く他の村人達にこのことを伝えるべきかも知れません。無駄
な争いや疑いを、幾つかなくすことが出来るかも知れませんし」
「そうですね。そうしましょう」
 俺は立ち上がると、yorozuyaさんに手を差し伸べる。
 yorozuyaさんはそれを取り立ち上がり、俺達は歩き出した。
「要するに人狼は最大で2だから、3人以上の集団があれば比較的安全なんだ――」
 この情報を、村人達に伝えるために。

                                 【残り18人】

 

「手を挙げろ! 武器を捨てろ! カードを見せろ!」
 提督はそう言いながら、村人カードを見せながら猟銃を構えていた。
 後ろのxiwongさんもごっついショットガンを構えながら、村人カードを見せている。
「俺達は村人ですよ。ね、yorozuyaさん」
「あ、はい」
 そう言って村人カードを見せると、提督とxiwongさんは銃口を下ろす。
「成る程、二人とも村人ですか。それなら一緒に行動しませんかな?」
「ああ、いいですよ」
 俺はなるべく嫌そうな顔にならないよう、気を払ってそう答える。
「それより聞いて下さい。人狼は、もう二人しかいないんです。最初にnaviaさんに殺さ
れた佐藤さんが、人狼だったんです」
「……それは本当ですか?」
 yorozuyaさんがちょっと早いことを言い、それにxiwongさんが食いつく。
 嫌な予感がする。俺は、いつでもディス・マシンガンを使えるように腕を緊張させてお
く。
「はい。naviaさんが、最後にスタートする私に、佐藤さんのカードをくれて……」
「提督さま。この人達は人狼です」
「え?」
 何のことか分からない。そう言った顔をする提督を無視し、xiwongさんは銃を構え。
 俺は反射的に、ディス・マシンガンをxiwongさんに撃ち込んだ。
 しかしxiwongさんは提督を壁にしてそれを回避すると、俺達にショットガンを撃ち込
んで――俺とyorozuyaさんの体を、散弾が引き裂いた。これでゲームオーバーか。
 この時俺の撃ったディス・マシンガンの弾が割と近くにいた07:geminiに流れたと知
れたのなら、俺は笑いながら死ねたのにな。

                                 【残り14人】

 

「なあ、有理」
「……はい、何でしょう?」
 俺は森を歩きながら、血塗れの服を着た少女に話しかける。
「俺は、humaを殺した」
 返事は無い。
「敵だから、殺したんだ。これは、その時の戦利品」
 そう言って俺は、鋏と村人カード……の上に人狼カードを重ねた物をポケットから取り
だし、見せる。
「時として、敵は殺さなければならない。自分がより良く生きる為に。それが、人間だよ」「……そう、ですね」
 力の無い同意が返ってくる。
「病魔は村人ではあっても、お前にとっては敵だった。だから別に、殺した事をそう悔や
む事はあるまいて。それより、病魔の汚い血で汚れてしまった服の事を悲しもう」
「……やっぱり、伯爵さんは全部分かってたんですね」
「解らない方がおかしい。有理が村人で在る事も。病魔が村人だった事も。humaが俺の
敵だった事も。humaの武器が鋏だった事も。有理がスカートの中に拳銃を隠している事
も。俺はみんなみんな、全て知ってるんだ」
 俺はそう言って、後ろを見ないでカードと鋏をポケットへ仕舞う。今後ろから撃たれた
ら、俺は何も出来ずに死ぬだろうな。そんな事を考えながら。
「伯爵さんは、私を……許すんですか? 何とも思わないんですか?」
「ああ、赦す。全てを赦すとも。既に他にも村人が村人を殺した例はあるだろうし、これ
からもきっと増えて行く。こんな状況だし仕方無い。敵は全部殺すんだ。共よそれで一時
安心だ。同じ陣営のカードを持ってるからって、そいつが味方とは限らない。世の中には、
味方の敵だって居るんだ。それに気付かず、陣営が同じだからと言ってそれを放置してい
ると、却って負けてしまう事も多々在る。そんなもんだ」
「……そう、ですか」
 俺達は森の中を歩く。着替えを手に入れる為、校舎に向かって。
「伯爵さんは」
「ん?」
「伯爵さんは、どうして私の味方をしてくれるんです?」
「気紛れだよ」
 俺は取り敢えずそう答える。
「気紛れ……ですか?」
「ああ、空が、青いな―――」
 見上げると、空は夕陽で赤く染まろうとしていた。

                                 【残り14人】

 

 私は、二人の少女の会話を聞いていた。
 別に二人とも今この場で殺してもいいのだが、片方を殺してる間に片方から攻撃を受け
ると厄介だ。今はもう、手近な盾もないですしね。
 同じ場所に固まってくれれば、ショットガンやマシンガンで一掃出来るのですけれど。
中途半端に離れたところに二人、という構図は割と手が出しにくい。
 困ったな、と思いながら猟銃を構えて、遠くから様子を窺う。風下に立っているので、
二人の会話は距離があるのに割と聞こえて来る。いや、単純に私の耳がいいだけかも知れ
ない。
 やがて二人は交渉が決裂したらしく、片方がこちらに向かって走って来るのが分かった。
 一人だけなら、やることは簡単だ。
 私は猟銃を構え、草むらの中から飛び出して来たその少女に向かって。
「え? あ、あれ?」
 身構える前に、引き金を引いた。
 ぱぁんと銃声が響き渡り、少女は胸から血を流して倒れる。確か、14:hungrysunと
言ったか。もう一人は多分、この銃声を聞いて逃げてしまったろうな。そんなことを考え
ながら、その手に持った回転式拳銃を奪う。

『14:hungrysunが死亡しました。残り、13人です』

 提督さまが死の間際に引き金を引いてしまったので、もうこの猟銃に弾はない。捨てて
行こうかな、と思ったけれど何か使える場面が来るかも知れないと思い、一応持って行く
ことにする。
 取り回しの利く、小型火器が手に入ったのはいいことだ。私はそれをスカートのポケッ
トに入れると、少女のバックパックから水と食料を奪い、その場を後にした。

                                 【残り13人】

 

「geminiさんお帰りー」
「あ、gemi……にゃっ!?」
 流石猫、明かりが無くても夜目が利く。
 俺はそんな事を考えながら、冷徹に引き金を二回引いた。無駄にサングラスをかけたま
ま夜間行動する訓練や、海外で射撃訓練をした事が在るので外す事無く、一人と一匹の体
に着弾させる事に成功した。xiwongじゃ、この二人は殺し難いだろうしな。

『03:andanteと16:まなが死亡しました。残り、11人です』

 バックパックを家庭科室に置いて来てしまった為、取り敢えず置いてある物を一つ担ぐ。
 それからまなの体を漁り、コルトパイソンを入手した。
 ついでに死姦でもして行くかな、と考えて、直ぐにgeminiが帰って来るだろうから、
そんな時間は無いか、と思い直す。
「残念」
 そう呟くと、俺は保健室を後にした。

                                 【残り11人】

 

 困った。
 探索に出てる間にandanteとまな君を殺され、その上武器もバックパックも奪われた。
 猫缶がいっぱい詰まったandanteのバックパックとお菓子のいっぱい詰まったまな君の
バックパックを見比べて、まだマシな方を選び持って行く。
 今の俺には武器がない。致命的だ。
 そして、敵は校舎に隠れている可能性が高い。何度も言うが、武器はない。どうするか。
 理科室へ行ってみても、劇薬の類は既に無くなっていた。まあ、そりゃそうだろうな。
普通真っ先に考えつくだろうし。しかし、マッチとアルコールランプを発見し、ガスが通
っていることも理解した。これでどうにか、学校を吹き飛ばせば人狼を一網打尽に出来る
のでは無いだろうか。もし既に人狼がいなくても、都合のよい隠れ場所を減らすという意
味はあるしな。
 俺は色々考えた末、これが俺に取れる唯一の賭けじゃないかな、と思いガス栓を開き、
なるべく理科室を密閉し、外へ出た。
 ガスが充満するのを待つ。
「そろそろかな」
 失敗しても、andanteとまな君を火葬ぐらいは出来るだろう。そんなよく分からないこ
とを考える。そもそもそれって、死体損壊だよね。全然供養していない。野ざらしと、ど
っちがマシだろうか。
 アルコールランプに火を点け、理科室へと投げ入れる。
 爆音。
「……まあ、そう上手くは行かないか」
 踵を返し、ゆっくりと学校から離れる。
 ああ、これからどうしようかな。参ったな。
 そもそも武器も何も無いってのが、どうしようもないよな。
 あーあ。
 本当、どうしようかな。出来ることを考えよう。
 もう、割と駄目な気がするけれど。
 考え事をしながら歩いていたのが悪かったのか、気付くのが遅れた。
「やっぱり伯爵が人狼だった!」
「AICEさんさっきと言ってることが違う!」
「あ……」
 何事かと振り向いた時、その銃口は俺の頭に向かって伸びており。
「―――……」
 俺はやめろ、と言おうとしたのだろうか。体に力が入らない。気が付いたら倒れていて、
意識が、遠く――……。

                                 【残り10人】

 

 俺はgeminiの死体から防弾チョッキを剥ぎ取ると、それを纏い、AICE野郎達三人の後
をこっそりとつけた。と言うか、geminiが防弾チョッキも無く此処まで生き延びられる訳
が無いのに、geminiの死体を漁らないとは。注意力が足りない連中だ。
 何だか綾乃が出て来て、snoweを殺し、そしてAICE野郎がその綾乃を殺すという激動
の展開が起こった。AICE野郎はご丁寧にも自分の武器の弾が尽きてる事も教えてくれた。
チャンス到来。
 俺は躍り出ると、AICE野郎の武器を狙って引き金を引く。この轟音、そして反動が心
地良い。狙い通りに弾が当たったが、俺は笑いながら言う。
「やべえ、外した! ちょっとこの距離はきつかったか。と言うか、或る意味狙い過ぎに
狙ってるような部分に当たってしまったな。はっはっは」
「やっぱり伯爵が人狼じゃねぇか!」
「いや待て、それだと俺が有理を殺さなかったのがおかしいだろ!」
 いや、全然おかしく無いんだけど。ただ、二人を殺すと俺にとっても色々と都合が悪い
と言うか。何と言うか。
「じゃあ何か! まだ見ぬ男爵やなめねこ君、右さんやらが人狼だとでも言うのか! な
らば何故あの時私とsnoweさんのお茶会空間を燃やして逃げた!」
「どうせAICE野郎とか男爵とかが人狼なんだろ! 俺には解る! 俺と男爵が同じ陣営
になった事なんてねぇんだよ昔から! そして俺は確かにあの場に有理を置いて逃げた
が、別に校舎は燃やしてねぇ! マジで燃やしてねぇ! andanteとまなはちょっとこう
殺したんでそれ、色々こうあれがあれで逃げただけで!」
「何だよ! あれがあれって! 最早言葉になってねぇよ!」
「うるせぇ! 俺が人狼だと全て説明がつくかも知れないが、俺は村人なんだ! そうい
う訳で死ね、AICE野郎!」
「イヤだ、逃げる!」
 よし、AICE野郎を追い払う事に成功した。
 後は……。
「……さて、有理。お前は誰を信じる?」
「私、私は……」
 と、その時。
「おい、銃声こっちの方だよな?」
「大分近いと思います」
「私に任せて下さい」
 ああもう。本当、思い通り行かねぇよな……。

                                  【残り6人】

 

 男爵のディス・マシンガンが、既に弾倉が空だった。
 使えない奴め。
「この人狼め! 殺すなら殺せ! しかしここでなめねこを殺そうとも、第二、第三のな
めねこが……」
「お約束のセリフを有り難う。ほらよ」
 俺は胸の痛みを我慢しながら、手帳を取り出して放る。
「これは……?」
「そこには、今まで起こったであろう事とこれから起こるであろう事が書かれている。も
しお前が生き延びたら、お前、それで漫画を描け」
「ええ……?」
「お前なら行ける!」
 俺はそう言うと、ラストシーンを迎える為歩き出す。
「一体どういうことだ」
「さあ。まあ、一人で無理だったらAICE野郎にでも手伝って貰え」
「何が何だか」
 解らないだろうな。解る方がおかしいんだ。
 俺は最初から狂っているし、気紛れだ。
 別にこういうのも悪く無いだろう?
「それじゃ、あばよ」
 返事は無い。
 こうして俺は、決着をつける為に歩き出す。
 有理と、一真を殺す為に。

                                  【残り5人】

 

 naviaが運転するヘリコプターに乗り、生存者は全員帰ることになった。勿論、爆弾内
蔵の首輪はとっくに外されているし、傷の手当てもされた上、賞金として二億五千万円ず
つ渡されていた。
「しかし、どうにも色々腑に落ちないことがあったのですが」
 AICEが、重い沈黙の機内で、頑張って発言する。
「私には、何となく全てが読めて来ました。まあ、帰って落ち着いたら話すとしましょう」
「ええー。本当ですか、なめねこさん」
「本当ですとも。私は全てお見通しだったのです」
「……そうですか」
 AICEは、なめねこに疑わしげな視線を向けながらそう言った。
「ねえ、一真君」
「……なに?」
 有理はそんな二人を無視して、一番年の近い少年へと話しかける。
「どうしてこんなことが、起こったのかな」
「……。それは、僕にも分からないよ。でも、一つだけ確かなことがある」
 有理は、黙ってその言葉の続きを待つ。
「僕達は生きている。生きているからこそ、その意味をこれから探して行ける。例え今は、
何も分からないとしても……」
 そう言いながら、一真は一筋涙を零す。
 つられるようにして、有理は泣き始めた。声を殺して。

 こうして人狼バトルロワイヤルは終わりを迎える。
 幾つかの真実、謎は語られないまま。
 けれど、それでいいのだろう。どうせ誰もが、全てを知ることなく終わりを迎えるのだ
から。

 ただ、忘れないで欲しい。
 物語はエンドマークと共に終わるが、四人の人生はこれからも続いて行くということを。

 強い風が吹き、輸送用のヘリが大きく揺れた。

 

                                 【THE END】

 

 

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最終更新:2008年10月16日 19:32