「なあ、有理」
「……はい、何でしょう?」
俺は森を歩きながら、血塗れの服を着た少女に話しかける。
「俺は、humaを殺した」
返事は無い。
「敵だから、殺したんだ。これは、その時の戦利品」
そう言って俺は、鋏と村人カード……の上に人狼カードを重ねた物をポケットから取り
だし、見せる。
「時として、敵は殺さなければならない。自分がより良く生きる為に。それが、人間だよ」「……そう、ですね」
力の無い同意が返ってくる。
「病魔は村人ではあっても、お前にとっては敵だった。だから別に、殺した事をそう悔や
む事はあるまいて。それより、病魔の汚い血で汚れてしまった服の事を悲しもう」
「……やっぱり、伯爵さんは全部分かってたんですね」
「解らない方がおかしい。有理が村人で在る事も。病魔が村人だった事も。humaが俺の
敵だった事も。humaの武器が鋏だった事も。有理がスカートの中に拳銃を隠している事
も。俺はみんなみんな、全て知ってるんだ」
俺はそう言って、後ろを見ないでカードと鋏をポケットへ仕舞う。今後ろから撃たれた
ら、俺は何も出来ずに死ぬだろうな。そんな事を考えながら。
「伯爵さんは、私を……許すんですか? 何とも思わないんですか?」
「ああ、赦す。全てを赦すとも。既に他にも村人が村人を殺した例はあるだろうし、これ
からもきっと増えて行く。こんな状況だし仕方無い。敵は全部殺すんだ。共よそれで一時
安心だ。同じ陣営のカードを持ってるからって、そいつが味方とは限らない。世の中には、
味方の敵だって居るんだ。それに気付かず、陣営が同じだからと言ってそれを放置してい
ると、却って負けてしまう事も多々在る。そんなもんだ」
「……そう、ですか」
俺達は森の中を歩く。着替えを手に入れる為、校舎に向かって。
「伯爵さんは」
「ん?」
「伯爵さんは、どうして私の味方をしてくれるんです?」
「気紛れだよ」
俺は取り敢えずそう答える。
「気紛れ……ですか?」
「ああ、空が、青いな―――」
見上げると、空は夕陽で赤く染まろうとしていた。
【残り14人】
私は、二人の少女の会話を聞いていた。
別に二人とも今この場で殺してもいいのだが、片方を殺してる間に片方から攻撃を受け
ると厄介だ。今はもう、手近な盾もないですしね。
同じ場所に固まってくれれば、ショットガンやマシンガンで一掃出来るのですけれど。
中途半端に離れたところに二人、という構図は割と手が出しにくい。
困ったな、と思いながら猟銃を構えて、遠くから様子を窺う。風下に立っているので、
二人の会話は距離があるのに割と聞こえて来る。いや、単純に私の耳がいいだけかも知れ
ない。
やがて二人は交渉が決裂したらしく、片方がこちらに向かって走って来るのが分かった。
一人だけなら、やることは簡単だ。
私は猟銃を構え、草むらの中から飛び出して来たその少女に向かって。
「え? あ、あれ?」
身構える前に、引き金を引いた。
ぱぁんと銃声が響き渡り、少女は胸から血を流して倒れる。確か、14:hungrysunと
言ったか。もう一人は多分、この銃声を聞いて逃げてしまったろうな。そんなことを考え
ながら、その手に持った回転式拳銃を奪う。
『14:hungrysunが死亡しました。残り、13人です』
提督さまが死の間際に引き金を引いてしまったので、もうこの猟銃に弾はない。捨てて
行こうかな、と思ったけれど何か使える場面が来るかも知れないと思い、一応持って行く
ことにする。
取り回しの利く、小型火器が手に入ったのはいいことだ。私はそれをスカートのポケッ
トに入れると、少女のバックパックから水と食料を奪い、その場を後にした。
【残り13人】
「geminiさんお帰りー」
「あ、gemi……にゃっ!?」
流石猫、明かりが無くても夜目が利く。
俺はそんな事を考えながら、冷徹に引き金を二回引いた。無駄にサングラスをかけたま
ま夜間行動する訓練や、海外で射撃訓練をした事が在るので外す事無く、一人と一匹の体
に着弾させる事に成功した。xiwongじゃ、この二人は殺し難いだろうしな。
『03:andanteと16:まなが死亡しました。残り、11人です』
バックパックを家庭科室に置いて来てしまった為、取り敢えず置いてある物を一つ担ぐ。
それからまなの体を漁り、コルトパイソンを入手した。
ついでに死姦でもして行くかな、と考えて、直ぐにgeminiが帰って来るだろうから、
そんな時間は無いか、と思い直す。
「残念」
そう呟くと、俺は保健室を後にした。
【残り11人】
困った。
探索に出てる間にandanteとまな君を殺され、その上武器もバックパックも奪われた。
猫缶がいっぱい詰まったandanteのバックパックとお菓子のいっぱい詰まったまな君の
バックパックを見比べて、まだマシな方を選び持って行く。
今の俺には武器がない。致命的だ。
そして、敵は校舎に隠れている可能性が高い。何度も言うが、武器はない。どうするか。
理科室へ行ってみても、劇薬の類は既に無くなっていた。まあ、そりゃそうだろうな。
普通真っ先に考えつくだろうし。しかし、マッチとアルコールランプを発見し、ガスが通
っていることも理解した。これでどうにか、学校を吹き飛ばせば人狼を一網打尽に出来る
のでは無いだろうか。もし既に人狼がいなくても、都合のよい隠れ場所を減らすという意
味はあるしな。
俺は色々考えた末、これが俺に取れる唯一の賭けじゃないかな、と思いガス栓を開き、
なるべく理科室を密閉し、外へ出た。
ガスが充満するのを待つ。
「そろそろかな」
失敗しても、andanteとまな君を火葬ぐらいは出来るだろう。そんなよく分からないこ
とを考える。そもそもそれって、死体損壊だよね。全然供養していない。野ざらしと、ど
っちがマシだろうか。
アルコールランプに火を点け、理科室へと投げ入れる。
爆音。
「……まあ、そう上手くは行かないか」
踵を返し、ゆっくりと学校から離れる。
ああ、これからどうしようかな。参ったな。
そもそも武器も何も無いってのが、どうしようもないよな。
あーあ。
本当、どうしようかな。出来ることを考えよう。
もう、割と駄目な気がするけれど。
考え事をしながら歩いていたのが悪かったのか、気付くのが遅れた。
「やっぱり伯爵が人狼だった!」
「AICEさんさっきと言ってることが違う!」
「あ……」
何事かと振り向いた時、その銃口は俺の頭に向かって伸びており。
「―――……」
俺はやめろ、と言おうとしたのだろうか。体に力が入らない。気が付いたら倒れていて、
意識が、遠く――……。
【残り10人】