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 絶対嫌悪



「―――夜景が、綺麗ですね」
 思い出したように、シャオリーが呟いた。ジェノスが窓の外へ目をやると、なるほどそこは、たくさんの光がひしめいていた。
 室内に光はなかった。ただ暗く、窓から差し込むその光と、月明かりで見えていた。
 シャオリーに視線を移すと、彼の貌は青白く照らされていた。それがなんだかひどく似合う。
 シャオリーはベッドの上に座り、ジェノスは立っていた。ジェノスとシャオリーの距離は近かったが、どこかジェノスは近づいてはならぬような印象を受ける。
 ふと、彼は静かに吐息を漏らした。その吐息に、意味はあっただろうか。いや、想像は十分につく。だが、ジェノスは逃げている。ざわざわと広がる自身への嫌悪感と背徳感から逃げている。
「……好きだったっけ?」
 はい、ごく細く彼は返す。無感動だった。
 しばし沈黙が降りた。ジェノスは何度も口を開いたが、そこからなにも出てくることはなかった。シャオリーの横顔を見ているとどうにも、彼の静寂に踏み込むことをよしとできない。数分たってやっと、ジェノスは独り言のような気持ちで話しかけた。
「…何か、飲む?ああ、といっても酒ばっかだけど」
 返答は期待していなかった。けれど彼は返してくれた。
「ホテルのドリンクバーですものね」
 シャオリーは少し笑った。それがまた、いつもの調子で、それでもジェノスは勝手に弱いと感じている。
「結構ですよ、ありがとうございます。」
 そして彼は、また夜景の方を向く。
「…じゃあ、寝ない?もう遅いから」
「あ、お邪魔でしたね。ここ」
 すいません、シャオリーはベッドの上から身を退けた。しかし、そうではない。ジェノスの言いたいことは、そうではないのだ。
「僕のことは気にしないでください」
 気にせずにいられるものか。
 おやすみなさい、そう囁いたシャオリーを抱きしめた。
 彼は、ジェノスの腕の中で僅かに身じろいで、それでもまた成すがままになった。
「…ジェノス、さん」
 子供をあやそうとしている親の口調のそれだった。そこには疑問のニュアンスも含まれていた。
「いいんです。いいんですよ、気にしてくださらないで。僕も気にしません……」
 ジェノスは頭を振った。否定だった。その意味が、シャオリーにはわからない。
「こういうことは、前からありましたから」
 言うシャオリーの顔は見えなかった。否、自ら見えないようにしたのである。
「これはね、素の顔なんですよ。誰かのものじゃないんです。だから、ずいぶん幼い頃から、僕は…………………」
最終更新:2006年09月19日 21:09