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 闇のにおいを、嗅ぐ。



 女子高生探偵、桂木弥子の助手―――脳噛ネウロからは、人の匂いが、しない。
 笹塚衛士がそれに気づくにそう時間は要せず、無意識に鼻腔をつくそれに間違いなく違和を感じる。ふとすれ違ったとき、傍に寄ったとき、その違和は笹塚をほんの少し掠めて空気に溶け込む。…それが、いやに不可思議で、いやに笹塚を安堵させるのだった。
 限りない奇抜さ、限りない暗黒。
 なんと形容すればいいのか、笹塚の語彙からは探り合わせない。あえていうならばそれは、限りなく血肉、それの腐った匂い、なのだった。
 笹塚はこの匂いを知っていた。そして、少なからずそれを纏うものを知っていた。
 X―――。
 ネウロに接近するたびに、笹塚は思うのだった。Xとネウロは、完全に重なる、ということはないが、限りなく似た部分を共に持っている。Xとネウロの匂いが同じ空気を漂ったとき、それは確信的に顕著だった。そしてそのとき、笹塚の喉の奥からなんともいえぬ、吐き気、のようなものが込み上げ、無性にその場を離れたくもなった。
 静かな嫌悪と混ざる重いものが、笹塚の喉の奥から―――。

「気づいているのだな―――笹塚」
 それはいつのことだったか、遠からぬ日のことだった。その場に笹塚は居た。そしてネウロも、当然の如く幼い探偵の傍らに立っていた。死臭に包まれたそこに、彼はどうしようもないほどに違和感なく立っていた。涼しげな貌は、おそろしさをも超越するようだった。
 桂木弥子の名推理により犯人確定と相成り、笹塚が安堵を漏らした瞬間、ふとネウロは笹塚を横切り―――。

 同時に、血だまりの中のような、肉塊の山の真上のような、そんな匂いが、笹塚を横切った。

 笹塚が悟っていたのを、ネウロもまた悟っていた。確信と畏怖のこころを抱いた。それはXに感じるものと似ていた。
 そしてふ、と思い出して湧き上がったのは、

 憎悪。

 そう、歪みきった、憎悪、なの、だった。

 笹塚は眼を閉じた。そこは容易に闇に包まれた。全ての色も音も失った。笹塚のそこには、いつも安息はなかった。

 そうして思い出すのは、どうしても、過去のぬくもり、なのだった。
最終更新:2006年09月12日 10:16