8:由実系、屁でローソクの火を消す。
「覚えててくれたんや」
今日は、由実系の笑顔がひどく愛らしいものに思える。彼女のために慎一系がバースディケーキを買って来たのだ。
早速、彼女は大きな箱を開けてケーキを皿に乗せた。
(いい年こいてこれか)
自嘲気味に笑いながら、二人はハッピーバースディを歌った。
さて、彼女がケーキに立てられたローソクの火を消す時である。この時、由実系が初めていつもの不適な、というか本当に悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
「普通に口で吹いたらおもしろくなくない?」
そうか、と慎一系は首を捻っただけだった。彼女の突拍子もない発想を彼は忘れてしまっていたのかもしれない。
まず、由実系は椅子の上に立ち上がった。そして、手馴れた様子でジーンズと下着を下ろして彼に豊満な尻を向けた。思わず慎一系はその尻を直視した。それが、徐々にケーキの高さにまで降りて来る。
(ちょっと待てよお前)
その言葉が声にならぬ内に、由実系が一発の屁を放った。一瞬、ケーキの周囲の大気が黄色く染まったかと思われるほどのものを、だ。
「おい、お前」
「ちゃんと消えてるやんか」
確かに、何本かのローソクの火が消えている。
「もう二、三発でいけるかな」
邪気のない笑顔を浮かべ、彼女は続いて五発の屁をケーキにひっかけた。結果的に、ローソクの火は全て消えた。
「じゃぁ食べよっか」
萎縮してしまっている慎一系を他所に由実系は楽しそうにケーキを切り分けている。そんな様子を呆然と見ていて気付いたことがある。彼女は自分側の部分を切り分けて慎一系に渡して来たのだ。
「何で俺がそっちやねん」
「ちゃんとトッピングしたげたやんか」
「何がトッピングやねん」
この女が放屁をどれだけ自然な行為だと思っているのかは知らないが、それを人に押し付けるのは勘弁して欲しいところである。
「ほら食べえや。いい匂いしてるって」
何の匂いだ、と彼は尋ねたい。
「……ん、おいしそうな匂い」
半笑いで言っているのが怖い。どうしても彼が食べるのを拒んでしまうのも無理はないだろう。しばらく、慎一系は目の前のケーキを呆然と眺めていた。
やがて、由実系が流石に気にしたらしい。
「じゃぁそっち食べたらいいやん」
わざとらしく頬を膨らませると、彼女は反対側の方を慎一系によこした。
「ほんまやったら点ける時におならで点けたかったんやけどな」
確かに火と屁を用いたパフォーマンスとしてはそちらの方が著名である。どちらにせよ妙齢の女が異性の友人を目の前にして行うべきものでは決してないが。
「残ってる蝋燭で試して良い?」
「火事になったら困るやろ」
屁が原因で火事になったなど相手が誰であれ言えたものではない。
「もしそうなったらおしっこで消すって」
「普通に消火器でええやろ」
「あたしが火ぃ点けたんやしあたしが消さなあかんやん」
不可解な責任感ではあったが、自分の屁で着火した由実系が今度は自分の尿で消火すると想像すると何やら滑稽ではある。
最終更新:2013年08月08日 16:03