4

俺たちの部隊は明日出撃する事になった。ワンツ大尉のゴルドス部隊の偵察で帝国の部隊の接近が明らかになったためである。規模はアイアンコング1機を含む中隊。作戦は3小隊による撹乱で敵戦力を分散させそこを突くもので、俺の小隊は左方撹乱を担当する。しかし、3小隊といえど総編成はシールドライガー2機、コマンドウルフ3機ゴドス3機ステルスバイパー1機というものであり、正面からぶつかれば全滅は火を見るより明らかだった。

「上手くいけばいいんだが…」

自室(と言っても仮設テントであるが)で独り言を言ったところで何の意味もなかったんだが、自然にそんな言葉が漏れた。

「“上手くやる”ぐらいの意気込みはないの?」

テントの外からエリーの声。俺はテントの出口から顔を出し「盗聴は犯罪だぞベッケロイド少尉。」と言った。

「通りすがったらなんかヘタレなセリフが聞こえたから、つい。」

彼女は舌を出して後ろを向いた。帰ろうとしたのだろうが、何か思い出したらしく「あっ、そうだ」と言うと、また振り向いた。

「アーク隊長、明日出撃前時間取れますか?」

彼女は微笑みながら唐突な質問を俺に浴びせた。明日の出撃前?恐らくは時間は取れる。と返事をしようとしたが思いとどまって彼女の言葉を自分の中で繰り返してみる。隊長、彼女は今確かにそう言った。彼女が俺に敬語を使うときは、いつもよからぬことをたくらんでいる時だ。たしか、前はこのパターンで飯をおごらされた・・・。

「またなんかたくらんでるのか?」

俺は彼女にもわかるような怪訝そうな声で言った。彼女は嘘っぽく「全然」と答えた。

「悪いがパスさせてもらう。大事な作戦前だ。」

エリーは少し怒った風に「バカ」といって駆けていってしまった。

実力はあるが言う事を聞かない無鉄砲な部下と、敬意と言うモノをまったく知らない自分勝手な部下…いいかげんこの小隊をまとめなければと思うが、なかなか容易でない事はこの2ヶ月で痛いほどわかった。とりあえず今は、目の前にある危機をどう乗り切るかで頭がいっぱいだった。


= = = = =



「アーク?起きてる?」

エリーの声で目がさめた。ずいぶん遅い時間だ。「おまえの声で今起きた」と返すと彼女は「緊急作戦会議の招集がかかってるよ。」と言った。“緊急”と言う言葉がつくのはいつも限って悪い事が起こったときだ。
「わかった。今行く。」と言い俺は体を起した。


= = = = =



「たった今、本隊から通達があった。これより速やかに前線を押し上げオリンポス山を奪還する。」

現在このキャンプで一番階級の高いロバーツ中佐が言った。
この現状で無謀とも言える攻めの命令。一体どうなっているのか俺にはわからなかったが、何か大惨事が起ころうとしているのかもしれない。

「付近に駐留中の帝国軍を突破してかい?」

ワンツ大尉が憤慨した。それもそのはずだ。今までその部隊を突破するのも危ういと言う話だったのに急にオリンポスなどと話が飛躍しすぎているのは誰の目から見ても明らかだった。

「これは前線のすべての部隊に通達された命令だ。帝国追撃部隊の突破は予定通り早朝から開始する。」

彼の話によるとその後、キャンプの兵力ごと前線を押し上げオリンポスに上がる部隊の側面支援を試みるらしい。ほとんどの士官は不満をあらわにしていた。「これは自殺行為だ。いまから帝国軍が5万といるオリンポスに引き返す事に何の意味があるんだ…」俺の隣に座っていた士官はそう言った。

「せめてゴジュラスさえあれば。」

俺はため息をつく。まもなくしてロバーツ中佐は「今夜はこれで解散。明日に備えてくれ。」と解散を宣言した。俺はワンツ大尉と話をしながらテントを出た。その直後だった緊急会議を行なっていたテントが爆音と共に吹き飛んだ。俺とワンツ大尉はとっさに身をかがめる。「なんだ!!」ワンツ大尉が叫ぶ。俺は周りを見て唖然とする、長距離ミサイルが次々に着弾しキャンプはあっという間に総崩れ状態だったからだ。

「奴らだ…」

とっさに口を突いて言葉が出る。ゴルドスによる偵察がばれていたのか?それで、先手を打ってきた…そういうことか?「アーク!機体に向かうぞ!なんとか反撃する!」ワンツ大尉と俺は走り出した。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2007年09月27日 22:29