結局のところホームセンターに留まる意見に押される形になった
しかしながら彼女の言うことも、的を得ていた。
「行動力のない人たちが幾ら集まっても意味がない」確かにそうだ
女性ならともかく男のくせに引きこもっているようなやつは結局、みんなを破滅に導く
混乱初期ならともかく、愚連隊のような連中も今ではいないだろうし・・・・
それならばいかに快適に過ごせるか?
設備の充実を図る方が健康的だった。
ここでも2班に分かれての作業が増えた 。夜間のために屋外照明や ヘリポート用のペイント
生活用にお風呂やキッチンの充実、退屈はしなかった。
ある日の作業中 ルリルリが尋ねてきた「ねぇおにいちゃん」「?」
今ではバカにした様子もなく そう呼んでくれる ロリーまんせー!!である。
「これだけのものを揃えられるのになぜ 銃はないの?」
確かにそうだ、このことについてはケンシロウも尋ねてきたっけ?
「なんでもだよ」「ふ~ん、変なの」
基本的に単独行動を取るものは銃が必要だろう、自分以外頼れないのだから。
しかしながら、多人数と生活する場合は威圧感の象徴ともなり。
意見が出ず、陰口の温床ともなる、そして誰もが欲しくなる・・・・
だから武器は誰でも手に入るものが良い、あくまでも見える範囲は。
誰にも言ってはいないが、骸となった警察官からは1丁拝借している、弾も有る程度
もし、ルリルリを襲うやつがいたら生死に関わらず使うかもしれないが・・・
守るべき対象が出来たとき、生きる意味は大いにある。
立てこもりを始め早10日あまりが過ぎたろうか? 良くも悪くも男女の仲は
深まっていくようだった。
真由美ちゃんとケンシロウはかなりのところまで進んでいるようだったが、自然の摂理として干渉はしないようにしてきた、しかし元来優しい彼のこと、彼女の考え方に同調する機会が増え始めているのが気になった。
ある雨の日 新たな動きがあった、自衛隊で使う高機動車が現れたのである。
自衛隊か?一瞬喜びながら駐車場に招き入れると、出てきたのは若い男一人であった。
彼は 一之瀬尚也と名乗ると、物資を分けてくれ無いかと言った。
久しぶりに出会う人間に、外の状況を聞きたいから飯でも食っていってくれと頼むと
彼は渋々了解した。
ただ、食事も無言で愛想のない彼に、真由美ちゃんは嫌気がしたのだろう、すぐに席を立った ケンシロウも後を追うように・・・・
彼はどうでも良いような表情でコーヒーをすすり始めた。
「聞きたいんだが・・」初めて口を開く、君たちのここに来るまでの経緯が聞きたい。
一通り説明した頃だろうか、ぽつりと呟いた・・「このまま行けると思うか?」
「え!いや・・・」口ごもる僕に 彼は言い切った。
「逃げる準備はしておけよ」「ああ、それなら・・・」搬入口に案内した。
「ふん、一応は考えてるんだな しかし武器はあるのか?」「これだが・・・」
対ゾンビ装備を見てせせら笑った 「おめでたいやつだな!最後の敵は人間だぞ」
心の中にしまい込んでいた言葉を呼び覚ます一言だった。
「普段ならこんな事は絶対しないが・・・無駄死にはさせたくないな」車に戻るとバックを一つ持ってきた、「開けてみろよ」中には中折れ式の猟銃が有った。
取り回ししやすいように銃身を短く切断している、手にとって操作していると
「おまえ素人じゃないな?」意外な顔で聞いてくる。
「分かるか?」「ああ!以外だな、そんなやつが水鉄砲か?」
「もう一度言うぞ、生き残りたければ容赦するな!誰に対してでもだ!!」
強い語気だが 優しさが感じられる、ルリルリも幼いながら感じるものが有ったのだろう黙ったまま頷いていた。
次の日、尚也は「じゃぁな!」それだけ言うと去っていった。
真由美ちゃんは 変なやつが去ってせいせいしたと悪態をついていたが、なぜか心強い味方が消えたような気がした。
ルリルリもそうだったのか車が消えるまでフェンスから離れようとしなかった。
それから4日後、運命の日がやってきた。
そう放送局らしきヘリコプターが見えた、発煙筒を炊くとそれは2,3度上空で旋回した後着陸した。
中から出てきたのは女性のキャスターだった、どうやら自衛隊基地経由で来たらしい。上空から見る限りでは未だあちこちに籠城しているようだが、着陸出来たのはここだけらしい、しかもまだ各家庭単位での籠城も有るらしいのだった。
「ここなら、沢山の人が生活できますね♪」脳天気に取材している、真由美は得意げに
インタビューに答えているが、言い様の無い不安が胸に広がった。
「この周波数は生きてますから」帰りがけにキャスターはメモをくれ「避難民をよろしく」と 笑いながら上空に消えていった。
結局どこも統率が取れないのか?人数がいても?!
尚也の言葉が重くのしかかって来た。
それは次の日の事だった、教えてもらった周波数でラジオを聞いていると、避難場所情報が流れてきた、メモを取りながら聞いていると最後に
「○○市○○町のホームセンターには 避難民受け入れ体制が有ります・・・」
マズい!!直感で感じた、ルリルリも不安そうにこちらを見つめる、危険本能が囁く
「急げ、時間がない!!」 ケンシロウにも説明するが、真由美の大丈夫よ!の
一言で及び腰だった。
「どうしても行くのか?」「ああ、頃合いを見て戻る」挨拶もそこそこに僕たちは
車を発進させた。
すれ違いに、わらわらと人々が駆け込んでゆくのが見えた、その中には傷を負った人も
沢山いるようだ・・・・
「無事でいろよ・・・」言葉にならなかった。
「離ればなれになるのに良いのか?」助手席のルリルリに聞く、「いいの・・」
一息おいて「お姉ちゃんにはけんしろうさんがいるし・・・でも私には」
こちらを見つめながら「おにいちゃんしかいないもの・・・」目が潤んでいた。
「つらい旅になるかもしれないぞ、良いのか?」
「最後まで私を守ってね」小さく呟く・・・
『死ぬときは一緒さ!』心の中で答えて 僕はアクセルを踏み込んだ。
「生き抜いてやるさ、尚也の親切に報いるためにもな」そう呟きながら・・・
#### 第一部 完 ####
最終更新:2010年12月11日 15:46