○月×日
「あの日」からどれほどの月日がたったのか。
一年近くはたっただろうか?
・・・いや。
もはや、日付など意味をなさないものになっているのだ。
この世界で人が人として生き、そして死ぬことを拒否された「あの日」から・・・
「あの日」・・・私はいつものとおり、学校へ行った。
太陽がまぶしくて、とても素敵な気分であった事を覚えている。
教室に入った私を待っていたのは、いつもの仲間たち・・・
もう今はいない、懐かしき友・・・
くだらない馬鹿話をさんざんしたあと、朝のホームルームが始まり、先生がやってきた。
・・・先生は、何故か腕に包帯を巻いていた。
聞けば、昨日の夜、暴漢に噛みつかれたのだそうだ。
「全くひどい奴よね~基地外だわ、基地外!」
怒った様子であっけらかんと話す彼女を、皆あきれてみていたものだ。
あれは・・・その日のお昼前だっただろうか。
何故かその日はパトカーや救急車がよくサイレンを鳴らす日だったが、しかし、皆はそんな事も気にしていない様子だった。
その中の一つが、こちらに向かってくるまでは・・・。
けたたましいサイレンと、すさまじい衝突音を立て、一台の救急車が正門に衝突して停止した。
「事故だ!」「すげぇ、救急車が事故ってるの初めて見た!」
それまで静かだった教室は騒がしくなり、皆が窓際に集まりだした。
「お~、すげぇ、ほんとだ~!」
先生まで・・・
皆、特に何をするでもなく、2階にある教室から事故の様子を眺めていた。
いきなり目の前で事故が起きたときの人間の反応など、そんなモンだろう。
そうしているうちに、救急車の後部ドアが開き、中から人が出てきた。
見た瞬間重傷だとわかるその人は、苦しそうにうめき声を上げながら、よろよろと運転席の方に向かった。
おそらく、運転手を助けようと言うのだろう。
「おい、助けないでいいのか?」
誰ともなく、そんな声が挙がり始めた。
しかし、誰も動く事はなく、成り行きをただ見守るだけしかしなかった。
数分後。
事態に気付いた教師たちが、校舎から飛び出て救急車へと走る。
ちょうどそのころ、救出しようと試みていた「人」は、無惨にもひしゃげた運転席のドアを開けたところだった。
「やった!開いたぞ!」「早く出してあげて!」
無責任な生徒たちから歓声が上がる。
しかし。
何故か救出者は運転手を救出しようとはしない。
「何か、話かけてるのか?」
私はそう思っていた。
救出者は、運転手に顔を近づけ、何かしている。
そこへ教師たちが駆けつけた。
だが、不思議な事に教師たちはその場に立ちすくし、動こうともしない。
救出者は、運転手に語りかけるのを止め、非常に緩慢な動作で教師たちの方へ向き直った。
最初私は、何が起きているのか理解できなかった。
おそらく、それは他の皆もそうであったろう。
その場面を目の前にして、いったいそれが何なのか瞬時に判断できる人間など、いやしない。
「人が、人を食べている」
それをこの目で見て、頭で判断するのにいったいどれだけの時間がかかった事か。
救出者・・・いや、その「もの」は、運転手を「食べて」いたのだ。
向き直ったその顔には、どす黒い血がべったりと付着していた。
そして両手をさしのべ、ゆっくりとした足取りで教師たちの方へ向かう。
「いけない。逃げろ!」
何故かは知らないが、私の中でそんな声がしたように思え、同時に口にしていた。
ただ、嫌な予感がしていたのだ。
図らずも、私の予感は的中した。
呆然とその異常な状況を見つめていた教師・・・
あれは、教頭先生だっただろうか。
彼が、犠牲となった。
その「もの」が、彼の首筋に噛みつき、その肉を引きちぎった。
噴水のような鮮血と、校舎全体を揺るがすような絶叫が周囲を飲み込んだ。
倒れ込む彼に、「もの」は覆い被さった。
そして、「食事」が始まった。
腹を割き、内蔵を取り出し、美味そうに。
私、いや他の全ての者が、その様子を凝視していた。
彼は、断末魔の悲鳴を上げ続ける。
それすら聞こえないような、異常な状況。
私は、ただ見ているだけだった。
それが、全ての始まりだとは知らずに。
「あの日」以来、全てが変わった。誰もが、常に死の恐怖を味わいながら生きている。
私がいるこの部屋の外では、あの「もの」たちが闊歩している。
ここを出れば、私も仲間入りする事は必至だろう。
だが・・・
ここで生きながらえる事に、なんの意味があるのか。
もはや、私の見知った人達はもういない。
私はたった一人だ。
こうして体験した事を書きつづったところで、何になる?
空しくて仕方がない。しかし、そうでもしなければ生きていけない。
狂ってしまいそうだ。
まあいい。今日はこのくらいにして、もう寝よう。
時間なら、捨てるほどある。
後書き
いや~、酔っぱらって適当に書いたんで
何も考えずに書きましたが。
ほんとつまんねぇな、これ。
逝ってよしですか?そうですか・・・
最終更新:2011年07月23日 11:25